99 DAY6第二次ユニフォーム上陸戦Ⅳ
魔法攻撃のプロ。
飛来した一〇匹のギンヤンマをすべて撃墜したアスカは、味方に任せた赤とんぼ迎撃と地上支援に加わる為海岸線上空に戻ってきていた。
「ギンヤンマの相手で大分時間使っちゃったけど……どう?」
『敵赤とんぼ、八割の撃墜を確認。味方の被害は軽微です』
「え、そんなに!?」
もしかしたら味方にかなりの被害が出ているかもしれないと危惧していただけに、この状況はアスカの想定外だった。
味方フライトアーマー達は全機生存し、生き残った赤とんぼを追っている。
そしてそれ以上に目を引くのが味方ランナー達の対空攻撃。
赤とんぼ達が攻撃している真下のランナー達はもとより、海上、大破着底した揚陸艦からも銃撃が浴びせ掛けられているのだ。
しかも銃撃はアサルトライフルよりはるかに大口径で、スナイパーライフルをはるかに凌駕する連射速度で放たれている。
揚陸艦にそんな装備あったかな? と訝しむアスカ。
そこで思い出したのがついさっきのキスカとの通信だ。
彼女がこの最終決戦に用意したのは設置式の機関銃。
実態は一昨日のブービー飛行隊攻略戦でその能力をいかんなく発揮した銃身を複数もつターレット、対空機関銃だったのだ。
使用するためには組み立てが必要かつ耐久性が低いと言う癖の強い兵装だが、攻撃力はすでに実証済み。
複数の銃身から絶え間なく撃ち続けることで弾幕を形成することに特化したそれは、空中で静止し、地上を攻撃する赤とんぼを撃墜する事など造作もない。
射手が射撃能力に補正がかかるスナイパーアーマーで、トップクラスのプレイヤースキルを持つキスカならば尚の事だ。
上陸作戦を行う愛宕浜、百道浜、福浜海岸すべてを射程に収め、赤とんぼ相手には高角の対空機銃として。
地上のアダンソンへは水平射撃で、文字通り動かぬ砲台となって味方ランナー達に火力支援を行っている。
無論、敵モンスター達も設置式対空機関銃を脅威とみなし、海岸線から砲撃や銃撃を行っている。
が、キスカ達火力支援部隊はそれも織り込み済み。
キスカ他ランナー達がいる大破着底した揚陸艦全てにシールド能力を持たせたアームドビーストが乗り込んでおり、海岸線からの砲撃を受け止めているのだ。
広大な揚陸艦の全範囲をカバーできているわけではないが、事前の打ち合わせでそれぞれの艦で最も火力に秀でた者を最重要護衛対象として定め、対象者を優先的に護り、火力支援を途切れさせないようにしている。
その様子は上空にいるアスカには一目でわかるほど。
「キスカ、すごい、すごいよ!」
『コイツを展開させたからにはハエトリグモであろうとも止めて見せるわ。リコリス1は赤とんぼ第二波の対処と他の海岸線の支援をお願い!』
「まかせて!」
既に赤とんぼの第一陣は壊滅。
辺りに見えるアイコンは味方フライトアーマーの青いアイコンだけであり、赤とんぼを表す赤いアイコンはゼロだ。
キスカの狙いも空から地上の防御地点やアダンソンへと移っている。
さしものアダンソンもこの大口径対空機関銃の銃撃はこたえるようで、身を屈め防御態勢を取りキスカ達火力支援部隊の銃撃に耐えている。
アダンソンでさえこれなのだ。
この火力の矛先を防御陣地へ向けたときの威力は言うまでもないだろう。
これなら中央の百道浜は大丈夫!
そう考えたアスカが次に警戒したのは赤とんぼの第二波だ。
これまでの戦闘でも赤とんぼの襲来が一回で治まったことはなく、第二波、第三波と波状攻撃を仕掛け、こちらを激しく消耗させてきた。
その攻撃を未然に防ぐためにも第二波の接近は可能な限り早く察知し、対処しなければならない。
――だが。
「あれ……来ない?」
今までであれば第一波が壊滅、ないしは撤退した後すぐに飛来してきていた赤とんぼの第二波。
が、空は相変わらずの暗闇雷雨であり、空を飛ぶアイコンは友軍フライトアーマーを示すものしかない。
レーダーの索敵可能範囲全域を見渡してもそれらしい影はなく、各地で地上戦が繰り広げられているのみだ。
どうして第二波が来ないの?
そう不思議に思うアスカがふと思いついた答え。
「もしかして……エックスレイ攻撃の成果?」
たった今この時間もエックスレイでは戦闘が継続されている。
元々、エックスレイ攻撃はこのユニフォーム上陸作戦で敵赤とんぼの飛来を防ぐための物だった。
速攻での攻略が失敗、赤とんぼとギンヤンマの大群が迫ってきた為、当初の目論見は完全に崩れ去った。
そう、思っていた。
しかし結果として今、赤とんぼの第二波は来ていないのだ。
確証はない。が、他に原因も考えられない。
「そっか、そっか……皆、頑張ってるんだね!」
アスカは雷雨の中で満面の笑みを咲かせ、全体通信を行った。
「こちらリコリス1、赤とんぼの第二波は確認できません! エックスレイ攻撃の成果と思われます!」
《何!?》
《マジか!》
《エックスレイ!? 作戦は成功してたのか!?》
《何でもいいわ、あの羽虫が来ないなら万々歳よ!》
《ははっ、そりゃ違いない! お前ら、ここからは俺達の時間だ、ハエトリグモなぞ叩き潰してしまえ!》
失敗とも思われた作戦が成功していたことに沸き立つランナー達。
空からの攻撃と言う懸念事項が消え去った今、彼らはまた一段と攻勢を強めて行く。
《押せ押せ押せ!》
《アダンソンごとき……ぐあっ!》
《くそっ、フレンドがやられた!》
《加農砲弾切れだ、トランスポート!》
空からの攻撃が無くなったとはいえ、やはり多脚戦車であるアダンソンは強敵だ。
味方に少なくない被害が出ている状況に耐えきれず、アスカも支援攻撃を行おうとした矢先、フレンドコールが入る。
《リコリス1、聞こえる? 百道浜が大丈夫そうならちょっとこっちに来てくれるかい?》
「フラン?」
《空の警戒が要らなくなったからねぃ、上空からターゲットマークと弾着観測を頼むよぉ》
レーダーで確認したフランの位置は戦場の西側、愛宕浜のエリアだ。
そこはユニフォームとは川を挟んだ向かい側にある上陸地点だが、同時に丘上の拠点タンゴの勢力圏にもなる場所だ。
上陸部隊は拠点タンゴと川縁に並んだ敵陣地と言う二つの方向から苛烈な銃撃を被る為強行に出る事が出来ず、ランナー達が攻めあぐねているのが上空からでもよくわかる状況になっていた。
そんな中入ったフランの支援要請。
中央の百道浜はキスカの対空機関砲の射程に入っている為、ここは任せても大丈夫なはずだ。
そう考えたアスカは支援攻撃のアプローチを中止し、進路を福浜海岸の上陸地点へと向ける。
「フラン、どれを狙うの?」
《アダンソンを頼むよぉ! 私の魔法攻撃ならあいつらの防御抜けるかもしれないからね》
「了解!」
フランの希望を元に、アスカは周囲の敵の物色。
狙うのはフランの魔法攻撃の範囲内、かつアダンソンが居て敵が密集している地点だ。
アダンソンを主軸に防御線を敷いている敵陣地に条件を満たす場所は多く、すぐさまその一つにターゲットマークを張り付け、フランに報告する。
「ターゲットマーク!」
《オッケー、いくよぉ……【ボルカニックバレット!】》
放たれたのはもはやフランの代名詞となった広範囲殲滅魔法【ボルカニックバレット】。
フランの周辺に複数展開された魔法陣から火球が空高く撃ち上げられ、頂点まで達すると重力に引かれてターゲットであるアダンソンへ向け落下してゆく。
「直撃二、至近弾二、続けて!」
《よっしゃ、どんどんいくよぉ!》
ここまで幾度となく【ボルカニックバレット】を使用してきたフラン。
弾道や距離の計算などはお手の物。
初弾から直撃弾を出し、二射目、三射目とさらにその精度を上げて行く。
これまでに幾度も多大な戦果を挙げてきたアスカとフランの連携攻撃。
だが、今日ばかりは勝手が違っていた。
「あ、あれ……? まってフラン、様子がおかしいよ!」
《え、どうしたの?》
異変に最初に気付いたのはアスカだった。
今までであればこれだけ【ボルカニックバレット】を直撃させていればどれだけ強力な敵であろうともかなりのダメージを与え、撃破していたはずだ。
しかし、直撃弾を受けたはずのアダンソンは平然としており、HPも大して減っていないのだ。
当初、ロックゴーレムと同じく魔法防御に長けた敵なのかとも思ったのだが……。
「アダンソンもだけど、周りのホブゴブリンやアームドウルフにも全然ダメージが入ってないよ!」
《にゃ、にゃんですとおぉぉ!》
そう、フランの魔法攻撃に耐えたのはアダンソンだけではなかったのだ。
先日までなら至近弾だけでも瀕死、直撃ならばあとも残さず消滅していたホブゴブリン達も七割近いHPを残し、ぴんぴんしている。
これは一体どうした事なのか? ここにきて敵モンスター達の能力に変化が起きたのか?
不思議がるアスカ達に答えるように、ファルクから通信が入る。
《雷雨の影響で炎属性の魔法は威力、範囲が低下しています。使用の際には注意してください》
《今さらああぁぁぁ!?》
「ど、どうりで……」
言われてみれば、フランが放った【ボルカニックバレット】。
今までは燃え盛る火球が弾着すると周囲を巻き込む大爆発を起こしていたのだが、雷雨の中放たれた火球は炎の勢いが弱く、弾着の爆発も小さかったのだ。
天候による威力変化まで再現しているとは開発陣のこだわりが垣間見れる事象だが、今この場においては余計なこと甚だしい。
「フラン、どうするの?」
《ぐぬぬ……か、かくなる上は……》
雷雨が収まる気配を全く見せない現状において、【ボルカニックバレット】で戦果を挙げることは不可能だろう。
フランが最も得意とする殲滅魔法を封印され、どうするのか問いかけていると、意を決したかのようにフランが敵陣へ向け動き出したではないか。
「え、ちょっと、フラン!?」
《こうなったら、奥の手だよぉ!》
《な、マジックアーマーが吶喊したぞ!?》
《どうしたんだ、気でも狂ったか!?》
「こちらリコリス1、彼女にはなにか考えがあるようです、援護してあげてください!」
《こんな状況で何しようってんだ!?》
《まったく、世話の焼ける!》
盾を持ったアサルトアーマーに護衛してもらいつつ銃撃戦の陣地を越え、接近戦を繰り広げる前線までたどり着いたフラン。
そこで彼女は仁王立ちするかのように立ち止まると、豪雨降り注ぐ天高く指を突き出した。
「フラン、何するの!?」
《ふふふ、私のとっておきは【ボルカニックバレット】だけじゃないのさぁ!》
そう言うと、フランの雰囲気が豹変した。
つい先ほどまで燃えるような赤い光が通っていたマジックアーマーの基盤回路の色が青紫へと変化。
同時にフランの足元に魔法陣が出現し、彼女自身も青紫色の光に包まれる。
あまりの豹変っぷりに周りのランナーすら呆気にとられる中、フランの変化は止まらない。
足元の魔法陣からパチパチと言う音が聞こえたかと思うと、フランの体に小さな電流が走り出す。
同時に雨に濡れへたっていたフランのピンクのボブヘアーもふわふわと宙を舞い出した。
雷雨続く愛宕浜。
真っ暗な中青紫の光を纏いながら一人立つフランの存在感はすさまじく、敵モンスター達でさえその光景に警戒感をあらわにその挙動を注視。
アスカですら見取れる中、ゴロゴロと空が鳴った、次の瞬間。
雷轟を響かせながらフランへ雷が落ちたのだ。
そのあまりの轟音と電光に何が起きたのか理解できずにいるランナー達を他所に、雷を纏ったフランは天高く突き出した指を正面に対峙するアダンソンへと向け、叫ぶ。
《【サンダーボルトブレイク】!》
フランが力一杯に叫んだ言葉を合図に指先から電撃が放たれ、アダンソンを貫いたのだった。
なおフランに落ちた雷は魔法発動のエフェクトで、いわゆる当たり判定はありません。
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嬉しさのあまりウィーン空港から飛び立ってしまいそうです!