107 DAY6レイドボスⅠ
ボス戦、開始。
ロビンとスコップが設置してくれたカタパルトでロミオから発進したアスカ。
雷雨を切り裂きながら目指すのはもちろん、レイドボスアラクネが居座るユニフォームだ。
「主翼エンジン、よし。補助ブースター、作動良好。アイビス、ブースターの内蔵魔力残量は?」
『メラーラマーク35の残魔力95%です』
「よし、まだ全然持つね」
『はい。ですが補助ブースターの内蔵魔力はMPポーションによる回復が出来ません。過度な使用には注意してください』
「オッケー、アイビス!」
『Blue Planet Online』における推進力強化は大きく二つに大別される。
一つは現在の主流である『スラスター』型。
エグゾアーマーの各部に大小のノズルを追加する物であり、推進力補助の他、姿勢制御などの機動力強化を目的とし、エネルギーはランナーのMPを使用する。
もう一つがアスカが装備している『ブースター』型だ。
エグゾアーマーのハードポイントにオプション装備として搭載。
大型ノズルによりスラスター以上の推進力を得ることが出来る上に、使用するエネルギーをブースターと一体になっている増槽で賄うためランナーのMPに制約されないと言う特徴を持つ。
これだけ聞くならブースター型の方が有利に思えるが、実際にはその大きすぎる推進力故、直線的な動きしか出来ず小回りが全く利かないという難点を持つ。
装備するだけなら全エグゾアーマーで可能だが、増槽一体型の為無駄に幅を取る上、燃料を使い切った後と未使用時はデッドウェイトになる、MPポーションで増槽の内蔵魔力が回復せず、補充するには街に戻る、イベントならポータルまで戻るしかない、とこれまた使い勝手の悪い装備なのだ。
その為、ランナー達の補助ブースターの使用目的はもっぱら『スタート地点から目的地までの時間短縮』であり、到着し次第切り離すと言うのが常だった。
だが、アスカの装備した『メラーラマーク35』は違う。
噴射ノズルに推力偏向ノズルを採用、エグゾアーマーとの取り付け部も可動式にしたため、スラスターとは比べ物にならない推進力はそのままに機動力も大幅に強化させることに成功したのだ。
唯一、致命的とも言える欠陥を除いて。
『アスカ、メラーラマーク35の欠陥は先日話した通りです。被弾には注意してください』
「うん、了解だよ。なに、当たらなければどうという事はない、ってね!」
無論、アスカもその事は承知している。
味方をも巻き込む恐れのある致命的欠陥だが、地上で戦うランナー達とは違いアスカは空を飛ぶフライトアーマーなのだ。
最悪の場合でも被害は自分一人で済む。
アスカにとってはその欠陥よりも推力偏向とブースターの推進力から来る機動力強化の方がよほど魅力的だったのだ。
これならば特殊状態になったブービーとも互角に、いや優位をもって戦いに挑めると。
『ユニフォームまで3000メートル』
「よし、センサーブレード展開、加速するよ!」
アイビスとレイバード、メラーラマーク35、装備の確認を行った後、膝に取り付けられていたセンサーブレードを稼働させる。
体に対し斜め45度だった角度が反転、マイナス45度となり、センサー部を真っ暗な地面へと向けた。
これは飛雲であれば巡行姿勢で地上を向いていたセンサーブレードが、レイバードの高速姿勢固定では体の後方を向いてしまうための改良。
センサーブレードの全長はアスカの足より長く、地上でこの状態では歩くことが出来なくなってしまう。その為空中で展開する可動式となったのだ。
勿論、センサーブレードとは反対側の膝に搭載されたブレード型増槽も同じ動きをし、アスカの体に対しマイナス45度の角度に。
これはセンサーブレードを体から後方斜め下へ大きく突き出す形となる為、空気抵抗も飛雲の時に比べ増加してしまっているが、レイバードのジェットエンジンとメラーラマーク35の強力な推力で強引に捻じ伏せている。
センサーブレードを展開したことでユニフォーム周辺の敵情報がマップに示され、周囲一帯の味方にも共有される。
俯瞰による広範囲の索敵。
地上のスカウトアーマーでも届くことのない敵陣深くの敵布陣のデータ。
そんなことが出来るランナーはたった一人だけだと、地上のランナー達がざわめきだす。
《敵の布陣が表示された!》
《ははは、ようやくお帰りか、空神様は》
《戻ってきてくれたのね、あなたが墜ちたときはどうなるかと思ったわ!》
「すいません! リコリス1、只今より戦線に復帰します!」
ユニフォーム上空まで来たことで敵と共に味方の布陣も手に取るように分かる。
だが、そこでアスカは驚愕することになった。
アスカが死に戻りする前とようやく戦線復帰した今とで敵味方の布陣が様変わりしていたのだ。
味方の布陣はアラクネの攻撃前より大きく後退し、ユニフォームの大樹を囲む形だったものがズタズタに引き裂かれている。
特に目立つのが綺麗に放射状の線を引いたように裂かれた地点と、前線があった場所にぽっかりと開いた円形の空白地帯だ。
「こ、ここまでひどいなんて……」
『全てアラクネの魔法攻撃と思われます』
「えっ、アラクネの!? いったいどんな攻撃したらこんなことになっちゃうのよ!」
《リコリス1、聞こえますか? ファルクです》
「ファルク! ごめん、遅くなっちゃった!」
《問題ありません。貴女がいるだけで戦闘はかなり楽になります。再度撃墜されないよう気を付けてください》
「うん、それよりこの状況、一体何があったの?」
状況説明を求めるアスカに、ファルクは全てを話してくれた。
ファルクが言うには、アラクネはこちらで言うマジックアーマーに相当する能力を持っているのだという。
地水火風の広範囲魔法攻撃に加え、アスカや他大勢を屠った強力なレーザー攻撃。
そして守りは……。
「ねぇ、地上からアラクネへの攻撃が弾かれてるみたいなんだけど……」
《その通りです。どうも魔力によるバリアを持ってる様で今のところ全くダメージを与えられていません》
アイビス曰く、マジックフィールドと言われるこのバリアは球体でアラクネを覆うように展開され、実弾、レイ、魔法攻撃など全ての攻撃を受け付け無いのだという。
まさに攻防揃った難敵。
アラクネはイベントレイドボスの名にふさわしい能力を持っていた。
「ファルク、どうするの? これじゃあ手も足も出ないじゃない!」
ダメージを与えられないのでは倒すことなど不可能だ。
まずはあのマジックフィールドから何とかするしかないが、その方法も見当が付かない。
ファルクとこうして話している今現在も地上ではランナー達がアダンソンやアームドウルフ他大量のモンスター達と交戦、大樹の上から動かないアラクネはまるで繭のようなフィールドの中で次の魔法攻撃の準備を始めている。
最悪とも言える状況の中、聞こえてきたのはクロムの声。
《リコリス1、聞こえるかの?》
「クロム! この状況、どう対応するの? 私はどう動いたら良い!?」
《ほっほっほ、そう慌てなさんな。なに、勝算はある》
「本当!?」
どんなに強大な敵であろうとも、これはゲーム。
すべてのモンスターには攻略法が存在しているの。
そしてそれはアラクネと言えども例外ではない。
《マジックフィールドはランナー側にも存在する魔法じゃ。最も、得意としているのはマジックアーマーではなくメディックアーマーじゃがの》
「そ、それで、どうすればいいの!?」
焦るアスカに対し、クロムの声は穏やかで何一つ焦りを見せていない。
通信からでもわかる圧倒的な余裕。それほどの策があるのかと、アスカは期待し、クロムの続く言葉を待った。
が、その返しを聞いた瞬間、アスカの全身から力が抜けた。
《簡単じゃ。割れるまで攻撃し続ければいいのじゃ》
「え……は?」
《ぢゃから、撃ち続けるのじゃ。アレが消えるまで》
「ちょ……え……えぇ!?」
ランナー側のマジックフィールド。
これは今アラクネが使用しているものと同様、展開すると敵からの全ての攻撃を防ぐという強力な防御魔法だ。
だが、『防ぐ』と言うのは正確ではない。
正しくは『受ける』なのだ。
マジックフィールドには耐久値が存在しており、敵からの攻撃を受けるたびに耐久値が減少。
ゼロになるとフィールドが消滅する。
ここまでのイベントの状況から考えて、アラクネが使用しているマジックフィールドも同様の物だと推測できる。
だからこそ下手な策など考えず、マジックフィールドの耐久値が尽きるまで攻撃を浴びせ続けるのだと言う。
「なんて脳筋な……」
《ほっほっほ。否定できんな。じゃが、現状では最も有効な策じゃて。故に、アヤツも初手で海上のキスカを潰したのじゃろう》
ユニフォームに展開する全ランナーの中で、最も攻撃力があったのがキスカら海上で大破着底した揚陸艦から放たれる対空機銃と加農砲、迫撃砲の攻撃だった。
だが、それらはことごとくアラクネの攻撃魔法の攻撃対象となり揚陸艦もろとも海の藻屑にされている。
それはアラクネが物量による継続攻撃を嫌っていることに他ならない、とクロム達上位ランナーはあたりを付けていた。
現に、今も魔法攻撃の目標にされるのはアラクネをしつこく狙い続けるランナーや、加農砲を持つランナー、迫撃砲を撃って来た地点がほとんど。
「裏付けはあるんだね……」
《そう言う事じゃ。リコリス1には再度周囲を偵察しつつ制空権確保に努めてもらいたい》
「……分かった、アラクネのフィールドは任せたよ、クロム!」
《了解じゃ》
クロムの言う事が本当かはアスカには判断出来ず、またそれに代わる策も持ち合わせていない。
ここはクロム達の読みに賭け、自分のできる事に徹するのみ。
アスカの持つ火器でアラクネに効果がありそうなのは手榴弾の大量投下だが、これはアラクネへの爆撃を行える状況を作らなくてはいけない。
それはつまり……。
「よし、こいギンヤンマ、私が相手だ!」
クロム同様、辺り一帯の制空権確保と同義。
アスカはインベントリからピエリスとエルジアエを取り出し、メラーラマーク35も使用して周辺を飛行するギンヤンマへ向け加速する。
『敵、ギンヤンマ三機、正面』
「機動強化されたレイバードの力、見せてやる!」
アラクネの周辺を警戒飛行していたギンヤンマへ向け、奇襲気味に迫るアスカ。
メラーラマーク35も使用したレイバードの加速と最高速は翡翠はおろか、飛雲ですら置き去りにしてしまうほどのもの。
ギンヤンマ達がアスカの接近に気付き、対応するよりも早くアスカが横を駆け抜け、翅を失った二機が炎に包まれながら墜落してゆく。
この動きに気付いた他のギンヤンマ達が大量にアクティブ化。
完全に制空権を取ったと高をくくっていた蜻蛉達が一斉にアスカに襲い掛かる。
だが、飛雲ですら一目瞭然だった機体性能差はレイバードによりさらに開き、推力偏向から来るすさまじい機動はギンヤンマ達に照準らしい照準すらつけさせない。
高速を維持したまま、機動性に優れる翡翠や飛雲以上の最小半径でのループや旋回。
コブラの様に体を起こし急減速、背後のギンヤンマをやり過ごした後メラーラマーク35を使用しての再加速、傍から見れば失速のような錐揉み落下からの立て直し、再加速。
航空力学を無視したかのような尋常ならざる空戦機動。
その様子を地上から見ていたランナーは後にこう語っている『まるで嵐の中、不規則に舞う花びらのようだった』と。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
嬉しさのあまりカフルイ空港から飛び立ってしまいそうです!
第105話のアラクネ攻撃シーンが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦を描いていただいた茜はる狼様。
強力なラスボスの一撃を是非ご堪能ください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1370322480498237440
あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまりジョンソン宇宙センターから打ち上げられます。