82 DAY4.G鬼神Ⅱ
本日五話更新。
読み飛ばしにご注意下さい。
本話は二話目になります。
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「あの炎は何!?」
突如立ち上った火柱に動揺するメラーナ。
それは周囲も同じようで、直接戦闘に関わっていない者全員がその炎を見上げていた。
「なんだあれは!?」
「知らねぇ! 敵スペルキャスターの魔法攻撃じゃないのか!?」
「あんなにすごい魔法攻撃、見たことないわ!」
「それより今は目の前の鬼武人だ! 次が来るぞ!」
立ち上った火柱は霧散し、辺りには再度激しい戦闘の音が響き渡る。
火柱が一体何なのかは気になるが状況が分からない上、今も鬼武人が血気盛んに襲い掛かってきているとあってランナー達は再度正面の敵へ注力する。
だがしかし、巨大な火柱が消滅して間髪を入れず、今度は激しい雷鳴があたりに響き渡る。
「こ、今度はなんだ!?」
「い、一体何が起きてるの!?」
「落雷か!?」
「いや、空は曇ってるが雷は落ちてない! これは雷属性の魔法攻撃だ!」
「どこからそんなもんが出てんだよ!」
「知るか!」
原因不明の雷攻撃の轟きに、周囲のランナー達は再度浮足立つ。
そして追い打ちをかける様に、次は強烈な突風が周囲を襲う。
「な、何なんだよこれ、天変地異か!?」
「強風、雷、火事、親父!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!」
「み、見ろあれ!」
「な、なんてこと!」
「ランナーが……巻き上げられている!?」
あまりの強風に、ランナー達どころか鬼武人達までその場で踏ん張り、腕で顔を覆う。
一体何事なのかと、半ばパニックになりながらも強風巻き起こる方に視線を向けたランナー達が見たのは、巨大な竜巻により空中に巻き上げられる多数のランナー、アームドビースト達の姿だった。
先ほどの火柱や雷鳴同様、竜巻はすぐに霧散し、立っていられないほどに吹き荒れていた突風も治まってゆく。
だが、それは空中に巻き上げられた者達が空に押し留める力を失うと言う事であり、巻き上げられた高さと勢いそのまま地上へ向け次々と落下する。
呆気にとられその状況をただ見ている事しかできなかったメラーナやファルク達小隊の面々。
だが、巻き上げられ落下してゆくランナーの中にフレンドアイコンを持った者がいる事にホロが気が付いた。
「ま、まずか! あれ、マルゼスさんや!」
「何!? あそこか!」
「やべぇ! あの高さから落ちたら即死だぞ!」
ランナーやアームドビースト達が竜巻により巻き上げられた高さはゆうに数十m。そんな高さから落ちれば一撃死は免れない。
事実、巻き上げられたランナ―達は明らかに落下してはいけない角度で次々に地面に叩きつけられ、残存するHPが一瞬で全て砕け散り光の粒子となって消滅していっているのだ。
そんな状況を見れば、落下してゆくマルゼスの運命も容易に想像できた。
なんとか助けたいとは思うが、今この場にいる全員がその手段を持たずただ見ている事しかできない。
もうだめかと思われたその瞬間、マルゼスは粘りを見せた。
頭から落ちそうだった体勢をスラスターを使って立て直した後、全スラスターを逆噴射。
落下速度を落としながら戦火渦巻く拠点シエラへと消えていった。
「す、すごか! あの状況で立て直しよったばい!」
「まだ生きてる! いくぞ!」
フレンド登録しているファルクやアルバ、ホロがレーダーに視線を移したところ、マルゼスの反応が拠点内部で生存しているのが確認できた。
この状況で各小隊がバラバラになるのはまずいと全員でマルゼスが落下した地点へと急行。
レーダー上で生存は確認できるが、HPゲージが表示されない為どの程度の状態で生き残っているのかが把握できないのだ。
マルゼスの落下地点はそれほど離れている場所ではなかった為すぐにその姿を視認することが出来た。
が、状況は最悪。
マルゼスは空中で姿勢を立て直し減速こそしたが、地上への激突ダメージは避けられずアーマーの損傷、精神的疲労で動けなくなっていた。
幸運にも近くにいたランナー達に救護されているようだが、その一陣へ向け鬼人と鬼武人が攻撃を仕掛けていたのだ。
「うわ! これまずいぞ、にーちゃん!」
「マルゼスの周囲にいるランナーは特効兵器を身に付けていません! アルバ!」
「突貫する! 少年、来い!」
「イグ、鬼人を狙ってください! 鬼人なら通常兵器で止められます!」
「任せろ!」
ファルクの指示のもと、各員の反応は素早かった。
アサルトアーマー装備のアルバ、カルブが鬼武人へ向けスラスター全開で突撃。
ラゴ、ホークが後を追い、残るメンバーが鬼人兵へ向け銃火器を乱射する。
「少年、当たれ! 下!」
「よっしゃあ!」
「「うおおおぉぉぉぉぉ!!」」
「ゲギャアアァァァァ!」
初太刀にはノックバック耐性が付与される鬼武人だが、重量級アサルト二体の全速体当たりには耐えきれず、すさまじい衝突音を残し吹き飛ばされる。
アルバに上半身を、下半身をカルブに強烈タックルされた鬼武人は地面をボールのように転がった後、積み上げられた土嚢に衝突してようやく停止。
起き上がろうとした所に追いついたラゴとホークの斬撃が襲い、そのまま光の粒子となって消滅した。
残る鬼人兵も激しい銃撃とマルゼスの周辺にいたランナー達の攻撃により撃退。
ようやくマルゼスの安全を確保出来たと安堵する一同。
全員がマルゼスの元へと集結し、メラーナが回復魔法をかけHPを回復させる。
「……ファルク達か、すまない。助かった」
「大丈夫ですかマルゼス。何があったのです?」
マルゼスが身に付けているのは昨日も身に付けていたフルフェイスの西洋甲冑のようなエグゾアーマーだった。
だが、今は戦闘と落下ダメージによりフェイスガードと左肩のアーマーが激しく損傷し、各部から動作不良を示す火花と煙が散っていた。
一目で疲労困憊、戦闘継続は困難と判断できる様相だが、マルゼスは力強く答えた。
「鬼神シーマンズだよ。あの野郎、とんでもない攻撃力だ」
「何と……では、先ほどの火柱や雷鳴、竜巻は……」
「全部シーマンズの攻撃だよ」
「……」
全員、言葉を失っていた。
マルゼス曰く、昨日同様、機動部隊隊長として作戦に参加していたマルゼスは、フレンド数名と小隊を結成。
シエラ渓谷を抜け、鬼武人の攻撃を掻い潜り、拠点ポータルまで攻め込んだ。
そこに現れたのが鬼神シーマンズ。
ハイオーガよりも人に近いが、下顎から伸びた牙と額から伸びる角から来る獰猛な顔つきに鎧武者を彷彿とさせるエグゾアーマーを身に纏い、強烈な威圧感を放ちながら拠点ポータルまで攻め込んだランナー達を出迎えた。
そして開始された戦闘。
機動部隊がかく乱し、防御兵装の特効部隊が攻撃を受け止め、攻撃兵装の特効部隊がダメージを与える。
他ゲームのレイドイベントでも多用され、セオリーとされる戦法は鬼神シーマンズにも十分に有効であり、序盤はランナー側の思い通りに事が進んだと言う。
鬼神シーマンズの主兵装は刀と火縄銃に酷似した銃。
刀は鬼武人やランナーが使用する刀をそのまま三メートル級のシーマンズに合わせた物。
火縄銃は鬼人兵が使う者よりも銃身が短い『馬上筒』と呼ばれる火縄銃に酷似しているが、銃身が水平二連銃身になっている上に弾丸が大玉単発のスラッグ弾からバックショットと呼ばれる散弾に変更され、近距離戦闘での火力が強化されていた。
挙句、本来は短銃身であっても両手で扱うはずの馬上筒を片手で扱い、オートリロードらしく使用後装填のアクションがなく、しばらくたってから再使用してきたのだという。
「これだけならまだ何とかなったんだけどな」
「あの炎や竜巻か」
「あぁ」
「あれは何だ? シーマンズは魔法を使ってくるのか?」
「いや、あいつは近接オンリーだ。あれは……魔剣だよ」
「魔剣?」
いきなり湧いて出たそのキーワードに、全員が顔を見合わせ、そして続くマルゼスの言葉で表情をみるみる青ざめさせていった。
通常の刀と散弾銃であればこのまま押し切れると踏んだランナー達だったが、シーマンズの体力を二割ほど減らしたところで変化が起きた。
それまでくり出していた攻撃を中断し、刀を中段、俗にいう正眼で構えると突如として炎が巻き起こり、シーマンズの持つ刀が両刃の大剣へと変化したのだという。
突然の変化に動揺を見せるランナー達に、シーマンズは正眼の構えから大剣を大きく振りかぶり、そのまま誰もいない正面の空間へ向け斬り下ろした。
同時に大剣から火炎が巻き起こり、辺り一面を火の海にしたのだ。
後の雷、竜巻も同様にシーマンズの持つ刀が変化。
魔剣となり、それぞれに対応した攻撃魔法を発生させたもの。
かの威力はすさまじく、特効装備を持ったものでさえ多数の死に戻りがでたと言う。
「初見であれは参った……とてもじゃないけど対処できなかったよ」
ぐったり項垂れるマルゼス。
それにつられ周りも口を重く閉ざす。
だが、戦況は停滞することを許さない。
マルゼスが飛んできた方向、シーマンズが居るであろうその方向から、再度火柱が立ち上ったのだ。
その炎を睨みつけるファルク達。
空を赤く染め上げる炎が霧散すると同時に、行動を開始した。
「私達もシーマンズの所に行きましょう」
「マジか!? やられに行くようなもんだろ!」
ファルクの指示に声を荒げるホーク。
この場にいるほぼ全員が通常ツリーのエグゾアーマーであり、誰一人として特効兵装は身に付けていないのだ。
プレイヤースキルには多少覚えのあるホーク達だが、近接特化型の鬼神シーマンズ相手に特効兵器なしとなるとどう考えても分が悪い。
「マルゼスの話から推測すると特効部隊にもかなりの被害が出ているはずです。戦力は少しでも多い方が良いでしょう」
「で、でもよ……」
「ホーク、君も知ってるでしょう? 特効兵器持ち全員が、高いプレイヤースキルを持っているわけではないと」
「それは……」
ファルクの言葉に、視線を外し顔を曇らせるホーク。
それも当然。
シエラ渓谷攻略戦、ランナー側の切り札として投入された特効部隊だが、プレイヤースキルと言う観点から見れば決して高いものではないのだ。
特効兵器製造にはイベントマップ内で採取できる特殊鉱石が必要になるのだが、それは前線から遠く離れた僻地にある鉱脈から採取しなくてはならない。
プレイヤースキルに覚えのあるものは奥地での採取よりも前線での戦闘でポイントを稼ごうと考えるのは自明の理。
そして奥地で鉱石を採取した者もそれを売却する事はなく、ほとんどが自分用の特効兵器を製造。
採掘で稼げなかったポイント分を取り戻すべく、こうして前線に戻ってきているのだ。
結果、敵に対して極めて有効な戦力である特効兵器部隊だが、戦闘能力と言う点においては前線組に一歩劣るという状況。
鬼人兵や鬼武人相手にはそれで十分だが、ネームドエネミーである鬼神シーマンズに対抗できるかと言うと……。
「うわっ、風が!」
「ま、また竜巻だよ!?」
「ランナー達が……まるで木の葉みたいばい……」
カルブ、メラーナ、ホロが突如発生した突風に姿勢を崩しながら、風上を見る。
先ほどの火柱同様、再度巻き起こった竜巻は大量のランナーを巻き上げ、落下ダメージによりポータルへ強制送還させてゆく。
上手く対処すれば、先ほどのマルゼスの様に落下死する前に姿勢を立て直し減速すれば生還できるが、咄嗟の判断でそれを実行できる者はほとんどいないのだ。
「もう時間がありません。このあたりの敵は他に任せて、私達は行きましょう」
「分かった、行けばいいんだろう、行けば!」
「マルゼス、君はどうします?」
落下直後は満身創痍となっていたマルゼスだったが、メラーナからの回復魔法の他、近くのトランスポートから支給してもらった各種回復アイテムのおかげで、戦闘が出来る程度には回復している。
ファルクからの問いに、マルゼスは力強い視線を返しながら立ち上がった。
「俺も行く。小隊メンバーは全員やられたし、タービュランスも失った。何もできないかもしれないが、このまま黙ってなんていられるか」
そう言ってインベントリから騎乗では使用しなかったアサルトライフルを出現させ、構える。
彼の大事な相棒、タービュランスは先の竜巻によりマルゼス同様空高く巻き上げられ、落下により死亡している。
この場合、タービュランスが復活するには主であるマルゼスが一度自陣ポータルまで戻らなければならず、召喚魔法で呼び出す事も不可能なのだ。
「よし、行きますよ、皆!」
「おう!」
「はいっ!」
「やっちゃるけんね!」
「相棒の仇だ!」
「俺達も行くぞ!」
「……!」
「……!!」
今だランナーとシーマンズ兵が入り乱れる乱戦の戦場を横目にファルク達の一団は拠点最深部、鬼神シーマンズが守るポータルへ向け進んで行った。
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嬉しさのあまり香港国際空港から飛び立ってしまいそうです!