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79 DAY4シエラ渓谷突破戦Ⅴ【キスカ作戦】


 遂に実行されたブービー飛行隊撃破作戦。

 その第一段階として、それぞれ単独行動をしていたアスカ、ヴァイパー1、ヴァイパー2の三名はそれまでの行動を終了し合流に動く。

 同時にイベントマップに移動してきたヘイローチームが拠点を離陸。

 最大速度でこちらに向かってくる。


《ヘイローチーム! 合流まで何秒!?》

《60秒!》

《補給物資も持ってきたよ!》

《有難い、MPポーションが限界だったんだ!》


 シエラ渓谷上空で無事合流を果たすアスカ達だが、それは同時にブービー達の合流をも意味する。 

 ヘイローチームの合流まではアスカ達の三人とブービー達四匹の戦闘となるが、アスカ達は無理にブービー達を撃墜しようとはせず、お互いをカバーする動きで戦闘を間延びさせ、時間を稼ぐ。


「ヴァイパー2、ギンヤンマが来てます! 四時方向!」

《了解! やらせないわよ!》

《くそっ、火力が足りない!》

「ヘイローチームの到着まで頑張って!」


 アスカは再度、ブービーを徹底的にマーク。

 同時にヴァイパーチームを援護するようギンヤンマに牽制射を入れ、アイビスから背後に付かれそうになっていると言われればすぐに身を翻し、後方へ向け射撃を行う。


《あれがリコリス1……なんて機動性なの……》

《後ろに目が付いてるのか? ギンヤンマが付け入る隙もないぞ……》


 ヴァイパーチームの二人が驚愕の声を上げているが、今のアスカにそれに応じる余裕はない。

 はたから見れば、アスカの動きはネームドに注力しつつ周りをフォローし、後方にも注意を払うという超人染みた行為だが、当の本人は一杯一杯である。


 そうして時間を稼いでいる間にヘイローチームが合流。

 ヴァイパーチームへのアイテム補給も済ませ、本格的に戦闘に参加する。

 攻撃目標は事前に打ち合わせ済みだ。


《よし、やるぞヴァイパー2、ヘイローチーム。俺達でブービーを引き付ける》

《了解よ》

《俺達ヘイローチームは残り時間が少ないからな、とっとと終わらせるぜ》

《リコリス1、ギンヤンマ三匹は任せたよ》

「はい!」


 ヴァイパーチーム、ヘイローチームは四人がかりでブービーを狙い、アスカはギンヤンマ三匹を引き受ける。


《さぁ、見せてもらおうか、噂のネームドエネミーの実力とやらを!》

《兄さん、油断は禁物だよ!》


 ヘイロー1、ヘイロー2共に使用するエグゾアーマーは翡翠。

 だが、それぞれがアーマーを好きな色に染め上げている。


 ヘイロー1はこの薄暗い空でもはっきりとわかる鮮やかな赤。

 それに対しヘイロー2は空に溶け込むような深い緑色。


 お互いにかなり極端な選択だが、これも初対面での彼らのイメージからすればある程度納得できるものだ。


 見た目こそ真面目にやってるのか甚だ疑問なヘイローチームだが、そこは元βテスター。

 ギンヤンマ達の攻撃を上手く躱しつつ、ブービーへと迫る。


《お前ら、昨日リコリス1を四対一で散々いたぶってくれたよな? なら、俺たちが四対一でブービーを集中狙いしても文句はないよな!》

《言ってる事の柄が悪すぎるよ、兄さん!》


 彼らの火器はヘイロー1が片手に一丁ずつ持った短機関銃、ヘイロー2が持っているのは地上部隊がよく使っている携行対空ミサイルだ。


「キスカ! 作戦を開始するよ!」

《何時でもいいわよ!》


 キスカへの通信を皮切りに、ヴァイパー、ヘイロー両チームの四人がブービーへの攻撃を開始。

 ヘイロー2がミサイルを放ち、ブービーの動きを制限。

 その隙にヘイロー1が接近し、近距離から短機関銃を連射する。

 さらに中距離からはヴァイパーチームがブービーを挟み込むように射撃。


 いくらトップクラスの性能を持つネームドエネミーと言えども、手練れの四人相手には防戦一方。

 攻撃のチャンスすら見いだせないまま、回避機動を続ける羽目になる。


 四人にブービーを任せたアスカは、ギンヤンマ達へ威嚇射撃。

 注意をこちらに向けさせた後、わざとギンヤンマの前に出て後ろを見せることで攻撃を誘う。

 当然ギンヤンマはこれをチャンスと考え、ターゲットをアスカへと切り替える。


 これを三度繰り返し、全てのギンヤンマがアスカの背後に付き、撃ち落とそうと執拗につけ狙ってくる。


「よし、全員釣れた!」

『作戦通りですね』

「このまま行くよ!」


 ギンヤンマ三匹を背後に引き連れたまま、アスカはシエラ渓谷上空を離脱。

 海岸線に沿いながら西進する。


「高度100、速度300! アイビス、後ろは!?」

『問題ありません、ついて来ています』


 高度を下げつつ、ギンヤンマ達を振り切らない速度、かつ被弾しないよう適度に回避行動も織り交ぜながら砂浜の上空を飛行するアスカ。

 そのまま海岸沿いに飛行し続けると、正面に見えてきたのは小高くなった丘だ。


 そしてその手前。

 人気が全くない砂浜の真ん中に、何かを示す様にマーカーが設置されている。


「キスカ、行くよ!」

《こっちも視界に捉えたわ! 皆、準備は良いわね!》


 キスカへ合図を入れたアスカはそれまでの回避機動を打ち切り、直進。

 ギンヤンマ達との距離を維持したまま、マーカーを通過した直後に一気に上昇した。



 ――それは丘の頂上付近に陣取ったキスカ達のすぐ手前。



《リコリス1の機動を参考に狙いなさい! 撃てーーーーっ!》


 キスカの号令により、丘上からアスカの背後に付いていたギンヤンマ三匹へ向け大量の銃弾が放たれた。


 地上の複数の射撃地点から空へ向け放たれた銃弾が放つ光は、アスカの使うピエリスなど比較にならず、ブービーやギンヤンマが使う重機関銃よりもさらに大きなものだった。

 それがブービーのもつ連結重機関銃をはるかに凌ぐ密度で、アスカを落とすことに集中していたギンヤンマへ襲い掛かる。


 完全に不意を突かれたギンヤンマ達はすぐさま回避行動に移るが、対処の遅れた一匹が被弾。

 最初の一発で片側二枚の翅が吹き飛び、続けざまの被弾で胴体が爆発。

 粉々になりながら海上へ落下してゆく。


 初撃を躱した二匹は、キスカの放つ追撃の銃弾を躱そうと回避行動を続ける。

 だが、キスカ達対空攻撃部隊は逃さない。


《ギンヤンマ捉えたぜぃ! いくよぉ【アイシクルランサー】!》

《私達も行きます! 【ロックブラスト】!》

《【フレアバレット】!》


 第二波としてギンヤンマ達へ襲い掛かったのはフラン達魔導特科小隊が放つ、中距離攻撃魔法。

 キスカの銃撃により回避行動を余儀なくされ、動きを制限されたギンヤンマ達相手に、この魔法攻撃は極めて有効だった。


 【アイシクルランサー】【フレアバレット】。

 この二つの魔法攻撃は誘導性能を持たないが一度の詠唱で大量に放つことが出来る魔法攻撃であり、銃撃を回避したギンヤンマ達の正面に弾幕を形成。

 【ロックブラスト】に至っては弾数こそ少ないが、飛行するギンヤンマ達の近くまで飛翔すると炸裂し、細かい破片となってギンヤンマへ襲い掛かる。


 あまりの弾幕の濃さに二匹のギンヤンマは回避しきれず、被弾。

 体から煙を上げながら度重なる攻撃からなんとか逃れようとキスカ達のいる丘上を通過し、対空射撃を続けるキスカの後方まで抜けると、フラン達魔導特科小隊の射程外まで垂直上昇する。

 だが、それは地上に対し完全に後ろを見せる状況だった。


《それは愚策だよ蜻蛉君。そういう時は、身を隠すのさ!》

《続きます! 【ホーミングレイ】!》


 叫ぶのは、激しい戦闘を陰から支えるトランスポーター、スコップの声。

 彼の声と同時に丘上に煙が立ち込め、垂直上昇してゆくギンヤンマへ向け複数のミサイルと光の筋が襲い掛かった。


 これが対空攻撃部隊の第三波。

 彼らのターンはまだ終わっていないのだ。


 地上からの誘導攻撃に気付いたギンヤンマ達はこれも回避しようと動くが対空射撃へ回避行動、続け様の垂直上昇により速度を完全に失った上、被弾により性能低下した動きは極めて鈍かった。


 そんな動きの遅いギンヤンマ達へ最初に襲い掛かったのは魔法攻撃【ホーミングレイ】。

 火力は低いながらもミサイルをはるかに凌ぐ速度と誘導性能を持つ光の筋が動きの遅かったギンヤンマのうち一匹を捉え、動きを完全に止める。


 そこにトドメとなるミサイルが複数直撃し、火だるまとなったギンヤンマはバラバラになりながら地上へ向け墜落してゆく。


《あと一匹!》

《リコリス1、トドメは任せたよ!》

「はい!」


 マーカーを通過し、上昇したアスカはその高度を大きく取り、状況を見守っていた。

 そして対空攻撃から逃れ切った最後の一匹へ狙いを定めると、無防備な頭上へ向け急降下を開始した。


 度重なる攻撃により速度を失い、機体も損傷したギンヤンマにアスカの攻撃を躱すだけの余力は既になく、直上から襲い掛かったアスカの銃撃の前になすすべなく撃墜され他二匹同様火だるまとなって墜落していった。


「やった……やった! やったよ、みんな!」

《ナイスキル、アスカ!》

《いやぁ、お見事だねぇ!》

《うん、とんでもなく重いターレットを運んだ甲斐があったってものだよ!》

「キスカやフランみんなのおかげです! 本当にありがとう!」


 宿敵だったブービー飛行隊へようやく一矢報いたアスカ。

 感激のあまり拠点攻略中という事も忘れてキスカ達の上空を飛び回る。


「キスカの作戦通りだよ!」

《ふふん、言ったでしょう? 敵の機動さえ読めればなんとかなるって!》


 そう、これこそキスカが考えた作戦だったのだ。


 そも、対空機関銃の命中率の悪さは敵戦闘機の高度と機動力に起因する。

 遥か空高くを飛行する物体へ向け照準を合わせ射撃しても、放たれた弾丸がその場に到達するころには敵は前に進んでいて当たらない。

 かと言って照準を手前にしていたとしても、弾着までのタイムラグを読み間違えたり敵が回避行動を行ったりすればこれもまず当たらない。


 だが、敵の高度と機動が前もって分かっていればどうか?

 その答えがこれだ。


 アスカがギンヤンマ三匹を引きつれ、キスカ達対空攻撃部隊が待ち受けるポイントまで誘導。

 先に上空を通過するアスカで敵の機動と弾着のタイムラグを推測し、対空射撃を浴びせ掛ける。


 対空射撃に使用する火器も通常兵器ではなく、『ターレット』と呼ばれる設置式一基二門の大口径対空機関銃を複数用意。

 それをキスカら射撃に補正のかかるスナイパーアーマー達が使用し、一斉射撃を行ったのだ。


 距離を詰めてきたらフラン達魔導特科小隊の中距離魔法攻撃、上空に逃げればターレットを運んできたスコップらトランスポートアーマー達による対空ミサイルと誘導魔法攻撃と対処策も用意。


 たった三匹の敵航空戦力を堕とすにはいささかやりすぎなほどに集めた戦力だったが、見事全機撃墜と言う大戦果を成し遂げたのである。



 これで残る敵航空戦力はブービー一匹。

 それに対しこちらはアスカ、ヴァイパーチーム、ヘイローチームの五人。

 作戦では、ここからアスカはブービーとの一騎打ちに挑み、他四人は地上の支援に回る予定になっている。

 例えアスカが一騎打ちに敗れても地上の勝利は揺るがない。


 アスカを含め全員が勝利を確信し、沸き立つ一同。


 そんな中、ブービーの様子が急変したことに気付く者は、誰もいなかった。



『空を夢見た少女はゲームの世界で空を飛ぶ 解体新書』

登場人物名鑑を更新しています。

今回はマルゼス、タービュランス、ヴァイパー2、ヘイロー1、ヘイロー2となります。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!

嬉しさのあまり波照間空港から飛び立ってしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 現実のブービーに比べると、えらく大人しいというか、イメージ違うなと思ってはいましたが、フォームチェンジするのね。
[一言] ソフトスキンな空戦兵器でトレイン(=複数の敵に背後を取らせる)とかナチュラルに正気じゃねぇことしてるわこの子。 ところで、ブービーを四機がかりで足止めしてアスカちゃんが残りを引き連れて離脱…
[良い点] 更新お疲れ様です(◍•ᴗ•◍) [一言] まぁ統率系で部下全滅したら行動変わるよなぁ…ましてや撃墜王、黒い悪魔。発狂モードと別に個人機動モードとか用意されてても別に違和感ないわ
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