98 DAY6第二次ユニフォーム上陸戦Ⅲ
突如赤く光り出した大樹。
その光は暗い嵐の空までも赤く染め上げ、一瞬で周囲一面を禍々しい雰囲気にしてしまった。
「な、なに!?」
《大樹が……光っている!?》
《なんだ、この淡い赤い光は!》
一体何ごとなのかと全員がその光景に奇異感を抱く中、アスカのレーダーに変化が現れる。
今まで何の反応もなかった海岸線の一帯と大樹周辺から大量の敵反応が出現。
あっという間に辺り一面を埋め尽くしてしまう。
突如現れた大量の敵反応。この現象にアスカは覚えがあった。
それは前回のユニフォーム上陸作戦序盤、順調だった戦況を一気に覆した大量の敵増援が出現した時の反応。
あの時の反応にそっくりなのだ。
「敵性反応大量出現、増援に備えてください!」
《何だと!?》
《おいでなすったか!》
《データリンク……真っ赤じゃねぇか!》
《敵、来るぞ!》
顔をしかめながら地上に警戒を促すアスカ。
地上の味方ランナー達が新たに発生した敵反応に対応しようと布陣して行く中、ついに敵が姿を現す。
《敵視認! アームドウルフの大群に……アダンソン!?》
《なんだ、あの黒い塊は!?》
《ひっ、く、蜘蛛!?》
《あんなやつ聞いてないぞ!?》
海岸線一帯に姿を現した敵は大量のアームドウルフとアダンソン。
ユニフォーム一帯に布陣するランナー達にとってアダンソンは初見の敵であり、不気味な外見も伴ってわずかながらに動揺が走る。
そして、敵はその隙を見逃さなかった。
スラスター装備型とレイサーベル装備型のアームドウルフがランナー達に向け突撃し、レイマシンガン装備型のアームドウルフが支援射撃。
その後ろからアダンソンが上腹部加農砲の砲撃を開始する。
《砲撃? トーチカが生きていたのか!?》
《ちがう、これはアダンソンだ!》
《加農砲持ちの敵なの!?》
《アームドウルフ接近! 迎撃、迎撃!》
《くそっ、行かせるか!》
《福浜海岸にアダンソンを含む敵部隊が展開中、手に負えない!》
《こちら作戦司令本部。敵アダンソンは蜘蛛ではなく金属生命体の多脚戦車だ。主要兵装は上腹部加農砲、下腹部機関銃、口元にレイサーベルの三つ。装甲が厚く小口径火器では効果がない。大口径火器の火線を集中して仕留めろ。コイツがユニフォーム上陸作戦最大の障害だ》
《小口径火器が効かない!?》
《簡単に言ってくれるな、クソッタレめ!》
《アサルト、加農砲は使えるか!?》
《アームドウルフを何とかしないと無理だ!》
《ふざけろ、このクソ犬ども!》
アームドウルフの機動力とアダンソンの火力を合わせたこの連携は非常に厄介なものだった。
虚を突かれた形となったランナー達は混乱に陥り、アームドウルフに深く陣容に踏み込まれて行く。
「いけない、このままだと……!」
『レーダーに感。接近する機影アリ。注意してください』
「こんな時にっ!」
視線を下から上に上げれば、そこにはいつものように赤とんぼの大群がこちらへ向け飛行していた。
「……っ数、減ってない」
事前の作戦会議ではユニフォーム上陸作戦前に赤とんぼの拠点と思われるエックスレイを攻略、ないしは致命的な打撃を与え、ユニフォームへスクランブルさせない様にする算段だった。
だが、現実にはこの通り。
アスカの頭上を雁行で編隊を組み、飛行する赤とんぼの数は軽く見ても五〇はいるだろう。
そして最終局面故か、今回は護衛として一〇程のギンヤンマの姿も見えるのだ。
が、その大量の蜻蛉の中にアスカが最も敵視するアイコンは見えなかった。
「ブービーは……いないか」
いつもであれば赤とんぼの飛来と共に現れていたブービーだが、どういう訳かその姿はなかった。
味方のギンヤンマが落とされ、発狂。
特殊状態にまでなるほどに執念深いブービーの姿が見えない事に疑問を覚えるが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
地上のアームドウルフとアダンソン、そして空から来る蜻蛉群。
空も陸も厳しい状況と言わざるを得ないが、まだ諦めるほど悲惨な状況ではない。
陸ではファルク他各海岸線で味方ランナー達が奮戦している上、空にはこんなにも味方がいる。
――まだまだ、やれる!
アスカは飛来する蜻蛉群を睨みつけると、その方向へ一気に加速した。
「赤とんぼ群、及びギンヤンマ接近、迎撃します!」
《赤とんぼ!?》
《なんで奴らが来るんだ、エックスレイの攻略は失敗したのか!?》
《リコリス1、俺達も赤とんぼ程度なら相手出来る。協力させてくれ!》
「はい、おねがいします!」
今ここにいるフライトアーマーの中にも、地上で戦っていた時アスカの航空支援に助けてもらったものは数多い。
その恩に報いる為、彼らも覚悟を決め攻撃目標を地上の敵から赤とんぼ、ギンヤンマへとシフトする。
フライトアーマーの先陣を切る形になったアスカは、手に持っていた対地攻撃用汎用機関銃をインベントリに仕舞うと、愛銃であるピエリスとエルジアエを取り出しこちらへ向け飛行するトンボの大群へ向けさらに加速。
そして。
「ギンヤンマは全部私が相手します、皆さんは赤とんぼだけを狙ってください!」
《は、はぁ!?》
《リコリス1、本気で言ってるのか!?》
《無茶よ!》
無茶だとは思うが、これが最善の策だとアスカは考えている。
何しろ、ここまでの戦闘を見た限りでは他のフライトアーマー使用者たちがドッグファイトに耐えられそうにないのだ。
彼らは飛行する事こそ出来てはいるが、飛び方はまるで巣立ったばかりの雛鳥のようでどうにも頼りない。
一度死亡すると身に付けていたエグゾアーマーが使用不可能になるルール上、彼らは一度墜落したらもう空へ戻ってくることは出来ないだろう。
だが、航空支援にも赤とんぼの迎撃にも彼らの助けがいる。
ならば、彼らが撃墜される前に制空戦闘機であるギンヤンマをすべて撃墜してしまえばいい。
そう考えたからこそ、アスカは先陣を切っての突撃を敢行したのだ。
「ブービーさえいなければ、勝機はあるよね!」
『ギンヤンマと飛雲では旋回性能で互角、速度でこちらが勝っていますが、火力、射程では負けています。注意してください』
「うん、もう嫌ってほど分かってるよ、アイビス!」
赤とんぼがエルジアエ単発モードの射程に入り次第射撃。
距離が縮まりガンポッドとエルジアエを連射モードにして弾幕の濃度をあげ、さらに近接しPDWピエリスを連射する。
赤とんぼはこれまでの例にもれずアスカの攻撃を完全無視。
複数の赤とんぼが被弾し、火を噴きながら墜落してゆく。
蜻蛉群はこれを気にすることなく海岸線へ向け飛行を続ける。
アスカはそのまま赤とんぼ達の中を突っ切り、照準を後方にいたギンヤンマ群へと合わせる。
攻撃を無視した赤とんぼとは違い、ギンヤンマ達はアスカが赤とんぼ達を攻撃した時からアクションを起こしていた。
それまで綺麗に形成していた編隊を崩し、加速。
襲撃者を迎撃するべく、こちらへと向かってくる。
『敵、攻撃、来ます』
「了解!」
アスカの火器ではギンヤンマに対し射程負けしている為、ヘッドオンでは勝負にならない。
大きくバレルロールを行い、ギンヤンマ達の銃撃を躱しながらさらに接近、そのまま交錯する。
現実世界の戦闘機であれば、銃火器は機体正面に向け固定設置されている為、横や真下などには攻撃が出来ない。
だが、エグゾアーマーを身に付け空を飛ぶアスカは腕を向けられる方向すべてが攻撃可能範囲内。
「ここまで接近できれば、私の勝ち!」
すれ違いざま、ギンヤンマの一匹に狙いを定めると、相手が反撃できない斜め頭上から攻撃を開始。
そのまま交差する間も照準を合わせ続け、ギンヤンマを文字通り蜂の巣にする。
赤とんぼよりは耐久のあるギンヤンマだが、さすがにこの集中砲火には耐えられず、翅を吹き飛ばしながら爆発炎上。
火と煙を纏い錐揉み回転しながら墜落してゆく。
「まず、ひとつ!」
ギンヤンマ群と交差したアスカはインメルマンターンで垂直180度ターン。
速度と高度の優勢を確保しながらギンヤンマを追う。
対するギンヤンマもアスカを撃墜するべく旋回し、迫ってくる。
形としては再度のヘッドオン。
ここもアスカは無理にヘッドオンで撃ち合おうとせず、ギンヤンマ達の上空を高速で通過。
ギンヤンマ達の銃撃をやり過ごした後、体を倒す形で急降下。
上下が逆になった世界の正面にギンヤンマを捉え、引き金を引く。
「ふたつ、みっつ!」
二匹のギンヤンマを仕留めたアスカは姿勢を修正し、上昇。
旋回中だったギンヤンマ一匹に狙いを定め、下から襲い掛かる。
「よっつ! こいつら、連携してこないの?」
瞬く間に四匹のギンヤンマを落としたアスカだが、違和感を感じていた。
ブービーの僚機だった三匹に比べ、今相手しているギンヤンマ達が弱すぎるのだ。
ブービー僚機達はお互いに協力、連携し、こちらの背後を狙ってきた。
だが、今相手をしているギンヤンマ達はお互いに連携などせず個別にアスカを狙ってくるのだ。
おまけに銃撃の狙いも甘く、しっかりと回避機動さえとっていれば被弾する事もないだろう。
『撃墜王ブービー及び僚機のギンヤンマは、四匹合わせて飛行隊として設定されている為、通常のギンヤンマよりも練度が高く設定され、能力が底上げされています』
「なるほど。じゃあ、このまま全部やっつけてやる!」
一〇匹のギンヤンマが連携し、一対一〇となるなら厳しいが、一対一を一〇回ならば問題ない。
ギンヤンマに対し有利になるよう速度を維持しながらの一撃離脱戦法を繰り返すアスカ。
ブービーがこちらに対し行った戦法なだけに、その有用さはお折り紙付き。
「いつつ、むっつ、ななつ!」
状況はもはやアスカの独り舞台。
一匹を高高度からの奇襲で沈め、背後に付いたギンヤンマ達の銃撃を降下しながらの螺旋機動、スパイラルダイブで躱しながら身を翻し後方へ射撃。
この射撃で一匹を仕留めた後、急上昇。
縦の360度ターン、ループ機動を行う。
ギンヤンマも続くがパワーで飛雲に劣る為追従できず、先にアスカがループを終え、ギンヤンマの背を捉える。
この近距離で攻撃を当てることなど、アスカには朝飯前だった。
「あと三匹!」
『バラけていますが全てアスカを狙っています』
「迎え撃つよ!」
味方のギンヤンマ七匹を落とされても、残りのギンヤンマ達はしつこくアスカを狙ってくる。
友軍フライトアーマー達がターゲットにされないようわざと突出して仕掛けたが、こうも上手くはまるとしてやったり感が強い。
アスカは上がったテンションそのまま、こちらへ向け飛行するギンヤンマへ方向を合わせるとエルジアエの単発を連射する。
威嚇目的の為普段は全く当たらないエルジアエの単発。
しかし、今回ばかりはアスカに流れがあった。
「え、当たった!?」
エルジアエ単発の最大射程。
動かない敵ならいざ知らず、空中を高速で動くギンヤンマにはとてもではないが当たらないだろうと思っていたそれは、雷雨の暗闇の中一筋の光となって空中を駆け、見事ギンヤンマに命中したのだ。
チャージショットとして放たれたエルジアエの単発は同格火器の中で考えても中の上程度の威力しかないが、空を飛行する軽装甲制空戦闘機であるギンヤンマを落とすには十分だった。
被弾したギンヤンマは片方の翅二枚が完全に吹き飛び、炎を上げながら地面へ向け落下してゆく。
「これでやっつ。あとふたつ!」
『注意。後方にギンヤンマ接近!』
「そこかぁっ!」
アスカがエルジアエ単発の命中に気を取られていた隙に背後に回ったギンヤンマ。
すぐさま大口径機関銃を連射し、アスカを落とそうと執拗に狙ってくる。
これに対しアスカはジグザグの回避機動、シザースで対応。
当然ギンヤンマもそれを追い、互いの旋回起動が交錯するローリングシザースが展開される。
だが、それも一瞬の事。
飛雲のパワーの前にギンヤンマが遅れ出し、照準もままならなくなる。
そして十分に安全マージンを取ったところで身を翻し、ピエリス、エルジアエ両銃の照準をギンヤンマに合わせ、トリガーを引いた。これで……。
「ここのつ!」
『最後の一匹、三時方向、上です』
「よし!」
アスカと僚機のギンヤンマが空戦を行っている隙を突こうとしたのか、最後のギンヤンマは上空からこちらに仕掛けようとしていた。
だが、アスカはギンヤンマがこちらに仕掛ける前に動き出し、下から強襲する。
「これで、ラストぉ!」
ギンヤンマも急降下しこちらを狙おうとする動きは見せたが、ギンヤンマの射線を躱しながら迫るアスカに対応できず、他の九匹同様ピエリスとエルジアエの銃撃を食らい、翅を失って地面へ向け落下していった。
「敵機、撃滅!」
『お見事です、アスカ』
「ふふん、これくらい、ブービー達に比べたらなんてことないよ!」
赤とんぼの護衛と制空権確保のために飛来した一〇匹のギンヤンマをすべて撃墜したアスカは、再度地上部隊を支援するため、いまだ銃撃の火が止まない海岸線沿いへ向け全速力で向かっていった。
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