88 DAY5レイバード補完計画Ⅰ
オペレーションスキップショット四日目の午後。
女子会を終え、昼食と家事を終えたアスカは再度ログインし、ミッドガルの街へと移動した。
女子会のメンバーに午後の予定を聞いたところ、フラン、ヴァイパー2はイベント攻略に参加、メラーナはリアルで宿題、キスカは弾丸用の鉱石採取との事だった。
対するアスカは朝の緊張抜けから回復せず、用事もあったことから完全オフとしたのだ。
アスカがイベントに参加した理由はフライトアーマーを製作するときに必要な素材をイベント景品から入手することだったが、すでにポイントは大量に入手している。
累計ポイントはステータスのイベント詳細画面で確認でき、アイビスに聞いてみても『素材用だけでしたらすでに十二分です』という回答が帰ってきているのだ。
なので今日はポイント獲得には動かず、イベント中に出来たもう一つの目標『打倒ブービー』に向けての準備に勤しむことにする。
そんなアスカが向かった先は、馴染みとなったダイクのアーマーショップ。
ドアベルの音を響かせながら入る店内は、イベント期間中という事もあり人影が全くなかった。
静かな店内を唯一の客であるアスカは戸惑いもなくカウンターへ向けドカドカと歩いて行く。
「ダイクさん、こんにちは!」
「おう、嬢ちゃんか。久しいじゃねぇか。上陸作戦はどうした? まだ終了してねぇだろう?」
案の定、カウンターで頬杖を突き暇そうにしているダイクへ声をかける。
するとダイクは眠そうにしていた表情から一変。
まるで孫か娘でも見るかのような笑顔でアスカを出迎えた。
「ちょっと相談したいことがありまして。今、暇ですよね?」
「おうおう、言い草じゃねぇか。こう見えて暇ってわけでもねぇんだぜ?」
「……お客さん、いませんよね?」
「店内はな。裏じゃあ支給用の弾薬やら拠点構築用の装甲板やらの製造で大忙しよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「おうよ。嬢ちゃんが使ってる弾薬も、もしかしたらウチで製造した奴かもな」
まさにイベント特需。
大規模レイドイベントには関係ないと思っていた街の住人達だが、実際には支給品の製造で大きく貢献してくれていたのだ。
アーマーショップであればダイクの様に弾薬や装甲板、薬屋なら各種ポーション、農家なら薬草から食料、アイテム屋なら火薬や土嚢など、内容は多岐に渡る。
イベントマップでは多少の制限はあれども大量に支給される物資にこのような裏話があったのは驚きだが、今日の本題はそこではない。
「とりあえず話を戻して、相談なんですけど」
「おうよ。エグゾアーマーの事なら何でも聞け」
「えっと、TierⅢのレイバードなんですけど、機動性を上げる方法って何かないでしょうか?」
「機動性? どういうこった?」
額に疑問符を浮かべるダイクに、アスカは詳細を説明した。
僚機が全て落とされ、強化状態になったブービー相手には飛雲でも厳しい事。
レイバードであれば速度で互角になるが、機動性が壊滅的でまともにドッグファイト出来ない事。
そして圧倒的な火力差。
これらの問題点が改善されなければ、アスカが一対一でブービーに勝つ事は難しい。
アイビスに相談し、翼の協力も仰いではいるが、今のところ有効な手立ては見つかっていない。
ここは少しでも意見が欲しいのだ。
「なるほど……確かにレイバードは速度こそ優れてるが、機動性に関しちゃTierⅠの乙式三型に負けてるからな」
「私、どうしてもあいつに一対一で勝ちたいんです。今まで散々いい様にやられて、私も、友達も落とされた借りを、返したいんです!」
眉間にしわを寄せ、強い眼差しでダイクを見るアスカ。
その瞳には自分だけでは解決できない悔しさと、食らいついてでも落としてやるという覚悟が現れていた。
あまりの熱い視線に思わずたじろぐダイク。
しばし考えるような表情を作った後、口を開いた。
「そうだな。そう言う事は……」
「……そう言う事は?」
「専門家に聞いてみると良いぜ」
「えっ?」
予想外の回答に呆気にとられるアスカ。
ダイクが親指を立て指差したのは、店の奥、工房へと続くドアだ。
アスカが釣られるように視線をドアへと向けた、その瞬間。
「バーーーーーーーン!!!!!」
「えぇっ、ロ、ロビンさん!?」
口で言い放つのと同時にドアをものすごい勢いで開けて現れたのは、フルカスタムアーマー飛雲の製作者、ロビンだった。
「どどど、どうしてロビンさんがここに!?」
「ふふふ、イベント中の特殊クエスト『支給品製造の手伝い』をやっていたのよ。それよりアスカちゃん!」
「は、はいっ!」
「話は聞かせてもらったわ! まったく、どうして私にその話を持ってこないのかしら? フライトアーマーで気になることがあったらすぐに言うように伝えておいたはずでしょう?」
そう、ロビンはアスカに飛雲でなくともフライトアーマーに問題が起きたらすぐに声をかける様にイベント前メールで伝えていたのだ。
だが、アスカ本人はこれを良しとはしなかった。
『エグゾアーマーをカスタムして長時間飛行を可能とし、広範囲を索敵する兵装を装備、戦域のアシストポイントを全てかっさらう』というアイディアはアスカではなくこのロビン立案のもの。
工学系に疎く、製造が出来ないアスカに変わり、手間のかかるマニュアル製作で『飛雲』を作ってくれたのもロビンなのだ。
どう考えてもこれはロビンの世話になりすぎであり、これ以上助けてもらう訳には行かない。
その為、アスカは出来る限りロビンの世話にならないよう、助言を求めないようにしていたのだ。
もっとも……。
「いや、あの……その……」
「ま、アスカちゃんの事だから? 『飛雲を造ってもらったのにこれ以上迷惑をかける訳にはいかない』とか考えてたんでしょうけど?」
「あ、あうう……」
アスカの遠慮から来る行動はロビンにバレバレであった訳だが。
図星を突かれ、完全に縮こまってしまうアスカ。
重ね重ね申し訳なくなってくる。
「もう、私も楽しんでアスカちゃんをサポートしてるんだし、そんなに気にしなくていいのよ?」
「で、でも……」
「でももヘチマもないの! イベントで結果を残したいなら、遠慮なんて考えず使えるものは全部使いなさい!」
「い、いひゃい! いひゃいれふ、ろふぃんひゃん!」
顔は笑顔。
なれども表情に影を落とし、青筋を立てながらアスカの頬をつねるロビン。
勿論、負い目のあるアスカはなされるがままだ。
『アスカ、ここはロビンに助力を頼むべきです』
「アイビスまで……」
『このBlue Planet Onlineは一人で全てを賄える程優しいゲームではありません。自分に足りないところ、劣っているところはそれが出来る他者の助力を得て、前に進んでゆくのが最善です』
むうう、と考え込むアスカ。
確かにアイビスの言う通りなのだ。
飛行隊を結成し、一対一になるシチュエーションに持ち込んでも落とせず、火力で負け、有効となる手立てもない。
ゲーム内の仲間に相談しても、弟の翼に相談しても、今となりで我関せずを言った表情で頬杖をついているダイクに相談しても駄目。
そうなると、もう相談できる相手は、目の前のロビンしかいない。
そして遂に、アスカは折れた。
「うう……申し訳ありません、ロビンさん。力を貸してください」
「勿論、喜んで協力するわよ。……まったく、最初から素直にそう言っておけばいいのよ」
相変わらず申し訳なさそうにこちらを見上げてくるアスカに、ロビンは屈託のない笑顔で返すのであった。
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嬉しさのあまりヘルシンキ空港から飛び立ってしまいそうです!