101 DAY6.Gビクター強襲戦Ⅱ
本日三話更新。
本話は一話目になります。
アスカ達ユニフォーム上陸部隊が一転攻勢をかけ始めたのと同時刻。
その南に位置する古城跡地の重要拠点ポイントビクター。これまでアダンソンに苦戦し膠着していた戦況に変化が起きようとしていた。
《こちら作戦司令本部。ナインステイツで戦う全ランナーに告げる。アダンソンの弱点は雷属性と判明。魔法、火器、近接武器にかかわらず雷属性で一定量の損害を与える事でスタンを起こす。各隊はこのスタンを狙いアダンソンを撃滅せよ》
《は、雷属性攻撃!?》
《スタンだって? そんな初歩的な手に引っ掛かるのかアイツ!》
《ガセネタじゃないだろうな?》
《作戦司令本部の全体通信なのよ? そんなことはないはずだわ》
既に前線を張っていたアームドビーストの機動部隊は損耗の多さから一時後退。
かわりに特効兵装を満載したアサルトアーマー達が前線を張っていたのだが、アダンソンの前に有効打がなくジリ貧となっていた。
それだけに、アダンソンが『スタン』に弱いという情報は何よりもありがたい。
だが、問題もあった。
《雷属性魔法攻撃、セットしている奴は?!》
《そこまで多くない!》
《この銃撃の中、私達に前に出ろって言うの?!》
《蜂の巣にされちまうぞ!》
《雷属性武器は!?》
《そんなレアもん、マジックの数よりすくねぇよ!》
そう、雷属性は数ある魔法攻撃の中でもマイナーな部類なのだ。
理由はもちろん、魔法攻撃であるにもかかわらず近距離に近い中距離射程と言う使い勝手の悪さに起因する。
火力こそ全属性トップクラスなのは間違いないが、他にも前衛を張るエグゾアーマー達が数多くいるイベントにおいて雷属性攻撃をセットしているマジックアーマーの数はそれほど多くはないのだ。
そして属性武器となるとさらに数が限られる。
『Blue Planet Online』において実弾銃は弾薬に属性があり、レイ銃ならば銃本体に属性が付与されている。
近接武器もレイ装備同様武器そのものに属性が付いているのだが、属性武器及び属性銃弾は効果の割に値段が高く耐性がある敵には効果がない為敬遠されているのだ。
《後方に支援要請だ、雷属性の銃弾をありったけ持ってこさせろ!》
《弾薬、砲弾、武器、何でもいい!》
《魔導石もおねがい!》
慌ただしくランナー達が動き出す中、ホロ、メラーナ、ラゴ、カルブの四人は味方の移動をサポートするため、前線へと赴いていた。
「雷属性でスタンってのは面白いね」
「そうなの、ラゴ」
「うん。アダンソンは機蟲、蟲を模した機械生命体ってあったでしょ?」
「あ、だから雷に弱いのか!」
「そうだと思う。分厚い金属の装甲はかなりの防御力を誇るけど、代わりに電気をよく通すから雷属性に弱いんじゃないかな」
「ほえぇ、そげんこつよく思いつくもんばい……」
最前線のアサルトアーマー達が築いた防衛ラインを突破し襲い掛かってくるアームドウルフに対処しながら、カルブは顔をゆがめる。
「チッ、やっぱこのままじゃ埒があかねぇぞ。なぁ、やっぱ前線に出ようぜ」
「馬鹿カルブ、何言ってるのよ!」
「僕たちに雷属性の武器はないんだ。特攻兵装はあるけど、それで押し込めるならすでにこの戦いは終わってる」
「で、でもよ……」
また闇雲に突っ走ろうとするカルブを抑えつつもアームドウルフに対処するメラーナ達。
不穏な空気が流れる中、通信からは最前線の激しい戦闘の様子が聞こえてくる。
《いくわよ、【サンダーブレイド】!》
《【スパークショット】どうだっ!》
《よし、一匹スタンしたぞ!》
《リキャスト、下が……きゃああぁぁぁぁ!》
《くそ、マジックが一人やられた!》
《確かにスタンするが、アダンソンの数が多すぎてこっちの被害も馬鹿にならん!》
もともとは平地が広がるビクターなのだ。
少しでも前に出ればそれは敵の格好の的となり、その攻撃に耐えられるほどマジックアーマーの装甲は固くない。
空のフライトアーマー達も必死に援護してくれてはいるが、敵の対空砲火も厚く効果は限定的だ。
「やべぇ、前線苦戦してんじゃねぇか! やっぱ俺達も前に……」
「だから、雷属性装備なしじゃ無理だって!」
「で、でもよぅ……」
今にも飛び出していきそうになるカルブに、そんな彼を必死に抑えるメラーナとラゴ。
その三人に向け、ホロが思いつめたような表情で言葉を放った。
「あのー……実はね、あるっちゃん。雷属性武器」
「え?」
「は?」
「えぇっ!?」
三人が驚くのも無理はない。
このイベントが始まってからここまで、ホロとはずっと一緒に戦闘を行ってきた。
だが、その彼女が雷属性の属性武器を使うところなぞ見たことが無い。
驚きと疑問符を浮かべる三人に、ホロは機械腕で持った大鎚をグイっと突き出した。
「……これ?」
「これ、いつもホロが使ってるハンマーじゃねぇか。これが何だったんだ?」
「これが雷属性武器なんよ」
「えっ!?」
「これが!?」
驚きが止まらない三人に、ホロが続ける。
曰く、市販されている物で一番巨大なこの大鎚。
アサルトアーマーでなければ装備できない専用装備であり、そのまま鎚として使用しても威力抜群なこの鎚がもつ特殊能力が『雷属性付与』だと言う。
MPを50使用し次の一撃に雷属性を纏わせるという至極単純なものだが、MP消費の割には効果が実感しにくく使い勝手が悪すぎる為、ホロはここまでその特殊効果を使わず、ただのハンマーとして使用してきたのだ。
「まさかこんな土壇場になって出番が来るとは思わんかったばい」
そう少し気恥ずかしそうに話すホロ。
べつに隠しているつもりはなかったが、使用する機会が無かったためここまで黙っていることになってしまったという。
「じゃ、じゃあそいつをメインで最前線に行こうぜ! あの蜘蛛共ガンガンスタンさせていこう!」
「あ~盛り上がってるところ悪いっちゃけど……」
「カルブ、それは無理だよ」
「えっ、なんでだよ?」
血気盛んに飛び出そうとするカルブを再び静止するホロとラゴ。
と言うのも……。
「ホロのさっきの話を聞いたろ? 発動にMPを50消費するって」
「それがどうしたんだ?」
「うちの総MPはアスカさんほど多くないっちゃん。雷属性纏って、スラスター全開で突っ込んだらもう帰ってこれんばい」
「あ……」
そう、800から1000近くのMP総量を誇るアスカと違い、ホロなどの一般的なランナーのMP総量は200から300がせいぜいなのだ。
ここまでの戦闘での消費分を考えれば、一回こっきり、しかも敵に突っ込んだら帰ってこれない片道切符の特攻になってしまう。
まだかなりの数のアダンソンが残る中、たった一匹をスタンさせるために行う戦法ではない。
そう説明されれば、さすがのカルブもむやみやたらに『突っ込もう!』等とは言えなかった。
「ちぇっ……やっぱ駄目か」
「そうね、ここはやっぱり身の丈に合った動き方をしましょうよ」
今回ばかりは最前線は他に任せ、自らは露払いに奔走するしかないか、そう考えた時だった。
後方から激しい地鳴りが響いてきたのだ。
「え、なんだこれ?」
「後ろよ、アームドビーストの機動部隊が戦線に復帰するみたいね」
後方からかけてくるのはエグゾアーマーを身に付けた様々な動物たちだった。
猪、牛、狼、猫、虎、鹿などなどなど。
その背に主であるランナーを乗せ、次々にメラーナ達の傍を通り抜けるとそのまま最前線へと向かってゆく。
そんな機動部隊の邪魔にならないよう進路を譲るメラーナ達に近付いてくるランナーがいた。
最初は誰かと思ったが、見覚えのある馬型アームドビーストの鞍上にこれまた見覚えのある全身甲冑のようなエグゾアーマー装備のランナー。
極めつけにそのランナーの頭上に表示されたフレンドアイコン。
そう、機動部隊隊長としてビクター攻略作戦に参加しているマルゼスだった。
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嬉しさのあまりナンディ空港から飛び立ってしまいそうです!