111 DAY6レイドボスⅤ
マジックフィールドを消失させ、ようやく攻撃の機会を得たランナー達。
だが、アラクネはそんなランナー達をあざ笑うかの如く広範囲攻撃魔法の予備動作に入る。
《もう次が来るのか!?》
《くそ、ダメージを入れるチャンスなのに!》
マジックフィールド再発動までは当然ある程度の時間はある。
しかし、魔法陣を展開されればランナー達は先にそちらを対処しなくてはならない。
何かの間違いであってほしいと願うランナー達の願いを無視しアラクネの周辺に展開される八つの魔法陣。
ランナー達は絶望にも似た表情で魔法陣を見つつも、それでも何とかアラクネにダメージを与えようと魔法陣よりアラクネ本体に攻撃を集中する。
《発動される魔法の種類を見定めい! 物によってはアラクネの攻撃を優先するのじゃ!》
《光線、岩雪崩、水球、火弾、降下気流、どれだ!?》
「魔法陣紫! 【ペネトレイション・レイ】です!」
《畜生、最悪だ!》
《こりゃいかん、総員、射線上から退避じゃ! 魔法陣を優先して攻撃せよ!》
総大将クロムの声が響く中、アラクネが発動した魔法は初弾でこちらに大損害を与えた【ペネトレイション・レイ】。
防御不可レベルの熱線攻撃の前にランナー達ができる事は射線から逃げる事と発動前に魔法陣を破壊する事。
が、それはマジックフィールドが消失したアラクネへの攻撃を諦める事と同意。
せっかく得た攻撃の機会をみすみす手放すことに落胆の色を見せるランナー達。
それは空を飛ぶアスカ達も同様だ。
何とかアラクネへ攻撃を入れようと、光が収縮してゆく魔法陣を無視し爆撃のアプローチを開始するアスカ。
「せめて、これだけでも……!」
《リコリス1、聞こえるか?》
「イグ!?」
今まさに爆撃を開始しようかとしていた時、通信から聞こえてきたのはイグの声だった。
「どうしたの、こんなタイミングで!」
《頼みがある。ターゲット指定した魔法陣を破壊してくれ》
「えっ!?」
《詳しい説明をしている時間がない、頼む!》
「ちょ、ちょっと、イグ!?」
そう言って強引に通信を切ると同時に表示されるターゲットアイコン。
どういうことなのかさっぱりわからないが、通信のおかげでアラクネへの攻撃のタイミングは完全に逃してしまった。
若干の苛立ちを覚えながらも、ここはイグの指示に従うことにする。
「ヴァイパーチーム、ヘイローチーム、イグが指定してきた魔法陣を破壊します、フォローしてください!」
《イグの奴が?》
《一体何なの!?》
《魔法陣を破壊することに変わりねぇさ、了解だリコリス1》
《ギンヤンマは任せて、しっかりフォローするよ!》
アスカが先陣、ヴァイパーチームがその後ろ、ヘイローチームがアスカ達を攻撃しようとするギンヤンマを牽制する。
ピエリスとエルジアエの連射に加え、すれ違いざまに手榴弾投下、続けてヴァイパーチームが魔法陣を集中攻撃。
既に地上のランナー達からも攻撃が入っていたこともあり、イグの指定した魔法陣は乾いた音を立てて破壊された。
「イグ、破壊したよ!」
《感謝する、友軍フライトアーマーを射線から退避させてくれ!》
「射線!?」
イグへ破壊の報告を入れると、今度は射線上からの退避を促されるアスカ。
恐らくはイグのいる地点とアラクネを結んだ直線上の事だと思われる。
アスカは慌ててライン上にいる味方フライトアーマー達を離脱させ、アスカ自身も退避する。
《…………!》
《…………! …………!!》
《よし、撃て!》
イグの愉快な仲間達の声なき声が通信の向こう側から聞こえ、イグが叫んだ瞬間。
彼らがいた地点から強烈な爆発音が響き渡り、一発の銃弾……否、砲弾が雷雨の空を切り裂いた。
「えぇっ!?」
放たれた砲弾はランナー達が使用する銃火器などとは比較にならず、三七ミリ加農砲よりもはるかに大きな物。
そして、アスカはそれに見覚えがあった。
二日目以降こちらを何度も苦しめてきたトーチカに設置された大砲。
こちらの揚陸艦を沈め、地上を侵攻するランナーに大損害を与えてきた忌まわしき砲弾にそっくりだったのだ。
イグ達の下から放たれた砲弾は驚くアスカの下を、先ほど破壊した魔法陣があった地点を通過すると、そのままアラクネへと直撃した。
「キアアアアアァァァァァァァ!!」
アラクネに命中した砲弾はその場で爆発。
特大の被弾エフェクトを発生させるとともに周囲に爆煙を振りまいた。
今までどんな攻撃を受けても眉一つ動かさなかったアラクネだが、さすがにこの砲撃は応えたようで大樹の上で大きくバランスを崩す。
危うく大樹から落下しそうになるも、何とか踏ん張り大勢を立て直すと砲弾が飛んできた方向を鬼のような形相で睨みつける。
《なんだ、今のは!》
《砲撃!? いったいどこからだ!》
《見ろ、アラクネのHPがごっそり減ったぞ!》
《一体どうなってるの!?》
派手な被弾エフェクトに弾着の爆音、そして大きく減少するHPゲージ、よろめくアラクネ。
その様子は地上に居たランナー達にも一目瞭然。
いったい何が起きたのかと騒ぎになる。
《リコリス1、今のは一体!?》
「ファルク! イグ達の攻撃みたいだよ!」
《イグの!?》
《待たせたな》
《イグ、お主何をしたのじゃ?》
《クロムか。なに、大したことじゃない。連中がトーチカで使ってた大砲をそのまま利用させてもらったのさ》
《トーチカの大砲じゃと……八八ミリか!》
聞けば、イグが利用したのは敵の守備隊が使用していた八八ミリの野戦砲だという。
ランナー達にとっても脅威だったこの野戦砲はトーチカ内部で地面に埋め込むように設置されていた。
その為トーチカを奪取した際敵モンスターに再利用されない様、念入りに破壊されている物がほとんどだ。
イグ達はそんな中破壊されていないもの、もしくは損傷が軽度なものを探し出し修復。
大樹の上に居座るアラクネに対するダメージソースとして射程ギリギリの位置に設置したのだという。
考えとしてはロビンが行ったカタパルトの移設と同じ事。
『敵の兵器を再利用』『固定設置されたオブジェクトを移動』と言う発想はアスカでは到底思いつかなかったことであり、イグに聞けば「武器の現地調達は基本」という回答が帰ってきた。
が、ゲーム経験の薄いアスカではその回答にはいささか疑問を感じざるを得なかった。
《イグ、すぐに次弾いけるか?》
《いや、無理だ。やっこさん、もうフィールドを張りなおしてる》
《む……じゃが、八八ミリならあのフィールドを撃ちぬくことも容易かろう?》
《じいさん、簡単に言ってくれるな。こちとら廃棄品の再利用なんだぞ》
アラクネへの強力なダメージソースとなった八八ミリ野戦砲だが、敵兵器の再利用という事でいくつか問題点があるという。
一つは弾薬。
もともと砲弾はトーチカ内部にいた砲兵ホブゴブリンがインベントリの中に仕舞っていたらしく、ほとんどがホブゴブリンの死亡と共に消失。
イグ達が持っているのは破壊された八八ミリ野戦砲に装填され、撃たれずにいた分だけなのだという。
もう一つが射程と精度だ。
損傷が軽かったとはいっても、元々は使用できないように破壊されていたもの。
複数の野戦砲から使用可能な部品を集め修復するにはしたが、代償として射程と精度が著しく失われてしまったのだと言う。
その為、今のイグ達の位置はモンスター達が使っていた時よりもかなり近い位置から野戦砲を撃っている。
《ふむ、ならば八八ミリ野戦砲はあやつのフィールドを消した後に使用するのが良いかのう》
《クロム、すぐにイグ達のもとに守備隊を。野戦砲をやらせるわけにはいきません》
《ファルクよ、分かっておる》
その後、砲撃が味方の物だった事がクロムを通じ全軍に伝達され、一気に勝利が近づいたとあちらこちらから歓声が上がる。
同時に修復品故の欠点も伝えられ、イグの近くにいたランナー達が守りのため移動を開始する。
《皆、任せたぞ、あれこそが我らの勝利のカギじゃ!》
「敵魔法陣臨界! 【ペネトレイション・レイ】来ます!」
《ぬぅ、しくったわ!》
《クロム!》
《全軍射線から退避!》
《射線上の防御陣地が壊滅……いや、蒸発した!》
《なんて威力だ!》
《総大将がやられたぞ!》
《全方位で被害多数、態勢を立て直せ!》
放たれた強力無比な火力をほこる【ペネトレイション・レイ】。
いくつかの魔法陣は破壊していたため本数は減っていたが、野戦砲のやり取りで退避の遅れたクロムが巻きこまれてしまう。
射線上にあった友軍防御陣地も跡形もなく消滅。
アラクネを包囲している味方ランナーの布陣に直線状の空白地帯を数本作り上げる。
魔法攻撃を終えたアラクネ。
通常、ここからアラクネはリキャストタイムの為その場で立ち尽くすのだが、今回ばかりは様子が違っていた。
先ほど砲撃を放ったイグ達の方を見定めると、彼らの方向を指差したのだ。
いったい何を?
ここに来ての新しいアクションを警戒するランナー達。
変化はすぐに現れた。
《敵軍、動くぞ!》
《どこへ行こうってんだ?》
《あの方向は……野戦砲か!》
《砲兵、気を付けろ。そっちに大群が行ったぞ!》
《やらせるかよ。周囲のランナーは野戦砲の地点に集結、守り抜け!》
ランナー達と対峙しているモンスター群のいくらかがイグ達野戦砲に向けて移動を開始したのだ。
それは空も同様であり、いままで無差別に地上を攻撃していた赤とんぼ達が一斉に野戦砲へ向け飛んで行く。
無論、アスカ達はそれを黙ってみてなどいない。
「イグ達はやらせない!」
《フライトアーマー全機、野戦砲を護れ!》
《ここが正念場よ、気を吐きなさい!》
《了解!》
《赤とんぼ程度なら俺達だって!》
イグ達野戦砲のもとに足の速いアームドビースト達がすぐに駆け付け、シールドを展開。
迫りくるアームドウルフやアダンソンにはアサルトアーマーやソルジャーアーマー、騎兵型のアームドビースト達が対処。
上空ではアスカらフライトアーマーと赤とんぼ、ギンヤンマの空戦が繰り広げられている。
《敵正面の圧力が減った!》
《アラクネのフィールドを叩き割れ!》
《ありったけ持っていけ!》
敵がイグ達の野戦砲に集中したことで他エリアでの敵モンスター達の圧力が減少。
それを好機とランナー達はアラクネへと火力を集中する。
《よし、フィールドが消えた!》
「イグ、お願い!」
《任せろ、撃て!》
《…………!》
《………………!!》
「いいよ、イグ! アラクネに直撃弾!」
《まだだ、全員続け!》
《アラクネを大樹から引きずりおろせ!》
マジックフィールドを消失させてからの八八ミリ野戦砲の一撃。
アラクネは腕を出して盾代わりに防御姿勢を取るも、そのダメージは甚大。
HPバーが大きく削れ、被弾エフェクトと共にアラクネの悲鳴が辺り一帯に響き渡る。
畳みかけるように通常火器と魔法攻撃を加え続けるランナー達。
目に見えて減って行くアラクネのHPバー。
フィールドの展開が間に合わず、ついに残り三割を切ると、アラクネに変化が起きた。
アラクネの全身から青白い陽炎が立ち昇り始め、眼も怪しく光り出す。
《残り三割だ、踏ん張れよ!》
《アラクネ状態変化! ここからが本番ってか!》
ネームドエネミーであるブービーやシーマンズ同様、アラクネも残りHP三割を切ったことで能力上昇状態となった。
ランナー達もその事は織り込み済み。
動揺することなく、再度マジックフィールドを張りなおしたアラクネを警戒する。
「アラクネ、魔法陣展開……えっ!?」
《なんだありゃ!?》
《魔法陣の収縮が!?》
《これがアラクネの切り札か……》
アラクネが発動した魔法陣。
今まではアラクネの周辺八方に展開したが、今までの物よりもはるかに速い速度で収縮してゆく。
《高スパン広範囲殲滅魔法攻撃とかふざけてるのか!》
「敵魔法……紫です!」
《また【ペネトレイション・レイ】!?》
《どうあっても野戦砲を破壊しようって魂胆か!》
今だイグのいる八八ミリ野戦砲の方角を睨みつけているアラクネ。
ユニフォームでの攻防戦は、ついに終盤を迎えていた。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
嬉しさのあまりリフェ空港から飛び立ってしまいそうです!
第105話のアラクネ攻撃シーンが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦を描いていただいた茜はる狼様。
強力なラスボスの一撃を是非ご堪能ください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1370322480498237440
あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまりケネディ宇宙センターから打ち上げられます。