97 DAY6第二次ユニフォーム上陸戦Ⅱ
開始された最終攻略地点ユニフォーム上陸作戦。
エア・クッション揚陸艦による先行部隊の強襲上陸、及び海岸部の拠点確保は順調に進んでいた。
当然、その全ての海岸線で敵モンスターによる防御陣地が張り巡らされているが、精鋭である先遣隊は圧倒的不利な状況でも臆することなく進軍を続けていた。
《加農砲、くらえっ!》
《弾幕を絶やすな!》
《暗い! 照明弾、上げろ!》
《時間だ。本隊が来る、トーチカを黙らせろ!》
《フライトアーマー、頼む!》
地上で奮闘する彼らを必死に支援しているのがアスカら空を飛行するフライトアーマーの部隊。
送られてくる支援要請に答え、ある時は機銃掃射、ある時はハンドグレネードによる航空爆撃。
状況に応じて対処しつつ航空支援を行ってきた彼女達の次の仕事は、海上をこちらへ向け接近してくる大型揚陸艦へ砲口を向けるトーチカの無力化だ。
最も、その方法は既に判明している。
「了解! 行くよアイビス!」
『スモークグレネード、レディ』
それまで行っていた優先攻撃目標へのアプローチを中止し、代わりにすぐそばにあったトーチカへとターゲットを変更。
緩降下爆撃のアプローチから、複数のスモークグレネードを投下する。
現実であれば嵐の中で高度数百メートルから投下されたグレネードなど風に煽られ分散してしまうだろう。
しかし、ゲームの世界であるBlue Planet Onlineでは雨風の影響など一切受ける様子なく、綺麗な曲線を描きアスカの狙い通りトーチカ周辺に弾着。
周囲を煙で包み込む。
それはアスカだけでなく、海岸線一帯の上空を飛行するフライトアーマー全員が行っている。
アスカ一人だけではスモークグレネードの数が足りず広域に存在するトーチカすべてにスモークグレネードを投下することは不可能だった。
だが、今は皆が一丸となり作戦成功へ向け動いている。
《スモーク! ありったけ落とせ!》
《一人墜ちたぞ! 対空砲火だ!》
「レイマシンガン装備のアームドウルフに気を付けて!」
《リコリス1と同じ動きをしようとするな。彼女ほどの腕は俺達にはない》
《自由落下が苦手なものは急降下爆撃、もしくはアサルトライフルの追加グレネードを使え!》
まだフライトアーマーによる対地攻撃に慣れておらず投下地点が逸れたり対空砲火を浴びながら、それでも必死に地上の味方を支援するべくスモークグレネードを投下する仲間達。
そして大多数のトーチカが煙に覆われた頃、ユニフォーム近海に複数の大型揚陸艦が姿を現した。
《リコリス1、お待たせしました!》
「ファルク!」
通信から聞こえてきたのは上陸部隊隊長ファルクの声だった。
見れば、大型揚陸艦の中にファルクの他複数のフレンドアイコンが確認できる。
どうやら本隊の第一陣として皆この戦場に来てくれたようだ。
《状況は各隊からすでに聞いています。支援感謝致します》
「ううん。お礼は私じゃなくてフライトアーマーの皆に言って。私一人じゃ戦域を支えられなかったから」
《それでもですよ。我々が上陸するまでもうしばらく耐えてください》
「了解!」
通信を終え、マップと直視であたり一帯を見渡し、今だ激しい攻撃を行っている地点へ向け対地攻撃を行う。
だが、敵もただ黙ってランナー達の上陸を許したりはしない。
運よくスモークの攻撃を逃れた物、スモークの投下地点が悪く煙の切れ目から揚陸艦が視認できる物などが揚陸艦に狙いを定め、砲撃を行ってきたのだ。
「敵砲、発砲! 弾着に備えてください!」
雷鳴に紛れて周囲に響き渡る砲撃音。
瞬時に事態を理解したアスカは揚陸艦のランナー達へ向け注意勧告を行う。
状況は二日目と同じだった。
海上を一路ユニフォームの海岸へと進む大型揚陸艦に放たれた砲弾を躱すことは出来ないのだ。
被弾した場合、速力が低下。
最悪大破着底と言う流れは二日目の大敗を味わったランナー達ならば誰もが容易に想像できてしまう。
放たれた砲弾が放物線を描き、誰もが最悪の光景を思い浮かべた、次の瞬間。
大型揚陸艦の艦首部分が防御魔法の光に包まれた。
トーチカからの砲弾は突如発生した防御魔法に吸い込まれるように弾着、爆発する。
爆炎に包まれる大型揚陸艦。
だが、すぐに煙を切り裂きながら無傷の揚陸艦が姿を現した。
《揚陸艦、損害無し!》
「す、すごい!」
《こんなこともあろうかと、私達アームドビースト使いが揚陸艦に随伴してるのよ! このシールドを抜きたければもっと強力な砲を持ってくる事ね!》
そう、ランナー達もトーチカからの砲撃に無策で挑んでいるわけではないのだ。
すでにトーチカからの砲撃はアームドビーストが展開するレイシールドとメディックの防御魔法で防ぐことが出来る事は判明している。
ならば、船の護りとして何名かのアームドビースト使いを揚陸艦に常駐させ、敵トーチカからの砲撃に備えればよい。
結果は御覧の通り。
敵トーチカ群からは続けて第二射、第三射と放たれているが、全てアームドビーストとメディックアーマーの防御魔法の前に防がれている。
そして、前回とは違い敵トーチカが撃ち続けるのを黙ってみているランナー達ではない。
《あんなところにトーチカが隠れてやがる! 照明弾!》
《グレネードランチャー! スモークであのトーチカの視界を奪え!》
《加農砲の射線を集めろ! 大砲を破壊しろ!》
「これ以上はやらせないよ!」
敵の発砲が分かれば、地上の味方ランナー達がすぐにその場所をアイコン表示させ、そこへ向け集中攻撃を行い沈黙させる。
次第に揚陸艦への砲撃が少なくなってゆき、海岸まであと百メートルと言う所で揚陸艦のランナー達が動き出した。
数十名が揚陸艦の甲板に上ったかと思うと、スラスターを吹かして船から離脱し始めたのだ。
その中にはアスカのフレンド、キスカの姿もある。
「キスカ、どうしたの、船はまだ海岸に到達してないよ?」
《私はこっちに用事があるのよ》
「えっ?」
キスカ達船を離脱したランナー達の先にあったのは、甲板と艦橋部分を残して海に沈座している揚陸艦だった。
これは前回の上陸作戦時に大破着底したもの。
大多数の大破着底した揚陸艦はイベントの進行など時間経過に合わせて消滅したが、数隻ほどは前回の戒めかはたまた雰囲気作りの為か消滅せず、その場に残っていたのだ。
そんな揚陸艦に次々と飛び移って行くランナー達。
動かない船で一体何をするのか? アスカが不思議そうに見守る中、ランナー達は大破着底した揚陸艦の甲板に散らばって行くと、インベントリから大型の銃を取り出すと射撃姿勢を取る。
キスカに至っては艦首部分に陣取ると、一緒に飛び移ったランナー達数名と共に何かを組み立て始めたではないか。
その様子からキスカ達が何をしたいのかを理解できた。
彼女たちは大破着底した揚陸艦を浮島の砲台として使用するつもりなのだ。
海岸線の戦場、かつ海側から攻めるランナー達にとって、交戦距離はどうしても短い物になる。
基本的に各種エグゾアーマーの交戦距離は近距離から中距離なので問題はないのだが、唯一話が変わるのがキスカの使用するスナイパーアーマーだ。
スナイパーアーマーが最大に能力を生かせるのは『スナイパー』の名の通り遠距離での狙撃、銃撃戦。
しかし、このユニフォーム上陸作戦では交戦距離が短すぎて能力を生かしきれない。
そこで目を付けたのが敗戦後も消滅せずに残った沈座した揚陸艦。
これらは海岸線、ないしは沖合百メートルほどのところで着底しており、遠距離から狙撃するポイントには持ってこいだったのだ。
「すごい、よく考えたね!」
《スナイパーアーマーがどうすれば戦えるか考えたらこうなっただけよ。私の設置式機関銃はまだ時間がかかるから、ファルク達をお願いね》
「はい、任せてください!」
沈座した揚陸艦に陣取ったスナイパー達が支援射撃を開始した頃、大型揚陸艦もようやくユニフォームの海岸に到着。
減速せずにそのまま砂浜へ乗り上げると艦首門扉を解放。
そこから待ちわびたと言わんばかりに大量のランナー達が勢いよく飛び出し、敵陣へ向け侵攻を開始する。
《上陸した部隊は合流地点へ急げ!》
《三班、右から回り込んで進軍しろ、今日こそ落とすぞ!》
《味方に近い奴からやっつけろ!》
《こちら愛宕浜攻略隊、上陸成功!》
《トーチカが沈黙している今がチャンスだ!》
《福浜海岸攻略隊、集結完了。引き続きビーチの敵部隊に攻撃をかける》
《視界が悪い、誤射に注意してね!》
《なんだよ、結構いけんじゃねぇか》
上陸に成功した揚陸艦は各海岸に二隻ずつで、それぞれ一万人ほどとなる。
一斉に上陸したため固まってしまっている状況は、砲撃や空爆されればひとたまりもなかったが、すでに空の赤とんぼは大半が姿を消し、強力な火砲を持つトーチカも未だスモークの中。
敵モンスター群もさせじと攻撃を行うが、通常火器では特効素材に身を包んだランナー達を止める事など不可能だった。
上陸したランナー達は一塊のまま、海岸線沿いの敵防御陣地へと攻め入ると次々に制圧してゆく。
海上を見れば後続の揚陸艦が次々とこちらへ向け接近しており、モンスター達とランナー達のどちらが有利かなど一目瞭然。
――今回は勝てる!
アスカを含め、地上に居るランナー達も手ごたえを掴み、勝利へ向け士気が上がって行く。
血気盛んなランナー達が勢いそのままに海岸線の敵防衛線を突破。
銃口をトーチカに向けた、まさにその時。
それまでただそこに座していた大樹が妖しい光を放ったのだった。
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うれしさのあまりコペンハーゲン空港から飛び立ってしまいそうです!




