13 アルバの頼み
本日一話目、更新です。
ガイルド山岳中腹の山道。
絶壁に作られたその道中をアルバを小隊に加えたアスカとフランは上層へと向け移動していた。
「アルバ、さっき話していた場所はこの先なの?」
「ああ。この道を進むと崖があるんだが、その上がおそらくこの山岳の頂上だ。そこへ飛んでもらいたい」
曰く、その場所は遠くから確認すると採取ポイントがあるらしいのだが、崖の上と言う立地からワイヤーアンカーでは引っ掛ける場所がないのだという。
そこでアスカに飛んでもらい、採取ポイントを確認してほしいというのだ。
「アスカはレイ装備か攻撃魔法を持ってこなかったのか? 山岳は物理防御特化の敵が多いから、最低でもレイ装備を一つ持ってくるのが基本だぞ?」
「レイ装備と攻撃魔法?」
『レイ装備は銃ならば弾丸が、サーベルならば刀身が魔法属性となる装備です。弾薬の代わりにMPを消費して攻撃、剣の場合も展開する時と展開中の毎分、一定量のMPを消費します。攻撃魔法は、エグゾアーマーの魔導石スロットにセットした魔導石を使用して放ちます。それぞれに属性を持ち、火力、効果範囲に長けますが、上位の強力なものはマジックアーマーのみが使用できます』
「ほう、支援AIか」
「アイビスって言うの。私初心者だから、いろいろ教えてもらってるんだ。アルバもレイ装備なの?」
「あぁ、そうだぞ」
アルバは腰につけていたサブマシンガンを取り出してアスカに見せる。
[武器]ベルベッタ TierⅢ
種別:レイサブマシンガン
火力:124
標準的なレイサブマシンガン。
10発毎に5MPを消費する。
「さっき撃ってたのはこれだったんだ」
「射程は短いが連射力と火力に優れるマシンガンだ。山岳は遮蔽物も多くて接近戦になりやすい。アサルトライフルよりはこっちだな」
「さっき使ってた剣も?」
「あれは基本が実体剣で、魔力を通すと刃先がレイサーベルになるハイブリッドソードだ。物理防御、魔法防御両方に対処できる武器だな」
「なるほど、そういう武器もあるんだね」
その後もアルバからいろいろと聞くことが出来た。
彼が身に付けていたのはソルジャーアーマー。
特徴がないのが特徴と言った感じのエグゾアーマーで、弟の翼がよく見ているロボットアニメをそのまま身に纏ったかのような風貌だ。
他にもアサルトアーマーやストライカーアーマーも使用していて、アサルトは火力よりも装甲重視、ストライカーは近接装備のみで固めているそうだ。
特にストライカーは専用の刀などもあり、人気が高いという。
「フランはマジックアーマー装備してるけど、マジックは火器持てないの?」
「ん~そんなことないよぉ。ちゃんと槍とか銃とか持てるんだけど、私は装備してないだけぇ」
「どうして?」
「このアバターに武器は無粋でしょ?」
「「…………」」
フラン再びのドヤ顔決めポーズ。
その完璧なしぐさにツッコミを入れる言葉を、アルバとアスカは持ち合わせていなかった。
フランのドヤ顔をスルーし、山道を歩み進む。
無視するなと言うフランのツッコミも躱しながら歩くことしばらく。
三人は目的地である山道の頂点付近にたどり着いた。
頂点付近の地面は草が少なく、うっすら雪まで積もっているがゲームゆえか寒さはない。
周囲には遮蔽物がほとんどなく、見渡す限りの山岳パノラマ風景が広がっている。
遠くを見ればミッドガルの街と周辺の緑が、山岳方向には相変わらずの険しい山々がその岩肌を見せつけてくる。
「ついたぞ。ここだ」
アルバが指さしたのは山道が岩肌に沿って下っていく手前、大きな壁のような絶壁。
その絶壁は遠くから見る限り上部は平面でそれなりの面積がありそうだ。
奥には多少木が生えているそうなのだが、下からはよく見えない。
「あの上が気になってるんだが、アンカーをかける場所がなくてな」
「確かにあれだけ高いとスラスターを使ったジャンプでも届かないねぇ」
「スラスターの出力を上げるか、壁登り用にカスタマイズしたアーマーならイケそうだが、今はまだそんなアーマーは作れないからな」
「それで私の出番ってわけね」
「頼めるか?」
「お任せあれ」
アスカは笑って答える。
絶壁の高さは一〇メートル以上はあるが、フライトアーマーからすると障害ですらない。
「アスカ、これを」
「これは……フック?」
「上に着いたら適当な地面に突き立ててくれ。それで俺も上に上がれる」
「わかった」
アルバからアンカーワイヤーを引っかけるためのフックを受け取り、飛行を開始する。
まずは絶壁の反対方向へ向けて離陸。
高度は上げず地上スレスレを飛行、速度を稼いだ後四五度ほどバンクさせ、宙返りを行う。
シャンデルと呼ばれる機動飛行を行い高度を稼ぎ、そのまま絶壁の上に着陸した。
「うわぁ、ここ、すごいや」
絶壁の上は予想以上の広さがあった。四方のうち三方向は崖となっているが、頂上へと山肌が伸びていく一方向だけは背の低い木々が並んでいた。そしてこの丘の中央付近には綺麗な花々が咲き誇っていた。
下の街道以上に遮るもののない空間。周りを山岳に囲まれ、雲さえも手が届きそうになるほどの高所に出来た花畑は、さながら世界遺産か空中庭園のように美しかった。
「あの花畑、採取ポイントなんだ」
中央の花畑の中に採取ポイントを示す光が輝いている。数はぱっと見でも一〇かそれ以上。
「おっと、アルバのフックを刺さないと」
風景に見とれてしまったアスカだったが、気を取り直すと近くにあった岩にフックを差し込み、アルバに合図を送った。
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崖下では離陸から斜め四五度宙返りを行ったアスカをアルバとフランが見つめていた。
「ほ~見事な機動だな」
「だよね~あんな綺麗な飛行できるんだねぇ」
「俺がβで試したときは数十秒で墜落したんだがな」
「アルバもβテスターだったんだ。私もβで試したけど、壁に向かって突っ込んでいくだけだったよぉ」
この二人はβテスター組だ。
βテスターには優先的に正規品が販売されたため、初期生産分の内結構な割合をβテスターが占めている。
彼らβテスター達はβテストですべてのエグゾアーマーを試し、フライトアーマーは欠陥品という結論に至っている。
しかし、彼らも好き好んで欠陥品と決めつけた訳ではない。
操作性は劣悪ながらも制空権という圧倒的な優位性。
他のアーマーを圧倒的に凌駕する速度と機動力、フライトアーマー系統技術ツリーの将来性。
それらは十二分に魅力的であり、使いこなしたいと思う者も多かった。
何度も墜落し、激突し、モンスターに挑み、対人戦もテストした。
だが、ある者は高高度落下に対する精神障害を発症し、ある者は迫りくる壁の速度に恐怖し、ある者は飛翔速度にカウンターを合わされ一撃死し、ある者は誘導兵器で撃墜され、散って行った。
「落下や激突も怖ぇが、なによりMPの燃費がひどすぎるんだ」
「毎秒消費じゃあねぇ。レイ装備や魔法攻撃使ったらすぐなくなっちゃうよ」
「βテストで最後までフライトアーマーにこだわってた奴の結論は、すべてをフライトアーマーに捧げて最低ラインのちょっと下、だそうだ」
「最もプレイヤースキルに依存するアーマーとは言え、あんまりだよねぇ」
『Blue Planet Online』において「魔法」には術名が存在するが、剣や槍、銃などの武器を使用した「攻撃技」にあたるスキルやアーツがない。
それは銃には技名をつけにくいという理由もあったが、開発陣営が種類が豊富な攻撃方法をプレイヤーが自由に組み合わせて自分だけの技を作り出してほしいというのが本音。
その為『Blue Planet Online』は他のゲームに比べてプレイヤースキルに依存するところが大きい。
中でも最たるものがフライトアーマーだ。
開発がぎりぎりまでひっ迫していたせいもあったが、姿勢制御や推力など繊細な部分にシステム的なアシストが皆無のままでリリースされてしまったのだ。
結果、βテストで行われたβテスター達のフライトアーマーテストプレイは阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
「でも、アスカはそんなこと関係なさそうだよねぇ」
「飛ぶのが楽しそうだもんな。さっき飛んで見せてもらった時もすげぇ楽しそうだった」
「あれだけ飛べるのにどれだけ練習したんだろうねぇ」
「掲示板で話題になるほどだ。相当苦労してるのは間違いない」
「よっぽど空を飛びたかったんだろうねぇ」
「だろうな……」
二人がアスカが飛行することに対してどれだけの思いを持っているかを考えていると、上から合図が来た。
「早いな、もう撃ち付けてくれたか。さすがだな」
「……ねぇ、アルバは撃ち込んだワイヤーを巻き上げるだけで上に行けるけど、私はどうしたらいいの?」
「え?」
「えっ?」
「「…………」」
顔を見合わせる二人に、沈黙が訪れた。
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下に合図を送ってしばらく。
なかなか登ってくる気配がなかったが、岩に取り付けたフックにアンカーワイヤーが撃ち込まれ、崖下から人影が現れた。
左手のワイヤーを巻きながら、崖を登ってきたアルバ。
が、なぜか背中にはエグゾアーマーを外した状態のフランがおんぶされている。
「えっと、二人はそういう仲だったのかな?」
「違う」
「にゃはは……これはねぇ、やむを得なかったんだわさ」
辛辣な表情をしたアルバに背負われるフランは苦笑いをしていた。
アスカは飛行で上まで来ることが出来、アルバはアスカが結び付けたワイヤーでよじ登ることが出来た。
しかし、フランだけはここまで登る方法がなかったのだ。
アルバがあれだけ気にする崖上に何があるのかはフランにも興味がある。
崖下に一人置いてけぼりなどという事は安全面を考慮しても御免願うところ。
私も連れて行けとアルバに迫るフランだったが、アルバもそこまで考えてはいなかった。
結局、小柄なフランをおぶって登るという事になったのだが、今度はマジックアーマーが引っかかってアルバの背中に捕まれない。
最終的にアーマーを解除したフランがアルバの背中にしがみ付き、崖をよじ登って来たそうだ。
「で、上はどうなってるのかな?」
エグゾアーマーを再装着したフランはあたりを見渡し、アルバはフックに引っ掛けていたアンカーワイヤーを収納しながら同じように周囲の様子を窺っている。
「これ、全部採取ポイントだよねぇ。はぇ~、すっごい量」
「到達困難な場所にあるだけあって大量だな。これは良い資金源になりそうだ」
「とりあえず全部採取しちゃおうよ」
アルバのワイヤー回収が終わったところで三人は花畑に向かって歩き出す。
すると奥の茂みに敵を表す体力ケージが出現。すぐさま三人は戦闘態勢を取る。
「ふん。そう簡単にお宝は渡してくれないってか」
「お邪魔虫だねぇ」
「トカゲが出ませんように」
三者三様の反応を見せる中、茂みの中から敵モンスターが姿を現す。
それは重厚な鎧を着こんだ一匹の大きなオークだった。
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