102 DAY6.Gビクター強襲戦Ⅲ
本日三話更新。
本話は二話目になります。
「君達、こんなところで何してるんだ?」
「マルゼスさんこそ、先陣を駆けんでよかと?」
「俺か? あぁ、毎回先頭ってわけじゃないからな。それより、ホロ達は最前線に行かないのか。今は一人でも多くのランナーの力が必要だぞ?」
「あ、それは……」
「実はですね……」
フェイスガードをあげ、こちらに視線を向けて来るマルゼスに、ホロ達は事情を説明する。
そしてホロが雷属性武器を持つが、それをうまく運用する方法がないと聞くと、大きく頷いて口を開いた。
「それなら簡単なことだ。ホロ、タービュランスに乗れ」
「えっ、乗ってよかと!?」
「あぁ、問題ない」
エグゾアーマーを装備したランナーの重量はかなりの物。
それを背負って動くとなると騎乗する動物には相当な負荷がかかるが、動物達もまたエグゾアーマーを装備しているのだ。
エグゾアーマーの強力なパワーアシストのおかげで、エグゾアーマー装備のランナー二人程度なら機動力に影響が出る事はないと言う。
高い機動力を持つアームドビーストであるタービュランスならば、雷属性の一撃を見舞った後の離脱も容易。
一度距離を取って再度攻撃という事も可能だろう。
先ほど挙げた問題点はこれで解決できるのだ
ホロはそう言う事ならばとすぐにマルゼスの愛馬、タービュランスに乗り敵陣に切り込もうと考えたが、そこでふと後ろにいるメラーナ達を見る。
彼女たちはここまで共に戦ってきた仲間なのだ。
いくら自分がアダンソンに対し有効な手段を持っていると言っても、仲間を置き去りにして戦果を稼ぎに行くようなことなど出来ない。
するとメラーナ達はホロの表情からその事を読み取ったのか、笑顔で声をかけてくる。
「いっておいでよ、ホロ!」
「で、でも……」
「構う事ねぇって! 俺達もすぐに追いつくからよ!」
「うん。僕たちもこのまま見てるだけのつもりはないよ」
「皆……ごめん、うち、行くばい!」
メラーナ達に背中を押され、タービュランスに飛び乗るホロ。
そのホロに向け、メラーナが近付きアイテムを渡してくる。
「これは?」
「アスカさんに売ってもらったの。もしもの時用にって。たぶん、今がその時だから」
メラーナがホロに渡したのは、アスカが友情価格でメラーナに売った品質BのMPポーションだった。
「そ、それはさすがに受け取れんばい! これはメラーナ達が使う物やろうもん!」
「いいの、元々私達四人で使うものだったんだから!」
購入したのはメラーナであるため受け取れないと断るホロだが、元々このMPポーションはアスカがメラーナ達を支援できない時の保険として売ったものでもある。
メラーナ達にはまだ支給品のMPポーションが残っていると言う状況もあり、MPを大量消費するホロへ餞別代りに押し付けた。
「あまりグズグズしている時間は無いよ」
「うぅ……分かったばい、貰ったポーションの分、きっちり働いちゃるけんね!」
「うん、頑張ってねホロ!」
「僕たちもすぐに追いつくから!」
「俺達の分も残しておいてくれよ!」
「よし、いくよホロ!」
「よろしくたのむっちゃん!」
メラーナ達と挨拶を交わした後、マルゼスがタービュランスに鐙で合図を出し、先に行った機動部隊に追いつくべく駆け出す。
エグゾアーマーを装備したタービュランスの脚力はすさまじく、エグゾアーマー装備のランナー二名を乗せても数完歩でトップスピードに到達。
全速力のまま銃弾飛びかう戦場を一気に駆け抜け、アダンソンに肉薄する。
「ホロ、準備は良いか!」
「いつでもよかよ!」
タービュランスの鞍上、マルゼスの後ろで先ほど貰ったMPポーションをさっそく使用。
MPを全快させ、既に大鎚の特殊効果を発動させていた。
MP50と言う大量の魔力を消費させた効果は一目瞭然。
鎚のハンマー部分は紫の光を纏い、バチバチと電流を発生させる外見は、明らかに雷属性を纏っていると理解できる。
対するアダンソンは一直線に向かってくるタービュランスを視界に捉え、上腹部榴弾砲の砲口をこちらへと向ける。
「ホロ、来るよ。直前で躱すから、飛び掛かれ!」
「まかせんしゃい!」
マルゼスがホロへ声をかけた、次の瞬間。
アダンソンの榴弾砲が火を噴き、砲弾が全速力で駆けるタービュランスへ向け放たれた。
弾着までコンマ数秒。
直撃すれば即死は免れない一撃が襲い掛かるが、マルゼスとタービュランスはこれを体を捻って紙一重、まさに人馬一体の動きで躱し、さらにアダンソンへ向け突き進む。
榴弾砲の装填が間に合わないアダンソンは迎撃の為下腹部の機関砲を乱射し、タービュランスの脚をなんとか止めようとする。
しかし、これもマルゼスとタービュランスはアダンソンの側面に回り込むことで射線から離脱。
アダンソンも回り込んだタービュランスを再び射角に捉えるべく旋回するが、その距離は……。
「今だ、行けッ!」
「よっしゃあ!」
雷属性を纏った大鎚を構えたアサルトアーマー、ホロのスラスターの範囲内。
タービュランスの背を踏み台に大きく跳躍。
スラスターを最大に吹かし、最大速度のままアダンソンへと襲い掛かる。
対するアダンソンもこの動きに反応し、上体を起こして下腹部機関砲でホロを迎撃。
だが、勢いよく飛び上がったホロには射角が足りず、放たれた弾丸は虚しく真っ暗な雷雨の空に消えて行く。
「はあぁぁ、たぁぁりゃあぁぁぁ!!」
気合一発。
大鎚とエグゾアーマーの重量、さらにはスラスターの推進力をも加算した強烈な一撃をアダンソンに叩き込む。
防御態勢を取っていなかったアダンソンへの強力な一撃は、それだけでHPを二割ほど削ると同時に周囲にすさまじい電撃が走り、雷属性の追加攻撃を入れる。
アダンソンはバチバチと電流を纏い動きも鈍くなったが、一撃でスタンを起こすには至らず、ホロはすぐさまアダンソンの背中から離脱する。
再度スラスターを吹かしての跳躍。
その落下地点に居るのはマルゼスとタービュランス。
ホロはスラスターで減速しながらタービュランスの背中に飛び乗った。
「上出来だよ、ホロ!」
「ごめん、浅かった……スタン取れんやった……」
「その心配はない!」
「えっ?」
見れば、ホロが一撃を加えたアダンソンを他のアームドビーストが取り囲み、グレネードランチャーを撃っているのだ。
そのグレネードランチャーは普段ランナー達が使う炸裂弾ではなく、弾着と同時にスパークを起こす特殊なもの。
被弾しているアダンソンにダメージはなさそうだが、そのたびにアダンソンに走る電流が強くなり、動きが鈍化してゆく。
そしてついにスタンを発生し、その場に倒れ込み完全に沈黙した。
「す、すごか!」
「俺達だって無駄に後方に下がったわけじゃない。ちゃんとアダンソン対策を用意してきたのさ」
グレネードランチャーの属性弾は特殊効果のみを誘発する魔法属性弾頭だ。
火属性ならば火災、水属性ならば毒などになるが、雷属性の場合はスタンを引き起こす効果になる。
機動力が高いアームドビーストを持つランナー達はこの雷属性弾頭のグレネードを掻き集め、アダンソンに飽和攻撃を仕掛けているのだ。
そして、アダンソンがスタンしたのを確認してから、後続のランナー達が集中攻撃を開始する。
「ホロ、俺達はアダンソンをスタンさせるのが仕事だ、次に行くぞ!」
「了解ばい!」
スタンしたアダンソンの撃破を見届けず、次のアダンソンに攻撃を仕掛けるホロとマルゼス。
方法は先ほど同様、アダンソンの攻撃を躱しつつタービュランスで接近。
ホロの間合いまで距離を詰め、そこから雷属性を纏ったホロの強襲による一撃。
アダンソンをスタンさせるにはこの一撃では足りないが、すぐさま他のアームドビースト達がフォローに入りアダンソンを逐次スタンさせてゆく。
「これで何匹目やろうか?」
「さてな、俺も数数えてねぇや」
状況は既にランナー側有利だった。
あれだけ大量にいたアダンソンはその数を大きく減らし、アダンソンという鉄壁の盾を失ったホブゴブリンや鬼人兵、鬼武人では津波のように押し寄せるアームドビーストとランナー達に対処できず次々に防御陣地を突破されてゆく。
「ホロ、やっと追いついた!」
「おいホロ、俺達の分も残しておいてくれって言ったじゃないか!」
「カルブ、また敵は全滅してないよ、まだまだここからさ!」
「メラーナ、カルブにラゴも!」
攻勢となり、引き上げられた前線に伴って後方にいたメラーナ達も合流。
レーダーではすでにビクターの拠点ポイントがある湖を包囲しており、勝利は目前の状況だった。
「皆集まったな。よし、このまま行くよ!」
「がってん承知の助ばい!」
「カルブ、先に行くぞ!」
「待てよラゴ、俺はまだ暴れたりねぇ!」
「援護は任せてよ!」
大勢は決し、戦場は掃討戦へと移行していた。
それでもまだポイントを稼ぎ足りないランナー達が我先にと敵陣へと攻め込み、次々と敵モンスターを撃破してゆく。
そして、ついに。
<ビクターの拠点ポータルを確保しました>
ランナー達が拠点ポータルを奪取。
重要拠点ビクターにおける攻防はここに終結したのであった。
ビクター強襲戦決着。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりJ.F.ケネディ空港から飛び立ってしまいそうです!