93 DAY6.Gエックスレイ奇襲戦Ⅰ
本日は二話更新。
本話は一話目になります。
???「ぼ~くらはみ~んな、生きている~」
現在時刻、十三時五〇分。
リアル世界は真夏の昼時。
だが、ゲームであるBlue Planet Onlineの世界での時間は夜。
それもあと一〇分で夜が明けようかと言う、そんな時間。
通常マップでは心地良い夜風が舞い、草花の葉と虫たちが穏やかなクラシックを奏でているが、イベントマップの雰囲気は全く違うものだった。
一昨日のシエラ渓谷攻略時から降り出した雨は収まるどころか激しさを強め、今では雷鳴轟く嵐へと変貌を遂げている。
星どころか月明りも何もない暗闇の中の豪雨。
大量に水を含んだ地盤はこれでもかと言うほどにぬかるみ、強まる風で海は荒れに荒れていた。
そんな天候最悪なイベントマップに三つ残った重要拠点のうちの一つ、リアルでは空港がある位置に配置されたのがここ、エックスレイだ。
広大な敷地の中には大量の赤とんぼが駐機し次の攻撃に備え羽を休め、外周は夜間であっても襲撃に備え巡回を怠らないエグゾアーマー装備のホブゴブリンに、サーチライトで周囲を照らすトーチカ群が守りを固めている。
その重要拠点エックスレイから500メートルほど離れた位置に、エグゾアーマーに迷彩を施し偽装用ネットを被ったランナーの姿があった。
サーチライトの光に照らされそうになると身を隠し、降りしきる豪雨もぐちゃぐちゃにぬかるんだ地面も気にすることなく匍匐前進で進むのは、索敵能力に長けたスカウトアーマー。
索敵用ヘッドセットにセンサーアイ、背中には大型の通信用バックパック等、スカウトアーマーがスカウトたる装備を満載し、隠蔽スキルに隠蔽ネットまで活用して闇夜と雷雨に紛れ限界まで敵拠点に接近。
これ以上進むと敵の探知に引っ掛かる限界まで前進すると、各部センサー類を起動。
範囲内の敵を一斉に映し出す。
「……よし、配置についたぞ。今データを送る。……どうだ?」
《……オーケー、受け取った。これで敵の配置と距離はバッチリだ》
首脳陣、及びエックスレイ方面攻略隊が導き出したエックスレイ攻略の結論は『一網打尽』。
測量目的のスカウトアーマーを隠蔽装備満載で複数送り込み、そこから得たデータを元に迫撃砲や加農砲、魔法攻撃などで一斉攻撃。
赤とんぼや獣人兵等がアクティブ化する前に全て撃滅するという作戦だ。
《……よし、装填完了。何時でもいけるぞ》
「へっ、こんな泥んこずぶ濡れになってまで斥候やってんだ。しっかりダメージ出してポイント寄越せよ?」
《任せろ。ポイント交換用の景品が無くなるくらい稼がせてやるよ……よし、時間だ》
《エックスレイ方面、これより作戦を開始する!》
《撃ち方、始め!》
《オープンファイア! 撃ちまくれ!》
《航空部隊、直ちに離陸! 機動部隊も突っ込め!》
《フレンドリーファイアに気を付けろよ!》
一四〇〇ジャスト。
作戦開始を告げる全体放送を合図に、エックスレイに向けた攻撃が開始された。
エックスレイから離れた位置から大量の砲撃音が響き渡り、数秒のタイムラグの後エックスレイに大量のオレンジ色の花を咲かせ、同時に打ち上げられた大量の照明弾により空港内部が照らされると、視認可能となった敵兵へ向け大量の銃弾が放たれる。
「次弾装填、急げ!」
「対空機銃の水平射撃だ! これで耐えきれる奴はいねぇだろ!」
「赤とんぼを離陸させるな!」
「トーチカを黙らせろ!」
「突撃、突撃!」
「GOGOGOGOGO!」
「ヘイローチーム! 航空支援頼む!」
後方からの支援射撃、支援砲撃に紛れ、アームドビーストを操る機動部隊とスラスターを全開にしてアサルト、ストライカーアーマー装備のランナー達がエックスレイ制圧へ向け突撃を敢行。
奇襲により浮足立った敵陣地をみるみる食い破っていく。
完全に決まった奇襲攻撃。
このまま押し切ってやる! と、勢いを緩めることなく敵陣深く切り込んでゆくランナー達。
だがモンスター達もただ黙ってやられはしない。
《こちらヘイロー1。赤とんぼの離陸を確認した注意しろ!》
「ガッデム!」
「ダメだったか、くそっ!」
「チッ、さすがに全部仕留めるのは無理か!」
迫撃砲の一撃で大破するほどに耐久が低い赤とんぼではあるが、駐機されていた数が数だ。
被害を逃れた赤とんぼ達は現れた外敵を排除すべく離陸すると、守備隊と交戦するランナー達を無視し援護射撃を続ける後衛の陣地へ襲い掛かる。
赤とんぼの空爆に晒されるランナー達。
だが、元々赤とんぼが大量に置かれているエックスレイへの攻撃なのだ。
事前のブリーフィングでも通達があった通り、対空攻撃の備えは十二分に整えている。
スカウトアーマーが対空レーダーを装備し、周囲のランナー達へデータリンク。
そのデータを元に対空ミサイルを放ち、加農砲は時限信管の弾頭を仕込んで対空砲に転用、作戦開始前に設置しておいた対空機関銃まで用いて赤とんぼを迎撃する。
防御面も特効素材を用いた盾に、メディックアーマーのシールド魔法等で被害を最小限にとどめる。
そこには数日前に赤とんぼに好き勝手蹂躙された姿はなく、対等以上にやり合うランナー達がいた。
「よし、いけるぞ!」
「カトンボが! すべて叩き落してやる!」
《こちらヘイロー2。赤とんぼ達は爆弾やロケットランチャーを持ってないみたい。尾部のガトリング機関砲にだけ注意して!》
「爆弾無しか! こりゃあ傑作だ!」
思わぬ朗報に対空迎撃を続けるランナー達の士気が上がる。
エックスレイが奇襲を受けたたことで迎撃の為離陸した赤とんぼ達だったが、スクランブル発進だったため足で懸架する副兵装を所持していなかったのだ。
広範囲のエックスレイに対応するため広く長く展開したランナー達に範囲攻撃である爆弾やロケットランチャーは脅威であったのだが、それがないとなれば赤とんぼの脅威は半減する。
「爆弾もロケランもなきゃ、あいつらはガトリングぶっ放すしか能がねぇ羽虫だ、勝てるぞ!」
「いいぞ、全機撃墜してやれ!」
イベント特効素材で作られた大盾はガトリング機関砲の弾丸を貫通させず、時限信管により高射砲と化した加農砲と迫撃砲により赤とんぼはみるみるその数を減らしてゆく。
――このままいけば、勝てる!
圧倒的とも言える戦況に、エックスレイを攻めるランナーの誰もがそう気を吐いた、その瞬間。
敵占領下のポータルがその光を強めたかと思うと、エックスレイの拠点内部に新たな敵反応が発生した。
《こちらヘイロー2、新たな敵反応を確認! 警戒して!》
「なんだ、これは……?」
「名前は……アダンソン?」
この土壇場に来て新たな敵の出現。
その姿を確認しようと、照明弾が照らすエックスレイの内部に視線を向けると、雷鳴にも似た砲撃音が辺りに響き渡った。
突然の砲撃音に慌てて伏せるランナー達の頭上を光り輝く砲弾が通過する。
呆気にとられるランナー達を置き去りにした砲弾は、そのまま後方で対空射撃を続けていた設置式対空機関銃に直撃。
射撃を行っていたランナーもろとも跡形もなく吹き飛ばした。
「くそっ、一体何だ!?」
「対空機銃がやられた!? 敵からの砲撃だ!」
「嘘だろ、今の加農砲か!?」
もともと設置式対空機関銃は脆く、耐久性は皆無に等しい。
が、それでも一発で破壊となると話が変わる。
今も対空機関銃に向け放たれる砲弾は絶え間なく続いており、弾着するたびにこちらの対空機関銃が潰されてゆく。
このあまりの事態にランナー達は慌てて砲撃の主を探す。
そして、見た。
「な、なんだ、ありゃあ……」
「ふざけろよ……なんだってこんな場面で、あんなものが出てくるんだよ!」
「クソッタレ……この、化け物め!」
まだ日が登らず、暗闇に等しいエックスレイにおいて唯一の光源である照明弾が照らし出したのは、豪雨で水浸しになりながらも怪しく光る大小四つのセンサーアイを持ち、濡れた地面を滑ることが無いよう大地を八本の脚でがっしりと掴みながらも上腹部に配置された加農砲をこちらへと向ける、巨大な蜘蛛の姿だった。
《エックスレイ方面隊、全軍に告げる! エックスレイ拠点内部に発生した『アダンソン』を当戦域最大の脅威として認定する! 各員、最優先でもってこれを排除せよ!》
「言われなくたって!」
「あいつらの砲撃を止めろ、対空機銃が全滅するぞ!」
「対空機銃、空の赤とんぼはいい! 正面のアダンソンを撃て!」
「くそっ、また砲撃で一門やられた! いったい何匹いるんだよ!」
そう、エックスレイ内部に現れたアダンソンの数は一匹二匹と言うような優しい数ではなかったのだ。
拠点領域を埋め尽くすほど、という訳ではないが、推定でも100近くはいるだろう。
「銃撃、銃撃!」
「何だアイツ、火花散らしてるぞ!?」
《こちらヘイロー1、アダンソンへ向け攻撃を開始する! ……ボムズアウェイ!》
「よし、いくらなんでもこれなら……!」
「弾着確認! ……だめだ、ほとんど効いてない!」
「う、嘘だろ……ハンドクレネードごときじゃビクともしないって……しかも、あの骨格は……ははは……そうか、そう言う事か……」
「なんだ、おい、どうした?」
「分かったぞ、あいつら……蜘蛛じゃない、多脚戦車だ!」
「ハァ!?」
中型トラッククラスの大きさを持つ蜘蛛、アダンソン。
その正体は赤とんぼ同様蜘蛛を模して造られた金属生命体であり、多彩な火器と分厚い装甲を持った多脚戦車だったのだ。
上腹部から放たれる砲撃を何とかやめさせようとランナー達が集中砲火を見舞うが、分厚い装甲の前に全て弾かれ火花と言うオレンジ色の花を美しく咲かせるだけ。
銃撃をもろともせず、こちらの対空機銃へ狙いを定めると、躊躇なく砲弾を撃ち出す。
その姿はまさに大地を歩き回る重戦車。
「アサルトライフルじゃ駄目だ、あいつの装甲を抜けない!」
「マテリアルライフル持ってこい!」
「こいつっ……何!?」
「跳んだ!?」
「レイサーベルだと!?」
「こっちは銃撃してくるぞ!」
「なんだって蜘蛛がこんなに動き回れるんだよ!」
「アダンソン……アダンソンハエトリか!」
「何だって!?」
この巨大多脚戦車の元になったのが、リアルでも存在するアダンソンハエトリと言う蜘蛛だ。
『ハエトリ』の名の通りハエトリグモの一種、日本でも屋内でよく見る黒みがかった体に白い斑紋と触肢をもつ蜘蛛であり、あまり巣を作らずに餌を求めて徘徊する性質を持つ。
そして一度餌を見つけると、『ジャンピングスパイダー』と言う英名の如く、跳躍して襲い掛かるのだ。
《上空から見た限りの推測だが、アダンソンの兵装は上腹部加農砲、下腹部機関銃、口元のレイサーベルの三つだ! 前衛は跳躍からの強襲に注意しろ!》
「一匹撃破! 多脚戦車だがなんだか知らないが、特効素材弾頭使用の加農砲なら問題ねぇ!」
「脚だ、脚を飛ばせ! 機動力が落ちる!」
「銃撃が重すぎる! 赤とんぼよりひでぇ!」
「下腹部の機関銃は二門だ! 50口径はあるぞ!」
「全員怯むな! ここで俺たちがやられたらユニフォームが攻略できない!」
「分かってる! だが、まだ上空の赤とんぼだって排除しきれてないんだ!」
《各員、奮戦せよ! ここが正念場だ!》
「くそぉ……くるな、くるなよぉ!」
最終攻略作戦が開始されて僅か三〇分。
奇襲により一気に制圧するという当初の目論見は脆くも崩れ去り、戦況は空を覆いつくす雷雲同様、荒れに荒れていた。
運営コード『S』pider、アダンソン。
アダンソンハエトリをモデルとした多脚戦車である。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりアテネ空港から飛び立ってしまいそうです!