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74 DAY4シエラ渓谷突破戦Ⅱ【航空支援】


 重要拠点シエラ攻略作戦が始まってしばらく。

 状況はアスカから見ても順調に進んでいた。


 当初の懸念であった山林部に潜む鬼人兵は作戦開始と同時に行われたヴァイパーチームの航空爆撃で炙り出されており、山林の踏破能力に長けたランナー達により次々と撃破されている。

 無論、全てを炙り出せたわけではなく、運よく爆撃から逃れランナーが近づいたところでいきなり奇襲を仕掛ける鬼人兵もいたが、数が少なく散発的な為ランナー達を足止めすることも出来ず、すぐさま対処されゆく。


「うん、ここまでは順調だね」

『はい。予想を上回る進攻速度です』

「足場も悪いし、戦い辛そうなのに、すごいね」

『何度も山越えに挑戦しているのでしょう。一部、明らかに周りと動きの違うランナーが居ますので』

「……皆執念深そうだものね」


 思い出すのは総指揮官であるランナーの姿。

 あの静かな怒りに燃える彼と同じように、連日シエラを攻めていた者たちは皆同じように一方的にやられた事によるフラストレーションが相当溜まっているのではないか?


 そう考え、身を震わせるアスカに、ヴァイパーチームから通信が入る。


《リコリス1、こちらヴァイパーチーム。聞こえるか?》

「あ、はい、聞こえてます!」

《残弾とMPがそろそろ限界なの。補給に戻るから、この場をお願い》

「了解です! 支援は私の方で行いますので!」

《すまない、すぐに戻る》

《頼んだわよ》

 

 通信を終えると、ヴァイパー1、ヴァイパー2の両名は旋回し後方の拠点へ向け飛行してゆく。


 上空で観測を主とするアスカは滑空による省エネ飛行が出来るが、ヴァイパーチームは地上支援の為に機動飛行を行っている為消費が激しい。

 増槽を付けてはいるがそれでもアスカの総量の半分程度であり、こまめな補給が欠かせないのだ。


 MPポーションは補給よりも戦闘継続を優先しなければいけない時の為の切り札であり、今はまだ温存する。


 遠ざかるヴァイパーチームを見送り、アスカは地上から発信された支援要請ポイントを見る。

 作戦開始直後、捌けないほどにまで大量に発生していたポイントはかなり減っており、これだけでヴァイパーチームの二人がいかに優秀なのかが分かる。


「よし、行くよアイビス!」

『ターゲットアイコン、表示します』


 アスカはそれまでの滑空飛行を中止し、エンジンスタート。

 アイビスが出した『TGT』表示された支援要請ポイントへ向け対地攻撃のアプローチを行う。


『敵、鬼人兵。数六。木の陰に隠れているようです』

「オッケー!」


 空からは山に生い茂った木の葉しか見えないが、接近したことで鬼人兵が六つの『TGT』アイコン付きで個別表示される。

 そのアイコンへ向け、アスカは汎用機関銃を構え、攻撃を開始。

 敵からの対空攻撃が全くない状況の為、限界まで速度を落とし、敵が沈黙するまで機関銃を連射する。


 今回の作戦でアスカの仕事は偵察と観測。その為両翼のガンポットは装備していない。

 故に、対地攻撃火力という面では劣るが、それでも上空からの一方的な攻撃とあってその効果は絶大だった。


 鬼人兵のHPはみるみる減ってゆき、一つ、また一つと消滅してゆく。

 限界まで接近し、離脱間際には当然グレネードの置き土産。

 回避されぬように投下した着発式のグレネードが山林の中に消え、連鎖的に爆発する。


「どう!?」

『撃破三、損害三』


 離脱しながら成果を確認。

 機銃掃射で二体を倒し、去り際の空爆で一体を倒したようだ。

 残る三体もHPを大きく減らしており、もはや虫の息。


 直後、航空支援を終え、上昇してゆくアスカを見送ったランナー達が弱った鬼人兵達へ向け突撃、これを難なく撃退する。


《こちら地上部隊。リコリス1、航空支援感謝する!》

「はい! いつでも呼んでください!」

《やっぱり空に味方がいると戦いやすさが段違いだ。よし、行くぞお前ら! リコリス1ばかりにいい格好させるんじゃねぇぞ!》


 地依然鬼人兵の抵抗は激しいが、ランナー達は歩みを止めることなく進み、アスカもそれに負けじと手当たり次第に支援を行う。

 気が付けばランナー達は南北共に折り返し点、山の頂上に差し掛かろうとしていた。


 ――その時。


 ピピピッ。


『レーダーに敵反応を捉えました。方位100』

「……来たね」


 レーダーが捉えたのは複数の敵反応。

 視界の片隅に映るレーダーに表示され、高速でこちらを目指すそれは、地上の地形や障害物の一切を無視し一直線に向かってくる。

 その動きだけで、アスカには何が来たのかすぐに理解できた。


 アスカが視線を向けるのは地上ではなく、空。

 そこには見慣れた複数の赤い蜻蛉が雁行の編隊を組み、こちらへ向け飛行していた。

 赤く大きな体は、薄暗く分厚い曇が漂う曇天の下でも目立っている。


「全軍に通達! 敵赤とんぼ群接近! 数……約50!」

《クソッ、もう来やがったのか!》

《遮蔽物が多すぎて対空ミサイルが使えない! リコリス1、頼む!》

「了解!」


 地上へ赤とんぼ接近の報告を入れ、航空支援を中断。

 飛行姿勢を巡行から高速へ移行し、エンジンパワーをあげ加速しつつ上昇する。

 さらに、両手で持っていた汎用機関銃を投げ捨て、インベントリから新しい銃を取り出す。

 それはアスカが絶対の信頼を置く二つの銃。ピエリスとエルジアエだ。


 静止物には単発火力の高い汎用機関銃は効果的だったが、空中では照準が定まらず、空対空には不向きだった。

 空の戦いでは小型軽量で取り回しのいいピエリスと、連射と単発の使い分けができるエルジアエの方が扱いやすいと、アスカは二つの銃をインベントリに仕舞い持ち込んでいのだ。


『敵、赤とんぼ群。ヘッドオン、距離500』

「エルジアエ、単発モード!」


 エルジアエを両手持ちで構え、標準を付け、射撃。

 お互いに移動中、かつ最大射程での射撃の為命中はしないが、アスカは構わず連射する。


『敵赤とんぼ群、さらに接近。距離300』

「エルジアエ連射モード、ピエリスも!」


 距離が詰まり、連射が可能な距離になる。

 アスカは高速姿勢のままエルジアエとピエリスを片手持ちし、弾幕を張るようにトリガーを引いた。


 対する赤とんぼ達はこれまで同様、アスカを無視して直進。


 アスカはその短調かつ読みやすい機動の先に射線を置き、赤とんぼを弾幕に突っ込ませることで被弾させる。

 赤とんぼは耐久力が低い為、数発当てるだけで爆発、火を噴いて真っ逆さまに落ちて行く。


 これを赤とんぼの集団とすれ違うまで繰り返し行う事で、数匹の赤とんぼを撃墜。

 そんな僅か数秒のコンタクトだが、アスカは違和感を感じていた。


「あいつら……装備が違う?」


 アスカの知る赤とんぼの兵装は下部に抱えた黒い無誘導型の爆弾と、尾部に搭載されたガトリング機関砲。

 しかし、たった今すれ違った赤とんぼ達のうち数十匹が下部に黒い爆弾ではなく、白い円柱形の物体を抱えていたのだ。


 安定翼すらついていないことから爆弾ではないと思われ、どこかで見たことがある気がするのだが、それがどこでなのか思い出せない。

 だが、対地攻撃用の兵装であることだけは確実だ。



 アスカは再攻撃の為インメルマンターンを行い、赤とんぼ群を再び正面に捉え、落下加速を加えて追撃する。


 追われる赤とんぼ達はシエラ近郊に迫ったところで南北二手に分かれる。

 狙いはもちろん山林に展開するこちらのランナー達だろう。


「赤とんぼ群接近! 迎撃しきれません! 攻撃に備えてください!」

《くっ、もう来たのか!》

《総員、爆撃に備えろ!》

《盾持ち、上に構えて防げ! 防御魔法持ちも忘れるな!》


 エルジアエの射程に入り次第、赤とんぼ達を狙い攻撃するが、アスカ単機ではやはり数の多さに対処しきれない。

 地上に爆撃への対処を促し、少しでも友軍に降り注ぐ爆弾の数を減らそうと奮戦するアスカ。

 しかし、赤とんぼ達はここで今までにない動きを見せた。


「……? 降下してゆく?」


 赤とんぼの攻撃パターンは直上からの急降下爆撃と、投下後に上空でホバリングからの尾部ガトリング砲だ。

 ほとんどの赤とんぼはそのパターンに従い、山林のランナー達へ向け高度を維持したまま飛行しているが、数匹が機首を下げ、正面にランナー達を捉える形で降下してゆく。


 水平爆撃かな? と、訝しむアスカ。

 そして気が付く。

 降下して行くのが全て下部に白い筒を持っている赤とんぼだという事。

 その軌道が主翼にガンポッドを装備し、機銃掃射する時のアスカと同じアプローチになっている事に。


「……っ! いけない!」


 赤とんぼ達が大事に抱える白い筒が何なのか。

 アスカが把握するのと、赤とんぼ達が攻撃を開始するのは同時だった。


 激しい発射音を響かせながら白い筒から放たれたのは火の玉だ。

 だが、それは一発ではなく、絶えることなく連続発射され、赤とんぼ達の前方一面に火の玉によるカーテンを形成する。

 大量に放たれた火の玉は、投下型の爆弾の様に落下せず、自らの推進力でもってランナー達へ向け一直線に飛翔してゆく。


「ロケット弾接近! 弾着に備えて!」

《何!?》

《ロケット弾!?》


 赤とんぼ達が後生大事に抱えていた白い筒。その正体は空対地ロケットランチャーだったのだ。

 ロケット弾は一発の火力は低いながらも小型軽量で推進装置を持つ兵器だ。

 誘導性は無くピンポイントの攻撃に適さない上、空気抵抗や推進バランス等によりまっすぐ飛ばず、弾道もぶれやすいが、筒のような発射機の中に大量に仕込み、一斉発射することで精度の悪さを補うと同時に広範囲を爆撃する面制圧用の兵装だ。

 

 この兵器の効果は、どれだけの量を同時に発射したかという事に比例する。

 アスカの攻撃を掻い潜ったロケットランチャー持ちの赤とんぼの数は弾幕を形成するには十二分。

 放たれた大量のロケット弾は、直上から来るであろう誘導型爆弾に対し備えていたランナー達の虚を突く形になった。


《弾着! 弾着!》

《正面からロケット弾! 無差別爆撃だ!》

《くそっ、ダメージはそこまでじゃねーけど、数が多い!》

《ロケット弾の雨かよ! いつ止まるんだ!》

《各員、防御態勢! 被害報告を忘れるな!》

《舐めるなよ! この程度でやられるものかよ!》


 空にいるアスカにも聞こえる、大量の炸裂音。

 赤とんぼから放たれたロケット弾は多少のばらつきながらも、山林の頂を越えた斜面にいるランナー達を見ごとに捉えていた。


 ロケット弾の単発火力は高くないが、それでも放たれた数が数だ。

 ランナー達は少なくない被害を被り、わずかだが浮足立つ。

 ――その隙を、赤とんぼ達は逃さない。


「赤とんぼ直上! 急降下!!」

《はぁ!?》

《しまった!》

《総員対ショック姿勢! 爆げ……わああぁぁぁ!》

《駄目だ、間にあわ……ぎゃああぁぁぁ!》


 ロケットランチャー装備の赤とんぼ達が上方を警戒していたランナー達を正面から攻撃することで防御体勢を崩し、注意が逸いだ後、無誘導爆弾装備の赤とんぼ達が直上から襲い掛かったのだ。


 火力、爆発範囲ともに低かったロケット弾に対し、急降下爆撃で投下された無誘導爆弾は十二分。

 ロケット弾の雨で十分な防御体勢も取れなかったことも災いし、ランナー達に大打撃を与えていた。


《ダメージレポート! どうなってる!?》

《かなりやられた! 死に戻り多数!》

《足をやられた! 急斜面で足場の悪い山林じゃ動けない!》

《動け! 一ヵ所に止まるな! 機銃掃射が来る!》

《鬼人兵も動き出したぞ!》


 アスカは爆撃を終え、ランナー達の上空でホバリングを始める赤とんぼを堕としながら地上を見ると、被害の大きさに思わず眉をひそめる。


「……大損害じゃない」

『今の爆撃で約一割のランナーが死亡しました。残存するランナーの平均HPも八割を切っています』


 足場の悪い山林を進むため踏破能力の高いソルジャーアーマー装備が多かったことが災いした形だった。

 アサルトアーマーより防御力とHPの少ないソルジャーアーマーでは、ロケットランチャーと急降下爆撃のコンボに耐えきれなかったのだ。


 そして、モンスター達の攻撃はこれで終わりではない。

 赤とんぼは空中でホバリングを始め、尾部ガトリング砲を展開し機銃掃射の構えを見せ、山林に潜む鬼人兵はこちらの足並みが乱れたと見るや、防御態勢から一転。

 攻勢の動きを見せる。


 南北の山二つに分かれた戦場は乱戦の様相を呈し、戦闘範囲は広大。

 上空の赤とんぼにも対処しなければならず、もはやアスカひとりの手におえるものではない。

 

 昨日までなら地上への支援を放棄し、空の赤とんぼに専念しなければならない、そんな状況。

 だが、今のアスカは一人ではない。


《リコリス1! 待たせた!》

《ヴァイパーチーム、戦線に復帰するわ!》

「はい! まずは赤とんぼを全部叩き落します! 私が北を見るので、ヴァイパーチームは南をお願いします!」

《COPY!》

《了解!》


 

 オペレーション、スキップショット四日目。

 重要拠点シエラ攻略作戦は、まだ始まったばかりだ。



明日は地上編二話を更新致します!

たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまり北大東空港から飛び立ってしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[一言] こんだけ強くしたくせに期間延長のひとつが無いことを思い出した。期間内にクリア出来るかな?
[一言] うーん相変わらずのクソゲー これアスカが途中でやめたらイベント全体が詰むのでは
[一言] 空対地ロケラン攻撃。ベトナムとアフガニスタンを思い出した。
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