12 救援
本日二話目になります。
「あれ、囲まれてる?」
魔力草を採取し、フランのもとへ帰ろうと飛行していたが、どうも様子がおかしい。
フランがいるのは切り立った崖に作られた街道。
ところが、彼女の周りを体長一mほどのトカゲが囲っていたのだ。
フランもトカゲたちには気付いているが完全に囲まれている上にトカゲの数が多く、近付かれないよう警戒することしかできていない。
「いけない!」
アスカは加速し、急いでフランの元に戻る。
トカゲは爪を岩にひっかけているようで絶壁も苦にしない。
フランの見えない下や上からじりじりと近づいて行っている。
フランにある程度近付いたところでトカゲに体力ゲージと名前が表示される。
トカゲの名はロックリザード。
アスカはすぐにアーマライトを構え、フランの間下まで迫ったロックリザードに向けてグレネードを放つ。
ポンッという音とともに発射されたグレネードは緩い放物線を描き、二匹のロックリザードの近距離に弾着。
爆風で吹き飛ばされた二匹はそのまま転がりながら崖下へと落ちていった。
「アスカ!」
「ごめんフラン、遅くなった!」
下からの脅威を排除したアスカはフランの背後をカバーする位置に着陸すると正面のロックリザードへ向けアーマライトによる射撃を開始。
しかし、命中した頭部からは火花が散るばかりでダメージの入りが悪く、ノックバックも発生しない。
「あ、あれ、効いてない?」
「ロックリザードは物理防御が高いんだ。魔法攻撃はよく効くんだけど、こう囲まれたらねぇ……」
フランが目の前まで迫ったロックリザードに向けファイアーボールを打ち込む。
至近距離で魔法攻撃を食らったロックリザードは後方に吹き飛ぶが、致命傷には至らずHPが七割は残っている。
「火魔法の効きが悪い……なら」
与えたダメージに顔をしかめるフラン。
すると先ほどまでは火のような赤い光が通っていたマジックアーマーに刻まれた回路が、みるみる青い光へと変わっていく。
「アクアショット!」
フランから放たれたのは高速で飛び出す水球。
先ほどファイアーボールで吹き飛ばされたロックリザードに直撃、衝撃で吹き飛ばす。
だが、それでも死なず二割ほどのHPが残っている。
「しぶといなぁ、もうっ!」
いまだ生き残るロックリザードを忌々しく睨みつける。
とどめを刺したいが、魔法攻撃を二発で大分後退させることはできた。
今はまだ周囲を囲まれているため、攻撃対象を崖上に張り付く一匹に変更する。
不得意な近接戦闘を強いられているフラン以上にアスカは苦戦していた。
アスカの装備はロングソード、アサルトライフル、グレネードランチャー。
すべて実弾、実体兵器な上に単発火力に乏しく、対処のしようがないのだ。
効果の薄いアーマライトを打ち込みながら接近してロングソードで切り付けてみるも非貫通エフェクトが咲くだけでダメージにもならず、逆にロックリザードから爪で切り付けられHPの二割を持っていかれる。
「痛い! ちょっとひっかかれただけですっごい減った!?」
『フライトアーマーの装甲とHPは全アーマー中最低です』
「知ってましたけどね!」
半ばやけくそ気味にアイビスにツッコミを入れるアスカ。
しかし、状況は悪い。
フランの背中を守っているため遊撃に移れず、攻撃は効果がない。
フランを見捨てれば楽に逃げられるが、ゲーム内で初めて出来た友人を見捨てることなどできない。
「くぅ……しんどい」
「このままじゃ、やばいねぇ……」
打開策が見つからず包囲を狭められ、二人は背中を合わせていた。
その時。
「そこの二人、助けがいるか?」
どこからか声が聞こえてきた。
「え、何?」
アスカは何が起きたか分からない。
「早く決めろ! 助けが欲しいか?」
「うん、たのむよぉ!」
声に応じたのはフラン。
すると上からフラン正面のロックリザードに向けて光線が撃ち込まれた。
光線はロックリザードに対して有効らしく、被弾でノックバックを起こし、動きが止まる。
そこへ上からエグゾアーマーを装着したランナーが飛び降りてきて、ロックリザードを串刺しにした。
串刺しにされたロックリザードは光の粒子になって消えるが、上から落ちてきたランナーは気にすることなく戦闘態勢を取る。
「フ、フラン、何が起きたの?」
自分の後ろで何が起きたか分からず、アスカはたまらずフランに問う。
「ほかのランナーが助けてくれるって! ゲームマナーで乱入するなら相手の了承がいるのさぁ」
「そうなの?」
囲まれていたり窮地に陥っていたとしても、それが本当に危険な状況なのかは分からない。
本当に危険なケースもあるが、あえて敵を集めている場合もあるのだ。
助けた後に「頼んでいない」と言われてはたまったものではない。
その為、このゲームでは部外者が助けに入る場合、助けられる側の了解を得る必要がある。
もっとも、アスカはそんなことよりさっさと助けてよ、とふくれっ面になっていたが。
助けに入ってくれたのは頭頂部が白で毛先に行くにつれて黒くなっているツートンカラーヘアの男性ランナーで、肩、胸、腰、脚部に灰色の角ばったアーマーを装着し、背中にはスラスターを、顔には額から頬にかけてフェイスガードを付けている。
武装は左腕に丸型の小ぶりなシールドに、右手にカットラスのような湾曲した刀身の短い剣。
腰にはサブマシンガンのような小型の銃を取り付けて携行していた。
「こっちの二匹は任せろ。マジックはフライトと背後の三匹を。倒そうとせず谷底へ叩き落せ。それくらいならできるだろう?」
「了解。君、名前はぁ?」
「アルバだ」
フランに名を告げるとアルバは目の前の二匹に向け走り出す。
「よし、アスカ、こっちは私たちで何とかするよぉ。グレネードを使って」
「あっちは任せて大丈夫なの?」
「前衛装備だったし、大丈夫だよぉ。今は目の前のこいつらだねぇ」
フランは戦闘態勢を取る。
アスカも背後は任せ、正面の三匹を相手にするためグレネードの弾を装填する。
「アクアショットォ!」
フランが放ったアクアショットは三発。
牽制の意味を兼ね三匹に向けそれぞれ一発ずつ。
水を嫌ったのかロックリザードたちはアクアショットを回避。
ウルフ並ではないがロックリザードもそこそこの素早さを持つのだ。
何の捻りもなく撃ち込まれたアクアショット程度なら難なく回避できる。
しかし、序盤の雑魚モンスターであるロックリザードには回避した先までの思考は出来ない。
二匹のロックリザードがアクアショットをお互いの方向に向け回避したため回避した先でぶつかり、組み合わさってしまう。
「もらった!」
動きが止まった二匹のロックリザードへ向けグレネードを打ち込むアスカ。
命中より吹き飛ばしを意識した射撃はロックリザード本体ではなく、わずかに横に逸れた位置に弾着。
爆発で二匹を吹き飛ばすと、二匹はそのまま山道横の崖を転がりながら崖下へ落下していった。
「アスカ、上!」
フランの声で上を見ると崖に張り付いたロックリザードがアスカを睨みつけていた。
同族を崖に叩き落された恨みでも持ったのか、アスカをターゲットとして定め飛び掛かるための予備動作に移っている。
「しまっ……」
アスカがこの危険な状況を把握し声を上げようとした瞬間、ロックリザードが後ろ足を踏み切り、飛び掛かる。
フライトユニットは動作していない為急には動けず、装甲の薄さ故防御しても致命傷になる。
それでもとアスカはアーマライトをかざし、少しでもダメージを減らそうと防御態勢。
飛び掛かったロックリザードの爪がアスカを捉えるそのわずかコンマ数秒前、横からの飛翔物体がロックリザードの脇腹を捉え、吹き飛ばした。
「えっ、いまのは……?」
「大丈夫か?」
声の主を探すと、フランの後ろに左腕を突き出しているツートンカラーの髪色を持つランナーがいた。
彼が突き出した左腕と腕に装備されたシールドの僅かな隙間からワイヤーアンカーが伸び、ロックリザードを捉えたのだ。
ワイヤーアンカーの強烈な一撃で吹き飛ばされたロックリザード。
だが物理攻撃であるワイヤーアンカーでは大したダメージにはなっておらず、崖下への落下も免れた為体勢を立て直しこちらへ敵意をむき出しにしていた。
「これで最後、ファイアーボール!」
マジックアーマーの回路の光が再び燃えるような赤になり、ファイアーボールが放たれる。
ファイアーボールはこちらへ攻撃を仕掛けようと構えていたロックリザードに直撃、今度こそ崖下へ向け落下していった。
「ふぅ、乗り切ったかな」
「フラン、ありがとう。もうだめかと思ったよ」
フランとアスカは周囲を見渡し、ロックリザードが残っていないか確認し、そこでようやく緊張から解放された。
「アルバさんでしたよね、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「敬語は要らないしアルバでいい。お前たちも魔力草狙いか?」
アスカはアルバに礼を述べたが、アルバの顔は険しかった。
「そうだけど……」
「魔力草で一山当てるつもりだろうが、慣れないフライトアーマーで来るなんて自殺行為だ。これに懲りたらすぐに下山しろ」
「え、私は……」
アルバはアスカたちを魔力草狙いで付け焼刃のフライトアーマーで採取しに来たランナーと思っているようだった。
実際、フランの話にもあったように慣れないフライトアーマーで魔力草を取りに来て、そのまま全滅する小隊も多かったのだ。
「ふふふ~、その子はフライトアーマーに不慣れじゃないよぉ。むしろ全ランナー中トップの使い手だねぇ」
「何……なら、お前があの噂の?」
「噂?」
「お前たち、名前は?」
「私はアスカです」
「フランだよぉ」
「アスカ。試すようで悪いんだが、ちょっと飛んでみてくれないか?」
戸惑うアスカだったが、フランを見ると笑顔で頷いていたので飛行することにする。
道の端まで寄ってからフライトユニットを作動させ、加速しながら谷底へ向け踏み切り、落下する。
フライトユニットの推力に落下の加速で速度を上げ、勢いが付いたところで今度はピッチアップで上昇。
そのまま崖の上まで上昇しするとループ宙返りを披露し、二人のもとへ着陸した。
フランは拍手で迎えてくれたが、アルバは度肝を抜かれたような表情で固まっていた。
「あの……これで良いですか?」
「あ、いや、すまない。あまりにも見事だったもんで」
アスカに声を掛けられようやく再起動したアルバは若干しどろもどろになりながらもアスカに応答する。
「ね。この子の腕なら取りにこようって思っても不思議じゃないでしょ? すでにいくつか回収したしさぁ」
「たしかに。あれだけの腕なら納得だ」
「アルバも魔力草を取りに?」
「ああ。今は俺しか採取できないんでな。知り合いに分けてるんだ」
「アルバしか取れないって?」
「こいつだよ」
アルバはニヤリと笑って左腕の丸盾を外す。
そこにはアンカーの射出装置と束ねられたワイヤーが装備されていた。
「おぉ~、ワイヤーアンカーじゃないかぁ。ポイントボーナスかい?」
「その通りだ。こいつのおかげで崖の上からなら魔力草の所へ降りられる」
ワイヤーアンカーは岩などにも引っ掛けることができるので、そこから崖に生えている魔力草のところまで降り採取していたそうだ。
ポイントボーナスでわざわざワイヤーアンカーを取ったのはダンジョン攻略や戦闘で使えそうだったことに加え、他のVRゲームで鞭を使うキャラクターを愛用していた技術が応用できるのではと思ったからだという。
「おかげで魔力草でスタートダッシュ出来てるけどな」
アルバは悪い笑みを浮かべていた。
「アルバはまだ魔力草をさがすのかい?」
「もう少し探すが」
「ならさ、一緒に探そうよぉ」
そう言ってフランはアルバを小隊に誘った。
前衛装備をしているアルバが小隊に入ってくれるなら、前をアルバが張り、フランが後方から支援、アスカが遊撃として動けるため戦術の幅が広がり、先ほどのようなことも減る。
「一緒に? ……そうだな。なら一つ頼まれてもらえないか?」
「小隊組んでくれるなら喜んでぇ」
「いや、アスカに頼みたいのだが」
「私に?」
アルバに頼みがあると言われ、首をかしげるアスカだった。
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