76 DAY4.G南側山林部
本日二話更新。
二話目になります。
シエラ渓谷、南側の山林。
北側と同じく、赤とんぼによる空爆を受けたランナー達は、空爆を皮切り攻勢に移った鬼人兵にすぐさま応戦。
陣容も立て直せないまま混乱した状況が続いていた。
「くそっ、スラッグガンでまた一人やられた!」
「赤とんぼの機銃掃射だ! 全員伏せろ!」
「おい、応射を止めるな! 連中突っ込んでくるぞ!」
「むやみに動くな、狙い撃ちされるぞ!」
見通しが悪く、薄暗い山林。
幸い空からの観測で敵の位置だけは割れているが、如何せん数が多いのだ。
本来なら装甲にものを言わせて突撃するアサルトアーマーがいないため、一度止められた勢いをもう一度起こせるだけのきっかけが掴めない。
膠着し、銃弾の閃光と射撃、弾着、そして通過する音が交差する中、倒木した木の陰に隠れるファルクとホークの姿があった。
「ファルク、大丈夫か?」
「ええ、もう回復しました。状況は?」
「良くないぜ。連中、赤とんぼが来るのを見越して引いてたんだろうな。空爆でこっちが浮足立った隙を突かれた。陣形を立て直す暇がねぇ」
木の陰に隠れ、腕だけを出して鬼人兵がいる方向へ向けハンドガンを放つホーク。
彼が装備しているのは近接攻撃特化型のストライカーアーマーであり、銃撃戦は不得意。
近接戦では邪魔になるからと、アサルトライフルなどの小銃等は持ってきていないのだ。
唯一の遠距離武器が、邪魔にならず取り回しもよいこのハンドガン。
相手の位置も見ず、牽制射としてハンドガンを撃ち続けるが、すぐにスラッグガンが隠れている倒木に撃ち込まれ慌てて突き出していた手を戻す。
「ちっ、撃った分が倍返しで帰ってきやがる。どうする、ファルク? このままじゃジリ貧だぞ?」
「少し待ってください。私達だけじゃ対処できません。アルバもキスカもいないのですから」
普段はファルク、アルバ、ホーク、キスカの四人で小隊を組んでいる彼らだが、銃弾飛び交うこの場に姿はなかった。
この小隊の紅一点、ガンナーであるキスカはアスカのブービー飛行隊迎撃作戦の為今作戦では最初から別行動。
そしてアルバは先の空爆で死に戻りしてしまっていたのだ。
アルバも今作戦では高性能のプレミアムアサルトアーマーは装備せず、通常ツリーのソルジャーアーマーを装備して作戦に参加していた。
だが、赤とんぼのロケットランチャーと言う新たな攻撃手段に反応の遅れたファルク達を庇い、被弾。
そこに無誘導爆弾と言うコンボでHPを全損。死に戻りしてしまったのだ。
ファルク、ホークらも無傷とはいかなかったが、爆撃で倒壊した大木の陰に隠れ、鬼人兵からの銃撃から身を守りながらHPを回復。
さぁ、ここから立て直すぞと意気込みはしたが、状況は芳しくない。
《ファルク、聞こえるか? そちらの状況はどうじゃ?》
「クロムですか、良くありません。アルバがやられました。その上敵の攻撃が苛烈で身動きが取れません。そちらは?」
《似たようなものじゃよ。一人やられた上、鬼人兵共の銃撃で動けん》
先日のゴルフ要塞攻略の司令官を務めたクロムも、今作戦では一兵卒として参加していた。
だが、その状況はファルク達と同じ。
仲のいいフレンド四人で小隊を組み、踏破能力の高いソルジャーアーマーを使用しての進攻していた最中。
赤とんぼの空爆に見舞われたのだ。
小隊メンバーの一人を失い、ダメージを負ったクロムたちはすぐさま失った体力を回復。
再度攻勢に出ようとしたが鬼人兵の方が動きが早く、先手を取られ防戦一方になってしまっているのだ。
他の小隊と通信を取ってみるも、空爆のダメージは癒えているがこう鬼人兵からの銃撃が激しくては迂闊に出れない、という意見がほとんど。
連射性能や取り回しに優れる銃火器ではスラッグガン相手には火力で劣り、強行突破も難しいのだ。
携行性を重視した弊害が現れている状況だ。
《ふむ、これでは陸上からの突破は無理じゃな》
「こちらが頂上を取っているからこその拮抗ですね。どこかが抜かれるとそこから一気に崩れかねません」
目的のトーチカの破壊は今だ半分。
何時までもここで鬼人兵と撃ち合いをしているわけにもいかない。
「陸が無理となると……」
《やはり空からじゃな》
ファルクはクロムと会話を続けながら、視線を上に上げる。
あるのは視界を覆い、羽虫一匹すら通さないほどに生い茂った木々の枝と葉。
その向こうにあるのは遮るものが何一つない空だ。
そこには念願叶い、自由に飛べる術を得た、強力な味方がいる。
確認するように視界の隅にあるレーダーを見れば、対峙する青い点と赤い点を無視し、陣形も地形も気にせず高速で動き回る二つの青い点。
事前に聞いた話ではアスカは単独行動、イベントでの航空支援に慣れていないアルディドはチームで動くと聞いていることから察するに、今上空に居るのはアルディド達のチームなのだろう。
……ならば。
「アルディド、聞こえますか? 私です」
《聞こえるぞファルク。だが、作戦行動中はコールサインで頼む》
「了解です、ヴァイパー1。敵の攻撃が激しい、空から攻撃できませんか?」
アルディドと通信を行いつつ、正面の鬼人兵に支援要請マークを付ける。
《オーケー、任せろ。攻撃手段は?》
「そちらに一任します。出来るだけかく乱しつつダメージを与えてください」
《Roger》
通信を終えると同時に、レーダーに映るアルディド、ヴァイパー1の動きが明確に変わる。
赤とんぼの機銃掃射を警戒、撃墜する動きだったものが一変。
一度距離を取った後、山林部に位置する鬼人兵の布陣に沿うような機動を見せる。
それはヴァイパー1だけでなく、彼のバディであるヴァイパー2も同じだった。
ヴァイパー1の斜め後ろに付き、同じ速度、同じ角度でこちらへと近づいてくる。
「航空支援、来るぞ!」
「鬼人兵の動きに注意しろ! 支援の後仕掛けるぞ!」
「威嚇射撃を止めるな! 奴らを張り付けにするんだ!」
鬼人兵に上空から接近するヴァイパーチームに対処させない様、威嚇射撃を強めて注意を引き付ける。
いきなり圧を増したランナー達の攻撃に、鬼人兵たちは思わず身をかがめ、守りに入る。
そこへタイミングを見計らったかのようにヴァイパーチームによる空襲が始まった。
「グオッ!?」
「グギャアアァァァ!」
鬼人兵の頭上から降り注いだのは銃弾だ。
が、それはアサルトライフルやサブマシンガンといった生易しい物ではなく、小銃が使う短小弾よりもワンサイズ大きい、フルサイズの小銃弾を用いた汎用機関銃からの銃撃なのだ。
それもヴァイパー2がアルディドと同じ地点へ向け射撃を行う事で弾幕の密度を上げ、よりダメージを稼ぐことを重視した統制射撃。
二丁の汎用機関銃から放たれ、曳光弾によって光りながら降り掛かる弾丸はさながら光の雨。
空からの銃撃は木の葉を散らし、細い枝をへし折り、鬼人兵達に明確なダメージを与えてゆく。
身をかがめ、丸くなっていたことが災いし、回避行動へのアクションがワンテンポ遅れた鬼人兵達は、その場にとどまれば上空からの銃撃に、立ち上がり逃げようとすればランナー達の銃撃に晒されるという状況に陥り、大混乱に陥った。
「撃ち込め撃ち込め! 今がチャンスだ!」
「ありったけの鉛玉をお見舞いしてやれ!」
「航空支援、最大効果確認! 今だ、グレネード!」
銃弾による光の雨が過ぎ去り、態勢を立て直せない鬼人兵達に襲い掛かるのは周辺にいるランナー総出の銃撃とハンドグレネード。
ランナー達の遠投力はエグゾアーマーのパワーアシストにより、人の限界を超えた二〇〇m以上の投擲を行う事も出来る。
それを絶妙な力加減で制御し、銃撃から隠れる鬼人兵達の足元へと投げ込んだ。
倒木の裏に潜む鬼人兵には目掛け山なりで、立ち木の裏に潜む鬼人兵には低弾道で、強者になるとわざと木に当てリバウンドを利用して鬼人兵の足元へと送り込む。
ランナー達のフリーアクションを重視するBlue Planet Onlineにおいて、物を投げる際目標地点に正確に届くように補正をかける【投擲】スキルも、投げ込む際に弾道を印すガイドラインも存在しない。
そんな中、どうして彼らが寸分の違いもなく鬼人兵の足元へグレネードを投げ込めたのかと言えば、答えは簡単。
練習したのだ。
ゲーム内に【投擲】スキルはないが、物理演算が組み込まれているため狙って任意の位置に投げ込むことは可能。
さらに、ゲームであるがゆえに時限式は安全ピンを抜いてからどれだけ乱暴に扱っても起爆せず、起爆時間になると必ず爆発する。
例外は銃で撃たれた時と高威力の爆発に巻き込まれた時のみなのだ。
この人外の遠投力と絶対に誤爆しない信頼性と言う二つの特性を知ったβテスター達はβテスト開始直後から散々検証を行い、コツさえつかめばリバウンド投擲などを行う事も可能で、ほぼ確実に障害物に隠れる敵の足元に手榴弾を送り込むことが出来ると結論付けた。
この事はゲーム外のBlue Planet Online攻略サイトに記され、『手榴弾投擲技術』はトップを目指す者であれば必修のプレイヤースキルと言われている。
向かい合って撃ち合っているだけの状況からのグレネードなら鬼人兵も対処しやすく、いとも簡単に立ち直って来ただろう。
だが、今は航空支援の機銃掃射により敵陣は混乱している。
そんな状況下にピンポイントで放り込まれたグレネードは、投擲からワンテンポ置いて爆発。
陣形を立て直しつつあった鬼人兵達をズタズタに引き裂いた。
「銃撃が止んだ!」
「今だ、行け!」
「ストライカー、接近特化の火力を見せてやる!」
「この機を逃すな! 突っ込め!」
「Ураааааааа!!!」
迎撃態勢が崩壊、銃撃がほぼなくなったのを見るや、隠れていたランナー達が一斉に飛び出し鬼人兵に襲い掛かる。
先陣を切ったのは銃撃戦では活躍の場がなかったストライカーアーマー。
機動力と近接格闘能力に長けたストライカーアーマーは、アサルトアーマーと比べても一回り小さく、小柄。
故にこの視界、足場共に悪い山林部においても問題なく戦闘が可能。
数は決して多くないが、それでもある程度の数はこの踏破部隊に参加しているのだ。
遠距離戦闘では全く出番がないが、一度懐に飛び込んでしまえばストライカーの名の元に敵を撃滅してゆく。
「散々撃ちまくってくれた礼、たっぷりとしてやるぜ!」
「グルォッ!?」
グレネードの爆発とほぼ同時に飛び出したホークは、両手に愛刀である二本の剣を構え、他のストライカーアーマーに先んじて単身鬼人兵の陣地に乗り込んでいた。
いきなり現れたホークに驚愕の顔を見せる鬼人。
だが、そこは鍛え抜かれた兵士。
すぐに表情を戻すと持っていた火縄銃に酷似したスラッグガンの銃口をホークへと向け、引き金を絞る。
爆音と共に大玉のスラッグ弾が放たれるが、弾丸はホークの横を掠め地面を抉った。
威力こそ高いスラッグガンだが、火縄銃を模したそれは重く、長い。
エグゾアーマーを身に付けた鬼人兵であっても、機動力に長けたストライカーアーマーを瞬時に捉える事は出来なかったのだ。
「遅ェ!」
「ゲバアァァァ!」
一番の脅威であるスラッグ弾を躱したホークは一気に間合いを詰め、二刀の連撃で鬼人兵を切り捨てる。
光の粒子となって消滅してゆく鬼人兵。
その様子に、周囲の鬼人兵も慌ててホークへと銃口を向ける。
だが、次の瞬間には他のストライカーアーマー装備のランナー達が敵陣地に雪崩込み、ソルジャーアーマーが牽制射を行いながら合流する。
動揺を見せる鬼人兵に次々と襲い掛かるホークとアサルトアーマー達。
まもなくしてファルクも合流する。
「待たせました!」
「問題ねぇよ! 敵が混乱状態だから簡単に各個撃破出来るぜ! ジジィの方はどうだ!?」
「クロムはトーチカの制圧に向かってくれてます! このまま押し切りますよ!」
「へっ、やってやるぜ!」
ランナー達が敵陣に切り込んだことで両軍入り乱れての乱戦となる。
だが、空爆から態勢を立て直してから攻勢に出たランナー達と、空からの強烈な機銃掃射とハンドグレネードによるダメージが抜けてていない鬼人兵。
どちらが有利かなど日の目を見るより明らかだった。
「よし、鬼人兵は抑えたぞ!」
「トーチカを狙え! 守りのないトーチカなんざ物置と変わらねぇ!」
「制圧! 制圧!」
「トーチカは残り四つだ! 急げ!」
「空にはまだ友軍がいる! 必要に応じて支援を頼め!」
依然乱戦の続くシエラ渓谷、南側の山林。
ランナー達は当初の勢いを完全に取り戻し、鬼人兵を飲み込んでいった。
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嬉しさのあまり南大東空港から飛び立ってしまいそうです!(そろそろ国内の空港が少なくなってきました)