81 DAY4.G鬼神Ⅰ
本日五話更新。
読み飛ばしにご注意下さい。
本話は一話目になります。
1/5
作戦司令本部からかかった『機動部隊突撃』の号令。
今日も出番が来た! と血気盛んにアームドビーストをパートナーに持つランナー達がシエラ渓谷へ向け突撃する。
先立つのは馬や猪、牛などの突破能力の極めて高い部隊、それに続いて狼や猫等の遊撃部隊が続く。
そしてそのさらに後方、アームドビースト部隊に一歩遅れて通常兵装のランナー達がスラスターを吹かしながら渓谷へ向け突き進んでいた。
彼らのほとんどが山間部の戦闘や赤とんぼの空爆により死に戻り、渓谷部の攻略に参加する者たちだ。
アームドビーストを駆ける機動部隊に後れを取るな、と意気込むランナー達の中にアルバとカルブ、そしてフルフェイスアーマーを装備するイグの仲間の姿があった。
「いくぞ少年、準備は良いな?」
「任せろにーちゃん! アサルトアーマー装備なら負けねぇぜ!」
「…………!」
愛用のプレミアムアサルトアーマーを装備するアルバに、気合十分のカルブ。
フルフェイスの彼は声こそ発しないが、伝わってくる雰囲気はやる気に満ち満ちている。
三人はそれぞれが別の地点で死亡したが、全員が赤とんぼの空爆で死亡したため拠点ポータルでの復帰が同時であった。
お互いによく話す間柄ではなかったが、顔見知りであった事、使用するアーマーが山林部に適さず他のメンバーも彼らの到着を待たず進行するとあって彼らは三人で即席の小隊を再編。
こうしてシエラ渓谷攻略戦へと参加していたのだ。
「味方機動部隊が撃ち漏らした敵を掃討する。防御は俺に任せて突っ込め!」
「おう!」
「……!!」
アスカ達航空部隊の先制攻撃で勢いを殺されたところに突撃した機動部隊は、敵騎馬隊の陣形をズタズタに引き裂き、生き残った鬼人兵も大半が落馬。
騎馬が残った者もその機動力を生かすことなく、後続の遊撃部隊とアルバら歩兵部隊に各個撃破されてゆく。
両翼の山林部は既に味方が制圧し、援護射撃が絶えず行われランナー側の有利を絶対的なものにしている。
しかし、敵も黙っているわけではない。
「赤とんぼ接近!」
「空爆、来るぞ!」
「ロケットランチャーと機銃掃射のコンボに気を付けろ!」
《赤とんぼは俺達ヴァイパーチームに任せろ!》
《リコリス1にだけ良い格好はさせないわ!》
「猫型、メディック、シールドを張れ!」
「行くぞ相棒、対空機銃展開! 落ちろ、カトンボ!」
東の空から赤とんぼが飛来。
こちらへ向け降下を始めると、すぐさま胴体下部に搭載したロケットランチャーをこちらへ向け斉射してくる。
先ほどの山林部では大打撃を受けた攻撃だが、二度目、それも渓谷とは言え開けている場所では対処も容易かった。
機動力の高いアームドビーストは回避機動で、シールド発生装置を装備している猫型と支援魔法が使えるメディックアーマーはシールドで、アサルトアーマー達はその巨大な盾でロケットランチャーの攻撃を防いで見せる。
そしてお返しと言わんばかりに赤とんぼへ向け対空攻撃をお見舞いする。
猪型や牛型、狼型などが四肢を踏ん張り、各部に搭載した機関砲を空へ向け射撃。
ランナー達も対空ミサイルや魔法攻撃を駆使し、赤とんぼを迎撃する。
「お前達、無事か?」
「おう! にーちゃんすげぇな! こんな大盾を軽々と扱うなんて!」
「! …………!!」
アルバ達の中にはシールドを展開できる者は居なかったが、直前にアルバがインベントリから取り出した巨大な盾により攻撃を防いで見せたのだ。
カルブはその巨大な盾を簡単に扱うアルバに感心しっぱなしであったが、寡黙なフルフェイスアーマーの仲間は攻撃から身を守っている間にインベントリから対空ミサイルを取り出し、空爆が終了すると同時に盾の守りから飛び出し、空の赤とんぼへ向けミサイルを撃ち放つ。
《Splash one!》
《敵機撃墜! まだまだ行くわよ!》
上空でもヴァイパーチームがギンヤンマに追われつつも、赤とんぼの数を確実に減らしてゆく。
気が付けば残る敵赤とんぼはごくわずか。
味方機動部隊も渓谷を抜け、シエラのポータルがある敵拠点へと攻め込んでいる。
《全軍に通達。機動部隊の渓谷突破を確認。これよりシエラ渓谷攻略作戦、最終段階に移行する》
そうしてかかった、本作戦の要、特効兵器を装備した部隊の作戦開始の号令。
特効部隊は待ってましたと言わんばかりにシエラ渓谷へ入り込むと、進軍速度を緩めることなくその先にある拠点への攻撃を開始する。
「ほう、見事だな」
「すげぇ、敵のHPがみるみる減ってゆくぜ?」
「…………」
特効兵器。
アルバ達も名前を聞いたことがあるだけの兵装だが、実際にみて見るとそのすごさは圧巻の一言に尽きる。
ランナーの侵攻の妨げになった熊撃ちのスラッグガンを物ともせず、敵の近接武器をへし折り、魔法攻撃には怯みさえしないのだ。
猛威を振るう特効兵器部隊。
その攻撃を足掛かりに、通常兵器装備のランナー達が敵防御陣地を次々に食い破る。
山林部からも援護射撃や魔法攻撃が拠点に向け絶え間なく放たれ続けており、敵陣地だというのに鬼人兵に組織だった抵抗を許さない。
「押し込め押し込め! このままいけば勝てるぞ!」
「三日間も足止めを食らった鬱憤を今こそ張らす!」
「くそっ、鬼人兵が単独になっても足掻きやがる!」
「さすがはモデルが島津兵だ! しぶとすぎる!」
「数の有利を生かせ! こいつら最後の最後まで抵抗するぞ!」
山林部に居た鬼人兵は待ち伏せ用の軽装だったが、拠点を守る鬼人兵は重厚な鎧を着こみ、武器もスラッグガンに槍、薙刀、刀などの高威力の武器を装備している。
さらに鬼人兵が薩摩兵児をモデルとしているためか、周辺の部隊との連携を断たれても臆するどころかこちらへ向け攻撃を仕掛けてくるのだ。
「にーちゃん、右だ!」
「まかせろ!」
「……!」
前線を務める特効部隊からやや遅れた位置にいるアルバ達三人にも分断され孤立した鬼人兵が襲い掛かる。
鬼人兵が使用するのは日本刀に酷似した近接武器。
それを上段に構え、スラスターを吹かしながらこちらへと突っ込んでくる。
だが、接近戦はこの三人が最も得意とするところ。
アルバが防ぎ、仰け反ったところをカルブとフルフェイスが突き、鬼人兵は光の粒子となって消滅する。
「よし、楽勝だぜ!」
「このままいけば勝てそうだな」
「…………?」
「何?」
余裕を見せるカルブとアルバだったが、フルフェイスの彼は落ち着いた雰囲気で前線の方を見る。
視線の先には必死の抵抗を続ける鬼人兵を打ち取りながらさらに拠点の奥へと攻め込むランナー達。
だが、その勢いに陰りが見えているのだ。
それと言うのも……。
「鬼人兵の一撃に注意して! やけに火力の高いのが混じってるわ!」
「示現流か!? めんどくさすぎるぞ!」
「名前と鎧の色が違う連中がいる! そいつらが示現流使いだ!」
「このクソが!」
「いい加減にやられろ!」
「接近させるな! 撃ち殺せ!」
「こいつら、体力が減ったら攻撃力が増してるぞ!」
「だあぁぁぁ! めんどくせえぇぇぇ!」
悪態をつきながら、それでも攻撃を続けるランナー達。
彼らの前に現れた新たな敵。
それは拠点深部から出現した『鬼武人』と名のついたモンスターだった。
通常の鬼人より一回り大きな体格に、赤を基調とした鎧甲冑を身に纏ったそれは、傍若無人なランナー達を見るや否や腰に下げた刀を抜刀。
スラスターを全開で吹かしながら襲い掛かって来たのだ。
『二の太刀要らず』と伝わる示現流をスキルとして持つ鬼武人の一撃はアサルトアーマーの装甲を容易く貫き、特効があるはずの兵装を身に付けたランナーにも大ダメージを与える。
さらに、被弾によるノックバックに対する耐性も持ち合わせているようで、生半可な攻撃ではその一撃を止める事が出来ないのだ。
「駄目だ! 通常アーマーの連中は鬼武人を相手にするな! やられるぞ!」
「初太刀が重すぎる! 正面戦闘は無理だ!」
「射撃で足を止めろ!」
「さっきからやってる! 連中、アサルトライフル程度じゃ止まらない!」
「空だ! 航空支援を要請しろ!」
目に見えて増えてゆく損害に対し、ランナー達の足が止まりかける。
何とか状況を打開しようと空にいるフライトアーマーに支援を要請しようと空を見上げるも、先ほどまでそこにいたはずの味方航空部隊はいつの間にかその姿を消しているではないか。
――どうなっている? フライトアーマー達はどこへ消えた?
戸惑うランナー達に、絶望を告げる通信が入る。
《航空支援部隊が敵ネームド飛行隊対応の為離脱した。これより先は航空支援に頼らず戦闘を継続せよ》
「マジかよ!?」
「鬼人兵相手に航空支援なし!?」
航空部隊離脱の一報に愕然とするランナー達。
航空支援が得られない以上、迫りくる鬼人兵を地上戦で打ち勝たなければならない。
「数的有利を生かせ! 複数で鬼武人一人を相手にするんだ!」
「特効兵器をシールドにした奴、度胸を見せろ! ここで下がったら一生笑いものだぞ!」
「くそっ、やってやる! やればいいんだろ!」
「そっちが薩摩魂ならこっちは大和魂だゴルァ!」
半ばヤケクソ気味に鬼武人を相手にするランナー達。
特効兵器で防御を固めたランナーが受け、攻撃後の硬直を他のランナー達が仕留めてゆく。
だが、鬼武人の勢を止められず、数体が前線を抜けアルバ達通常アーマー装備のランナー達に襲い掛かる。
「やべぇ! にーちゃん、来るぞ!」
「ちっ!」
「……!!」
襲い掛かる鬼武人を何とか止めようと、三人がかりで銃を連射して迎撃するが、鬼武人は止まらない。
「……!!」
「止まんねぇぞコイツ!」
「下がれ、少年!」
「チェストオォォォ!」
「ぐっ!」
「にーちゃん、盾が!」
止められないと判断し、盾を持ったアルバが前に出る。
幾度となく敵の攻撃をしのいできたアルバの大盾と鬼武人渾身の一太刀が激突。
盾と刀の矛盾勝負。その軍配は鬼武人に上がった。
キィン、と言う甲高い音を響かせ、両断されるアルバの大盾。今までの攻撃により耐久を減らしていた盾では、鬼武人の一撃に耐えられなかったのだ。
盾を一刀両断した刃はそのままアルバに襲い掛かり、そのHPを大きく減らす。
アルバの背後で隠れていたカルブとフルフェイスの両名も盾を両断されると言う予想外の事態に反応が遅れ、一撃後の硬直に入っている鬼武人の隙を付けなかった。
「何してる! 狙え!」
「あっ!」
「……!」
アルバの叱咤で鬼武人を攻撃しようと動くも、すでに時遅し。
硬直から回復した鬼武人が振り下ろした刀を低く構え、アルバに切り上げによるトドメの一撃を入れようとした、その時。
横から大量の銃弾が鬼武人を襲い、動きを妨害した。
初太刀にはまったく効果がなかった射撃だが、二の太刀となるとスキルの効果が及ばないらしく、被弾のノックバックを受け大きくのけぞる。
「フォースバインドっ!」
さらに射撃方向とは逆の方向から聞き覚えのある声が聞こえると、姿勢を崩している鬼武人の足元に魔法陣が発生。
そこから光の鞭が出現し、鬼武人に絡みつき拘束する。
「カルブ、パイルバンカー!」
「う、うおおぉぉぉぉぉ!」
今だ事態を飲み込めないカルブだったが、どこからか聞こえてきた一言には考えるよりも早く体が反応した。
右手に装備したパイルバンカーを腰だめに構えアクティブ。
拘束されている鬼武人へ向けスラスターを一瞬だけ吹かしダッシュすると、その体へ向けパイルバンカーを打ち込んだ。
周囲に響く炸裂音。
パイルバンカーの一撃は鬼武人が装着しているエグゾアーマーの装甲を易々と貫き、胴体に大きな穴をあける。
以前ハイオーガ戦では耐えきられてしまった一撃だが、それよりはHPがはるかに低い鬼武人を倒すには十二分。
拘束が解かれ力なく地面に倒れ込むと、そのまま光の粒子となって消滅してゆく。
「い、今の声は?」
強敵を倒せた事に安堵すると同時に、先ほどの声の主を見る。
そこにはカルブの小隊メンバーであるメラーナとラゴ、ホロ、そしてイグ達がこちらへ向け駆けてきていた。
さらにその反対側、支援射撃が飛んできた方からはアルバの小隊メンバーであるファルクとホーク。
両小隊とも山林部攻略後は離脱したアルバ、カルブらと合流するため山を下り、フレンドを示すアイコンを頼りにこの場へたどり着いたのだ。
「カルブ、無事!?」
「みんな!」
「まったく、カルブは無理ばっかしよるっちゃけん!」
「アルバ、生きてますか?」
「何とか。危ない所だった。助かった」
「…………」
「…………」
お互い視界の端に表示されるHPゲージで生き残っているのは分かっていたが、その姿を見ることが出来てようやく安堵する各々。
心配そうにカルブの姿を確認するメラーナ、お互いに労をねぎらうかのような声を掛け合うアルバとファルク、無言ながらもお互いに頷きあうフルフェイスの仲間達。
そしてこのまま合流した三小隊でシエラを攻略しようと話が纏まるのと同時に、拠点シエラのポータル付近から巨大な火柱が上がったのだった。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりチャンギ空港から飛び立ってしまいそうです!