15 猪王Ⅱ
本日一話目更新です。
「はっ! 敵の得物を使うとは、考えたなアスカ!」
オークキングのスキを突き、手数で勝負していたアルバはいきなり大きく削れたオークキングのHPに驚いた。
その減り方はアサルトアーマーが装備する大剣でくり出すクリティカルの一撃よりも大きなダメージだったからだ。
ソルジャーアーマーの自分でも、マジックアーマーのフランでも与えることが出来ないであろう大ダメージ。
だが、じり貧になっていた状況からは起死回生に近い一撃だ。
「アスカ、それ使えるのぉ!?」
フランはオークキングの突進をアルバとは逆方向へ躱していたため、アスカの動きがよく見えていた。
地面に刺さったハルバードを抜き去ってからの動きは、明らかに重量過多で動き辛そうにしていた。
それが飛行してからはそんなこと気にもならないような動きでオークキングの背後に強烈な一撃を見舞ったのだ。
「重量過多だから飛ばないと動けないし、歩けない!」
フランの問いにアスカはそう答えた。
その言葉に嘘偽りはなく、オークキングに一撃を見舞った後はその場に立ち尽くし、動けそうにない。
飛行すれば何とか動けるのだが。
『注意。MP残量が少なくなっています。飛行可能時間残り五八秒』
アイビスから伝えられるそれは敗北までのカウントダウン。
大ダメージを負い、怒り狂ったオークキングは回転切りで背後のアスカを攻撃する。
「やらせるか!」
その動きに先に気付いたアルバはオークキングとアスカの間に割り込み丸盾を構える。
アスカも重いハルバードを前に掲げて防御。
だが、オークキングはそんな二人の防御を気にも留めず、握りしめたバスターソードを力任せに振りぬいた。
「ぐおっ!」
「きゃあっ!」
アルバがカバーしてくれたおかげで、アスカはなんとか一撃死は免れた。
だが、全力で持って振り抜かれたバスターソードにより、アルバもろとも派手に吹き飛ばされる。
アルバは受け身も取ることが出来ないまま地面を転がり、岩に激突して停止。
アスカも地面に叩きつけられる事を覚悟した。が、吹き飛ばされた体は地面と接触することはなく、そのまま浮遊感が体を襲う。
「え?」
予想に反した結果にアスカは目を開けて下を見る。
そこには地面がなく、はるか下に谷底があるのみ。
アスカは崖に囲まれたフィールドから外に吹き飛ばされたのだ。
「きゃあああぁぁぁぁ!」
「ア、アスカァァ!」
なすすべなく崖下へ落下していくアスカ。
フランはその光景を見ていることしかできなかった。
アスカが崖下へ落下するというショッキングな光景を目前で見てしまい、恐ろしさから動きが止まってしまうフラン。
脚を震わせるフランへ向けオークキングがゆっくりとした足取りで迫って来る。
オークキングの残りHPは三割近く。
こちらはと言えば、何とか起き上がろうとしているアルバでそのHPは二割以下。
フランはHPこそ満タンだが、MPがあと二割ほどしかない。
考えうる限り最悪な状況。
「……ここまで、かなぁ?」
フランは額に出るはずのない汗が滴る感覚を覚えながら、待機状態にしている魔法を放つべくオークキングへ向け構える。
そこでフランは違和感を覚えた。
目の前のオークキングが二人とは違う方向を向き、盾を構えていたのだ。
それは、先ほどアスカが吹き飛ばされた方向。
一体何が? とオークキングの視線を追ってフランが顔を向けた先には、谷底からフライトユニットを最大出力でぶん回しながら上昇して来るアスカの姿。
アスカはある程度の高さまで垂直上昇すると反転、急降下。
ロー・ヨーヨーに近いマニューバを使い一気に加速、ハルバードを構えオークキングへ向け突っ込んでいく。
「なるほどな。よし、最後の勝負だ。フラン! オークキングの足を止めろ!」
「まかせろぉ!」
オークキングへ向け一直線に突っ込んでいくアスカ。
それを見たアルバ達は好機とみてアスカをアシストする。
「【ファイアーボール】!」
フランの放った五発の【ファイアーボール】はオークキングの足元に弾着。脚部へのダメージと爆発で足場を悪くすることで、動きを阻害する。
オークキングは足止めされたと理解したらしく、突っ込んでくるアスカへ向け大盾を構えた。如何に突進の攻撃力が高かろうが、大盾で防いでしまえば致命傷には至らない。
「くっ……」
「アスカ、そのまま突っ込め!」
「アルバ!」
「任せろ!」
オークキングが完全に守りに入ったことに表情を曇らせたアスカだが、アルバはそのまま突っ込めと言う。
『警告。飛行可能時間残り二〇秒』
「迷ってる暇はないね。アルバ、信じるよ!」
アスカは落下の加速も速度に加えてオークキングへ向け突撃する。
ぐんぐんとオークキングに接近していが、いまだオークキングは大盾を構えたまま。
飛行可能時間はもう残っておらず、アルバの言葉を信じて突っ込むしかない。
ハルバードがオークキングの大盾の目前まで迫った、その瞬間。
急にオークキングの大盾が横に外れ、胴体が露わになる。
横に回り込んだアルバがワイヤアンカーをオークキングの左腕に打ち込み、力いっぱい引っ張ることで無理矢理大盾の位置をずらしたのだ。
「行け、アスカ!」
「うわああぁぁぁ!」
「グオオオォォォォォォ!」
大盾を外されたオークキングの胸にハルバードが突き刺さる。
落下加速にフライトユニット全開の加速、そしてハルバードの自重。
そのすべての運動エネルギーは切っ先に集中し、オークキングが身にまとった鎧を易々と貫いた。
アスカは突撃の衝撃で弾け飛ばされ、地面に墜落。
落下する角度が浅かったためそのまま地面を転がり、うつ伏せになってようやく停止。
オークキングと地面に激突したダメージが入ったが、HPは残り一割のところでなんとか踏みとどまっている。
『MPゼロ。フライトユニット、停止します』
「もう指一本動かせないよ」
どこかの団長か、やられ役のような姿勢で地面に突っ伏すアスカだったが、疲労困憊の体を何とか起こし、オークキングを確認する。
アスカの目に映ったオークキングはただ立ち尽くしていた。
その体には胸から背にかけてハルバードが貫通しており、モンスター名とともに表示されているHPゲージは〇になっていた。
アスカがその光景に言葉を失っていると、オークキングの体が光り出し粒子となって消えてゆく。
光がすべて消えた後、その場には魔法刃が消え、地面に落下したハルバードのみが残されていた。
<オークキングを倒しました>
<二〇五九Expを獲得しました>
<猪王の魔石を入手しました>
<豚肉を入手しました>
<フライトアーマーTierⅡ、翡翠の開発が完了しました>
<インベントリが一杯です。アイテムを整理してください>
「勝っ……た?」
「アスカぁ、勝った! 私たち勝ったよぉ!」
「わ、フラン! 抱きつかないでよ!」
一瞬状況が把握できなかったアスカだが、フランが抱きついてきたことでオークキングとの戦闘に勝利したことを理解できた。
フランはアスカに抱きついて大喜びし、アルバはやれやれと言った感じで胡坐をかいて座っている。
見ればフランはMPが尽きており、アルバに至ってはHP、MPともに二割以下だ。
「この布陣で勝てるとはな」
アスカを見ながら苦笑いしているアルバ。
彼は、この戦闘での勝ち目はないと、出来る限り奮戦して次戦のための情報収集に当てるつもりだった。
実際、オークキングが大盾を出してからはまともに有効打を与えられていなかったのだから。
「アスカがハルバード使ってくれなかったら無理だったよぉ」
「軽々扱ってるように見えたが、使いやすいのか?」
「逆。重すぎて振るのも難しいよ。重さに任せて叩き斬るか、勢い付けて突き刺すくらいしか無理」
ほう、とアルバは地面に転がっているハルバードを持ち上げ、装備してみる。
「こいつ、どんな重量してるんだ? 一歩も動けないぞ」
ハルバード状態にして、中腰で構えてみたが、それ以上一歩も動けそうにない。
ひと振りするだけでもかなりの手間を要する、それほどの重量だった。
「アスカ、お前よくこれ持って動けたな」
「私も持ったら歩くこともできないよ? フライトアーマーの飛行で強引に動いてただけだから」
その言葉を聞いてアルバは呆れ返る。
アスカは簡単そうに言うが、繊細な姿勢制御をマニュアルで行わないといけないフライトアーマーで重量過多などまともに飛べるわけがないのだ。
「アスカHP危なすぎ。はい、これ。フランちゃん特製HPポーションだよぉ」
アスカの残り一割のHPを見かねてフランがHPポーションを差し出しだしてきた。
「いいの?」
「街に帰るまでが冒険だよん! 仲間なんだから、気にせず使ってぇ」
「ありがとう、使わせてもらうね」
フライトアーマーは元からHPが少ないので、一つ使用するだけで全快できた。
これでひとまず安心できる。
「ねぇ、魔力草採取しようよぉ。この広場の魔力草全部、私たちだけで独占だぜぃ!」
オークキングとの戦闘ですっかり忘れていたが、そもそもここには魔力草を採取しに来たのだ。
アスカは慌ててフランが駆け出した花畑へと走っていく。
「さっき戦闘で散々踏み荒らしたり、グレネードで爆発させたり、魔法で燃やしたりしたけど、大丈夫かな?」
現実世界であれば草の上でそんなことをしたら草花など見るも無残な惨状になっていることは間違いない。しかし、ここはゲームの世界。
『問題ありません。採取ポイントの上で何をしても消滅することはありませんので、ご安心ください』
「そっか、よかった」
『アスカ、採取するのでしたら、インベントリを整理してください』
「あ、そうだ。一杯だっけ」
先ほどの戦闘終了時、ログでインベントリの空きがないと報告が出ていた。
「品質の悪い薬草、もういらないよね」
弾薬や魔力草は廃棄するわけには行かないので、ここはスキルを取得するとき大量に手に入れた薬草を全部廃棄することにする。
これによりインベントリの枠が三つ空き、オークキングのドロップ品、猪王の魔石と豚肉がインベントリの中に納まった。
二足歩行の大猪を倒して豚肉を入手するのが腑に落ちないが、そこは気にしたらいけないのだろう。
「ねぇフラン。猪王のドロップ品なんだった?」
「私は猪王の毛皮と猪王の牙、豚肉だったよぉ。アルバは?」
「俺は毛皮とアーマー設計図だ」
アルバとフランのドロップ品を聞くと、アスカとは違うアイテムをドロップしているようだった。
毛皮と肉は分かるが、設計図をドロップするというのはどういうことなのか? フランとアルバに問うと、その疑問にはアイビスが答えてくれた。
『特定のモンスターを撃破すると設計図を手に入れることがあります。モンスターからの設計図はアーマーツリーに記載されていませんが、設計図を入手することでアンロックされ、製造することが出来るようになります』
「そゆこと! オークキングからのアーマーはアサルトで、身に付けてた奴だよぉ」
アイビスの説明にフランが補足を加える。
アルバとフランの話ではこの設計図はオークキングを倒したときに低確率で入手できるもので、種類はアサルト。
重量級らしい装甲と武装積載量を誇り、優秀だという。
エグゾアーマーの製作には素材と多額のジルが必要だが、モンスターからの設計図だと必要素材が多く集めるのも大変だという。
「開発に鉱石がいるから、鉱夫しないとねぇ」
「アスカ、お前のドロップは何だったんだ?」
「私は猪王の魔石と豚肉だったよ」
「猪王の魔石か〜設計図ほどじゃないけど、あたりだねぇ」
聞けば、ボスクラスから出る魔石は名前付きの魔石で、他の魔石より高値で売れる他、武器や装備の材料としても優秀だという。
豚肉についても一応聞いては見たが「そこは気にしたら負けよ」「察しろ」と流されてしまった。
「それよりも魔力草だ。採取するんだろう?」
「そうだね。大分時間も押しちゃってるし、さっさと採取して帰ろう」
ドロップ品の確認を終えたアスカ達は足元に広がる薬草畑で採取を開始するのだった。
オークキング戦、決着。
決まり手、串刺し。……そこ、豚串とか言わない。
用語解説
ロー・ヨーヨー
空戦では速度に勝る相手に追いつくため、降下して速度を稼ぐ機動飛行。
アスカはこれをオークキングへ突撃するための増速に利用した。
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