96 DAY6第二次ユニフォーム上陸戦Ⅰ
決戦上陸用BGMを流しながらお楽しみください。
時刻は十五時ジャスト。
海と空との境界線が分からないほどに真っ暗な嵐の中を、アスカはユニフォームへ向け飛行していた。
「すごい雨! 空も海も真っ暗だから、高度に気を付けないと!」
『かなりの視界不良です。墜落には十分気を付けてください』
「うん、ここで落ちたら笑い話にすらならないものね」
マップで確認すれば、アスカの現在位置は岸から離れた海上。
そしてそのアスカを先行するような形で味方のランナー達が揚陸艦で岸を目指している。
雨が降りしきる真っ黒な海に白い航跡を作りながら進んでゆく揚陸艦。だが、その姿形はアスカの知る揚陸艦とは大きく違っていた。
「あれ、揚陸艦が小さい? それに、速度もすごく早い……」
今までの揚陸艦は数千人が乗船するかなりの大きさを持つものだった。
だが、今ユニフォームの海岸を目指して進んでいるのはそれよりもはるかに小さく、かなりの速度を持つものだった。しかも、その数も一つや二つではなく、三〇から四〇近いのだ。
どういう事なのかと一旦高度を落とし揚陸艦に近付いてみれば、その手の知識に疎いアスカであっても何が海上を進んでいるのかがはっきりと理解できた。
「これ……ホバークラフトだ!」
そう、これがスコップの言っていた拠点ロミオとユニフォームを繋ぐ手段。
特殊条件をクリアしたことでホバークラフト、正しくは『エア・クッション揚陸艦』がアンロックされ、ランナー操縦の元使用可能になったのだ。
乗員数こそ大型の揚陸艦には遠く及ばないが、最高速度100キロ以上と言う機動力と数十隻と言う数の暴力で一気にユニフォームへ向け雪崩れ込む。
《こちら先行部隊。ユニフォームの海岸へ到着した。戦闘を開始する》
《照明弾、撃て!》
《エア・クッション揚陸艦は停止しない、スラスターを使って強引に上陸しろ!》
アスカがエア・クッション揚陸艦を確認し、高度を戻すのと第一陣の先端が上陸を開始したのは同時だった。
ユニフォームの海岸のいたる所から照明弾や同じ効果を持つ魔法が撃ち上がる。
照明弾が映し出したのは修復され、再度こちらへと砲口を向けるトーチカ群、守備隊として陣を張っていたホブゴブリンとアームドウルフ。
そして上空旋回をしていた赤とんぼだった。
《赤とんぼがいるだと!?》
《あいつはエックスレイで全て倒すんじゃなかったのか!?》
《敵モンスター群、アクティブ! 攻撃をしてくるぞ!》
《くそっ、対空戦用意!》
《作戦本部、こちら百道浜先遣隊だ! 海岸線の制空権が取れていない、話が違うぞ!》
《こちら作戦司令本部、先ほどリコリス1がそちらに向かった。彼女が何とかする。海岸線を確保せよ》
《分かった、努力しよう。リコリス1、大樹の下で会おう!》
通信終了と共に巻き起こる銃声のオーケストラ。
東西に延びた海岸線のいたるところで発砲の光、弾丸の軌跡、そして弾着による爆発が咲き乱れる。
ついにユニフォーム攻略戦の火ぶたが切られたのだ。
「リコリス1、エンゲージ! まずは赤とんぼ!」
赤とんぼの存在を確認したアスカはそれまでの巡行飛行を中止し、加速。
インベントリからエルジアエ、ピエリスの両銃を取り出すと、最高速のまま赤とんぼ群へ攻撃を開始。
赤とんぼ達は接近するアスカへは目もくれず、胴体下部に懸架したロケットランチャーと尾部ガトリング機関砲で海岸の上陸したランナー達を攻撃している。
そこへ強襲とばかりにアスカが襲い掛かり、ワンコンタクトで複数の赤とんぼを攻撃。
戦闘ヘリの様にその場に佇む赤とんぼなど、アスカにとってはただの的でしかない。
耐久力の低い赤とんぼに多数の銃弾を叩きこみ、わずか数発の被弾で爆発炎上。
赤とんぼはまだ撃ち切っていないロケットランチャーとガトリング機関砲の弾薬を抱えたまま、地上へ向け落下してゆく。
《リコリス1、支援感謝する!》
「はい! いつでも呼んでください!」
《こちら愛宕浜先遣隊、敵拠点タンゴからの制圧射撃と赤とんぼの空爆で進めない! 支援頼む!》
《くそっ、駄目だ! こちら福浜海岸先遣隊、敵トーチカ群及びアームドウルフの攻撃でこれ以上前進できない! 支援を要請する!》
《なんてこった! 破壊したはずのトーチカ、半分以上復活してやがる! 大型揚陸艦が来る前にあれを沈めないと大惨事になるぞ!》
《敵防御陣地が固い! あいつら、防御魔法張ってるぞ! 正面からじゃ無理だ!》
《リコリス1、支援を頼む!》
「アイビス!」
『支援要請地点をレーダーに表示。優先度の高い物は優先目標タグを付けます』
「……え、こんなに!?」
アスカのその一言で、アイビスが全ての支援要請ポイントをレーダー上に表示させ、より重要度が高い物には『TGT』アイコンを付ける。
いままですべての戦場で行ってきた事だが、今回ばかりはその量がとんでもないことになっていた。
東西に伸びた海岸線、その全てから支援要請が出るのは当然としても、TGT、優先攻撃目標の数が多すぎるのだ。
「アイビス、これちょっと多すぎるよ!?」
『参加人員が多いという事で作戦範囲を伸ばした弊害と思われます』
「どういう事?」
今までの作戦と比較にならない規模のランナー達が参加しているユニフォーム攻略戦。
この上陸作戦での作戦エリアは、大きく分けて西の運河対岸にある愛宕海岸、大樹と拠点ポータルがある百道浜、東の拠点ビクターにほど近い福浜海岸の三つに分かれている。
予定ではこのエア・クッション揚陸艦により各エリアに上陸した先遣隊が砂浜に設けられた防御陣地を制圧。
本隊となる大型揚陸艦による上陸地点を確保する予定になっていた。
だが、数キロに渡って作戦エリアを伸ばした結果、トーチカからの砲撃に備えエア・クッション揚陸艦で上陸した先遣隊だけでは数がたらず、逆に突破力と攻撃の厚みが薄くなってしまっていたのだ。
「そ、それって……」
『このままだと上陸した小規模な部隊が各個撃破され、後続の大型揚陸艦の上陸に支障が出る恐れがあります』
アイビスから説明を受け、アスカは思わず唇を噛む。
無論、できる事なら今すぐ表示されたすべての支援要請ポイントに赴き航空支援を行いたい。
だが、アスカの体は一つしかないのだ。
分身することも超高速で動くこともできない以上、この表示されたすべての場所で支援することは不可能。
となれば必然的にどこかの戦域を見捨てなければならなくなるが、そのエリアが壊滅した場合、そこを起点に敵に攻め込まれる恐れもある。
いったいどこを支援すればいいのか? 見捨てる事なんて、私にはできない。
必死に考えるアスカの下へ、聞きなれない声が聞こえてきた。
《リコリス1、支援要請ポイントの情報をこっちにもくれ!》
「えっ!?」
《イベント最後の大規模作戦、これで飛ばなきゃ名が廃る!》
《私達にも協力させてください!》
その無線の主はアスカの後方からだった。
見れば、レーダー上には地形を無視してこちらへと真っすぐ進む味方アイコンが複数表示されていた。
思わず海上を見るが、そこには黒く荒れる海面があるだけ。
まさか、と思いアスカが視線を上げた先に居たのは、アスカ達同様フライトアーマーを身に付け空を飛行するランナー達の姿だったのだ。
「あ、あなた達は……!」
《リコリス1ばかりに良い恰好はさせないぜ!》
《上陸作戦が成功するかどうかなんです。飛んでみる価値はありますよ!》
そう言い放ちアスカを頭上から、下から、そして左右から追い抜き、聞きなれた翡翠のエンジン音を響かせながら散開してゆくフライトアーマー達。
ぱっと見だけでも数は三〇を優に超えているだろう。
「みんな……どうして……」
《皆キミと同じ空を飛びたくてね。MPポーションを掻き集めてきたってわけよ!》
《早く支援要請ポイントを。勝手に攻撃しちまうぞ?》
「っ! ……アイビス!」
『はい。友軍フライトアーマーに支援要請ポイント、及び優先攻撃目標アイコンを共有します』
《よっしゃ……ヒューッ、こりゃすげぇ》
《こんなにたくさん……それだけ敵も必死って事ね》
「TGTアイコンの敵を優先的にお願いします! 攻撃方法は……」
《大丈夫、全て把握している!》
《俺達だって伊達に地上から君を見続けていたわけじゃないんだ!》
欠陥品と言われ続けたフライトアーマー。
それはイベントでも顕著に表れており、イベント開始時フライトアーマーを使用していたのはアスカただ一人だった。
だが、アルディドが、ヴァイパー2が、そしてヘイローチームが加わり、今はこんなに大勢がナインステイツの空を飛んでいる。
その光景に思わず涙ぐみそうになるが、目を強く閉じて抑え込むとアイビスに告げる。
「アイビス、優先要撃目標からさらに重要なポイントを表示。出来る?」
『了解しました。翡翠の基本能力から友軍フライトアーマーの戦力を計算……飛雲でなければ対処できない地点を再表示します』
直後、アスカの視界に表示されていた支援要請ポイントの表示が変化。
それまでは手におえないレベルで表示されていたTGTアイコン表示の地点が、何とか対処できそうな数まで大幅に減っていた。
「よし、これなら!」
友軍フライトアーマー達がアスカの表示に従い赤とんぼや地上の攻撃目標へ向け攻撃を開始して行く中、アスカも目の前に表示されたTGTアイコン持ちの支援要請ポイントへ向け攻撃を開始した。
その地点に居たのはエグゾアーマー装備のホブゴブリンに加え、レイマシンガン装備のアームドウルフにシメオン配下だったであろうメディックアーマー装備の獣人だった。
見れば、獣人が支援魔法でシールドを張ることで防御を固め、合間からホブゴブリンとアームドウルフがランナー達へ向け銃撃を行っている。
この布陣だと火力の高い装備を身に付けられない翡翠では獣人のシールドを破れず、逆にアームドウルフのレイマシンガンで撃墜される恐れがある。
そう、翡翠であれば。
「支援行きます、スタングレネード! 弾着に備えてください!」
周囲の友軍に警告を行った後、ピエリスからスタングレネードを発射。
放物線を描いて飛翔したスタングレネードは対空警戒を全く行っていなかった敵防御陣地に見事弾着。
強烈な閃光は暗闇に慣れ切っていた獣人やホブゴブリンには効果抜群だった。
行動不能に陥り、支援魔法のシールドさえ消失した敵陣地へ向け、両翼のガンポッドと持ち直した汎用機関銃を乱射。
離脱時にはいつものようにハンドグレネードを置き土産。
それだけで地上ランナー達が足止めを食うほどに強固だった防御陣地は機能を喪失。
抵抗がなくなったのを確認するとすぐさまランナー達が前進し、陣地を制圧する。
《陣地制圧!》
《リコリス1、支援感謝する。助かった》
《次もお願いね》
「はい!」
こうしてアスカら味方フライトアーマーから航空支援を受けた第一陣上陸部隊は全滅することなく砂浜に構築された敵防御陣地を複数制圧。
味方大型揚陸艦が上陸する手はずを整えたのであった。
ユニフォーム、三つの上陸地点は実在する場所です。
グー○ルマップで確認してみるのもおすすめですよ。
この物語はフィクションです。
地名、施設名など実在するものとは一切関係ありません。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりナンディ空港から飛び立ってしまいそうです!