14 猪王
本日二話目の投稿。
初のボス戦です!
三人の前に現れたのは身長三mを超える大柄なモンスター。
体力ゲージとともに明記された名称はオークキング。
アスカがイメージしたオークは豚のように毛が無く太って二足歩行するモンスターだったが、目の前のオークは西洋甲冑に外套を着込んでおり、鎧がない部分は猪のような剛毛で覆われていた。
顔の下顎からは牙を生やし、知性ある目でこちらを見下ろしている。
オークキングが身に付けている甲冑は首当てから胸、肩、肘から先、腰そして膝から下と全身を覆い、特に肩当ては大きく丸みを持ち、手に持つ武器は四mはあろうかという巨大な槍。
腰には剣を携え、背中には盾を背負っている。
その鎧と武器はすべて純白。
威厳のあるその風貌はキングの名に恥じぬものだった。
「オークキング……」
「うわぁ、まさかこんなのが出てくるなんてね」
「二人は知ってるの?」
アスカは初見であったが、アルバとフランの二人はオークキングの事を知っているようだ。
しかし、両者の顔に余裕はなく、険しい表情でオークキングと対峙している。
「βテストだと森林にあったダンジョンのボスだ。体力が高い上に突進のダメージが尋常じゃない。TierⅠのアーマーじゃ一撃死だ」
「あと装備も違うよ。βテストの時は大楯とバスターソードだった。あんな槍は持ってない」
「えっと、逃げる?」
話を聞くだけでもヤバさが伝わってくる。
本来は盾役が攻撃を防ぎ、ストライカーやスナイパーなど火力の高いもので体力を削る戦法がセオリーとされている。
それに対して今のアスカ達はソルジャーにマジック、そしてフライト。
明らかに戦力が足りない。
「逃げたいがここは崖の上だ。アスカは飛んで逃げられるだろうが、俺たちは逃げられん」
そう。今アルバ達三人がいるのは三方を崖、一方は頂上への岩肌という決闘場のような場所だ。
逃げるには崖を降りるしかないが、オークキングがそれを許してくれる事はないだろう。
アスカ一人であればアルバの言うように飛んで逃げられるが、先ほどのフランの時と同じく二人を見捨てて逃げると言う選択肢は最初から存在しない。
ならば……。
「倒しちゃえばいいんだよ」
そう言い放ったアスカを二人は驚いたような表情で見つめたが、それはすぐに笑顔に変わる。
「……だね、やる前から諦めるわけにはいかないものねぇ。よっしゃ、いっちょやったろう!」
「ソルジャーでどこまで戦えるのか試してみるのも悪くないな」
三人は決意を固め、武器を構えた。
対するオークキングはしばらく何かしら考え込むようなしぐさをした後、意を決したかのように槍を中腰に構え、戦闘態勢を取る。
すると槍の先端、刃の付け根部分から左右二つの光が発生。
光は片方が斧、片方がピックのような突起になると、その形状で安定した。
それはハルバードと呼ばれる武器の形。
「なんか武器の形が変わったんですけど」
「ハルバードか。やっかいな」
「槍の部分が実体剣で斧とピックはレイサーベルだねぇ。オークの癖に物理とレイの両方なんて殺意込め過ぎだよぉ」
「アスカ、お前の機動力でかく乱してくれ。突進は俺たちの装備じゃ誰も耐えきれん」
「分かったわ。じゃあ、牽制するから続いて」
「うむ」
アスカは空になった増槽を外しアーマライトを構え、フライトユニットを駆動させ走りだす。
そのまま離陸すると地面スレスレを飛行しながらオークキングへ向け加速していく。
オークキングは中腰に構えた槍を後ろへ引き、薙ぎ払いで向かい打つ構えを取る。
威嚇射撃でアーマライトを連射するが、オークキングは避けようとせず、ハルバードを構えたまま微動だにしなかった。
射撃はオークキングに命中し盛大に火花を散らす。
分厚い鎧に阻まれ、ダメージになっていないのだ。
「グルルァァ!」
アスカが連射をしながら一定距離まで近づいたところでオークキングが突進するアスカに合わせてハルバードを横薙ぎに払う。
斧の形状の魔法刃がアスカに当たる寸前。
急上昇からのラダー操作で片翼失速を誘発し急速ロール。
スナップロールと呼ばれる横宙返りでオークキングの攻撃を紙一重でかわすと、そのままオークキングの横をすり抜け背後に回り込む。
ハルバードによる薙ぎ払いを躱されるとは思っていなかったオークキングは視線でアスカの後を追う。
しかし、それは他二人から注意を外すことになり、アスカに続いて間合いを詰めていたアルバには絶好のチャンス。
「フライトで今の一撃を躱すか、さすがだ。なら俺も負けられん!」
アルバは背のスラスターを使い、一気に加速、間合いを詰める。
オークキングもアルバの接近に気付くが、反応が一拍遅れた上にアスカを横薙ぎにしたハルバードを戻しておらず、対応できない。
左手に持ったベルベッタを乱射しながら接近し、剣の間合いに入ったら魔法刃にした右手のカットラスでオークキングを切り刻む。
大きいダメージにはならないが、そこは手数で勝負。
「アルバ、反撃、来る!」
「む!」
「グオオォォォ!」
オークキングはハルバードではなく腕でアルバを払いのけようと腕を振りかぶる。
後ろのフランの声でその動きに気付いたアルバは丸盾でガード。
襲い来るであろう衝撃とダメージに身構える。
オークキングの腕が今まさに振り下ろされようとしたその瞬間、オークキングの背後で爆発が起きた。
それはオークキングの背後に回ったアスカが放ったグレネードの爆発。
背負った盾に命中、爆発した為ダメージは入っていないが、衝撃でオークキングは姿勢を大きく崩す。
「アルバ、離れて!」
そう叫んだのはフラン。
彼女のマジックアーマーは水色の光を放ち、頭上には複数の魔法陣が描かれていた。
それを見たアルバは再びスラスターを使い、オークキングの傍から離脱する。
「くらえっ、【アイシクルランサー】!」
フランの頭上の魔法陣から複数の氷の槍が現れ、オークキングに降り注ぐ。
背後からの攻撃で体勢を崩していたオークキングに【アイシクルランサー】はクリーンヒットし、そのHPを大きく削る。
「グオォ……」
「まだだ!」
アルバは接近して追い打ちを掛けようとするが、オークキングもやられっぱなしではない。
近づいてきたアルバをハルバードの薙ぎ払いで吹き飛ばすと、痛打を与えたフランに狙いを定め突進を始める。
「わ、わ! こっちこないで! 私は食べてもおいしくないよぉ!」
フランは準備していた魔法をキャンセルして回避行動に移るも、マジックアーマーではダッシュなどの急発進が出来ないので躱せない。
オークキングの突進が眼前に迫り、身構え目を瞑ったフラン。
だが、予想した衝撃は正面ではなく横からだった。
「ア、アスカ!」
「間に合った!」
先ほどまでオークキングの背後にいたアスカが飛行で回り込み、フランを抱きかかえてオークキングの突進の射線から離脱したのだ。
フランを抱えたアスカはそのままオークキングから距離をとる。
「助かったよぉ、アスカ~」
「私の武器じゃ大したダメージにならないから、フランの魔法攻撃が頼りだね」
「任せて。特大のをお見舞いしてやるよぉ」
アルバはハルバードのダメージをポーションで回復し、オークキングへの攻撃を再開している。
「アイビス、残り飛行可能時間は?」
『一五〇秒です』
飛行による機動力はフライトアーマーの要であり、飛べなくなればそのままやられるだけになる。
出来る限り節約したいが、この状況ではそれも難しい。
「アスカ、これ使って」
「これ……MPポーション!」
フランが渡してきたのは二つのMPポーションだった。
フランが出していた露店では販売しておらず、品薄でほかの露店でも見かけることがなかった貴重な品物。
「いいの?」
「オークキングに勝てたら簡単に取り返せるし、今は私よりアスカのほうがMP厳しいでしょ?」
「ありがとうフラン。使わせてもらうね」
ポーションを使いMPを回復させたアスカは、すぐにアルバの援護に戻る。
一番のダメージソースはフランの魔法攻撃になるため、二人はその時間を稼ぐ形になる。
アスカが牽制し、隙をついてアルバが懐に飛び込み攻撃。
フランの詠唱が終わったところでアルバが離脱し、魔法で有効打を与える。
この連携でなんとか致命傷を負わないままオークキングのHPを五〇%まで減らすことが出来たが、HPを半分まで減らされたことでオークキングの攻撃パターンが変化が起きた。
ハルバードを地面に突き立て、背の大盾を左手に持ち、腰のバスターソードを抜き、構える。
「ここからが本番ってとこかな?」
「盾で防がれたら魔法も効きそうにないねぇ」
「盾でガード出来ない状態に持ち込まないと難しいか」
アスカは飛行しながら射撃するが、当然のように盾で防がれてダメージが入らない。
「弾の無駄だね」
『アーマライトの残弾、残り二〇発です』
有効打にこそならないが、威嚇射撃としてアーマライトを使っていた。
だが、連射能力が高い分弾薬の消費も早く、残りがもう少ない。
グレネードのほうもダメージは入らないが、衝撃によるノックバックは起こせるのでまだ使える。
しかし、そちらも残り弾数は少ない。
「もうちょっと良い武器買っておいたら良かったかな」
アスカはオークキングの背後に回ったところで飛行をやめ、グレネードランチャーの弾を込める。
オークキングは背後のアスカを横目で睨みつけるが、有効打を持たないアスカは脅威ではないと判断し、すぐに正面の二人に視線を移す。
アルバはワイヤアンカーを使い牽制するも、やはり盾に防がれる。
フランも、物は試しと盾の上から魔法攻撃を入れるがそれも大したダメージにならない。
「やっぱ盾で防御されると無理っぽいよぉ!」
「突進が来る、離れろ!」
オークキングが盾を構えたまま腰を落とし、突進の予備動作に移っている。
それを見た二人は左右に分かれて逃げ、回避。
オークキングはアルバをターゲットに定め猪突猛進。
自らが標的だと知ったアルバは突進をぎりぎりまで引きよせてからスラスターで急加速しこれを回避。
突進を回避された事で急制動をかけ動きが止まったオークキングへ接近すると、がら空きの背中を攻撃。
フランも発動が短い魔法で追撃をかける。
アスカも攻撃しようと動き出したところで、ある物が目に留まり、足を止める。
それはオークキングが地面に突き立てたハルバード。
「アイビス、あれ、私が装備できる?」
『装備自体は可能ですが、重量過多になると思われます』
「重量過多?」
『まず、持って歩くことが出来ません。スラスターの速度、飛行能力等は著しく低下します』
「飛行は出来るんだね?」
『可能です』
「なら、問題ないよ!」
地面に突き立てられたハルバードに駈け寄り、フライトアーマーの推力も駆使して強引に引き抜いた。
アスカの身長の倍以上の長さのあるハルバードは両手でようやく持てるかどうかの重量物で、アイビスの言う通りこれを担いで歩くのは難しそうだった。
[武器]猪王の斧槍 TierⅣ
種別:ハルバード
火力:1830
オークキングが扱う巨大なハルバード。
巨大でかなりの重量があり、通常では装備して歩くこともできない。
槍部は実体剣、斧、ピック部は魔法刃。魔法刃の展開にはMPを10消費する。
「うっ、やっぱり重い……」
『重量過多です。注意してください』
「格上のオークキングを倒すためには、これくらいしないとね」
MPを一〇消費し、斧とピック部の魔法刃を展開させてからハルバードを肩へ担ぎ、助走を開始する。
限界までフライトユニットの回転数を上げ、重い足取りながらも一歩一歩歩き出す。
重量過多のペナルティで加速度も悪く、通常の倍以上の滑走距離を必要としたが、勢いに任せ強引に離陸する。
上昇はせず、地面スレスレを粉塵を巻き上げながらオークキングへ突撃。
無防備に晒されている、その背中へ向けて。
「くらえぇぇぇ!」
アスカはオークキングへ向けハルバードを振り下ろした。
ハルバードの自重も加わったその一撃は、オークキングの体力を大きく削る。
「ガアアァァァ!」
予期せぬ背後からの一撃に絶叫をあげるオークキング。
体を捻り、背後から攻撃してきたアスカを視界にとらえる。
攻撃力が低く、歯牙にもかけなかった相手。
それが自らしか扱えぬはずの武器を用いて攻撃してきた。
プライドの高いオークキングにとって、断じて許せることではない。
アスカをギロリと睨みつけるオークキングの瞳には怒りがはっきりと表れていた。
感想、評価、ブックマークなどいただけましたら作者が嬉しさのあまり壱岐空港から飛び立ちます。
スナップロール
水平状態から『エレベーター(昇降舵)』、ないしは『エレボン』を操作し急激なピッチアップを起こすと同時に『ラダー(方向舵)』を操作。片翼を故意失速させ急速度のバレルロールのような機動を行う戦闘機動。
急機動な上に速度が大きく落ちるため、背後に着いた敵機を追い越させる『オーバーシュート』を狙う。
ジェット戦闘機でも可能とされるが、発生する強烈なG(負荷)に人間が耐えきれず、また速度を犠牲にするデメリットが大きいことから一般的には使用されない。
動画がyoutubeなどにあるので、この解説では分からないという方は是非。