84 DAY4.G鬼神Ⅳ
本日五話更新。
読み飛ばしにご注意下さい。
本話は四話目になります。
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一騎当千BGM、もしくは作戦実行BGMを流しながらお楽しみください。
猛威を振るう鬼神シーマンズへの特攻作戦。
準備と言えるほどの物もないが、作戦の段取りだけ念入りに確認した後、アルバ達はすぐに行動を開始した。
「各員、攻撃はこちらの指示に従うのじゃ!」
「今のうちに回復と補給を! 彼らが役目を終えたら一気に畳みかけるぞ!」
いったい何をしようと言うのか?
疑問と不安感が表情に現れているランナー達を横目に、アルバはシーマンズの前へと躍り出ると戦闘を継続するランナーも後退させ、後ろにいる仲間達へ目線で合図を送る。
「行くぞ。一回限りだ。次はない」
「おう、まかせろ!」
「奮い立つぜ!」
シーマンズがこちらに視線を向け、刀を霞の構えで構えるのを合図とするように、アルバ達が動き出す。
「いくぞ、小僧にちっこい嬢ちゃん!」
「はいっ!」
「ちっこいは余計ばい!」
「……!」
最初に飛び出したのはストライカーアーマーを身に付けるホーク、ラゴ、今回はソルジャーアーマーを身に付けているホロ、そしてイグの小隊メンバーの四人だ。
全員がスラスターを最大出力で噴射させての突撃。牽制とばかりにホロと無言の愉快な仲間がシーマンズへ向けアサルトライフルを連射する。
「……!」
「射撃は苦手なんやけどね、そうも言っていられんばい!」
この射撃に対しシーマンズは構えそのまま、被弾を一切気にせず、こちらへ向け突っ込んでくるホーク達を見据えている。
「今だ、散開!」
「はい!」
ホークの合図でラゴが抜刀。
ホロ、愉快な仲間もそれまで連射していたアサルトライフルを投げ捨て、近接用の武器を取り出し、構える。
最初に仕掛けたのはレイピアのような細剣を思わせるレイサーベルを持ったイグの仲間だった。
一人だけ他三人に先駆け加速。
ただ一人待ち構えるシーマンズへ向け、文字通り特攻した。
「…………っ!!」
「チェストオォォォォ!」
先に仕掛けたのはイグの仲間。
片手剣のレイサーベルを胸付近に構え、全力スラスターの勢いそのままに突きを放ったのだ。
が、シーマンズはこれを体を捻って躱し、突きの動作により体が伸び切ったイグの仲間へ向け示現流の一撃を見舞う。
HPが八割は残っていたイグの仲間だったが、シーマンズの一の太刀補正がかかった強力な一撃を耐えきれず、そのまま光となって消滅。
そこへ続けてホーク、ラゴ、ホロの三人が襲い掛る。
「その隙、もらったぁ!」
「はあぁぁぁっ!」
「首、寄越さんね!」
イグの仲間を囮にして三方に分散してからの同時攻撃。
即席の編成で最高のチームワークを見せた四人。
その切っ先がシーマンズに届こうか否かと言うまさにその時。
右手の籠手が妖しく光ったかと思うと、シーマンズの持っていた刀が両刃の薙刀に変化したのだ。
シーマンズはその薙刀で難なく全員の攻撃を切り払うと、そのまま頭上で回し始める。
それは竜巻による範囲攻撃の予備動作。
「くそっ、やっぱ駄目か!」
「あと一歩やったんに!」
「皆さん、後は頼みます!」
攻撃を払われ、体勢も崩れているこの状況で竜巻の範囲から三人が離脱するのは不可能だった。
シーマンズが薙刀を振り回す速度に合わせとてつもない強風が周囲を襲い、空気の渦が発生する。
範囲内にいた三人はその強風の力に抗うことが出来ず、ダメージを負いながら上空へと巻き上げられ、旋風の勢いそのままに吹き飛ばされてしまった。
「竜巻は使わせた。次だ!」
「…………!」
「…………!!」
間髪を入れず、次のアクションを起こしたのはイグと愉快な仲間達。
ホーク達が攻撃を仕掛けている間にシーマンズの側面へ回り、竜巻の範囲外で準備を終えていたのだ。
彼らが使用するのはトランポートアーマーが輸送していた大口径対物ライフルと設置式の重機関銃。
本来はトランポートアーマーの小隊仲間が使うはずだった銃火器を借り受け、土嚢も用いた簡易陣地にバイポッドで据え付けると正面のシーマンズへ向けトリガーを引いた。
通常の敵なら数発も浴びればHPが砕け散り消滅する程の威力を持つ大口径銃火器の掃射だが、ハイパーアーマー状態の上強固な鎧を着こんでいるシーマンズ相手には分が悪かった。
悪すぎた。
三人がかりで放つ大量の銃弾は鎧に弾かれ盛大に火花を散らし、鎧を身に付けていない部分に当たってもシーマンズは顔色一つ変えないのだ。
そして銃撃を鬱陶しそうに刀を構えると、再度右手の籠手が光りだす。
それは先ほど同様、刀が魔剣へと変化する予兆。
光が収まるとシーマンズが手にしていた刀は周囲を火の海にする獄炎を放つ赤い両刃の大剣へと変化していた。
シーマンズが大剣を振り上げ火炎を放つ動作に入るが、それでもイグ達はその場を動かずシーマンズへ向け銃撃を続ける。
「ちっ、これだけの火力でも……!」
「…………」
「…………!」
何もない空間を切り裂き、放たれる極大の火炎攻撃。
まるで津波のような炎にイグ達はあっけなく飲み込まれ、消滅した。
「にーちゃん、皆が!」
「止まるな、進め!」
炎に包まれるイグ達を横目で見ながら、アルバ、カルブ、マルゼスがシーマンズへ向け突き進む。
三種類の魔剣のうち二種類を使わせた。
これでこちらが攻撃するまでの間に再使用してくることはない。
最後の一つも、こちらの攻撃では条件を満たせない。
このまま張り付ければ勝機はある。
そう考えたアルバだったが、その視線の先でシーマンズがこちらを見据え妖しくほくそ笑んだのだ。
「……何?」
獄炎を放ち、今だ刀身が熱を持つ魔剣を構えると、右手の籠手が発光。
それに呼応し、魔剣がその形状を変化させる。
現れたのは青紫の光を放つ刀身を持つ長刀。
使用してくることはないと思っていた、雷撃を放つ魔剣だ。
「に、にーちゃん、まずいぞ、これ!」
「あの形態になると魔剣の条件が変わるのか……」
今雷撃を放たれればアルバ達三人への直撃は避けられない。
ここまでか?
苦悶の表情を浮かべるアルバ。
その横をマルゼスが駆け出した。
「マルゼス!?」
「こうなったら仕方ない、タービュランスの仇は任せた!」
マルゼスのエグゾアーマーはタービュランスの突撃攻撃を生かすためスラスターが強化されている。
そのスラスター類をすべて全力で吹かし、シーマンズとの距離を一気に詰める。
手に持っているのはイグ達同様トランポートアーマーから借り受けた槍と小型の盾。
マルゼスがスラスター全開のまま跳躍し、盾で身を隠しながら槍を突き出すのと、シーマンズがバチバチと言う音を立てながら紫電を纏う長刀を霞の構えから突き出すのはほぼ同時だった。
が、マルゼスの槍がシーマンズの大袖と冑に阻まれたのに対し、シーマンズの一撃はマルゼスが構えた小型の盾を易々と貫き、エグゾアーマーの装甲を、そしてマルゼスの体をも貫通した。
同時に発生する魔剣の雷撃。
本来は切っ先から放たれ、遠く離れた敵に高速で襲い掛かる一撃。
しかし刀身にマルゼスが串刺しになっている事で雷撃は放たれず、代わりにそのダメージ全てをマルゼスが受ける形になった。
本来であれば複数人を巻き込み、多大なダメージを与える雷撃攻撃を一身に受けたマルゼス。
ダメージ量は明らかにオーバーキルであり、一瞬でHPバーが砕け散り、弾け飛ぶように消滅する。
多大な犠牲を払い、鬼神シーマンズが使用する三種類の魔剣も示現流の一撃もすべて使わせた。
考えられる限り最大のチャンス。
皆の貢献に答える為にも、と、アルバ、カルブのアサルトアーマー二人がシーマンズへ襲い掛かる。
アルバは右手にトランポートアーマーから借り受けた盾を構えながら、カルブはその後方から背面装備の銃を連射しながら間合いを詰める。
一方のシーマンズはマルゼスへ繰り出した一撃の硬直から回復し、通常形状に戻った刀を腰だめに構え横一線。
その一撃はアルバの構えていた盾を砕き、重量級であるアサルトアーマーを悠々弾き飛ばす。
前方にいたアルバが弾き飛ばされたカルブは、一瞬強張った表情をするも怯むことなくそのままシーマンズへ向けさらに接近。
パイルバンカーを腰だめに構え、アクティブ。
目の前のシーマンズに向け撃ち放つ。
これに対しシーマンズは笑止とばかりにニヤリと笑うと、目を一際青く光らせながら刀を上段へと構え渾身の力でもって振り下ろした。
拳の間合いと刀の間合い。
どちらが有利かなど確かめるまでもない話。
シーマンズの凶刃がカルブを捉えようかと言うまさにその時。
振り下ろされた刃がピタリと止まったのだ。
驚愕の表情を見せる鬼神シーマンズ。
何事かと動きが止まった自分の腕を見ると、自慢の剛腕にアンカーワイヤーが絡みついていたのだ。
シーマンズの一撃で弾き飛ばされたアルバが盾と右腕を、そしてHPを犠牲にしてまで守り切った左手のアンカーワイヤーをシーマンズの腕目掛け撃ち放ったのだ。
――さらに。
「【フォースバインド】ッ!」
「グガアァァ!?」
メラーナが拘束魔法を使用し、シーマンズの動きを妨害する。
アルバのアンカーワイヤーとメラーナの拘束魔法。
ハイパーアーマー状態のシーマンズ相手には時間にして一秒あるかないかの時間しか稼げないが、それで十分。
十二分。
「カルブ、今よ!」
「少年、右の籠手だ! 狙え!」
「おっしゃああぁぁぁぁ!!」
「グオオオォォォォォォ!?」
そう。
カルブが、否。全員が命を賭して狙ったのは鬼神シーマンズの心臓でも、頭部でもなく……刀を魔剣に変化させる籠手だったのだ。
アルバのワイヤーとメラーナのバインドに縛られ動かすことのできない腕へ向け、全員の思いを込めた一撃が放たれる。
強烈な炸裂音と共に撃ち出されたバンカーはシーマンズの腕を貫き、刀を変化させる籠手を完全に破壊した。
被弾エフェクトが盛大に咲き誇り、周囲に籠手の破片が散乱してゆく。
「よし!」
最高の仕事が出来たと満足感に浸るカルブ。
そこへシーマンズの反撃が襲い掛かった。
「ガアアァァァ!」
「ぐあっ!」
アルバとメラーナ二人がかりの拘束を強引に引きはがしたシーマンズが左手一本で刀を振るい、至近距離にいたカルブを盛大に切り上げのだ。
カルブのパイルバンカーは確かにシーマンズの右腕と籠手を完全に破壊した。
だが、ハイパーアーマー状態であるシーマンズはどんな強力な攻撃やダメージを受けようともノックバックを起こすことはないのだ。
切り上げられ、エグゾアーマーのパーツとダメージエフェクトを散らしながら地面に叩きつけられるカルブ。
慌てて体勢を立て直し、起き上がった視線の先にあったものは……左右二連式馬上筒を構えた、シーマンズの姿だった。
「あっ……」
銃口を向けられ、一瞬硬直したカルブへ向け、シーマンズは躊躇いなく引き金を引いた。
放たれた散弾は切り上げと落下ダメージにより残りわずかとなっていたカルブのHPを全損させ、その姿を光の粒子へと変換させる。
カルブを屠ったシーマンズはカルブの消滅を見届けることなく、銃口を離れた位置で動けなくなっているアルバへと向ける。
カルブがパイルバンカーを撃ちこむ僅かな隙を作り出すことに成功したアルバだったが、エグゾアーマーは満身創痍。
シーマンズの一撃を受けた右のショルダーアーマーは破壊され、腕部のエグゾアーマーには致命的な損傷を表す火花が散っていた。
スラスターを吹かすためのMPも、銃撃を耐えきるだけのHPもない、ただ殺されるのを待つだけの状況。
しかし。
「……ふっ。俺達の、勝ちだ」
アルバは笑っていた。
彼ら達の目的、それはどんな犠牲を払ってでもシーマンズの魔剣を使用不可にする事。
そしてその目的は達成された。
仲間の命を犠牲にして魔剣を使用させ離脱を考えず懐に飛び込み、刀を魔剣に変化させる籠手を破壊し刀を持つための腕も砕いた。
これならば、魔剣による範囲攻撃も行う事も両手で刀を構えて放つ示現流を繰り出すことも不可能だろう。
「……まぁ、アスカは納得しないだろうがな」
シーマンズが引き金を引き、放たれた散弾が襲い掛かるほんの僅かな間に思い浮かんだのは、『絶対に死なせない』『ゲームだからって特攻なんて許さない』と豪語していた鮮やかな緑髪ポニーテールをもつ少女の姿だった。
「ファルクさん、アルバさんが!」
「分かってます! クロム!」
「総員、一斉攻撃! この機を逃すな!」
「いくぞ、あいつらの覚悟を無駄にするな!」
「魔剣がなけりゃシーマンズなんてただのデカい的だ!」
「全弾ぶち込めぇ!」
撃ち終えた馬上筒を投げ捨て、左手一本で刀を構えるシーマンズへ向け残ったランナー達の一斉攻撃が開始された。
アルバの読み通り、右腕と籠手を破壊されたシーマンズは魔剣による範囲攻撃も示現流による強力な一撃も繰り出してくることはなくなっていた。
これに勝機を見たランナー達は攻勢の手をさらに強め、そして。
<シエラの拠点ポータルを確保しました>
「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
ついに鬼神シーマンズのHPを砕き、ポータルを破壊。
シエラ渓谷突破戦はここに決着したのであった。
シーマンズ軍
鬼人
スキルなし
鬼武人
示現流:最初の一撃に火力ボーナス、ノックバック耐性付与
鬼人兵児:HPの残量に応じて攻撃力アップ
鬼神シーマンズ
示現流家元:最初の一撃に火力ボーナス、ハイパーアーマー付与
鬼人総大将:HP30%以下で常時ハイパーアーマー、防御力、攻撃力アップ
戦略殻:刀を状況に応じて変化させる。炎の大剣、雷の長剣、風の薙刀
・火炎攻撃は遠距離物理攻撃に反応。
対物ライフル等の高火力狙撃銃でノックバックが発生するような射撃攻撃を受けると発動。カウンター気味に射撃地点へ向け大剣を振るい、狙撃手ごと辺り一面を火の海に。
・雷撃攻撃は遠距離魔法攻撃に反応。
一定の魔法攻撃ダメージが蓄積されると発動。刀を太刀へと変化させ、後衛のマジックアーマーに向けて雷撃を放つ。
・竜巻攻撃は近距離攻撃に反応。
一定の近接攻撃によるダメージ、及び一定人数に囲まれると発動する。シーマンズのくり出す攻撃の中で一番危険な攻撃だが、クールタイムが長く、動作が大きい為予兆さえ見逃さなければ対象は可能。
次は掲示板回です。
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