109 DAY6レイドボスⅢ
実在する火器をモデルとした近接防御魔法ゲートキーパー。
最大の特徴は連射能力だ。
運営に火器マニアでもいたのだろう、モデルである近接防御火器と同等の連射速度を持ち、迫り来るランナー達から最後の重要拠点ポータルを護る守護者となる。
だが、当然欠点も存在する。
《全員後退、後退しろ!》
《あの魔法は有効射程が短いんだ、とにかく離れろ!》
《たかが燃える石ころ、距離さえ空ければなんてことないぞ!》
《何だこりゃ、ちょっと距離を空けただけで痛くもかゆくもないぞ!?》
《火球も明後日の方向に飛んでくわ、どういうことなの?》
《この雷雨の中で球状の火球じゃあ風の影響でどこに飛んでいくか分りゃしねぇよ》
ユニフォーム近隣にいるランナーの数は万単位。
これだけいればその欠点に気が付く者も多かった。
彼らが気付いた通り、近接防御魔法ゲートキーパーの欠点は射程である。
さすがに実在するコンピューター制御火器を完全再現してしまうと、ランナー達がどれだけ束になっても勝てる相手ではなくなってしまう。
そこでゲートキーパーの射程をアサルトライフルと同程度まで引き下げたのだ。
距離を開ければ球状の火球は風の影響を受け大きく拡散。
威力減衰も大きく設定したため、この雷雨の中であればしっかり距離を空ければ致命傷には至らない。
それは上空を飛ぶアスカ他フライトアーマー達も同様だ。
《全機、アラクネから500……いや、700は距離を取れ!》
《あいつから離れれば当たらないよ!》
《聞いたなみんな、全機離脱だ、離脱しろ!》
《リコリス1、味方は引いたわ、あなたも火球の射程から離れなさい!》
「分かりました!」
ヴァイパー1の指示に従い、ゲートキーパーの射程内にいたフライトアーマー達が一斉に離脱を開始。
味方フライトアーマー達が有効射程内から離れた事を確認した後、アスカも反転離脱。距離を空けていたヴァイパーチームらと合流する。
同時に効果時間を過ぎたのか、アラクネの周囲に発生していた魔法陣が消滅。
味方に大損害を出したゲートキーパーの攻撃が終了した。
《くそっ、何機やられた?》
《20弱ってところかしら。急いで駆け付けた先が攻撃魔法の射程内とは運が悪すぎたわね》
無線から聞こえてきたヴァイパーチームのくやしさ漂う声。
駆けつけてくれたフライトアーマーは総勢でも100近くになるが、そのほとんどは通常飛行すらおぼつかないひよっこ達。
そんな彼らにゲートキーパーは十分に脅威となった。
アスカが何とか被害を抑えようと陽動をかけるも、少なくない数が撃墜されてしまっていたのだ。
《ここから立て直せばいいんです!》
《そうだぜ、俺達も黙ってやられに来たわけじゃないんだからな!》
《MPポーションも弾薬もまだたっぷり残ってる。俺達の戦闘はまだ始まってすらいない!》
強力な対空砲火で味方が墜とされたにも関わらず、彼らの士気は高かった。
それもそのはず、イベント最終盤の場面でキワモノ扱いであるフライトアーマーをわざわざ使っている彼らなのだ。
頭のネジなどとうに抜け落ちており、こちらへ向け飛んでるギンヤンマへ向け闘志をむき出しにしている。
「すごい……皆やる気満々だ」
《最終決戦の舞台だからな。そりゃあ燃えるさ》
《僕たちも遊覧飛行するにはまだ早いって事だよ。それにほら、見てごらん》
「えっ?」
ヘイローチームに指摘され、視線を内陸の方へ向ける。
そこにあったのは大量の味方アイコン。
先行して到達した航空部隊に遅れながら、ビクターとエックスレイ方面を攻略した地上部隊がようやくユニフォームの戦場に到達したのだ。
その先陣を切るのは背にランナーを乗せるアームドビースト達。
《ようやくたどり着いたぜ!》
《アラクネの魔法攻撃は終了したばかりだ、リキャストのうちにあのふざけたフィールドをたたき割っちまうぞ!》
《敵アダンソン確認、トーチカもわんさとあるぞ!》
《全員気合い入れなさい、ここが最後の戦場よ!》
《いくぞ相棒、敵の防御線を強行突破だ!》
ユニフォーム攻略部隊がいる海岸線の真反対。
内陸側は誰も攻め込んでいない為トーチカなどの防御地点の他、アダンソンやアームドウルフも待機している。
一目見れば敵の数の多さにしり込みしてしまいそうなものだが、アームドビースト達は臆することなく敵弾幕の中へと突っ込んで行く。
そしてそのさらに後方、アームドビースト達の一陣の後方にビクター、エックスレイを攻略したランナー達が混成部隊となりこちらへと向かってきている。
この様子は空のアスカ達からユニフォーム海岸線のランナー達に、そして総合指揮をだすクロムへと伝わった。
《ユニフォームで戦うランナー達、よくぞ耐えきった。心強い援軍の到着じゃ。ここからは攻めに転じるぞ!》
《ようやくか、待ちくたびれたぜ》
《耐えきった、俺達は生き残ったぞ!》
《よし、一転攻勢だ、押し返せ!》
クロムの号令に沸き立ち、歓声が上がる海岸線。
アラクネが出現してからすでに三割近いランナー達が死に戻りしており、戦線の維持すら難しい状況だったのだ。
だが、その戦況も一変する。
ビクター、エックスレイから来た援軍は内陸側、アラクネに対し背後から襲い掛かる形であり、それはアラクネを、最後に残った最重要拠点ユニフォームを完全に包囲したことになる。
敵の布陣も背後に現れたランナー達の援軍に対処するため分散を始める。
いくら空に開いた穴から無尽蔵に湧いてくると言っても、エリアに存在できるモンスターの数には上限があるのだ。
海岸線に展開していたモンスターの何割かが内陸側に展開したことで海岸線にかかっていた圧力が減少。
ランナー達はこれを好機と見て逆襲を開始する。
《アダンソン、動きを止めろ、スタンさせるんだ!》
《マジックアーマー前に出ろ、サポートしてやる》
《まっかせなさぁい! マジックアーマー一番槍フランちゃん、いっきまぁす!》
《おい待て、誰がそんなに出ろと言った!》
《誰だあのマジックアーマー、敵陣の中に突っ込んでいくぞ!?》
《雷属性の銃弾は残ってないのか!?》
《トランスポート、弾持ってこい、トランスポート!》
ランナー達の攻勢に合わせ、ユニフォーム全域から支援要請のアイコンが乱立。
同時に空の赤とんぼも対地攻撃のアプローチを開始。
アスカひとりであれば、とても対処しきれない状況だが、今のアスカには頼もしい仲間がいる。
《よし、俺達も行くぞ!》
《みんな、打ち合わせ通り、やるわよ!》
《はい!》
《ラジャー!》
《制空チーム、ギンヤンマは任せたよ!》
《攻撃チームこそ、投下位置間違えるなよ!》
ヴァイパーチームの声に反応し、フライトアーマー達も一斉に動き出す。
それまで皆バラバラだった動きが一変。
残ったメンバーで二人一組のペアを作ると、そのまま支援要請を受けたポイントへ向かう部隊と空を飛行するギンヤンマ、赤とんぼへと向かう部隊の二つに分かれる。
あまりに綺麗に分かれたことに驚くアスカだが、話を聞けばこれは事前に打ち合わせしていたとの事。
武器搭載量の少ないフライトアーマーの能力を生かす為、持っていく兵装を対地か対空かのどちらかに集約。
さらに、同じ方向性の兵装を積んだ者同士で二人一組のペアを作ることで、お互いがお互いをフォローし、戦闘をより効率的に行えるようにしたのだ。
これは現実世界でも『ロッテ戦術』と呼ばれるもの。
アスカは短時間によくそんなことが思いついたものだと感心するのと同時に、私も負けてられないとばかりにピエリスとエルジアエを構え、ギンヤンマ目掛け加速しようとする。
が、そこへアイビスから待ったが入った。
『メラーラマーク35、残存魔力3%。使用限界です』
「えぇっ!?」
アラクネ出現からの再出撃、ギンヤンマとの多対一空戦、近接防御魔法ゲートキーパーへの高機動回避。
メラーラマーク35を使いに使い続けた結果、ついに魔力が枯渇したのだ。
こんな時に! と憤るアスカだが、その様子を見ていたヴァイパーチームから通信が入る。
《リコリス1、地上支援と制空権確保は俺達が引き継ぐ。君は一度補給に戻ってくれ》
「えっ、でも……!」
《大丈夫、あなたも見たでしょう? 皆やる気に満ち溢れてるんだから》
《リコリス1ばかりに良いかっこはさせませんよ!》
《ここは俺達が引き継ぐぜ!》
「皆……分かりました、リコリス1、補給のため下がります!」
メラーラマーク35なしでもギンヤンマ、赤とんぼ相手なら問題ないが、弾薬やMPポーションの残量も心もとない。
味方が押せ押せムードの中、引くのは心苦しいが後々の事を考え補給に戻ることにする。
アスカは全体通信で交代する旨を伝えた後、方向転換。
進路をロミオへ向け、メラーラマーク35に残った最後の魔力を使い最大速度で空域を離脱した。
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「アイビス、通信コール、スコップに!」
『了解。繋ぎます』
「スコップ、聞こえる?」
《はいはーい、感度良好。よく聞こえるよ》
「補給に戻るの、準備をお願い!」
《りょーかい、いつでもいいよ》
ロミオが目前まで迫った時、アスカが連絡を取ったのはロミオで死に戻りしたランナー達を相手に補給を行っていたスコップ。
面識もあり、フレンドコードも交換しているスコップに空中補給を頼んだのだ。
高度、速度を限界まで下げ、エレボンをフラップ代わりに下向きに。
着陸とほぼ同じアプローチでロミオのポータル範囲に進入する。
「アイビス、アイテムBOXリンク、MPポーションを最大まで補給して」
『了解。……アイテム転送、完了しました』
《アスカー、補給品送るよー》
「オッケー!」
アスカの正面にウィンドウが表示され、スコップからの補給品リストが映し出される。
スコップはここまで何度も補給を行っている為、アスカが必要としている物はすでに把握済み。
一覧表示されたリストもピエリスの弾薬に各種グレネード。
そして吸い込み口の付いたゼリーパック。
「スコップ、これは?」
《差し入れだよ! まだ戦闘は続くだろうから、少しでも息抜きになればと思って》
「わぁ、ありがとう! 美味しくいただくね!」
《いえいえ! アラクネ退治、頑張って!》
「任せて!」
既にアスカのMPとメラーラマーク35の内蔵魔力も全快している。
すべての補給を終えたアスカはロミオを離脱するべくメラーラマーク35も使い一気に増速。
航空機がローパスするようにロミオ上空を離れ、インメルマンターンで縦のUターン。
進路を再びユニフォームへと向ける。
水平飛行に移ったアスカが手に持っていたのは差し入れでもらったゼリーパックだ。
吸い込み口のキャップを開け、ゼリーパックのCMの様に握りつぶしながら一気に吸い込む。
スコップが差し入れしてくれるだけあって味はバツグン。
ゼリーは程よく冷たく、ほんのり効いた酸味が口の中に広がって行き、疲労し火照り気味の頭を心地よく冷ましてくれる。
一時の休息とばかりに目を瞑り、ゼリーの味を堪能するアスカ。
だが、目を開けたときにはユニフォームの大樹の上に居座るアラクネを見据えていた。
「よし、補給完了。いくよアイビス!」
『了解しました』
今だ治まりを見せぬ雷雨に赤く染まった雨雲。
大樹上空にぽっかりと開き、モンスターを生み出し続ける穴。
そしてアラクネ周辺に出現した八つの魔法陣。
ユニフォームにおける最終決戦は、まだまだ終わりを見せようとはしなかった。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりコナ空港から飛び立ってしまいそうです!
第105話のアラクネ攻撃シーンが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦を描いていただいた茜はる狼様。
強力なラスボスの一撃を是非ご堪能ください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1370322480498237440
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