112 DAY6レイドボスⅥ
アラクネの周囲に出現した八個の魔法陣。
全てが紫色の光を纏い、魔法陣の中心部へとみるみるうちに収縮してゆく。
《まずい、もう撃ってくるぞ!》
《魔法陣を破壊しろ、急げ!》
《やってる、今やってる!》
《一枚割れたぞ!》
《魔法陣がめちゃくちゃ硬ぇ! 耐久値まで上がってやがる!》
紫の色が示す魔法攻撃は無属性高貫通魔法攻撃【ペネトレイション・レイ】。
極細ゆえ攻撃範囲は広くはないが、それがアラクネを中心とした放射状に八本となると笑い話では済まなくなる。
ランナー達は何とか魔法を撃たせまいと必要に魔法陣を攻撃する。
《野戦砲の前面にある魔法陣が最優先だ!》
《一枚だけ割ればいい!》
《壊れろ! 壊れろ! 壊れろ! 壊れろおぉぉ!》
《畜生、間に合わん!》
HPが減り、能力上昇状態になったアラクネが出現させた八個の魔法陣。
八個の時に比べ圧倒的に速い収縮と耐久値のせいで、ランナー達により素早い対処を要求してくる。
通常の八個の時ですら、上手くいっても四、六ほどしか魔法陣を破壊できなかったのだ。
発動時間まで短くなった上に耐久値が上がってしまっては破壊が間に合わず、大部分を残してしまう。
「魔法発動臨界! イグ!」
《やむを得ん、撃て!》
光が収縮し、今まさに熱線を放とうとしていた魔法陣へ向け八八ミリ野戦砲が撃ち込まれる。
現状ランナーの中での最大火力を誇る火器という事もあり、一撃で魔法陣を破壊。
なんとか野戦砲と対峙している魔法陣の破壊には成功する。
魔法陣の破壊と間髪を入れずに放たれた【ペネトレイション・レイ】。
複数の魔法陣から放たれた熱線はランナー達に甚大な被害を与える。
射線上のランナー達は問答無用で蒸発。
魔法陣の首振りにより上空のフライトアーマーにも被害が出ていた。
《くそっ、火力高すぎだろ!》
《何人やられた、被害報告を!》
《被害報告だぁ!? これ以上なく最悪だ!》
《アームドウルフが来るぞ!》
《アサルト、前線を立て直せ!》
《時間をかけるだけこちらが不利だ、後衛はアラクネを徹底的に狙え!》
「アラクネ、魔法陣展開! 土属性魔法!」
《ハァ!?》
《もう次が来るってのか!?》
《まさにラスボスだな。手が付けられねぇ暴れっぷりだよ畜生め!》
攻撃魔法終了後すぐに展開される次の攻撃魔法の魔法陣。
ランナー達は先の【ペネトレイション・レイ】から受けたダメージを回復しきれておらず、魔法陣に対し十分な対応が取れない。
《是非に及ばず。総員、魔法陣への攻撃を中止。アラクネを集中攻撃するのじゃ》
「クロム! 戻ってきたの!?」
《ホバークラフトを使えばこんなもんじゃよ。じゃが、この戦況はいかんともしがたいのぅ》
《イグ、聞こえますか? こちらは魔法陣よりアラクネを狙い攻撃します。魔法を発動される前に撃ち落としてください!》
《ファルクか。任せろ》
「私達はどうすればいい!?」
《野戦砲正面の魔法陣を破壊してください。射線を防がれて砲弾がアラクネまで届きません》
「わかった、任せて!」
ここまで攻撃魔法のスパンが早くなっては対処が後手後手に回ると、クロム達は守りより攻めの指示を飛ばす。
これによりランナー達の攻撃目標は魔法陣からアラクネ本体へと変わって行く。
アラクネの残りHPは三割を少し切ったところ。
今までのダメージ計算で行けば、八八ミリ野戦砲を入れ集中攻撃を仕掛ければ攻撃魔法の発動前に仕留めきれる計算だ。
《魔法陣よりアラクネ優先!? マジかよ!》
《このままじゃ消耗戦で負ける、一か八かだ!》
《確実じゃない作戦に私たちを巻き込まないでよ!》
《ヒャッハー! ノーガードの殴り合いだぁ!》
無論、この無謀とも言える作戦には否定的な意見も多かった。
が、アームドウルフやアダンソンに加えアラクネからの苛烈極まる攻撃魔法。
ランナー達にはこれ以上戦闘を継続できる余力が尽きかけており、一度後退した前線を押し戻すことも難しくなってきている。
クロム達はそういった状況も踏まえ、ここが勝負どころとばかりに先手を仕掛ける。
指示を受けたランナー達が一斉に魔法陣を無視し、アラクネに攻撃を集中。
野戦砲周辺のランナー達と空のフライトアーマー達だけは射線上の魔法陣を攻撃。これを破壊することに成功する。
《よし、魔法陣は破壊したぞ!》
《後はアラクネのマジックフィールドだ、急げ!》
「魔法陣、収縮!」
《カモーン、カモーン、カモーン!!》
全員の祈りにも似た集中攻撃。
そして遂に魔法発動前にアラクネのフィールドの破壊に成功する。
《よっしゃ、割れたぁ!》
《砲兵、今だ!》
《お願い!》
《決めちまえ!》
《イグ!》
「フライトアーマー全機、射線上から退避! イグ!」
《よし、撃て!》
爆音を響かせ、放たれる野戦砲。
雷雨を切り裂き、魔法陣の間を抜け、マジックフィールドを失ったアラクネへと一直線に飛んで行く。
――決まった。
全ランナーが見守る中、飛翔する砲弾がアラクネへと迫り、直撃を確信した瞬間。
今まで大きな動きを見せなかったアラクネが俊敏な動きを見せた。
脚を屈め上体を捻り、襲い来る砲弾を躱したのだ。
《何っ!?》
《躱された!?》
《嘘だろ、こんな土壇場で!》
《イグ、次弾じゃ、急げ!》
《くそっ、間に合うか!?》
《…………!》
《………………!!!》
「マジックフィールド、再展開!」
《駄目か!》
《なんてこと……》
「魔法陣臨界、攻撃魔法、来ます!!」
《落石、来るっ!》
《撃ち落とせ!》
《か、数が多すぎ……うわああぁぁぁ!》
《ぐああぁぁぁ!》
《クソッ、ここまでかあっ!》
アラクネに躱され、真っ暗な空へと消えて行く八八ミリ野戦砲の砲弾。
決まったかと思われた一撃が一転。ランナー達に失望感が漂い始める。
そこへ畳みかけるように襲い掛かったのがアラクネの土属性落石魔法【ロックフォール】だ。
空中へ放たれた大量の岩石がランナー達の頭上へ降り注ぐ。
重力に引かれ落下する岩石は大きさや形状が一定ではない為、落下場所の地形、位置、回転方向などにより不規則な動きで転がりながら、または飛び跳ねながらランナー達へと襲い掛かる。
《前線壊滅! もう前線を張れるだけのアサルトアーマーが残ってない!》
《後退……いや、撤退指示を!》
《このままじゃ全滅しちまうぞ!》
《ここまで追い込んだのに諦めるのか!?》
《状況をよく見て見ろ、もう無理だよ!》
勝負を仕掛け、失敗した。
その代償はランナー達に大きくのしかかる。
アラクネへの攻撃を優先したためほとんどの魔法陣が残り、そこから放たれた大量の岩石によりランナー達の前線は文字通り崩壊した。
ランナー達の損耗率は激しく、エグゾアーマーを三つとも失い再出撃不可になった者も数多い。
ここまでか。
ランナー達に後退の意識が芽生え始める中、クロムはイグへと語り掛ける。
《イグ、八八ミリ野戦砲の残弾はいくつじゃ?》
《残り一つ》
《ふむ、ラストチャンスじゃな……》
「アラクネ、魔法陣展開! 空中に緑光の魔法陣、風属性魔法だよ!」
『メラーラマーク35、残存魔力8%使用限界です』
「こ、こんな時に……」
《リコリス1、補給に行ってください》
「ファルク!?」
《リコリス1に頼みがあります。最後の勝負です》
《うむ。砲弾はあと一発残っておる。諦めるのはまだ早いのぅ》
「クロム! 何か策があるの?」
《なに、難しい話じゃない》
《敵が躱してくるのなら、躱せなくすればいいだけの話じゃ》
「い、意味が分からないけど……補給に行っていいんだね?」
《そうじゃ》
「分かった、リコリス1、補給のため離脱します!」
蜻蛉群の対処をヴァイパー、ヘイローの両チームに任せ空域を離脱するアスカ。
その行き先は北のロミオではなく、南東のビクターだ。
理由は単純にそっちの方が近かったからだが、ビクターで補給するためにはとある人物をそちらに移動してもらわなければいけない。
個人的な理由で移動してもらうのは若干気が引けるが、あちらはそう言った細かいことを気にする性分でもないだろうとアイビスに頼み通信を開いてもらう。
その相手は当然スコップだ。
「スコップ、私!」
《はいは~い、毎度のご利用ありがとうございます。コップ一杯の水から砲弾まで。貴方のイベント攻略のお供にスコップ商会でございます》
「ビクターで補充したいの、移動してもらえる?」
《ご贔屓にさせていただいている空神様のご要望とあらば! ちょっと待ってね……はい、移動したよ!》
「早ッ!」
スコップは死に戻りランナー達に補充をするためロミオの拠点ポータル範囲内にいた。
よって、アスカの要望に答えすぐに移動用メニューを開きビクターへと移動したのだ。
移動した本人には風景が変わった程度の印象しかないが、今の今まで別の場所にあったスコップのフレンドアイコンが通話中いきなり目の前の拠点ポータルに現れるのは実に異様である。
《補充品はどうする、今まで通りでいい?》
「うん、お願い!」
アスカがスコップにわざわざ移動してもらったのは空中補給のため。
空中補給自体は空を飛ぶアスカを指定して補給リストを送るだけなのだが、これを実際に行ったことがあるランナーなどスコップとアスカ以外にいない。
いるはずがない。
かと言って他のトランスポートアーマーから補給を受けようと地上に降りてしまえば今度は離陸が出来なくなってしまう。
その為スコップに連絡を取りビクターに出張ってきてもらったのだ。
『ビクターの拠点ポータルエリアに入りました。HP、MP全回復。メラーラマーク35の内蔵魔力も充填完了しています』
「弾薬……よし。MPポーション……よし。補給終了!」
《戦況から考えてこれが最後の補給になるね。グットラック、リコリス1!》
「うん、ありがとうスコップ。行ってくる!」
スコップにお礼を言ったアスカは必要物資をインベントリに満載し、大きく旋回しながら進路をユニフォームへと向ける。
ビクターとユニフォームの距離はかなり近い為、それだけで状況を把握することが出来た。
アスカの離脱前に展開された風属性攻撃魔法【ダウンバースト】の魔法陣。
アラクネの周辺ではなく、ユニフォーム周辺の空中に水平に展開された大量の魔法陣。
いくつかはランナー達の攻撃で破壊されていたが、戦闘能力が落ちつつあるランナー達にはそれが限界。
分かりやすいよう緑の光で表現された強烈な降下気流が魔法陣直下にいたランナー達を押しつぶしてゆく。
一つ、また一つと範囲内にあるランナーを示すアイコンが消えて行き、ようやく風が治まった時にはぽっかりと何もなく、誰もいない窪地へと変貌していた。
その空白地帯に攻め込んでいくのは大量のモンスター達。
ランナー達も空白地帯を自分たちの陣地とするべく攻め込むが、敵の量に対して数が少なくなっている。
「アイビス、これって……」
『前線で戦闘を行うアサルト、ストライカーアーマーの損耗率が高すぎるようです』
元々は敵の攻撃をアサルトアーマーが耐え、隙をついてストライカーアーマーが敵を倒していくというのが前線の戦い方だ。
高耐久重装甲、低機動のアサルトアーマーと火力機動力重視、軽装甲のストライカー両アーマーにとって中遠距離からの高威力広範囲攻撃魔法はこの上なく相性が悪かった。
幾度となく繰り返されたアラクネからの攻撃魔法の被害はすさまじく、もはやランナー達に前線を張るだけの戦力は残っておらず、あれだけ完璧に包囲していた陣形も所々でモンスター達に食い破られている。
もしこの世に地獄と言うものが存在するなら、今見ているこの光景こそがそうだろう。
そう思える程の惨状だった。
「クロム、聞こえる!? これ以上の戦闘継続は無理だよ! また……またみんなやられちゃうよ!」
顔を青ざめながらクロムに叫ぶアスカ。
焦り、語気が強くなるアスカの言葉に対し、クロムの声は落ち着いていた。
《そう焦るなリコリス1。次じゃ。次が駄目なら諦める》
「それはさっきも聞いたけど……どうするの?」
《リコリス1はあやつの左後ろに回るのじゃ。次の魔法攻撃が終わったら仕掛けようぞ》
「……了解」
クロムの指示を受け、ユニフォームに向けていた進路をずらし、アラクネの背後に回るように変更する。
そんなアスカ達の動きをあざ笑うかのように展開される新たな広範囲攻撃魔法の魔法陣。
ランナー達最後の攻撃が、始まる。
長丁場のイベント編にお付き合い下さり本当にありがとうございます。
作者がやり過ぎたアラクネ戦もあとわずか。
明日はランナー達最後の攻撃二話分を更新いたします。
アスカ達が一丸となった攻撃を是非見届けてください。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
嬉しさのあまりホオレファ空港から飛び立ってしまいそうです!
第105話のアラクネ攻撃シーンが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦を描いていただいた茜はる狼様。
強力なラスボスの一撃を是非ご堪能ください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1370322480498237440
あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまりケネディ宇宙センターから打ち上げられます。