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94 DAY6.Gビクター強襲戦Ⅰ

本日二話更新。

本話は二話目になります。


「クソ犬ども! くたばりやがれ!」

「機動型に抜かれた! 後衛を護れ!」

「こいつら! 当たれば一撃なのに!」

「アダンソンが来るぞ!」

「ヴァイパーチーム! 航空支援を! アダンソンを止めてくれ!」

《ヴァイパー2、ネガティブ。こちらの兵装であれは止められないわ》

「ガッデム!」

「くそっ、一体どうしろって言うんだよ!」


 エックスレイ方面隊が蜘蛛型多脚戦車アダンソンという思わぬ伏兵に大苦戦しているのと同時刻。

 ここビクター方面隊も想定外の事態に混乱を極めていた。


「機動部隊! 敵前線を抜けられないのか!?」

「トーチカを黙らせないと無理だ!」

「ならトーチカを……うわっ!」

「蜘蛛風情が! グレネード! ……駄目だ大して効いてない!」

「装甲が厚すぎる!」

「アダンソンに気を取られるな! アームドウルフが来るぞ!」


 当初の想定ではビクターを護るのはアームドウルフ三種の他はホブゴブリンやオーガ、オークであるだろうと予測されていた。

 事実、概ねその通りだったのだが、唯一の想定外がアダンソン。

 

 戦闘開始を告げる砲撃と照明弾と同時に飛び出したアームドビーストを駆る機動部隊。

 トーチカから放たれる砲撃をものともせずに敵陣深く切り込み、モンスター達の陣形をズタズタに引き裂いて乱戦状態に持ち込んだ後、機動力を奪ったアームドウルフ達を確実に屠って行くと言う当初の計画はアダンソンの出現により露と消えた。


 駆ける猪型と牛型、馬型相手には加農砲で強引に足を止めさせ、狼型や猫型相手には体格の優位性を生かし跳躍による強襲攻撃。

 それより小型の物相手には下腹部機関砲の連射で対応。


 無論、この程度でやられるほど機動部隊もやわではないが、結果的には完全に足を止めさせられてしまう形となり、敵陣に切り込むことが出来なくなった。

 その為、奇襲の甲斐なく敵モンスター達はすぐに態勢を立て直し、アダンソンを拠点防衛の盾として、機動力のあるアームドウルフ達がこちらをかく乱。

 一撃に定評のある鬼武人が矛としてランナー達に襲い掛かかる。



 そんな真っ暗な雷雨の元、要所要所で爆発、銃撃の閃光、レイサーベルの発光、スラスターの噴射炎が入り乱れる中、奮闘するホロとメラーナ達の姿があった。


「よいっしょお! これでどげんね!」

「アームドウルフ一匹撃破! さすがホロだね!」

「油断しちゃ駄目! 鬼武人が来てるわ!」

「そっちは任せろ! あらぁ!」


 アサルト二人にストライカー、メディックと突破力と継戦能力に長けたホロ達の小隊は前方に突出した機動部隊のやや後方。

 後衛を護る位置に布陣し、第一線を越えてきたアームドウルフ達を迎撃する位置で戦闘を続けていた。


「メラーナ、照明弾!」

「うん、行くよ!」

「むぅ、こん雨ほんとにいやらしか! 真っ暗で何も見えんばい!」

「足元もグチャグチャで戦いにくいったらないぜ!」


 視界、足場共にコンディションは最悪だが、それでもアームドウルフに後れを取ることなく戦闘を続けるホロ達。

 アームドウルフの戦闘スタイルについてはすでにある程度の情報が出回っている事に加え、彼女たちが装備する兵装にイベント特効素材が使用されていることが主な要因。


 先日の攻略中休み日、ホロ達が入手した特効素材で既存の兵装をアップグレードさせているのだ。

 ホロはその巨大な鎚のハンマー部分に特効素材を混ぜ込み、カルブとラゴは大剣と刀を特効素材で新調。

 メラーナは三人の余った素材で追加装甲を用意し、身に付けている。


《前線、抜かれた! 後続、頼む!》

「ホロ、次が来る!」

「まかせんしゃい!」

「くそ、このままじゃジリ貧だぜ!」

「アスカさん達が動く前に、出来る限り敵戦力を削いでおきたいのに!」


 前線を抜けたアームドウルフと鬼武人へ向け銃撃と魔法攻撃が放たれ、周囲を明るく照らし出す。

 この攻撃で一定数は排除できるが、数が多く機動力の高いアームドウルフ全てを撃破するには至らず、爆炎を抜けこちらへ向け襲い掛かってくる。


 スナイパーとマジックが布陣する戦列までもう少し。

 アームドウルフ達がスラスターを吹かし跳躍する、その間際。

 ホロ達後衛の護衛部隊が行く手を塞ぐ。


「四番、ホロ! いっちゃるけんね!」


 先頭を走るアームドウルフの前に躍り出たホロは大鎚を構えると突進に合わせてスイング一発。

 往年の強打者のようなフルスイングにフォースルーを決め、アームドウルフを吹き飛ばす。


「遅れんなよ、ラゴ!」

「カルブこそ!」


 大振りの一撃で出来たホロの隙をカバーするため、カルブ、ラゴが後続のアームドウルフへ突撃。

 アームドウルフ達の足を止めると同時に、吹き飛ばし攻撃を用いて強引に距離を開けさせる。

 これはアームドウルフに対する後衛の射線を確保するためと、誤射や巻き込みによるフレンドリーファイアを防ぐため。


 そうして吹き飛ばされ、強引に距離を開けられたアームドウルフへ向け後衛の銃撃が刺さり、アームドウルフは光の粒子となって消滅する。


「ポイントは稼げるっちゃけど、埒が明かんばい」

「俺達ももっと前に出るか?」

「僕たちじゃ機動部隊の邪魔にしかならないし、アダンソンにも対抗できないからやめた方が良いと思う」

「この場を離れるのもマズいよ。敵の勢い、全然衰えてないもの」

《こちらヴァイパー1。こちらへ向け接近する赤とんぼ群を確認した。各員、対空警戒を密にせよ》

「赤とんぼが来るん!?」

「アイツらが来るって事は……」

「エックスレイは落とせなかったみたいだね」


 中継とホロから伝え聞いたブリーフィングの内容では、エックスレイへの攻撃は初撃が全てであり、赤とんぼの離陸を許す前に制圧するという物だった。

 だが、空に写る敵アイコンは間違いなく赤とんぼであり、その飛来は奇襲攻撃の失敗を意味する。


 ただでさえアームドウルフの機動力とアダンソンの防御力、鬼武人の攻撃力で拮抗が続いているこの状況で増援。

 それも空の敵など無理難題も良いところ。


「もう、このイベントこんなのばっかり!」


 何一つうまくいかないこの事態に、思わず声を荒らげるメラーナ。

 ここにいる全員その意見には同意するが、そんなことを言っていても事態は改善しない。

 切り抜けるには敵を倒し続けるしかないのだ。


「対空攻撃は味方に任せよう。僕たちは正面から来るアームドウルフを!」

「よっしゃ、行くぜホロ、メラーナ!」

「まかせんしゃい! まだまだいけるけんね!」

「アスカさん、ごめんなさい。中央戦線、おねがいします!」


 上空にいる赤とんぼの姿が視認できないほどに暗い嵐雲が広がり、唯一存在を表す敵アイコンが空爆の為のアプローチに入る中。

 ホロ達は再度前線を抜けてきたアームドウルフを迎撃するべく、スラスターを吹かすのだった。



―――――――――――――――――――――――


「マルゼス、駄目だ! また一人やられた!」

「くそっ、どれだけやられた!?」

「損耗率は三割を超えた! このままだと全滅だぞ!」

「耐えろ! 俺達が沈めば二日目の二の舞になっちまう!」

 

 後衛を護る戦闘を続けるそのはるか前方。

 両軍が入り乱れる激戦区に、愛馬タービュランスに乗りアダンソンの相手をするマルゼスの姿があった。


 機動力に秀でたアームドビースト達が最大に持ち味を発揮出来るのは平地である。

 限界距離まで近づき潜伏するエックスレイでは生かしきれず、強襲揚陸となるユニフォームは元から論外。

 よって、このビクターこそが彼らの戦場となるのは想像に難しくなかった。

 

 首脳陣もその事はよくわかっており、機動部隊のリーダー格であるマルゼス他、アームドビースト使いとして能力の高い者はここビクターに集中して配置していた。


 が、それはあちらも同じだったのだろう。

 ビクターに配置されたアダンソンの数はエックスレイのそれを大きく超え、事前に設置されていたトーチカと合わせ超重厚な防御壁となって機動部隊の前に立ちふさがったのだ。


「駄目だ、全身金属であの大きさじゃアームドボアの吹き飛ばしも出来ねぇ!」

「さしずめ、俺達はティーガー戦車に挑むシャーマン軍団ってとこか!」

「絶望的すぎんだろ、それ!」

「加農砲が来る! 散開!」

「ちいっ!」

 

 重心を低く落とし、上腹部に装着された加農砲の銃口をこちらへと向けるアダンソン。


 マルゼス達機動部隊はそれまでの密集隊形から散開し、アダンソンの狙いを分散させる。


 その動きに呼応するかのように放たれたアダンソンの加農砲。

 砲弾は先ほどまでマルゼス達が密集していた地点を通り抜け、はるか後方に弾着、爆発する。


「ヒューッ! 危なかったぜ!」

「88ミリ近くあるんじゃないか?」

「砲弾もおそらく榴弾、それであの短砲身って事は……75ミリ榴弾砲か!」

「なんだそれ!?」


 榴弾砲とは通常の加農砲に比べ短砲身、短射程で高射角の曲射弾道という特徴を持つ火砲である。

 最大の利点は短砲身ゆえの軽量さと炸薬の少なさからくる連射速度。

 これは陣地防衛を主とするアダンソンにとっては最適解で、機動性をそぐことなく火力の大幅強化に成功しているのだ。

 もっとも、その最適解がランナー達にとっては迷惑な事この上ない。


「野戦砲を持ってくるんじゃない! こちとら生身だぞ!」

「ミンチよりひでぇよ!」

「大丈夫、誰も死なないゲームだよ」

「ほざけ!」

「榴弾砲は弾速が遅くて山なりなのが欠点だ。懐に飛び込むぞ!」

「七五ミリならアームドビーストのシールドで防げるはずだ!」


 至近距離での銃撃やレイサーベルも、加農砲の一撃よりはマシ、とアダンソンへ向け攻撃を仕掛けるマルゼス達。

 飛来する榴弾を躱し、銃弾の雨を掻い潜り、アダンソンを格闘戦の間合いに捉える。


「よし、これで……何っ!?」

「アームドウルフ!」

「アダンソンの死角を埋めようってのか!」


 陣地防衛には多脚戦車であるアダンソンが要であるという事は、敵モンスター達も理解しているのだろう。

 マルゼス達が接近戦でアダンソンを攻撃しようとすると、機動力の高いアームドウルフがフォローに入り、妨害してくるのだ。

 さらに。


「ぐあっ! 馬がやられた! 鬼武人だ!」

「示現流か! 攻撃後の硬直を狙え!」

「アダンソン接近!」

《こちらヴァイパー1。こちらへ向け接近する赤とんぼ群を確認した。各員、対空警戒を密にせよ》

「赤とんぼだと!? くそっ、こんな時に!」

「爆撃が来る! 対空攻撃!」

「どれに対処すりゃいいんだよ!」


 アダンソン、アームドウルフ、鬼武人、そして赤とんぼ。

 それぞれへの的確な対処も出来ないまま戦闘を続けるランナー達。


 戦闘が開始されてからわずか一時間。

 戦況は大荒れの嵐となっている天候同様、混迷を極めていた。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまりモントリオール空港から飛び立ってしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 防衛側が有利ってよく分かる 勢いを消されたのは痛い
2021/03/06 21:41 退会済み
管理
[良い点] 負ける物語を作れるって大事な事です。 むしろいっその事イベント全体も鬼畜難易度でプレイヤー全滅の 阿鼻叫喚とか言うのでも面白い。
[一言] もう、このイベントこんなのばっかり! このセリフがこのゲームをよく表してると思います。 今後イベント不参加、もしくは前半の難易度低いところでポイント稼いで参加賞狙いみたいな人が増えるんじゃ…
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