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108 DAY6レイドボスⅡ


 大量のギンヤンマとたった一人、ユニフォームの制空権をかけて戦い続けるアスカ。

 おおよそ常識からかけ離れた機動を続け、下から見上げるランナー達があまりの激しさからアスカの心労さえ気にしだす、そんな中。


「あはははは、すごい、すごいよアイビス!!」

『メラーラマーク35、残存魔力42%。このままではギンヤンマを全機撃墜するまで持ちません』

「その時はその時! こいつら相手ならブースター無しでも行けるよ!」


 アスカは笑っていた。

 それはもう、見る人が見たらドン引きするほどに満面の笑顔である。


 アスカはもとより飛雲や翡翠に不満はなかった。

 特に、飛雲はブービーとの激しい空戦を幾度となく繰り広げた大事な愛機。

 それでも、メラーラマーク35を付けたレイバードは別格だった。


 昨日はロビンがメラーラマーク35に多少手を加えた後、試験飛行的な事を数回行っただけで本格的な空戦機動はほぼぶっつけ本番。

 しかし、その応答性はアスカの想像をはるかに超えていた。


 推力偏向ノズルとある程度自由が利く取り付け角度。

 これらはすべてアスカの意のままに操作でき、ありとあらゆる状況からの高機動を可能にさせてくれていたのだ。


『注意、ギンヤンマ接近。六時方向、四匹』

「むっ、ならば!」


 アイビスからの警告を受け、旋回機動を中断し水平飛行に移行、ギンヤンマの射線を躱しながらメラーラマーク35を吹かし加速する。


「行くよ、右エンジン逆噴射、及び右ブースター停止、左エンジン左ブースター最大出力!」


 アスカの意思を受け、その通りにエンジンとブースターが作動する。

 右のエンジンは高速度の中逆噴射を行い、右の補助ブースターはノズルを一気に絞り噴射を停止。

 逆に左のエンジンは出力を上げ、補助ブースターはノズルを大きく開け、持てる力のすべてで噴射を行う。


 その瞬間、アスカの体が『横に回った』。

 水平飛行の高度と姿勢そのまま、車が映画で行うアクションの様に、180度スピンターンしたのだ。

 車と違うのは進行方向が変わらない事。


 いわば、アスカは高速でスピンターンを行い、空中をバックで進んでいるのだ。


 高速で後退するアスカがその正面に捉えるのは、射線の合わない重機関銃を連射するギンヤンマ。


「いただきいっ!」


 構えたピエリスとエルジアエを連射。

 射程は短いながらも射角が自由にとれるアスカの前に、ギンヤンマはなすすべなく捉えられ爆発炎上しながら墜ちて行く。


 撃墜を確認したアスカはメラーラマーク35を再始動、推力偏向ノズルの噴射で姿勢を元に戻し次のギンヤンマ目掛け飛んで行く。

 そこでアスカは異変に気付く。

 ここまで既にかなりの量を撃墜しているのだが、一向に数が減らないのだ。


「アイビス、残りは何機!?」

『不明です。一定量、ないしは一定時間を過ぎると空の穴から再度ギンヤンマが発生しています』

「嘘!?」

『残念ですが、事実です』


 アイビスに言われ、目線をアラクネの上に開いた穴に向ける。

 すると、そこから新たにギンヤンマが四機発生し、こちらへ向け飛行してくるのが見て取れた。


「底無し穴め!」

『メラーラマーク35、残存魔力24%』


 アスカ一人に対し、無限湧きとも思えるギンヤンマの増援。

 メラーラマーク35の残存魔力はもとより、アスカ自身のMP残量、ピエリスの弾薬も全てのギンヤンマ撃墜まで持つとは思えない。


 どこかで一度補給に戻らなければと考えた矢先、地上からの無線が入った。


《アラクネが動いた、魔法攻撃が来るぞ!》


 その一言でユニフォーム全域に緊張が走る。

 最初のレーザー攻撃同様、天を仰ぐアラクネ。

 そして彼女の八方を護るように出現する八つの魔法陣。


 既に見るものが見たらトラウマと化しているアクションの中、アラクネが上に伸ばした手を左右に伸ばすと魔法陣の模様に沿って光が発生。

 初見のときには白から紫に変化した光。

 だが、今回は紫ではなく赤に染まって行く。


《火属性攻撃だ!》

《火球だ、火球の雨が来るぞ!》

《魔法陣を撃て、破壊するんだ!》


 その様子を見ていたランナー達。

 誰からか魔法陣に向け射撃を始めると、周りのマジックアーマーやスナイパーアーマーも続けて魔法陣を攻撃する。


 状況が掴めないアスカは、すぐにファルクに連絡を入れた。


「ファルク、どういう事、なんで皆魔法陣を攻撃してるの!?」

《アラクネの魔法攻撃は魔法陣発生から発動まで時間があります。それまでに魔法陣を破壊すればその方向に対する魔法攻撃を止められるんです》

「そうなの!?」

《リコリス1、今はギンヤンマよりも魔法陣を攻撃してください。発動されるとこちらには防ぐ手立てがありません》

「分かった!」


 通信を終えると同時にそれまで相手をしていたギンヤンマをすべて無視し、エルジアエの銃口をアラクネの周囲に発生した魔法陣へと向けた。


「止まってて、動かないなら!」


 四方八方から放たれるギンヤンマの銃弾を躱しつつアラクネの魔法陣へエルジアエのチャージショットを放つ。

 地上からも銃弾、レイ攻撃、魔法攻撃、ミサイルなど、ありとあらゆる遠距離攻撃が放たれる。


 すると攻撃の受けていた魔法陣の一つが光を失い始め、ガラスが割れたかのような音を響かせながら光の粒子となって消滅したのだ。


「なるほど、こういう事か!」

『八つの魔法陣全てを破壊するのは困難です。味方に被害が出そうな魔法陣を優先して破壊してください』

「了解っ!」


 魔法陣が割れるごとに位置を修正し、攻撃を続けるアスカ。


 だが、アラクネの魔法陣もかなりの固さを誇り、なかなか破壊には至らない。

 そうしている間に魔法陣の光は収縮を始め、赤い光がさらに強さを増してゆく。


『限界です、射線から離脱してください』

「くそう、破壊できなかった! 離脱を……きゃあっ!」


 それはちょっとしたアンラッキーだった。


 アスカがアラクネの魔法陣の射線から離脱しようとした進路の先に、銃弾が降り注いだのだ。


 撃ったのはもちろんギンヤンマ。

 だが、ギンヤンマはアスカの進路を狙ったわけではない。

 たまたまアスカを狙った銃撃が逸れた先がアスカの進路だっただけだった。


 しかし、いきなり行く手を遮られたアスカはこの銃撃をやや大げさに回避する。

 メラーラマーク35の欠陥は被弾がトリガーになることが多く、ちょっとしたダメージも無視できないのだ。


 掠りすらしないように大きく避けたアスカだが、避けた先を見た瞬間、一気に血の気が引いて行くのを感じた。


 アスカの進路をふさいだ銃弾を躱した先。

 それはこの上なく最悪な場所。


 魔法陣の中心で限界まで収縮し今にも弾けそうなほどに赤く染まった光の真正面。


『警告。今すぐ射線から離れてください』

「し、しまっ……!」


 ――墜とされる。


 目を瞑り、自らを襲う攻撃の衝撃に備えアスカ。

 が、彼女が受けたのは被弾による衝撃ではなく、ガラスが割れるような魔法陣の破壊音。


 今にも攻撃が放たれそうだったアスカの正面にあった魔法陣にミサイルと銃弾が襲い掛かったのだ。


「えっ、何!?」


 アスカが魔法陣への射線を塞いだため、地上のランナー達は攻撃できない。

 ならば誰が?

 いったい誰が助けてくれたのかと混乱するアスカに、力強い声が聞こえてきた。


《リコリス1、無事か!?》

《まったく、貴女はいつでも無茶しすぎなのよ!》

《ははは、俺達が間に合ってよかったなぁ!》

《見てよ兄さん、僕たちの獲物もまだまだ残ってるよ!》

「あっ……」


 声と同時に視界に飛び込んできたもの。

 それはビクターとエックスレイ方面の支援に当たっていたヴァイパーチームとヘイローチームそして大勢のフライトアーマーの姿だった。


「ヴァイパー1、ヴァイパー2……みんな!」

《遅れてすまない、道中の確保に手こずった!》

《遅れた分、ここから取り戻すわよ!》

《アラクネの攻撃パターンと対処策は総司令部から聞いている、まずは魔法陣破壊だ!》


 大勢のフライトアーマーが飛行するその姿は赤とんぼ達とは違い、編隊など組んでおらず高度も位置も皆バラバラ。

 お世辞にも綺麗な飛行とは言えない。


 それでも、味方を失いここまでたった一人で戦ってきたアスカには感慨深いものがあった。


『敵アラクネ、魔法攻撃、来ます』

「っ、いけない、全員アラクネの射線から離れて!」


 だが、状況はアスカに感傷に浸る時間を与えてくれなかった。

 魔法陣の中心で収縮しきった光がついに弾け、強力な魔法が発動しする。


《火の雨だ! ぎゃあああぁぁぁ!》

《大盾と防御魔法で乗り切れ!》

《攻撃が止まない! うわああぁぁぁ!》

《逃げろ、赤とんぼの機銃掃射と同じだ、耐えきれるものじゃない!》

《雷雨で威力下がってるんじゃないのかよ!》

《あいつは別なんじゃないのか!?》


 深紅に染まった光から放たれたのはゴルフボールクラスに小型の火球。

 一発の威力と言う意味では雷雨による火属性魔法の減衰もあり決して高くはない代物だが、連射速度が尋常ではなかった。


 ハンドガンやアサルトライフルなど比較にすらならず、汎用機関銃のさらに上。

 もっとも近いのは赤とんぼが尾部に装備するガトリング機関砲。

 あれに匹敵するかそれより高速で火球を連射してきているのだ。


 赤とんぼの機銃掃射ですら耐えきれなかったランナー達に、この火球乱射は致命的だった。

 ストライカー、ソルジャーはおろかアサルトアーマーですらこの攻撃の前にはなすすべなく光の粒子となって消滅してゆく。


 さらに厄介なのが射角。

 【ペネトレイションレイ】の時には上下の首振りしかできなかった射角が、この火球掃射では手首の様に上下左右に振られるのだ。


 その被害は地上のランナー達はおろか、たった今駆け付けてくれたフライトアーマー達にも及ぶ。


《ヤバい! 全機回避行動!》

《あれに当たったらただじゃすまないよ、皆、躱して!》

《対空射撃!? うわあぁぁっ!》

《この高度まで届くの!? きゃああぁぁぁっ!》

《ブレイク、ブレイク!》

《くそっ、駆け付けたばかりで墜ちてたまるか!》

《メイデイメイデイメイデイ! 被弾した、墜ちる、墜ち……!》

《主翼をやられた! 高度が維持できない!》

《ふざけんなよ、こんなこと……!》

《あぁっ! ジャンがやられた!》

《落ち着けジーン、俺とペアを組め!》


 ヴァイパーチーム、ヘイローチームの四人は相手の攻撃を見るやすぐさまその危険性を理解し、他のランナー達に警告を飛ばすと同時に回避機動に移る。

 しかし、通常飛行すらおぼつかない他のフライトアーマー達にこの攻撃は凶悪すぎた。


 こちらに向けられた二門のうちの一門が編隊のど真ん中に撃ち込まれ、躱しきれなかったフライトアーマー達が粉々になって墜落してゆく。


 残りのもう一門はと言えばアスカが行った牽制射撃に釣られ、執拗にアスカを狙い射撃を続けている。


「これ以上はやらせない!」

『メラーラマーク35、残存魔力12%』

「この攻撃が終わるまで持って!」


 メラーラマーク35から繰り出される不規則な機動はアラクネの火球連射でも捉え切れず、雷雨の空に赤い筋を作り出す。


《クソッ、なんて弾幕密度だ!》

《魔法陣を攻撃しろ、発動した後でも破壊できる!》

《この攻撃、なんか見たことあるな》

《同感だ、俺も見覚えがある。軍艦が乗っけてるガトリング機関砲にそっくりだ》


 誰かがまるでぼやくようにつぶやいた一言。

 深く考えず、見たそのままに言った一言だったが、不思議なことにその一言は的を射ていた。


 アラクネが放ったこの魔法攻撃の名前は【ゲートキーパー】。

 名も無きランナーが呟いた言葉そのまま、軍艦が搭載している近接防御火器システムがモデルなのである。



たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまりカパルア空港から飛び立ってしまいそうです!


第105話のアラクネ攻撃シーンが漫画になりました!

作画は飛雲の発艦を描いていただいた茜はる狼様。

強力なラスボスの一撃を是非ご堪能ください!

https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1370322480498237440

あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまりケネディ宇宙センターから打ち上げられます。

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― 新着の感想 ―
[一言] CIWSなんて言うミサイル撃ち落とせる対空兵器に第二次世界大戦レベルの戦闘機で耐えられるわけないだろ!いい加減にしろ!
[一言] 弾幕回避ゲーム、スタート!! 尚、鬼畜難易度の模様・・・OTZ
2021/03/20 22:48 退会済み
管理
[一言] 使えないって評価になってる航空機を強要しておいて ボスには対空兵装ってひどい運営ですね。 でもなんだかんだ言って参加者は(撃墜ロールプレイとか含めて)楽しんでるし、騒ぐのは外部だけな気がしま…
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