103 DAY6.Gエックスレイ奇襲戦Ⅱ
本日三話更新。
本話は三話目になります。
重要拠点エックスレイ。
本日の作戦開始と同時にランナー達が襲撃を仕掛け、一気制圧を目論んだが失敗。
アダンソンと大量に駐機していた赤とんぼのアクティブ化により泥沼の戦況となっていた。
出鼻を挫かれた上に最優先撃破目標だった赤とんぼに離陸され、司令部からの通信で本命のユニフォームに赤とんぼの爆撃部隊が来襲したと告げられた事でエックスレイ一帯のランナー達には落胆の色が強く表れていた。
何の成果も出せなかったと士気が下がって行く中。
選抜された上位ランナー達はそんな周りのランナー達を奮い立たせるように戦闘を続けていた。
《各隊、状況知らせ!》
《設置式対空機関銃隊は全滅だ、火力支援は期待できないぞ!》
《Bチーム、Hチームも全滅した、戻ってくるまで数十分はかかる!》
《偵察部隊は損害軽微! だが、こちらの兵装ではアダンソンに対処できない!》
《補給部隊は物資が尽きた者から補給に戻ってる。でも、もう設置式対空機関銃を用意する時間は無いよ!》
《上空、どうだ?》
《こちらヘイローチーム。他フライトアーマーと合わせて消耗が激しい。一度補給に戻る》
こちらでもアスカがいたユニフォーム同様、最終決戦くらいは共に空を飛びたいと考えた空を愛する者達がフライトアーマーを身に付け上空にはせ参じていた。
だが、彼らの飛行能力はユニフォームに現れた仲間達よりも低くほとんどが空を飛ぶのがやっとの状態だったのだ。
それでもこの広大な戦域の空にヘイローチームの二名のみと言う人手不足の状態ではとても助かる増援だったが、地上からの対空射撃、赤とんぼの攻撃などもありその数を大きく減らしている。
そして、作戦開始からここまでずっと空を飛び続けたヘイローチームも遂に弾薬、MPポーション類が底を突き、戦線離脱を余儀なくされる。
《アダンソン、来るぞ!》
《砲弾! 特効素材弾頭の物はないのか!?》
《そんなの当の昔に使い切ったよ! 通常の徹甲弾も残り少ないんだ!》
《くそっ、このままじゃ押し負ける!》
アダンソンに対し有効な手立てがなく、取り乱すランナー達。
そんなランナー達の心中を知ってか、アダンソンが跳躍、ランナー達の陣地へ襲い掛かる。
《うわああぁぁぁぁ!》
《げ、迎撃しろ、迎え撃て!》
《馬鹿言うな、逃げるんだよ!》
強襲され、恐怖で腰を抜かしてしまったランナーへ向け、アダンソンの触肢レイサーベルが襲い掛かろうとした瞬間。
轟音と共に放たれた一発の銃弾がアダンソンの触肢を吹き飛ばした。
《な……!》
「援護する、撤退しろ!」
《す、すまない!》
《恩に着る! ほら、早く立て、下がるぞ!》
その声は少し離れた位置にいたイグの物だった。
彼の傍には小隊仲間の肩をバイポッド代わりに大口径対物ライフルを構えるフルフェイスの愉快な仲間達。
そして、イグ自身も腰だめに機関銃を構え、アダンソンへ向け牽制代わりに連射する。
「足を狙え、機動力を削ぐんだ」
「…………!」
「………………!!」
イグの銃撃を防御態勢で受けるアダンソン。
そこに愉快な仲間達が構える対物ライフルの精密射撃が襲い掛かる。
対物ライフルの弾丸は弾芯に特効素材を使用した特殊なもの。
イベントマップでは貫通力とダメージに補正がかかる強力な一撃を受けたアダンソンは派手な被弾エフェクトを散らし、八本ある脚のうちの一本が被弾した関節部から千切れ飛ぶ。
「特効弾薬も残り少ない、頼んだぞ」
「…………」
イグの声に何も言わず、コクリと頷くと、再度対物ライフルのトリガーを引く。
先ほどと同じように周囲に轟音が響き、同時にアダンソンの脚が吹き飛ぶ。
一本また一本と脚を吹き飛ばすと、ついにアダンソンが姿勢を維持できなくなり地面に倒れ込む。
そこに襲い掛かったのが四人目の愉快な仲間だ。
敵陣地から放たれる銃弾を躱しながらスラスターを使い跳躍。アダンソンへ飛び乗ると、手に持っていたレイサーベルを首関節部に突き刺した。
アダンソンもこれには溜まらず、身をねじって振り落とそうとするが、脚を失った身ではそれも上手くいかない。
アダンソン必死の抵抗も気にせず、突き刺したレイサーベルを捩じるイグの仲間。
殺意に満ち満ちた攻撃。
レイサーベルを捩じるたびに被弾エフェクトが飛び散り、アダンソンのHPゲージが減少してゆく。
やがてゲージがゼロになり、アダンソンは光の粒子となって消滅する。
「これだけやってやっと一匹か」
「…………」
「………………?」
どうするのか、撤退するか? と視線で訴えるイグの仲間達。
フルフェイス故表情をうかがい知ることは出来ないが、長年の付き合いからかイグはそのしぐさだけで彼らが何を訴えているのかを理解する。
「撤退したところで状況は変わらない」
既にかなりのランナーが死に戻り、生き残っている者も戦線から撤退を始めている。
作戦開始と同時にエックスレイを制圧し、ユニフォームに赤とんぼを行かせないという前提が崩れた以上、この場所を攻める理由が見いだせないのだ。
「せめて何か攻略の糸口もあればな」
「……」
「…………」
イグのため息にも似た言葉を受け取ってか、イグの仲間達は何も言わずそのまま視線を次のアダンソンへと向けた時。
エックスレイ攻略部隊隊長から全体通信が入る。
《エックスレイに展開する全ランナーに告げる。ユニフォーム戦線から赤とんぼの増援が来ないとの報告が上がった。我々がエックスレイに圧力をかけている成果だ。引き続きエックスレイを攻撃し、ユニフォームへの増援を食い止めよ!》
《なんだって!?》
《作戦は失敗じゃなかったのか!?》
《俺達の戦いは無駄じゃなかったって事か!?》
突如として通達された内容に動揺するランナー達。
失敗したと思われていたエックスレイへの攻撃。
確かに制圧は失敗したのだが、実際にはユニフォームへ増援として飛んでゆくはずだった赤とんぼ達が攻め込んだランナー達を対処するためエックスレイに足止めさせられていたのだ。
《なら、このまま時間稼ぎすりゃいいのか?》
《アダンソンを何とかしないと無理だ、火力と装甲で押し切られる》
《空にはまだ赤とんぼもいる、あいつらエックスレイから際限なく湧いてくるぞ》
《あの蜘蛛何とかならないのか!?》
失敗し、意味がない戦闘だと戦意を失いかけていたランナー達が、再び士気を上げて行く。
このまま敵をここに釘付けにしていればユニフォーム攻略に貢献できる。
そう考えはしたのだが、状況はそう甘くない。
損耗が著しいランナー達に、これ以上多脚戦車であるアダンソンと戦闘を継続するだけの余力がないのだ。
時間稼ぎと言う名の消耗戦を続ければ、倒すどころかアダンソンを楔にこちらの布陣を切り崩される可能性が高い。
――何かアダンソンに対する策があれば……。
敵モンスター群と依然激しい戦闘を続けるランナー皆がそう思った時聞こえてきたのは、総司令部からの全体通信だ。
《こちら作戦司令本部。ナインステイツで戦う全ランナーに告げる。アダンソンの弱点は雷属性と判明。魔法、火器、近接武器にかかわらず雷属性で一定量の損害を与える事でスタンを起こす。各隊はこのスタンを狙いアダンソンを撃滅せよ》
《え、は……えぇ?》
《雷属性攻撃!?》
《あいつ、スタンなんてするの!?》
動揺が広がるランナー達。
だが、空からすぐにそれを肯定する声が聞こえてきた。
《ユニフォームで発見された間違いない情報だよ!》
《一足先に雷属性装備を持ってきた。同属性の武器と魔法攻撃がある奴はターゲットマークを表示した敵を狙え!》
それは補給のため戦線を離脱していたヘイローチームだった。
真っ暗な雷雨の空、今だ敵味方のアイコンが入り乱れている中、敵赤とんぼを撃墜しながら進むヘイローチーム。
そして彼らがターゲットに指定したのは偶然にもイグ達の正面にいるアダンソンだった。
「おあつらえ向きだな。よし、やるぞ」
「…………!」
「…………!!」
生憎イグ達の装備に雷属性の物はなく、出来る事と言えば弱点とされる雷属性攻撃を行う味方ランナー達をサポートする程度だ。
しゃがみ、汎用機関銃をしっかり構えターゲットマークされたアダンソンへ向け銃撃を開始。
周囲からも同様に援護射撃が放たれ、アダンソンは堪らず足を止め防御姿勢をとる。
そこへ襲い掛かる対物ライフル一撃。
脚の関節部へ、狙いすました特効弾丸が突き刺さり脚を吹き飛ばす。
《今一撃、誰だ!?》
《誰でもいいわ、アダンソンの足が止まったのよ、みんな、前へ出て!》
《よし、雷属性魔法の射程に捉えたぞ!》
《皆、準備は良いか、行くぞ、ボムズアウェイ!》
《【スパークショット】!》
《【ライトニングブラスト】!》
《【サンダーブレイド】!》
空中のヘイローチームが投下したのは雷属性が封入されたスパークグレネード。
グレネードランチャーの物と同様にスタン効果を引き起こす作用を持ったそれは、見事な落下軌道を描きアダンソンとその周辺に弾着。
まるで落雷でも起きたかのような強烈な閃光と電撃音を響かせる。
同時にマジックアーマーの雷属性魔法がアダンソンに襲い掛かる。
スパークグレネードはスタンを誘因させる効果が高い分ダメージが期待できず、マジックアーマー達の魔法攻撃も姿勢を崩していたとはいえ防御態勢を取っているアダンソンに対して決して有効とは言えないものだった。
が、弾着した攻撃のエフェクトが全て治まった時そこにいたのは、全身に電流を纏いスタンを起こしたアダンソン。
それを見たランナー達は歓喜に包まれた。
《マ、マジか! あいつスタン起こしてるぞ!》
《こんな弱点があったのか!》
《おいおいおい、ユニフォームの連中よく気が付いたな!》
《雷属性の弾丸、武器、魔法、何でもいい、ありったけ持ってこい!》
《くそっ、ホームのアイテムBOXさえ開ければとっておきの武器があったのに!》
スタンしたアダンソンにはすでに複数のストライカーアーマーが群がり、トドメを刺している。
今までやりたい放題されていた相手を逆に一方的に嬲れるとあって、ランナー達の士気はこの上なく上昇していた。
我先にと雷属性武器をトランスポートアーマーに求めるが、当然雷属性が弱点など知る由もないトランスポートアーマー達に武器弾薬の在庫はない。
せっかくポイントを稼ぎ、これまでの鬱憤を晴らすチャンスだというのに、と憤るランナー達に、更なる通信が入る。
《雷属性武器、持ってきたよ!》
《本当か!?》
《トランスポートアーマー!?》
《こっちにもあるわよ。武器に限らず、弾薬グレネード、より取り見取り!》
《弾薬をくれ、ありったけだ!》
《俺にも寄越せ!》
《私には雷属性の剣を、あの忌々しい蜘蛛を達磨にしてやるわ!》
彼らは空のヘイローチーム同様、持ってきた物資が底をついた為一度前線拠点に戻ったトランスポートアーマー達だった。
補給に戻ったタイミングで運よくアダンソンの弱点を知ったトランスポートアーマー達は、今が活躍の時と言わんばかり雷属性火器弾薬類を掻き集め、最前線へと舞い戻って来たのだ。
《ははは、面白いほど簡単にスタンするな、コイツ!》
《真面目に正面戦闘してたのが馬鹿みたいだぜ!》
アダンソンの弱点である雷属性武器を得たランナー達はジリ貧だったそれまでの状況から一転。
一気に攻勢を仕掛け、次々にアダンソンを撃破、同時に敵陣地を食い破り始める。
アダンソンの数が減ったことで、設置式対空機関銃も再設置。
ヘイローチーム他フライトアーマーの奮戦もあり、雷雨の空を飛ぶ赤い蜻蛉の数がみるみる減って行く。
「ここまでくれば、制圧も時間の問題だな」
「…………!」
「…………」
「…………?」
最前線から少し離れた位置でレーダーで状況を確認するイグ達。
残存するアダンソンはごくわずか、無限沸きかとも思われた赤とんぼも底が見え始め、ランナー達はエックスレイの拠点ポータルの眼前にまで迫っている。
最初はどうなる事かと思ったが、ここまでくればもう勝利は揺るがないだろう。
そんな達観めいた様子を見せるイグに、周りの愉快な仲間達はまたしても視線で意見をする。
「分かってる、俺達も少しでも稼がないといけないからな」
「…………!」
「…………!!」
「……!!!」
既にイグとその仲間達もトランスポートアーマーから雷属性火器の補充を受けている。
居ても立っても居られないと訴える仲間達に促されるように自らも前線へと赴いて行く。
――そして。
<エックスレイの拠点ポータルを確保しました>
長時間の激戦の末、エックスレイ奇襲作戦はランナー達勝利で終結したのだった。
ビクター、エックスレイともの制圧終了。
残すは敵の本丸、最重要拠点ユニフォームのみ。
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嬉しさのあまりハーツフィールド空港から飛び立ってしまいそうです!