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92 DAY6ブリーフィング


 ミッドガル、ランナー協会四階の大会議室で開始されたブリーフィング。

 全ランナーに配信されているという緊張感の中、壇上に立つクロムは顔色一つ変えることなく話を進めてゆく。


「本会議場に集まってくれた各員、この配信を視聴してくれている皆。ようやく準備が整った。本日の作戦でオペレーションスキップショット、その最終攻略地点であるユニフォームを攻め落とす」


 力強く、覇気を込めて語られた言葉に、会場はざわめきを見せる。


「本イベントで残っている重要拠点は三つ。城跡地のビクター、空港のエックスレイ、そして電波塔のユニフォームじゃ。これを本日の攻勢で全て潰す」


 ざわめきがさらに強くなる会場内。

 ストリーミング配信の閲覧者も『本気か?』と疑心暗鬼になっている事は想像に難しくないだろう。


 そんなざわめきが収まるのを待たず、クロムは続ける。


「皆の疑問は当然じゃろう。じゃが、これは本作戦参加人数、立地、時間等を考えた結果じゃ」


 曰く、お盆期間中に合わせて開始された本イベントだが、明日に関してはUターンラッシュと重なるため今日ほどの人員は集まらないだろうと予測されている。

 イベント終盤となり敵勢力下のエリアが減少、残った三つの重要拠点ビクター、エックスレイ、ユニフォームは位置が近いという理由から、人員の余裕がある今日のうちに一斉攻撃を仕掛け、全重要拠点を攻略するのだと言う。


 また、仮に攻略出来なかったとしても最悪ビクター、エックスレイの二つを落とせれば人員の減った明日でも攻略できるだろうという保険的な意味も含んでの本日の攻勢。


 そこまで説明され、なるほど、と頷くランナー達。

 彼らの小隊メンバーの中にも『明日は無理』『今日しか参加できない』という者は数多い。

 だからこそ、クロムの説明に納得がいったのだ。


「それで、参加するランナーはどのくらいを予定してるんだ?」

「二五万。それが本日イベント攻略に参加できると計算された人数じゃ」


 二五万。

 それはBlue Planet Online初回生産分三〇万のうち八割を超えるとてつもない数字だ。


「そ、そんなに参加できるのか!?」

「適当なこと言ってるんじゃないだろうな!」

「ちゃんと計算はしたぞい。複数から得た情報じゃ。信頼度は高い」


 どう計測したのかは分からないが、二五万と言う数字に絶対な自信を持つクロム。

 参加人数に疑いの目を向けるランナー達を一蹴すると、ここからが本題とばかりに表情を鋭くする。


「故に、今作戦ではまずビクター、エックスレイに同時攻撃を仕掛ける。この二つの拠点にはシエラとゴルフの残党である鬼人兵と獣人兵が潜んでおるからの。敵の予備戦力をすべてビクターとエックスレイに使わせた後、強襲上陸部隊がユニフォームに攻め込む」

「陽動作戦か!」

「その通りじゃ」


 集まった二五万と言う最大とも言えるランナー達をどううまく動かすか? 正直、数に物を言わせた考えなしでの突撃でも落とせそうなものだが、首脳陣は勝利をさらに確実なものとするために考えたのがこの陽動作戦だ。


 前回のユニフォーム攻略から、先にユニフォームを攻撃するとビクター、エックスレイの両拠点から増援が送られることが分かっている。

 それに加えて、昨日ビクターとエックスレイに威力偵察をかけた者から、両拠点に鬼人兵と獣人兵が潜んでいるとの報告も上がっているのだ。


 その為まずビクター、エックスレイを攻撃。

 明け方に奇襲による一斉攻撃を仕掛け、鬼人兵、獣人兵のみならず、アームドウルフや赤とんぼと言った脅威を事前に叩く。

 本来であればユニフォームに送られるはずであった予備戦力をこの二つの拠点で全て吐き出させ、防衛に血眼になってる間に手薄になったユニフォームを奪取する。


 これがクロム達攻略組が考え出した、オペレーションスキップショットの最終攻略作戦だ。


「なるほど、作戦は分かった。で、陣容はどうするんだ?」

「うむ、それはモニターを使って説明しよう」


 今までナインステイツ全体を映していたモニターがユニフォーム周辺を拡大。

 ビクター、エックスレイ、ユニフォームと、それぞれの前線基地であるカナダ、ノベンバー、そしてロミオを枠内に収め、各拠点が光を放つ。


「各拠点攻略には戦闘能力の高い者とその小隊メンバーが分散配置される。これは戦力の集中と指揮系統をある程度確立するためじゃな」

「配置は決まってるのか?」

「無論。各方面部隊長もこちらで決めておる」


 そう言ってクロムはメニュー画面を操作。

 モニターに各方面の攻略部隊のランナーネームを表示させる。


「このリストは掲示板にも載せておくからのう。配信を見てるもので詳細を知りたい者は手間になるがそちらを参照じゃ」


 アスカはそのリストを机に備え付けられた補助モニターで確認する。

 当然、知らない人達ばかりが名を連ねているが、ファルクとイグ、マルゼスは名前を確認することが出来た。


 イグは東部、エックスレイ方面隊、マルゼスは南部のビクター方面隊として記載され、ファルクに至ってはなんと中央、最重要拠点ユニフォーム方面部隊長となっているではないか。

 さすがのアスカもこれには驚きを隠せず、近くにいた視線をイグとアルバへと向ける。


「まぁ、成り行きってやつだ」

「鬼神シーマンズを倒した功労者達だ。これで名前が無きゃ誰を載せるんだ?」


 なるほど、とアスカは無言で頷く。

 そしてさらにリストを見渡して見つけたのはホロの名前。

 彼女の担当はマルゼスと同じく南部、ビクター方面のようだ。


 メラーナやカルブの名前は見つけることが出来なかったが、おそらくはホロと共にビクターに攻め込むだろう。


 そしてもう一人、名前がないのがフランだ。


「フランはどうするの?」

「にゃ~私も小隊メンバーと一緒に中央かなぁ。やられた分は返さないとねぃ」


 そう言って屈託のない笑顔を見せるフラン。

 また、アルバやキスカ、フルフェイスの愉快な仲間達は小隊長であるファルクやイグと同じとの事。

 どうやらこのリストは名の知れた小隊長を主に選出して作られたのだろう。


 そうしてアスカが各方面の名前を探っていると、どこからか声が上がった。


「すまない、このリスト、大事な人物の名前がないんだが?」

「む、誰じゃ?」

「我らの勝利の女神、リコリス1だ。彼女がいるかいないかで作戦成功率が雲泥の差だ」

「そ、そうだ! 彼女の名前がないぞ!」

「もしかして、彼女は参加しないのか?」


 ――いえ、参加します。ここに居ます。


 などと言える雰囲気でもないため、アスカは身を萎ませ視線を下に落とす。

 クロムの視線が一瞬こっちに向いたような気がしたが、アスカはこれを完全無視。

 すべての対応をクロムに任せる。


「安心せい、ちゃんと彼女も参加するわい。じゃが、航空部隊の運用については臨機応変な対応が必要になるため、管轄はワシではなく彼になっておる」


 そう言い放ってクロムは視線を正面モニターの横に座るランナーのうちの一人に向ける。

 視線で合図を受けたそのランナーは椅子から立ち上がると、全員に対し一度頭を下げ、口を開いた。


「今クロムから紹介にあずかったアルディドだ。コールサインはヴァイパー1」


 いきなり出てきたアルディドにアスカは目を真ん丸にして驚く。

 実は、今日のアスカの動きについては昨日の女子会ですでにヴァイパー2と打ち合わせ済みなのだ。

 今イベントではヴァイパーチーム、ヘイローチーム共にアスカに大恩があるため基本的にアスカの意思を優先する形で計画が立てられている。

 無論、彼らがいくらかアスカに頼む部分もあるが、それもアスカの動きを制限しない範囲内での話。


 そうして決まった話をヴァイパー2がヴァイパー1、ヘイローチームに伝えるという事で昨日は別れたのだが、航空部隊の隊長格としてアルディドが出てくるとは思わなかったのだ。


「今作戦は広範囲に渡って戦線が伸びる。その為、我々航空部隊も戦力を三つに分散。それぞれが各重要拠点攻撃に対し航空支援を行う予定だ」

「その配置は?」

「ユニフォームにリコリス1、ビクターにヴァイパーチーム、エックスレイにヘイローチームだ」

「全部で五人しかいないんだろう? 分散しすぎじゃないのか?」

「リコリス1一人でユニフォームの海岸線を? 二日目の二の舞になるんじゃないのか?」


 アルディドの話した航空部隊の展開についていくらかクレームにも似た質問が入るが、そもそも人員不足であるため全戦域をカバーできる航空戦力がないのが現状だ。

 人数を増やせないのか? と言う意見もはいるが、フライトアーマーの使い勝手の悪さはこの場にいる全員がよく知っているため『人数を増やせ』『分かりました!』で済むほど甘い話でもない。

 アルディドがそこまで説明すると、それ以上の追及する発言はなかった。

 どうやら皆渋々ながらも納得してくれたようだ


「……他に質問がないなら、俺達からは以上だ」

「ふむ。では、ブリーフィングを続けよう」


 そこからの話はリストに名前がなく、出撃場所を指定されていないランナー達への展開要請と、バックアップ、弾薬類のサプライについての話となった。


 リストに表記されていないランナー達の出撃場所は基本自由。

 ただし、場所により敵の強さが異なる為、公開した戦力データを元に各自で出撃場所を選択してほしいと言う。


 後方の拠点に関しては東ノベンバー、西シエラ、南カナダ、北ロミオを補給用拠点として整備したため、それぞれ最寄りの拠点をリスポーン地点として登録する事などが伝達される。



「敵の強さについてはビクター、エックスレイ、ユニフォームの順番じゃろう。じゃが、そこに地形的要素と配置されている敵によっていくらか変化する」

「……と言うと?」

「……ふむ、詳しく説明しようかの」


 そう言うとクロムは先ほどと同じようにモニターの横に座っているランナーの一人に目線で合図する。

 すると先ほどのアルディド同様に立ち上がり、正面モニターを操作。

 各拠点ごとの敵配置を映しだし、各拠点の戦力分析の結果を説明する。


 それによるとビクターは平地で地形的には攻めやすいが、リアルの城跡地公園と同じく池があり、当然の様にポータルは池の中央に備え付けられていると言う。

 メインとなる敵はホブゴブリンやオーク、オーガ。そこにアームドウルフと鬼人兵が加わり、数名だが鬼武人の存在まで確認されているとの事。


 エックスレイも基本平地だが、空港を元にしている為その範囲が全拠点の中でも最大規模。

 何よりあの赤とんぼ達が集中配備されているのが厄介だ。

 これを中途半端に攻撃し、赤とんぼに離陸されてしまえばその後に待っているのは爆撃と機銃掃射による蹂躙。

 ここを攻略するには生ぬるい手は使わず、一気に攻め落とすつもりで仕掛け、赤とんぼに対する対空攻撃の手段も必要とされるだろう。

 空港を護る防衛部隊はビクターと同じくホブゴブリンやオーク、オーガ。

 そこにゴルフから撤退した少数の獣人兵が加わる。


 そして最終攻略地点ユニフォーム。

 ここに対しては西を川と丘上の拠点、南をビクター、東をエックスレイに守られる形となる為、攻略には二日目同様、揚陸艦での強襲上陸となる。

 

「やっぱりユニフォームはそうなるのか……」

「おい、どうする。行くか?」

「いや……俺は……」

「わたしも無理……あんな目に合うのはもうこりごりよ」


 『ユニフォームに強襲上陸』この言葉を聞いてしり込みする者は多い。

 この場にいるものは二日目の大敗を味合わされた者も多く、ほとんどがユニフォームに対し恐怖を植え付けられてしまっているのだ。

 上陸作戦に参加していない者も、動画や口伝えでその惨状は見聞きしており、同じ轍は踏みたくないと考えるのも当然の事。

 前回の作戦で防衛施設のトーチカは半分以上を破壊している上、他拠点に守備要員を割いている事から防衛戦力は多くないと予想されるが、ここを攻め込むランナー達は何よりその精神力と度胸を試されることになるだろう。



「……以上が各拠点の戦力分析です」

「うむ。ここからは答弁の時間とする。何かあるかのう?」

「じゃあ…………」

「それなら…………」



 作戦概要を伝え終えたクロムは、残った時間を認識の齟齬を解消するための答弁に費やした。

 様々な質問が飛び、その全てに答えて行くクロム。


 アスカも基本は聞くだけではあるが、一つ一つの質問とその回答を真剣な表情で聴き、心に深く刻み込む。

 これだけの大規模作戦、失敗は許されない。


「……他にないかのう? では、これでブリーフィングを終了とする」

「作戦開始はゲーム内で日の出を迎える一四〇〇時だ。各員、遅れぬように。では、解散」


 終了を告げるその言葉で皆が一斉に席を立ち、会議室を後にしてゆく。

 その表情は気迫のこもったものから覚悟を決めた表情など様々。


 アスカはそんなランナー達が退出するのを最後まで横目で流し、ほとんどのランナーが退出した後席を立つと、モニター前で隊長格らと円陣を組んで話をしているクロムの方へと足を進めた。


「クロム!」

「おぉアスカか。お主の動きはアルディドに一任したが、あれでよかったのかのう?」

「うん、ばっちりだよ」


 近くにいたアルディドに視線を向けると、彼はサムズアップでアスカに応じる。

 面倒事を任せてしまっている自覚はあるが、今のアスカに壇上に立って全員に説明などどう考えても無理なのだ。

 ここは頼もしい彼のサムズアップにお願いするほかない。


「今作戦は総力戦じゃ。厳しい戦闘になることは間違いないが、よろしく頼む。特に空のアヤツを倒せるのはリコリス1、お主の他あるまいて」

「うん。今度こそ、あいつを墜とすよ」

「頼もしいのぅ。その顔つきからして、秘策でも用意したかの?」

「えっ、分かるの?」

「ほっほっほ。ワシも長くVRゲームをしておるからのぅ。その何やら怪しげかつ不敵な笑みはとっておきを用意した者独特の顔つきじゃ」


 特に隠しているわけでもないが、このイベントで因縁深い宿敵となったブービーにようやく借りを返せると思うと、つい口角が緩んでしまうのだ。

 そのアスカのわずかな表情の変化を、クロムは見逃さなかった。


「そんな偉そうに言っても、結局は絶えずゲームをし続けてる廃人ゲーマーってだけでしょう、クロム」

「む……それはファルクお主も同じじゃろうて」

「違いありませんね。まぁ、それは今ここにいる全員に言えた事ですが」


 くくく、と笑うファルク。

 それは彼だけではなく、円陣を組んだもの全員の笑い声だ。


「では、中央戦線の空は任せたぞい、リコリス1」

「うん。ブービーが来るまではしっかり支援させてもらうよ!」


 前に出された手を力強く握り返すアスカ。

 ゲームの世界のクロムの手は、VRの見た目そのまま、老獪らしい皺だらけでごつごつとしたものだった。



明日は二話更新予定。

ついにあいつが登場。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまりカルガリー空港から飛び立ってしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 盛り上がってまいりましたぁぁぁぁぁぁ!!!!
2021/03/06 21:11 退会済み
管理
[一言] 『ユニフォーム強襲上陸作戦』で尻込みしてるプレイヤーが居るけど、同じくらい良い笑顔になってる奴らも居るんだろうなぁ。 運営の伏せ札とプレイヤー側の伏せ札勝つのはどっち?
[一言] とうとう決戦! 盛り上がって来ましたね。 しかし今更ながら…… 第一回目のイベントの規模としては破格すぎませんかね?ねえ運営さん?
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