105 DAY6吹き荒れる嵐
《わしは今作戦の総指揮官を務めるクロムじゃ。ユニフォームで戦う全軍に告ぐ。作戦は続行する。このままでは終わらんぞ》
それは今もユニフォームの最前線で戦う総指揮官、クロムの声。
現状で撤退か継戦かを決めることが出来る彼が言い放った『作戦続行』の一言。
その言葉に、ランナー達から声が上がる。
《皆聞いたな、作戦続行だ!》
《いいねぇ、そう来なくっちゃ!》
《何言ってんだ、この敵の数を見ろよ、無理に決まってんだろうが!》
《私達に死ねって言うの!?》
《逃げたいやつは逃げろ。ここは俺達の戦場だ》
《こっちから出向かなくても敵の方からやってきてくれるんだ、ポイント荒稼ぎできるぜ!》
《ビクターとエックスレイからの増援までどんだけかかる!?》
《もうワンブロック下げた位置に陣地を再構築しろ、耐えきるぞ!》
作戦続行に否定的な意見も出るが大多数は賛成、もしくは指示に従うという物だった。
それに伴い、ランナー達の動きも攻撃から防御へと変わって行く。
突出しすぎた者、敵に飲み込まれた者は自らの生還が不可能と悟り、味方ランナー達が後退し陣地を構築するための時間を稼ぐ遅滞戦闘に移行。
海上の大破着底した揚陸艦に陣取る後方射撃部隊も、地上を攻撃しようとしている赤とんぼを優先して狙っている。
《リコリス1、聞こえるかのう?》
《うん、聞こえるよ、クロム!》
《お主には引き続きユニフォーム上空の制空権を確保してもらいたい。味方の被害も気になるじゃろうが、ここは地上よりも空を頼む》
《分かった、精一杯頑張るよ!》
《うむ。行くぞ皆の衆、我々の力で勝利をつかみ取るのじゃ!》
《こちらファルク、了解しました》
《キスカ、了解》
《……うむ》
《いや、何か言えよアルバ! こちらホーク、思う存分暴れてやるぜ!》
《にゃはは~、援護魔法攻撃は任せるにゃ~》
アスカのフレンド達も、皆この状況に気後れすることなく状況に対応してゆく。
最前線から一歩引いた位置にいたファルク、アルバ、ホーク、クロムらは陣地を構築しているラインに合流し、後退してくる味方を援護。
フランは目指していたユニフォームの大樹から引き返し、制圧した拠点タンゴ付近でマジックアーマーの小隊仲間と共に川の向こうへ魔法攻撃を行っている。
海上のキスカは変わらず大破着底した揚陸艦艦上からの援護射撃。空爆と機銃掃射を行う赤とんぼを優先で攻撃。
皆がこちらの態勢を立て直す為に尽力しているのが手に取るように分かる。
時折聞こえてくる司令部からの通信でも、ビクター、エックスレイ両拠点の制圧を完了したランナー達がユニフォーム援護の為出立したとの報告が上がる。
オペレーションスキップショットを成功させようと、ランナー達が一丸となってこの最終局面を乗り越えようと躍起になっていた。
そして、アスカは……。
「ギンヤンマ、一機撃墜!」
『注意、六時方向よりギンヤンマ。三時、五時方向からも接近』
「させるかぁっ!」
孤軍奮闘、大量に襲い掛かるギンヤンマを相手に激しい空戦を繰り広げていた。
もはや周囲にアスカ以外で飛行するフライトアーマーの姿はなく、唯一残ったアスカを制空戦闘機であるギンヤンマ達が執拗に付け狙っているのだ。
しかし、アスカにとって数的不利など毎度の事。
性能面ではこちらが勝っているという事もあり、多少の被弾はすれども致命傷は避け隙を見てはギンヤンマを撃墜してゆく。
『ガンポッド、残弾ゼロ』
「切り離して! ピエリスの残りは!?」
『ピエリス、残弾200です』
「もうそんなに……補給に行ってる暇はないのに!」
切り離されたガンポッドが地上を闊歩する大量のモンスター群の中へ消えて行く。
前線のランナー達も頑張っているが、レーダーで見る限りモンスターの数はあまり減っておらず、手持ちの弾薬類が少なくなってきたことも合わせてアスカに焦りの色が見える。
そんな中、今まで黙していたアラクネが動きを見せた。
《アラクネが動いた、全員警戒しろ!》
それは誰の物かもわからない通信だったが、今だその能力が分からないアラクネに全てのランナーが警戒を顕わにする。
美しい女性の姿をしているアラクネ。
他の敵とは違いエグゾアーマーは身に付けておらず、上半身は裸。
胸部などのセクシャルな部分は腰に達するほどに長い銀髪で隠している。
赤い光を放つ大樹に下から照らされ艶美な表情を持つアラクネは、周囲で戦うランナー達を見透かすような視線で一瞥した後、腕を上げ天を仰ぎ始めた。
そしてアラクネの周辺に八つの魔法陣が現れる。
アラクネを中心とした八方にこちらに面を向け、地面に対し垂直に描かれた魔法陣。
天を仰いでいたアラクネがその腕を左右に伸ばすと同時に、魔法陣が光を放つ。
その光は最初は魔法陣に刻まれた幾何学模様に沿って白くゆらゆらと。
次に青へと、そして青紫へと色を変えて行く。
色の変化は青紫で止まり、陽炎の様にゆらゆらと不安定だった光も魔法陣の中心で収束。
青紫に輝く小さく丸い一つの塊となる。
それが各魔法陣で発生。
アラクネを囲う八つの球体が出現した。
「何をする気なの……?」
《分からん。だが、ボスの攻撃アクションには違いない》
《攻撃か防御かも不明ね。全員、対ショック! 何が来ても確実に防御するわよ》
アスカもどんな攻撃が来てもいい様に最大の注意を払う。
――どんな攻撃が来ても、躱してやる。
そう気を巻いた、次の瞬間。
『敵アラクネ。攻撃、来ます』
「――っ!?」
アイビスの言葉と同時に球体が強く光ったと思うと同時に、アスカの意識は明転した。
―――――――――――――――――――――――
「えっ、ここは?」
意識を埋め尽くした光が治まった時、アスカは空ではなく大地に立っていた。
装備していたはずのエグゾアーマー飛雲も、手に持っていたはずのピエリスもエルジアエもない。
いつものノースリーブブラウスにホットパンツと言う格好で豪雨にうたれながら呆然と立ち尽くしていたのだ。
何が起きたのか分からず周囲を見渡すと、アスカと同じように何が起きたのか理解できていないような顔をしたランナー達が大勢いた。
誰もかれもが首を傾げお互いに顔を見合わせる中、アスカがふと後ろを振り返った時、ようやく何が起きたのかを理解した。
「私、墜とされた!?」
そこにあったのは拠点ポータル。
それも、アスカがリスポーン地点に設定したロミオの拠点ポータルだったのだ。
アスカ同様、拠点ポータルでここがロミオであり、死に戻りしたことにようやく気付くランナー達。
先ほどまで呆然唖然としていた表情がみるみる困惑へと変わっていく。
「ここ、ロミオか?」
「ってことは俺達やられたのか?」
「嘘だろ、俺まだHP七割は残ってたんだぞ!?」
「アラクネの攻撃……? いやでも、最大クラスの大盾でガードしてのに!?」
周りが騒がしくなってゆく中、ポータル付近の空間が光始めユニフォームで死亡し戻ってきたランナー達が次々とその姿を現す。
「くそっ、やられた!」
「あんなのメチャクチャよ、防ぎようがないじゃない!」
「忌々しい絡新婦め!」
「なんなんだよ、あの攻撃は……冗談じゃねぇぞ!」
死に戻りするなり周囲を気にせず悪態をつくランナー達。
彼らはあのアラクネが何をし、どんな攻撃で自らが死亡したのか理解しているようだった。
そこに近付くのは先に死に戻ったランナー達だ。
何故死に戻りするに至ったのか状況説明を求めるランナー達に、先ほどまで怒りをあらわにしていたランナーも感情を抑え説明を始めてくれた。
アスカもそれに便乗、話を聞かせてもらおうかと思ったがタイミングよくフランからの通信が入る。
《アスカ、無事かぃ?》
「フラン! ごめん、私一回死んじゃった……」
《アスカ、アルバだ。あの攻撃は仕方がない。初見で対処できるような攻撃じゃなかった》
「アルバ! そっちは大丈夫!?」
《あぁ。幸い俺達に被害はない、だが、キスカがアスカ同様アラクネの攻撃で死に戻った。おそらくその周辺に居るはずだ》
「キスカまで!? 何があったの?」
《にゃは~、アラクネ、敵ながらとんでもない奴だよぉ》
そこから語られる、アラクネが行った攻撃の全容。
アラクネが放ったのは、収縮した球体から放つレーザー攻撃【ペネトレイションレイ】だ。
しかし、それは極めて細く、攻撃範囲と言う意味で見ればそれほどの脅威という訳ではない。
問題はレーザーが球体から放たれると同時に有効射程限界まで届く速度を持ち、一定時間放射状態を保持。
さらに魔法陣を動かすことでレーザーの放出方向を変えてきた事だ。
収縮し密度の変化により発光色を変えるほどまでに高められ、極細にされたレーザーの威力は凶悪の一言。
俗に言う『当たり判定』こそ狭い物の、当たった場合はアサルト、ストライカー、ソルジャー、マジック等エグゾアーマーの種類関係なく貫かれほぼ一撃死なのだという。
そんなレーザー攻撃を、アラクネを囲った八つの球体が全て同時。
アラクネを中心とした放射状に放たれたのだ。
この攻撃はアラクネの攻撃に備え身を護っていたランナー達には最悪すぎた。
アスカを含め、発生時その射線上にいた者はレーザー攻撃が放たれた瞬間即死。
その後アラクネはレーザー攻撃を放つ魔法陣を操作。
魔法陣の位置はそのままに、首でも動かすかのように魔法陣の向きを上下に動かすと地上から空へ、空から地上へとレーザー攻撃による薙ぎ払いを行った。
このアクションによりレーザー攻撃の射線上に居たランナー達が軒並み葬り去られ、レーザーが掠った者でさえその部分のエグゾアーマーが大きく損傷。
腕部、脚部などは使い物にならなくなり、盾や武器、バックパックなどは形も残さず消滅したのだという。
説明を聞き、絶句するアスカ。
ポータル周辺のランナー達も同じ話を死に戻ったランナーから聞いたようで、皆一様に顔から血の気が引いていた。
「そんな……」
《なに、初見では対処できなかっただけだ。次はうまくやる》
《そういう訳だからさぁ、アスカ、戻ってこれるかぃ?》
「うん、今すぐ戻るよ!」
《頼んだ。アスカの索敵がないと敵の全容が掴めない上、空爆が激しい》
「任せて!」
《出来るだけ急いでねぇ》
通信を切ると、アスカは周りで動揺し立ち尽くしているランナー達に見向きもせず、すぐさま動き出す。
と、そこへ。
「アスカ!」
「あ、キスカ!」
声をかけてきたのは、大破着底した揚陸艦の艦上で固定砲台となって前線支援を続けていたキスカだった。
アルバ達との通信でキスカも死に戻ったと聞いていたが、こうやって会ってしまうと先ほどの話が嘘偽りではなかったのだと確信させられてしまう。
「キスカ、大丈夫?」
「ん~、大丈夫……じゃないわね」
曰く、キスカ達はレーザー攻撃の発生時こそ射線上の魔法陣が下方を向いていた為被害はなかった。
しかしアラクネが、上方への薙ぎ払いを行った事で艦上に居た味方もろとも葬り去られてしまったのだという。
「あの貫通力は尋常じゃないわね。現状最大の防御力を持つアームドビーストのシールドでさえ貫くんだから……」
そう、キスカは彼女のいた揚陸艦の中では最大火力をもつランナーだったため護衛のアームドビーストが付き添っていたのだ。
だが、アラクネのレーザー攻撃の前には効果なく、こうして死に戻りしている。
「なんとか防がないとだね……」
「ううん。あれを防ぐのは無理ね」
「えっ?」
「アームドビーストのシールドはおろか、特効素材をふんだんに使った盾も抜かれてたわ。躱すか、撃たせないを前提に考えるべきよ」
なるほど、とアスカは頷く。
最も装甲の薄いフライトアーマーであるアスカは元より、重装甲のアサルトアーマーやアームドビーストの張る強固なシールドでさえ貫通されているのだ。
馬鹿正直にレーザー攻撃を受け止めていては、エグゾアーマーの残機がいくつあっても足りないだろう。
そこまで考え、アスカはハッとする。
「アスカ、どうしたの?」
「翡翠じゃ……駄目だ」
アスカは飛雲を装備した状態で撃墜された為、再出撃に飛雲は使えない。
その為、翡翠を使用しようと思っていたのだが、翡翠の機動力と速度ではアラクネのレーザー攻撃を躱すことは難しいのだ。
「アイビス、翡翠であの攻撃、躱せるかな?」
『射線上に居た場合の回避は難しいでしょう。対処策は発動までに射線から退避することが最良と思われますが、翡翠では速度が足りません』
「となると……」
一縷の望みをアイビスに賭けるも、その答えは否。
この瞬間、翡翠の使用は断念。
そうなると残るのは対ブービーとして用意したレイバードになる、のだが。
「……ここじゃ、離陸できない」
「アスカ?」
レイバードの離陸にはかなりの滑走距離を要する。
それも、乾燥状態で開けた平地でと言う条件付きだ。
ところが、ロミオではそれだけの距離を持つ平地がない上にこの豪雨で地面は大きくぬかるんでいる。
もともと歩行能力の低いレイバードでこの状態での離陸は不可能に近い。
「そうだ、カタパルト!」
「え、カタパルト?」
そこでふと思い出したのが、揚陸艦に備え付けられたカタパルト。
あれならば天候に左右されることなく、艦上から大空へ向け離陸できる。
「キスカお願い、私を港に停泊してる揚陸艦まで連れて行って!」
「ここから港まで!? 一体どういう事なのよ?」
アスカの必死の形相に、思わず面食らうキスカ。
事情をアスカに説明してもらおうとするが「ここじゃ駄目なの!」「私ひとりじゃ時間がかかりすぎるの!」と要領を得ない答えが帰ってくるばかり。
キスカが困り果てどうしたものかと周囲を見渡した。すると……。
「居た、アスカ!」
「アスカちゃん、こっちよ、こっち!」
「えっ!?」
誰もいないはずの真っ暗な茂みの中から、スコップとトランスポートアーマーに身を包んだロビンが現れたのだ。
【ペネトレイションレイ】
内閣総辞職ビーム。
本話のアラクネ攻撃シーンが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦を描いていただいた茜はる狼様。
強力なラスボスの一撃を是非ご堪能ください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1370322480498237440
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