110 DAY6レイドボスⅣ
アスカが補給から戻ってしばらく。
ユニフォーム周辺では依然激しい戦闘が繰り広げられていた。
《ショットワンダウン!》
《僚機がやられた!》
《ミリタリーパワーマックス、振り切れ!》
《敵航空部隊増援を確認、すごい量だ!》
《まだ湧くのかよ!》
《際限ないじゃないですか、アレ!》
《上限はあるが、こちらの戦力に比例してるから無限沸きに近い!》
「アラクネの周辺に魔法陣出現! 各機警戒してください!」
《もう次がくるのか!》
《スパン短くなってないか!?》
《泣き言はいい、各機、攻撃目標を魔法陣へ! 絶対に撃たせるな!》
《魔法陣の色だ、色は何色だ!》
「……確認、青です、水属性魔法!」
《畜生、最悪だ!》
《水は地上の被害がシャレにならないわ、魔法陣を破壊して!》
アスカ率いる航空部隊が制空獲得の為空戦を続けているが、空の穴から沸き続ける蜻蛉群相手に終わりの見えない消耗戦を強いられていた。
ヴァイパー、ヘイローの両チーム他補給に戻れるフライトアーマーはロミオやビクターで補給した後空戦を続けているが、それでも既に空を飛ぶ味方の数は当初の半分以下になっている。
そしてそれは地上も同じ。
否、アラクネの魔法攻撃が地上を標的にしている物が多い分、損耗率はフライトアーマーの比較にならない。
《聞いたな、魔法陣青だ!》
《見りゃわかる、【アクアフォース】が来るぞ!》
《一番厄介な奴じゃねぇか!》
《早くあの魔法陣を破壊して!》
ここまで何度も魔法攻撃を受けたとあって、すでにアラクネの魔法攻撃の種類は判明している。
初手でこちらに大損害を出した、無属性高貫通レーザービーム【ペネトレイション・レイ】。
魔法陣から大量の岩石を発生させる土属性落石魔法【ロックフォール】。
近距離では絶対的威力を誇る火属性近接防御魔法【ゲートキーパー】。
魔法陣をアラクネの周囲ではなく、任意の空中に配置し、強力な風の圧力で範囲内を押しつぶす風属性圧縮魔法【ダウンバースト】。
そして最もランナー達が警戒するのが、今アラクネが発動しようとしている水属性広範囲衝撃魔法【アクアフォース】だ。
《魔法陣破壊、あと何個だ!?》
《四つ!》
「魔法陣、発動限界! 総員退避してください!」
《フライトアーマー全機離脱! 最大推力で上空に退避しろ!》
《地上部隊も逃げろ、射程から離れるんだ! ……駄目だ、間に合わん!》
《総員、対ショック!》
《伏せろ! 身を屈め重心を低くしろ!》
魔法陣全ての破壊が間に合わないと悟ると、フライトアーマー達は攻撃を終了し一気に上昇。
地上のランナー達も魔法陣の向き、角度から予想される弾着地点から逃れようと動き出す。
だが、脚の遅いアサルトアーマーなどは逃げきれず、魔法攻撃の餌食となった。
アラクネの魔法陣から放たれたのは水球だ。
弾速もなく、球状を維持したままのそれは放物線を描き身を護るランナー達のど真ん中に弾着。
水球が重力に引かれ地面に触れた瞬間、今まで球状を保っていた水球が弾け飛び一気に崩壊した。
が、その様は水風船のように美しい物ではなく、爆発でも起こしたかのように全方位へ向けドーム状に広がる。
アラクネが放った水球。
それは魔力で水を超高圧縮したものだったのだ。
見た目こそただの水球だが、ひとたび衝撃を受けると水を押し止めていた魔力コーティングが消失。
押し込められていた水が一気に解放され、縦横無尽に暴れまわる。
だがこの魔法、水が炸裂するだけで金属の鎧エグゾアーマーを身に纏ったランナー達に与えるダメージはそれほど大きなものではない。
それでもランナー達がこの魔法を最も警戒し嫌がった理由。それは……。
《み、水が……水が……うわああぁぁぁ!》
《ぎゃああぁぁぁ!》
《くそっ、水圧ごとき……ぐああぁぁぁ!》
《大盾じゃ防げない! 剣を地面にさしてアンカーにするんだ!》
《無理だ、吹き飛ばされる!》
この魔法の『吹き飛ばし能力』が理由。
着弾点を中心とし、円形数百メートルを残骸すら残さず更地に変えるほどの水による衝撃波をまき散らすのだ。
周囲一帯の味方陣地に空白地帯を作られることも痛いが、それ以上に凶悪だったのが吹き飛ばされる方向。
後方や左右の味方陣地側に吹き飛ばされれば問題ない。
しかし正面、敵陣地側に吹き飛ばされたとなると話が変わる。
《くそっ、敵陣に飛ばされた連中がやられてる!》
《救援を請う、救援を……ぎゃああぁぁぁ!》
《嫌あぁぁぁ! 蜘蛛は嫌あぁぁぁぁ!》
《畜生、誰か俺を助け……ぐはっ》
《味方がやられてる! 助けに行くぞ!》
《無駄だ、諦めろ》
《何言ってんだよ、見殺しにするのか!?》
《敵陣に吹き飛ばされたんだ、もう間に合わない!》
完全に体勢を崩され、敵陣ど真ん中に放り出される形になるランナー達。
モンスター達はそんなランナーを逃がすことはなく、体勢を立て直す前に襲い掛かると抵抗らしい抵抗も許さず虐殺する。
味方陣地を含め、空のアスカ達も一方的にやられるランナー達をなんとか救出しようと動くが、その甲斐なく敵陣に飛ばされたランナー達は一人残さず光の粒子となって消滅した。
「アイビス、あれはちょっとひどすぎるよ!」
『アラクネはナインステイツの最終レイドボスです。能力は多対一、及び多対多を想定し、確実にこちらの戦力を削ぐことが出来る様能力調整されています』
「そんな御託はいらない!」
《リコリス1、落ち着いて。彼らのやられ方は確かにえげつなかったけど、死んだりしたわけじゃないから……》
「でも!」
《そう怒るな。ならやられた分を倍返ししてやればいい》
「……っ!」
ヴァイパーチームになだめられながら、忌々しげにアラクネを見るアスカ。
HPは未だ八割を残している。
ランナー達もただ黙って凶悪な魔法攻撃を受けているわけではない。
正面に対峙する大量のモンスター群と戦闘を続けながら、要所要所でアラクネを攻撃。
幾度かアラクネが張るマジックフィールドを消失させ、本体にダメージを与える事に成功している。
《リコリス1も分かってるだろ、アイツの本体は柔らかいんだ。もう一度フィールドを消失させて好き放題いたぶってやればいい》
《防御力スカスカなのにあんなお立ち台みたいなところに立ってるんですもの。とっととぶっ倒してあげましょう》
「……わかりました」
ランナー達がアラクネのマジックフィールドを消滅させて知った事実。
それはアラクネの防御力が極めて低いという事だった。
他のモンスターの様にエグゾアーマーを装備せず、蜻蛉やアダンソンの様に金属生命体でもないアラクネの防御力は生身の体と言う見た目そのまま。
HPこそレイドボスという事でかなりの物を誇っているが、射程外に近い位置からの銃撃でもしっかりとダメージが入るほどに低い防御力はランナー達にとっては幸いだった。
アラクネを護るマジックフィールドを破壊し、強力な攻撃を与えていけば勝てる。
強力な魔法攻撃で甚大な被害を出しながらも、勝機を見出したランナー達は果敢にも戦闘を継続。
しかし、敵はレイドボスアラクネにイベントマップオールスターのモンスターの大群一筋縄ではいかない。
それはビクター、エックスレイ方面のランナー達が合流した後でも同じであり、アスカのフレンド達にも被害が出始める。
「メラーナ、そっちは大丈夫!?」
《アスカさん! ラゴがやられちゃいました……ビクターで復活してこっちに向かってます!》
《くそっ、あいつ、俺を庇って……》
「そんな……ラゴが……あ、ホロは?」
《ホロは今マルゼスさんと一緒です。アダンソンの対処に回ってくれてます!》
「マルゼスと……? あれか! ホロ、マルゼス、そっちはどう!?」
《もう無茶苦茶ばい、数が多すぎっちゃん!》
《俺とタービュランスは問題ないが、ホロのMPが持ちそうにないんだ。蜘蛛退治もそろそろ限界だね》
「わかった、すぐに後退の援護を……」
《こっちはよかよ。タービュランスの足はめっちゃ速いけん!》
《そう言う事。それよりファルク達を頼むよ、どうも何人かやられてるみたいなんだ》
「えっ、ファルク、誰がやられたの!?」
《アルバとホークの二人がやられました。キスカは合流しましたが、二人が戻ってくるまでこちらは動けません》
《リコリス1、イグ達は今どこにいるか分かる? 近い位置にはいないみたいなんだけど……》
「キスカ! イグ達は……なんか南の方にいるよ。移動はしてないみたいだけど」
《南に? そんなところで何やってるのよあいつ……》
「コールしてみたけど応答しないよ! どうしよう……」
《とりあえずほおっておきましょう。今は後方に控えてる連中を気にしてる余裕がないわ》
「うん、わかった」
《リコリス1、聞こえるかぃ?》
「フラン! うん、聞こえるよ!」
《空から見て今攻めるならどこからがいいかにゃあ。前に出過ぎてやられちゃったのさぁ》
「えっ、大丈夫なの!?」
《TierⅢのアーマーを失ったのが痛いねぇ。火力が大幅ダウンだよぉ》
「今は東、福浜海岸の方が少し手薄だよ」
《了解~、ならビクターに移動してそこから攻めるかねぃ》
アスカのフレンドを含め、すでに一回やられてしまっているランナーの数は多く、半分以上が二つ目のエグゾアーマーを使用しているのが現状だ。
中にはすでに三つ目を使用している者もいるだろう。
そうなってくると発生してくるのが戦闘能力や生存能力の低下だ。
ランナー達は最初に使用するのは基本的に一番性能が良いエグゾアーマーであり、二つ目はサブ、三つ目になると型落ちや間に合わせになってきてしまう。
当然、そのあたりのエグゾアーマーは性能的にも二線級。
中には主力級の物をサブにしている者もいるだろうが、大多数は死に戻りをする度に戦闘能力が落ちて行く。
つまり、長期の消耗戦はこちらが不利になっていく一方なのだ。
当然それはランナー達も理解するところ。
だからこそ、全面のモンスター群よりもアラクネを優先して攻撃してゆく。
《Hチームが食われた、前線が崩壊するぞ!》
《もうすぐ、もうすぐアラクネのフィールドを破壊できるんだ!》
《良いから引け、アームドウルフとアダンソンが来るぞ!》
《アダンソン砲撃! アサルトアーマーが消し飛んだ!》
《脚部損傷、誰か手を貸してくれ!》
《アームドウルフ接近、迎撃、迎撃!》
《鬼武人とまともにやり合うな、遠距離から狙撃しろ!》
《アダンソン撃破! 前線を押し上げる!》
そこへさせぬと襲い掛かってくるモンスター達。
空のアスカ達はギンヤンマと赤とんぼの対処に追われており、満足に地上の支援が行えない。
それでもなんとか【アクアフォース】の被害から立て直し、前線を元の位置まで戻す。
同時にアラクネの周辺がまばゆく光り、アラクネを護っていたマジックフィールドが消失した。
《よし、チャンスだ、撃ち込め!》
《ありったけをぶっ食らわせてやれ!》
《全弾斉射、フルバーストだ!》
《リコリス1、今がチャンスだ、爆撃を!》
《ヘイローチーム、フォローを!》
ようやく訪れた好機にランナー達は正面のモンスター達へ最低限の妨害攻撃を行い、その他すべての銃口をアラクネへと向ける。
みるみる減って行くアラクネのHP。
しかし、当の本人は被弾を気にも留めず、両手を広げ天を仰ぎだす。
それは何度も見た攻撃魔法発動の前兆だった。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりヒロ空港から飛び立ってしまいそうです!
第105話のアラクネ攻撃シーンが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦を描いていただいた茜はる狼様。
強力なラスボスの一撃を是非ご堪能ください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1370322480498237440
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