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100 DAY6第二次ユニフォーム上陸戦Ⅴ


《【サンダーボルトブレイク】!》


 フランの声と共に指先から放たれる雷撃は、周囲に雷轟を響かせ降りしきる雨を切り裂き、標的のアダンソンを見事に捉える。

 その威力はすさまじく、堅牢を誇っていたアダンソンの装甲を容易く貫くと同時に前足と触肢をふき飛ばす。

 アダンソン本体も被弾の衝撃で大きなノックバックを起こした後、力なく倒れ込む。


 今だ体にバチバチと電流を纏いピクリとも動かないアダンソン。

 頭上に表示されたHPバーは残り二割ほどにまで激減していた。


「す、すごいよフラン!」

《くっそぉ、一撃とはいかなかったかぁ……》

「でも、あれだけすごい威力なら周りの敵も……あれ?」


 あれだけのド派手な演出とすさまじい威力。

 当然、周囲の敵も巻き添えで消滅していると思ったのだが、被弾したアダンソン周辺の敵モンスター達の体力はまったく減っておらず、ランナー達への攻撃を再開していたのだ。


「ど、どういう事なの?」

『魔法攻撃【サンダーボルトブレイク】は範囲魔法ではなく、ターゲットを指定した上での単体魔法攻撃です』

「そうなの!?」

《実はそうなのさぁ。だから、確実に一匹は仕留めておきたかったんだけどねぇ……》


 サンダーボルトブレイクのリキャストの為、後方に下がって行くフラン。

 身に纏うマジックアーマーはサンダーボルトブレイクの影響か各部の排熱機関が作動し、緊急冷却を行っているようにも見える。


 フランがこの最終決戦に至るまでサンダーボルトブレイクを使ってこなかった理由は攻撃対象が『範囲』ではなく『単体』だったことが大きい。

 さらに……。


《リキャストタイムが長いんだよねぇ……連発出来ないし、射程も短いから近付かないといけないし》

「すごい威力なだけに問題点も多いんだね」


 さすがにこの威力を遠距離から連発できるようにするほど運営も馬鹿ではないという事なのだろう。


 フランの狙いはサンダーボルトブレイクの一撃でアダンソンを屠り、味方ランナー達にリキャストタイムを稼いでもらいつつアダンソンを全滅させることだった。

 だが、現実はそこまで甘くなく、サンダーボルトブレイクの一撃を受けてもアダンソンは健在。

 部位破壊こそ出来てはいるが、腹上部の榴弾砲が健在な以上脅威度は下がらない。


 残り二割のHPを削り切って破壊できればいいのだが、アダンソンに体制を立て直されてはそれも難しい。


 せめて私にアダンソンに有効な攻撃方法があれば……。

 そう忌々し気にアダンソンを見つめたとき、ある変化にアスカが気付く。


「アダンソン……起き上がってこない?」


 フランのサンダーボルトブレイクを受けたアダンソン。

 強烈な単体魔法攻撃の一撃で体が吹き飛び倒れ込んだのだが、いまだに起き上がってくる気配がないのだ。

 その体にはいまだに電流がバチバチと火花を散らしている。


 これはもしかして、とアダンソンのHPバーをよく見れば、そこにはアスカの思った通りの文字が表示されていた。


 そう――『スタン』と。


「や、やった、やったよフラン!」

《何、どうしたのぉ!?》

「あいつ、スタンしてる! フランの魔法攻撃の成果だよ!」

《にゃ、にゃんですとおおぉぉぉ!?》

《本当ですか、リコリス1!?》

「ファルク! うん、フランの攻撃が当たったアダンソンはまだ倒れたままでピクリともしないよ!」


 元々、雷属性攻撃を敵に当てた場合、スタンすることがあるというのはランナー達にとっては常識だ。

 だが、どの程度当てればよいかは種族や種別ごとに内部データで耐久度が設定されているらしく差が激しい。


 ましてや、このイベント終盤の最終決戦。

 突如として現れたアダンソン相手にスタン耐性の検証など出来ようはずもない。


《いや、単に【サンダーボルトブレイク】の威力がデカかったからじゃないのか?》

《それもあるだろうが、一撃でと言うのはおかしいぞ。耐性のあるやつはどれだけブチ込んでもピンピンしてるからな》

《とにかく試してみればいいのよ、それで結果はすぐにわかるわ!》

《駄目で元々、雷属性魔法攻撃の用意があるものは前に出ろ!》

《リコリス1、アダンソンのターゲットを頼む!》

「分かりました!」


 スタンし動かなくなっていたアダンソン周辺の敵を排除していたアスカは、地上からの要請に答えすぐに一匹のアダンソンにターゲットマークを表示させる。

 そのアダンソンへ向け、地上のマジックアーマー達が距離を詰める。

 雷属性魔法の特徴は【サンダーボルトブレイク】に代表されるように近・中距離高威力の物が多い。

 危険と分かっていても距離を詰めるしかないのだ。


《あいつだな、皆、準備はいいか!?》

《くそっ、敵の攻撃が激しい!》

《雷属性魔法の射程短すぎんだろ! ここでも届くかどうかだぞ》

《しっかり守ってやるから頼むぜ!》

《よし、いくぞ!》

《いっけええぇぇぇ!》

《【ブリッツプファイル】!》

《【ライトニングブラスト】!》

《【サンダーブレイド】!》


 襲い掛かる弾丸、アームドウルフの強襲の隙を突き、マジックアーマー達から一斉に魔法攻撃が放たれる。

 まるで実際の雷の様に周囲を電光と雷轟で染め上げながら、アダンソンへと襲い掛かる魔法攻撃群。


 対するアダンソンは回避行動はとらず防御体勢でこれを受け止める。

 バチバチと言うすさまじい音を立てるが、ガッチリと防御を固めたアダンソンには与えられるダメージはごく僅か。


 ――効果なしか。


 全員がそう判断し態勢を整えるため後退しようと動き出した、まさにその時。

 雷属性魔法攻撃の集中攻撃を受けたアダンソンがその場に倒れ込んだのだ。


《……何!?》

《ま、まさか、これは……!》

《やったのか!?》


 HPバーで見れば一割程度しか減ってはいない。

 だが、当のアダンソンは【サンダーボルトブレイク】を受けたアダンソン同様全身にバチバチと言う電流を纏いながら火花を散らし、ピクリとも動こうとしない。

 そして、HPバーの横に表示されたのは『スタン』と言う三文字だ。


《見つけたぞ、これがこいつの弱点だ!》

《全海岸線……いや、ナインステイツで戦うすべてのランナー達に伝えるんだ!》

《これで勝てるぞ!》

《マジックアーマー、もう一度前に! カタを付けるわよ!》

《後方の補給地点にいる連中にも連絡だ、ありったけの雷属性火器を持ってこさせろ!》


 思いがけぬ成果に沸き立つランナー達。

 ここまで苦戦させられた原因であるアダンソンへの対処法を土壇場で見つけたとあって、全体の士気が一気に上がって行く。


「よし、これで攻略の糸口が見えたね!」

『はい。ですがまだかなりの数の敵が残っています。油断は禁物です』

「そうだね。今の私の装備にアダンソンをスタンさせられるものはないし、出来る事と言えば……」


 そう言うと、アスカは今まで持っていたピエリスとエルジアエをインベントリに収納し、対地攻撃用の汎用機関銃を取り出し両手で構えると、対地攻撃のアプローチを開始する。


 攻撃目標はスタンし動けずにいるアダンソンに止めを刺そうと襲い掛かるランナー達へ向け、防御陣地から銃撃を放っているホブゴブリンとアームドウルフだ。


 モンスター達は正面のランナー達の対応で手一杯。

 対空攻撃どころか対空警戒もしておらず、アスカからすればもはやただの的も同然。 

 両翼のガンポッドと手に持った汎用機関銃を連射、機銃掃射で敵モンスター達を攻撃する。

 

「これしかないよねっ!」


 意識していなかった空からの攻撃の効果は抜群。

 銃撃を全身に受け消滅する者、防御態勢を取る者、機銃掃射を行ったアスカへ対空攻撃を行ってくる者など多種多様な反応を見せる。

 その全てで共通するのはアスカに対応するためランナー達への攻撃を中断した事だ。


 このチャンスを逃す手はない。


《航空支援感謝する、今だ、突っ込め!》

《アサルトアーマー、突貫しろ!》

《アダンソンの首を取るわよ!》


 勝機の見えたランナー達の勢いはまさに雷轟電撃。

 モンスター達の抵抗が弱くなったと見るや被弾を気にせず敵陣地へ突撃し、アダンソンをホブゴブリン諸共掃討する。

 如何に強力な多脚戦車であるアダンソンと言えども、動けなければ倒すことなど容易いのだ。



 そして、福浜海岸の一角で始まったこの突入劇は全海岸線に拡大。


 マジックアーマーや雷属性の特殊弾頭を使った弾でアダンソンを集中狙いし、スタンを誘発。

 動きが止まったところにアスカ他フライトアーマー達の空爆で意識を逸らせ、アサルトアーマー達が突撃する。


 ホブゴブリンは既にランナー達の敵ではなく、アームドウルフ達も乱戦にさえさせなければそれほど脅威ではない。

 バフ能力に長けた獣人兵は、近づいてさえしまえばただの雑魚。

 前回の戦闘で地上に地獄を作り出した赤とんぼ群は今だ第二波の姿も見えず、上空を飛行するのは味方フライトアーマー達のみ。

 最大の脅威であったアダンソンは未だかなりの数が残っているが、スタンに弱いという致命的すぎる欠点を突けば簡単に無力化することが可能。


 全てが上手く回っている。

 そう手ごたえをつかんだランナー達は、勢いを止めることなく敵陣深く切り込んでゆく。

 西の愛宕浜はその奥にある拠点タンゴに攻撃を仕掛け、東の福浜海岸を突破したランナー達はユニフォームにそびえる大樹へ向け進攻方向を変更する。

 中央の百道浜もキスカの銃撃にマジックアーマー達の雷属性魔法で次々にアダンソンを駆逐し、ついに防御陣地及びトーチカ郡を突破。

 敵の防衛線を突き破る。


「いける、今度は行けるよ!」

『はい。全ての海岸線でこちらが優位です』

《皆、もうひと踏ん張りです、勝てますよ!》

《ははっ、この稲光は俺達の勝利の花火だな!》

《ホーク、油断するな。はしゃぐのはポータルを奪取してからにしろ》


 ファルクも全体通信で皆を鼓舞している。

 その声に今までのような悲壮感はなく、勝利を目前に意気揚々としているではないか。



 ここに来て。

 ここまで来て、ようやく女神がランナー達に微笑んだのだった。



オペレーションスキップショット編100話達成。

とんでもない長丁場になってしまいましたが、もうしばらくお付き合い下さいますようお願い致します。

明日は地上編3話更新致します!


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまりローマ・フィウミチーノ空港から飛び立ってしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、状態異常ってあったんですね(苦笑) 今まで話しに出て来なかったから忘れてた・・・
2021/03/14 15:06 退会済み
管理
[一言] やったぜ!フラン(逆襲されそうな死亡フラグマシマシな台詞)
[一言]  アダンソンの全ポイント複数投入と同時に赤トンボも投入、アスカにはギンヤンマ10機を嗾けるなどと言う鬼畜の所業をやった運営にも、弱点属性を設定すると言う一欠片の良心(若しくは常識)が残ってい…
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