83 DAY4.G鬼神Ⅲ
本日五話更新。
読み飛ばしにご注意下さい。
本話は三話目になります。
3/5
拠点シエラ最深部。
その場所は周りに障害物のないだだっ広い空間が広がり、中央に赤い光を放ちながらポツンと立つポータル。
そしてその前にポータルを守るように身長三メートルはあろうかと言う巨体を鎧甲冑で覆った一人の鬼が手に持った刀を振るっていた。
鬼に相対するのは人の手により造られた機械の鎧、エグゾアーマーを身に纏ったランナー達だ。
自らよりはるかに大きな鬼を圧倒的多数で扇状に囲み、絶え間なく銃弾と斬撃を見舞うその光景は一見すると暴行とも取れる状況だが、その内容は真逆だった。
「くそっ、また一人やられたぞ!」
「無双ゲームやってんじゃねえんだぞ!」
「ひゃっはー! 俺たちがモブだぁ!」
「ふざけろ糞野郎!」
圧倒的多数を相手に一歩も引かない鬼。
彼の名は鬼神シーマンズ。
鬼人兵と鬼武人を率い、この拠点シエラを護るネームドエネミーだ。
その戦闘はまさに圧巻。
数多の攻撃を受けようとも怯むことなく太刀を振るい、ランナー達を次から次に光の粒子へと変換させているのだ。
「引くな! 攻撃の手を止めてはならぬ!」
「分かってるよ!」
「このままだとあの野郎を倒す前にこっちが全滅しちまうぞ!」
対シーマンズ戦を仕切っているのは、先日のゴルフ要塞攻略戦で総司令を務めた老兵、クロムだった。
彼はシエラ渓谷南側山林部での攻防戦の後、下山。
フレンドやその他数名を引きつれ、先に拠点シエラを攻めていた機動部隊、特効部隊と合流。
最深部まで攻め込み、鬼神シーマンズ戦が開始された後は主に後方支援として動いていた。
その状況が一変したのは、鬼神シーマンズのHPが八割を切ってから。
当初刀と馬上筒のコンビネーションの攻撃スタイルが一変。
刀を魔剣へと変化させての範囲攻撃が主体となってしまったのだ。
これによりここまで攻め込んだ機動部隊と特効兵器部隊の大多数が死に戻り。
戦力が大幅ダウンし、統率も失いかけた所を範囲攻撃の被害を免れたクロムが立て直した。
だが、シーマンズの攻撃の手は止まらない。
何度も魔剣による範囲攻撃で友軍を失いながらも戦闘を続け、なんとかシーマンズのHPを残り六割まで減らすことに成功した。
さらにシーマンズの攻撃パターンにも見当がつき、状況を打開する目処も付いたのだが、肝心の戦力がもはや風前の灯火。
――このまま一度下がり、態勢を立て直すべきか?
そう悩むクロムのもとに見知った顔の増援が現れたのは、まさに僥倖だった。
「クロム、ここにいましたか」
「ファルクか!」
「俺達もいるぜ、爺さん」
「イグもおるのか! こりゃあ助かるわい!」
落下したマルゼスを救援したファルク達が周辺のランナーにも声をかけ、特効兵器を装備したランナーを含めた数十人の増援となって鬼神シーマンズとの戦いに駆け付けたのだ。
ファルク達からしても、この場にクロムがいた事は幸いだった。
彼が状況を判断し、指揮をしているというのなら連携が極めて取りやすい。
「部隊を再編する! 皆の者、ここが正念場ぞ!」
「クロム、奴の攻撃パターンを教えてください。戦いながらで構いません」
「あい分かった!」
「アサルト隊、続け! 前線を再構築する!」
「ストライカー! タイミングをしくじるなよ!」
「ダメージを負った人たちはこっちやけんね! 女神さまが癒してくれるばい!」
「ちょ、ちょっとホロ?!」
クロム、ファルクに指揮を任せ、残存していたランナーと増援のランナー達をアルバ、ホークらが従え分散。
今だ気迫衰えぬシーマンズへ向け攻撃を開始する。
「各員、戦いながら聞け。鬼神シーマンズ戦におけるカギは如何にあの魔剣による攻撃の被害を出さないじゃ!」
「で、どうするんだ、糞爺!」
「ホークはせっかちじゃの! それを今から話そうというのだわい!」
クロムの説明によれば、鬼神シーマンズの使う魔法剣による範囲攻撃は全部で三種類。
両刃の大剣による火炎攻撃。
刀身の長い太刀を用いての雷撃攻撃。
そして両刃の薙刀による竜巻攻撃。
「どうやって対処する?」
「それぞれに発動条件があるのじゃ。それを逆手に取り誘発、こちらの被害を最小限でとどめた後、再発動までの間に叩く」
アルバの問いに答えるクロム。
攻撃パターンが変わった直後は見当もつかなかった発動条件だが、これだけ何度もくり出されれば嫌でも分かるという物。
そしてランナー側の魔法攻撃にクールタイム、リキャストがあるようにシーマンズの魔剣にも一度使用してから再発動まで一定の時間を要するという。
「すげぇ! この短時間でよくそこまで把握できたな、爺ちゃん!」
「ふぉっふぉっふぉ、伊達に長生きしとらんよ」
カルブの軽口にもそつなく返すクロム。
続けてそれぞれの発動条件をこの戦場にいる全員に伝達し、周知させる。
これを把握しておかなければ自分どころか周囲の味方にも多大な被害が及ぶ。
シーマンズとの戦闘を続けるランナー全員がクロムの言葉に耳を傾け、発動条件を頭に刻み付ける。
なお、当然だが彼が長生きしてるように見えるのは古老感あふれるアバターのせいであり、リアルで長寿という訳ではない。
「時間をかければこっちが不利だ」
「ですね。消耗戦は御免です」
「…………」
イグ、ラゴ、愉快な仲間達が意見の統一を見せ、刀を構えるシーマンズへ向け攻撃を開始。
魔剣の発動を誘う。
対する鬼神シーマンズはその誘いを知ってか知らずか、クロムの見立て通りの条件で刀を変化、魔剣による範囲攻撃を放ってくる。
が、いくら強力な攻撃と言えども、来るのが分かっていれば対処は可能。
火炎攻撃、雷撃攻撃は生き残った後方支援型のアームドビーストとメディックアーマーの張るシールドで防ぎ、巻き込まれると致命傷となりえる竜巻攻撃は発動前の予備動作を見極め、攻撃範囲から速やかに離脱する。
無論、全員が無傷、被害なしとはいかないが、それでもクロムとファルクの統率等により順調にシーマンズのHPを削り、残り三割まで減らすことに成功した。
「よし、もう一息だ!」
「イケる……イケるぞ!」
「残弾はまだあるわ。どんどん行くわよ!」
最初の四割よりもはるかに効率的、かつ低被害で稼いだ三割分のダメージ。
このまま押し切れる。そう考え、士気の上がるランナー達。
だが、鬼神シーマンズも黙っていない。
刀を構えながらその場で静止すると、雰囲気が一変。
体から陽炎が立ち昇ったかと思うと髪が白髪化し、目は青く光り出したのだ。
まるで夜叉のようなその風貌にも一瞬気圧されるが、気を持ち直し再度攻撃を開始するランナー達。
だが、先ほどまではノックバックを発生させていたはずの攻撃を気にも留めず、与えられるダメージも明らかに減少している。
そして、刀を寝かせ腕を顔の付近で交差する『霞の構え』と呼ばれる構えからスラスターを全開にしての突撃。
後衛を護ろうとガードに入った特効兵器を持ったアサルトアーマーが防御ごと貫かれ、半分以上あったHPが一瞬にして全損。
光の粒子となって消滅してしまったのだ。
「なんだ、今の一撃!」
「鬼武人と同じ示現流か!?」
「馬鹿言わないで! 特効兵器を持ったアサルトアーマーが一撃なのよ!?」
「奴は鬼武人の上位種だろ? 同格かそれ以上のスキルだろ!」
頼みの綱である特効兵器が一撃とあって、動揺を隠せないランナー達。
だが、それでも攻撃の手を緩めることはない。
近接攻撃、遠距離攻撃、魔法攻撃。鬼神シーマンズの動きを何とか止めようとありとあらゆる攻撃を叩きこむ。叩き込み続ける。
しかし……。
「駄目だ! あいつ、ハイパーアーマーだ!」
「拘束魔法も効果がありません!」
「くっ、HPが一定以下になった時に発動するバフスキルか!」
「もう駄目だぁ……おしまいだぁ……」
全ての攻撃を受け付けず、与えられるダメージもごくわずか。それに対し攻撃力は明らかに上がっている。
一騎当千とはまさにこのことを言うのだろうが、とんでもない事にそれをやってのけているのは敵である。
火力の上がった分回復が追い付かなくなり、ハイパーアーマーで怯まない分対処が間に合わない。
ランナー達も次第に消耗し、追い詰められてゆく。
「クロム、どうする? このままだとヤバいぞ……」
「ぬぅ……よもやここまで手強いとは……」
損傷したアーマーを回復させながら、ファルクとクロムが声を掛け合う。
両名とも指揮しながら戦闘には参加していたのだが、通常ならまだしも夜叉状態になってからは押される一方になっていた。
お互いに山林部を踏破しそのままここまで攻め込んだため、使用しているエグゾアーマーが山林部用のソルジャーアーマーなのだ。強力なボスとの戦闘は考慮していない。
周りの特効兵器を持たないランナー達もマジックやメディックなどの支援型エグゾアーマーを除けば似たような兵装であり、シーマンズの範囲攻撃だけでかなりのダメージを負ってしまう。
「せめて、あの魔剣……範囲攻撃さえ止められればのぅ……」
クロムが憎々しくシーマンズの持つ剣を睨みつける。
僅かな時間で良いから、あの魔法剣さえ封じることが出来さえすれば、今いる全ランナーの総攻撃で鬼神シーマンズを倒すことも可能だろう。
だが、それを止めるだけの術が、何一つ思い浮かばない。
「ファルク、クロム、大丈夫か?」
「アルバですか。大丈夫です」
「この程度。まだまだ余裕、と言いたいとこなのじゃがな……」
「……策はあるか?」
「……いや、ありません」
「…………」
すこし考えた後、押し黙るファルクとクロム。
しかし彼らと付き合いの長いアルバは、その雰囲気から何かを察した様だった。
「…………」
そしてファルク、クロム同様考え込んだ後……。
「……ここにアスカがいなくて良かったな」
そう、一言呟いた。
「アルバ?」
「お主、何をする気じゃ?」
「俺達であの魔剣を何とかする。ファルク達は一斉攻撃の準備を頼む」
「なんじゃと?」
「正気ですか!?」
アルバの言葉の意味を問う二人の言葉を無視し、アルバはシーマンズと戦闘を続ける一団の脇へと移動した。
そこにいるのはここまで共に来たメラーナやイグの小隊、そしてマルゼスだ。
「あれ、にーちゃんどうしたんだ?」
「何か問題でも?」
長時間続くボス戦に疲労感を漂わせる一団を前に、アルバは深く、そして重く口を開く。
「お前達、友軍の勝ちのために命を投げ出す覚悟はあるか?」
「えっ?」
「ど、どういうことですか?」
いきなり命を投げ出せと言われ、驚きの顔を見せるラゴにメラーナ。
その表情を抑える様に、アルバは作戦を皆に伝えた。
成功すれば夜叉状態の鬼神シーマンズから魔剣を奪い去り、一斉攻撃を仕掛けるチャンスを生み出することが出来る。
だが、その代償として……。
「おそらく、俺達は全員死に戻る。あの鬼気迫るシーマンズの太刀を正面から受ける覚悟と度胸がなければ、成功はない。それでもやるか?」
アルバの言葉に反応し、全員が今だランナー達を相手に暴れまわる鬼神シーマンズを見る。
正直、目を見るだけでも身の毛がよだつほどに恐ろしい外見。
イベントに特効のある兵器を装備して尚、一撃で致命的な攻撃を放ってくる、巨大な鬼。
あれと正面から対峙し、臆することなく玉砕覚悟で特攻することが出来るのか?
各々が自問自答し、不安と恐怖に苛まれる、そんな中。
「俺……やるよ!」
声を上げたのはカルブだった。
「カルブ! でも……!」
「大丈夫だぜ、メラーナ。いくら怖いっつってもゲームだし! それに、にーちゃんや空のねーちゃんにばっか良いかっこさせられねぇよ!」
メラーナの問いに笑顔で勢いよく答えるカルブ。
その表情には恐怖など欠片も見えなかった。
そんなカルブに感化されたのか、俯き加減だった者たちが次々に顔を上げる。
「俺もやる。相棒の……タービュランスの仇をまだ討ってないからな」
「カルブが行くなら、僕も行かないと始まらないね」
「皆、さすがやんね。なら、うちもいくばい!」
「はは、じゃあ、俺たちの小隊が参加しないわけにはいかないな」
「…………」
「…………!」
蓋を開けてみれば、全員参加。
この状況で死に戻りした場合、再度の戦闘参加は時間的に見ても厳しく、ポイントと言う観点から見ても決して美味しいとは言えない。
それでも、ここにいる全員が味方の勝利の為、命を投げ出す選択をした。
「よし。ならば……ゆくぞ!」
「まかせろ!」
「はい!」
「やってやろうぜ!」
「博多っ娘の底力ば、見せてやるけんね!」
「…………!!」
アルバの号令の下、全員が一斉に動き出したのであった。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりドーハ・ハマド空港から飛び立ってしまいそうです!