75 DAY4.G北側山林部
本日二話更新。
本話は一話目になります。
重要拠点シエラの手前に配置された、南北を山で挟まれたシエラ渓谷。
その北側、赤とんぼの空爆を受け、あちらこちらで木が倒壊し炎が燻っている山林の中にアスカのフレンドであるメラーナ達の姿があった。
「うぅ、ひどい目にあった……みんな無事?」
「僕は大丈夫」
「うちも生きとーよ!」
倒壊した木の陰から現れたのは、いつものメディックアーマー装備のメラーナ、鎧甲冑ストライカーアーマーに身を包んだラゴ、山林進攻の為アサルトではなくソルジャーアーマーに身を包んだホロだった。
昨日、十二分な戦果を挙げた彼女たちは今日もポイントを稼ぐべく、メラーナ、ラゴ、カルブ、ホロの四人で小隊を組みシエラ攻略作戦に参加していたのだ。
ゴルフ要塞攻略の立役者であるホロも、今日は空挺降下などの特別任務の声はかからず、こうしてメラーナ達と一緒にいる。
作戦開始と同時に味方ランナー達と歩調を合わせ順調に山林部を攻略していった四人だったが、頂を越えたタイミングで赤とんぼの空爆に襲われたのだ。
「よし、全員無事……じゃない、カルブ、カルブは!?」
「えっ、おらんと!?」
「……駄目だ、死に戻ってるみたい」
「そんな……」
「カルブだけアサルトアーマー着けとったけん、ダメージが集中したっちゃろか?」
そう、カルブはこの山林の攻略に不向きと言われるアサルトアーマーで参加していたのだ。
理由は簡単。それしかなかったから。
カルブがイベントに向け用意したのはTierⅢのアサルトアーマー。
だが、フライトアーマーのみを使うというアスカの悪い面の影響を受け、アサルトアーマーの開発ツリーしか進めなかったのだ。
作戦開始前、山林部にアサルトアーマーは不向きと聞いていたため「そんな装備で大丈夫?」と問いかけるメラーナ達に対し「大丈夫だ、問題ない!」と力強く言い放ったカルブ。
ここまでは不安定な足場で戦闘ではあまり動けないながらも厚い装甲を生かし、味方の盾して機能していた。
しかし、空爆に際しては咄嗟に物陰に隠れる等の対処が取れず、ロケットランチャーを至近弾で浴び体勢を崩したところに無誘導型爆弾の直撃に見舞われ、死に戻りしてしまったのだ。
「もう! だからアサルトアーマーで大丈夫なのって聞いたのに!」
「とりあえず連絡しよう。死に戻ったのならポータルで復活してるはずだよ」
死に戻りはしても小隊内ボイスチャットは可能。
すぐさまカルブに連絡を取り、状況を確認する。
どうやらカルブが復活した場所はここから遠く離れたポータルであり、残り二つのアーマーもアサルトを持ってきているという。
すぐにポータルを出立したとしても、メラーナ達と合流するにはかなり時間がかかる上、この場所にアサルトアーマーで戻ってきても同じように死に戻ってしまうだろう。
カルブ以下全員で話し合った結果、カルブはこの場所には戻ってこず、機動部隊の攻勢に参加。
その後シエラ付近の平地で合流する手はずになった。
「……カルブはこれで良いとして、僕たちはどうする?」
「そんなん、このまま進むしかなかろうもん?」
「うん、この場所にいてもしょうがないものね」
周りを見れば、同じように爆撃を受けたランナー達も体勢を立て直し、進攻を再開しようとしていた。
――その時。
《機銃掃射、来ます!》
「全員、伏せろ!」
「えっ!?」
通信機から聞こえてきたのはフレンドであるアスカの声。
注意勧告の直後に上げられた大声に周りのランナー達が即座に反応、場に伏せた。
次の瞬間、周囲に大量の銃弾が降り注ぐ。
ランナー達が身を隠す大木に鈍い音と共に大量の弾痕を生成し、地面に弾着したものは低く短い弾着音と共に土を深くえぐり返してゆく。
「シールド展開! 身を守れ!」
「HPに余裕のあるやつはダメージのデカい奴をカバーするんだ!」
「機銃掃射は弾数が多いだけで一発当たりのダメージはデカくない! 耐えきれるぞ!」
「リコリス1が赤とんぼを叩き落すまで踏ん張れ!」
止むことのない銃撃。
数秒が数分にも感じるような感覚に襲われる中、ランナー達は冷静だ。
身をかがめ、急所を守り、支援魔法が使える者は数名を守れるバリアを張る。
これなら多少ダメージを受けても、致命傷は避けられる。
機銃掃射を受けたのが『初めて』ならば、彼らも相当に慌て、パニックに陥ったのだろうが、すでに彼らのほとんどは『慣れ』ていたのだ。
ユニフォーム上陸作戦では中盤から終盤に延々と赤とんぼから機銃掃射を浴びせかけられ、先日のゴルフ攻略作戦でも少なくない被害を被った。
それだけ機銃掃射を受ける機会があれば、嫌でも慣れてくるという物である。
空を山林の木々に隠されたランナー達に、空を飛び一方的に銃撃してくる赤とんぼに対処できる手段はない。
だが、彼らには空の守り神が付いている。
《敵機撃墜!》
空からエンジン音と爆発音が聞こえ、機銃掃射がピタリと止むのと同時に無線からアスカの声が聞こえてくる。
それはアスカが上空で赤とんぼを撃墜した音だった。
「あ、危なかったぁ……」
「さすがアスカさんやね」
銃撃と言う脅威が去ったことでメラーナ達も頭をあげる。
周りではすでに多数のランナー達が防御姿勢を解き、立ち上がりつつあった。
だが、安心したのもつかの間。
機銃掃射が止んだと立ち上がったランナーの一人に、銃撃の音と共に派手な被弾エフェクトが散ったのだ。
「こ、今度は何!?」
突然の銃撃音にランナー達は再度身をかがめる。
同時に聞こえてくる大量の射撃音と叫び声。
「襲撃! 鬼人兵だ!」
「くそっ、休む暇もねぇってか!」
「防御陣形を! 上空からの攻撃はないんだから、高台にいる私たちの方が有利よ!」
「スラッグガンは薄い盾は抜いてくる! 大木を盾にするんだ!」
機銃掃射終了から間髪入れず発生する銃撃戦。
目まぐるしく変化する状況にメラーナは対応できず、その場で頭を抱えて丸くなってしまう。
「メラーナ、動いて!」
「そこに居たら危なかよ!」
「む、無理、無理いぃ!」
銃撃戦が本格的に始まる前に大木の陰に隠れたラゴとホロだったが、タイミングを逸したメラーナはその場から動けない。
「何してる、早く逃げろ!」
「えっ!?」
「威嚇射撃だ。その間に隠れるぞ」
このまま鬼人兵の銃弾の餌食となってしまうのかと思われたが、間一髪、近くにいたランナーに助けられた。
決して軽くないはずのエグゾアーマー装備のメラーナを抱え、同じ小隊メンバーと思われるランナー達が鬼人兵に向け威嚇射撃。
これにより一瞬敵の銃撃が止まり、その隙にラゴ達もいる大木の陰へと駆け込んだ。
「メラーナ! よかった!」
「もう、心配させんでよ!」
「危なかったな。大丈夫か?」
「はい、助けてもらってありがとうございました……あれ?」
一息つき、助けてくれたランナーにお礼を言おうと顔を上げるメラーナ。
すると、そこには見知った顔があったのだ。
「えっと……イグ、さん?」
「ん? あぁ、なんだ、君か」
褐色、黒髪、顎髭、そして片目には眼帯。
これほど特徴あるランナーは一度見たら忘れることはないだろう。
西の上陸地点、デルタから始まり、ゴルフ攻略作戦でも見かけた事のあるランナー、イグだった。
対するイグも、アスカと仲のいいランナーとしてメラーナ達の顔には覚えがあった。
最も、両者ともに顔見知りと言うだけで、長く話したこともない相手。
それでも、この状況下で顔見知りであるというのは喜ぶべきことだろう。
「一人、二人……一人足りないか?」
「はい。爆撃で一人やられちゃって」
「ふむ。状況はこちらも同じだ。一人やられてる」
そう言われ、イグの背後、大木の陰から鬼人兵の射撃に応射するイグの小隊員を見る。
同じエグゾアーマーを装備し、フルフェイスのアーマーに身を包んだランナーだが、その数は二人。
先日見かけたときは同じエグゾアーマーを装備した人数が三人いた事から、イグの言う通り一人は爆撃でやられてしまったのだろう。
イグはと言えば、視線をメラーナから横にいる二人、ホロとラゴを見据え、何事か思案する。
そして……。
「状況を立て直したい。協力しないか?」
「えっ?」
不意にイグからかけられた言葉に、メラーナはおろかホロもラゴも意味が分からず呆けている。
そんな三人にイグは続けた。
「やられたヤツが一番近接が得意でな。遠距離でも叩けるが、時間が惜しい」
メラーナはメディックアーマーな為支援魔法が主体だが、戦闘でも皆を援護できるようレイライフルを持ってきている。
そしてホロはメインが近接のアサルトアーマーという事もあり、今装備しているソルジャーアーマーも接近戦主体で構成されているのだ。
鎧武者のラゴは言わずもがな。
イグが提案したのはメラーナがイグ、ホロ、ラゴに防御魔法をかけ、イグの小隊メンバー二人と共に支援射撃を行い、その隙に支援魔法を受けた三人が敵陣に切り込み制圧するという物だ。
初対面の野良小隊同士ならば敬遠される共闘だが、この三日間主戦場で戦い続けた実績のあるメラーナ達ならイケるとイグは判断した。
もちろん、昨日の作戦成功の立役者であるホロという強力な戦力があったことも忘れてはならない。
そう説明され、メラーナは思わずラゴとホロの顔を見る。
協力する事に否やはないが、小隊を組んでいる以上、独断では決められない。
だが、視線を貰った二人の目は力強く、メラーナをしっかりと見据えて頷いた。
それは誰の目から見ても分かる、承諾の意思。
「……分かりました。お願いします」
「よし、そうと決まったらさっそく動くぞ。良いな、お前達」
声をかけられたイグの愉快な仲間達は視線だけをイグに送り、コクリと頷いた。
「リコリス1に支援要請。支援攻撃の後、突貫するぞ」
全員がその場に伏せ、メラーナは突貫する三人に支援魔法をかける。
それとタイミングを同じくして、空からエンジン音が迫って来た。
《支援爆撃、行きます! ボムズアウェイ、アイビス!》
《カウントダウン。五、四、三……》
「全員、目と耳を塞げ!」
《……弾着、今》
大声で叫ぶイグに周囲のランナー達が一斉に反応。
目を瞑り、耳を塞ぐ。
次の瞬間、鬼人兵が潜む一帯で閃光と甲高い炸裂音が巻き起こった。
イグの支援要請を受けたアスカが投下したのは大量のスタングレネードだ。
爆発するハンドグレネードでは鬼人兵にもダメージが与えられるが、立ち直りが早く反撃の恐れがある。
スモークグレネードは周囲一帯が煙に覆われてしまうため、足場が不安定で木々が生い茂る山林部ではこちらも動きが大幅に制限されてしまう。
そこでスタングレネード。
強い閃光と音で敵の視覚と聴覚を潰し、無力化。
体勢を立て直す前につぶす考えだ。
ただでさえ日の差さない曇天。
その上暗い山林の中とあって、スタングレネードの閃光の威力は絶大だった。
地面に転がり、目を塞いで転げまわる鬼人兵達。
この機を逃すランナー達ではない。
「総員、突撃ぃぃ!」
「大和魂を見せてやる!」
「バンザアアァァァイ!」
イグの指示でスタングレネードの光と音を回避したランナー達が一斉に飛び出し、突撃を敢行する。
スラスターの噴射音、枯れ木や落ち葉を踏みにじる音、鬨の声。
ランナー達の突撃を知らせる音が周囲で巻き起こるが、スタングレネードにより視覚と聴覚を潰された鬼人兵たちはこれに対応できず、数をみるみる減らしてゆく。
シエラ渓谷北側の攻防は、イグの指揮とアスカ支援の下、ランナー側の一方的な展開になってゆくのであった。
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嬉しさのあまり下地島空港から飛び立ってしまいそうです!