71 DAY4空と陸のブリーフィング
陸上ブリーフィング部、アスカの作戦参加有無を確認する描写を追加。
アルディドの結成した飛行隊。
基本的な役割はアスカが行っていたものと同じ、地上の索敵、観測と制空権の確保、そして地上への航空支援だ。
しかし、各隊員のそれはアスカの能力を大きく下回るものだという。
それと言うのも……。
「如何せん、飛行隊結成の話が急すぎてね」
「私達もフライトアーマーは翡翠まで進めてはいたけど、遊びで使う程度だったから、専用装備なんて用意してなかったのよ」
そう話すヴァイパーチームの二人。
視線を横にすれば、ヘイローチームの二人も同意するような顔で頷いている。
アルディドによると、用意できたのはほとんどが店売りの装備品。
しかも肝心のレーダーやセンサーなどのオプション装備の性能が悪く、ロビンが用意してくれたセンサーブレードとは比べるまでもないほどに低品質なものだった。
あまりにひどい品質故、オーダーメイドと言う手も一時は考えたそうだが、飛行隊の結成のタイミングがイベントで索敵が重要だと知れ渡った後だった事が災いした。
レーダー用の素材は市場、アイテムトレード、どこを見渡しても残っておらずイベント期間中には用意出来そうもないと言う。
「イベント前から索敵、観測の重要性とフライトアーマーを結び付けたリコリス1の先見の明はすごいわね」
「まぁ、それしかできそうになかったって言うのもありますけど」
アスカはやや困ったような顔をしながらヴァイパー2に応じた。
イベントにおいて観測と地上支援について教えてくれたのはロビンであり、アスカは彼女にどうしたらいいか相談したに過ぎないのだ。
もっとも、そこからロビンが作り上げた飛雲と各種センサー類がかなりの高性能だったのは想定外だったが。
「翡翠も悪くないのだけど、リコリス1みたいにすべてを賄えるだけの装備は積めないわ」
「そこでリコリス1には周囲の索敵、観測を頼みたい。代わりに俺達ヴァイパーチームが地上への航空支援と制空を担う」
アルディドの提案に、アスカは頷いた。
彼らの持つセンサーの性能がこちらの物より性能が低い以上、観測はアスカが担った方が効率が良いだろう。
地上への支援と制空ならアサルトライフルとハンドグレネードさえあれば事足りるのだ。
その後は細かい役割や連携などの確認を行ってゆく。
そしてある程度話がまとまってきた所でアスカは居住まいを整え、切り出した。
「連携はこれで良いと思います。それで、皆さんに手伝ってほしいことがあるんです」
「手伝ってほしい事?」
いきなり険しい表情になり、切り出したアスカ。
雰囲気が一変したことをアルディド達も読み取り、周囲の空気が緊張する。
「……リコリス1が僕たちに頼み事とは穏やかではないね」
「詳しく聞かせてくれる?」
「はい。お願いしたいのは黒い悪魔ブービーとその飛行隊の対処です」
イマイチ要領を掴めていない他三人に対し、アルディドは「そうか、それがあったな」と表情が一気に暗くなる。
そもそも、アスカがアルディドに偵察をお願いしたのも、飛行隊の話に乗ったのもブービー達に対処するのが理由だ。
四対一ではどうあがいても勝てない相手だが、五対四になれば勝機も見えてくる。
アスカが望むブービーとの一対一に持ち込めるチャンスもあるだろう。
「……黒い悪魔ブービーって二日目にリコリス1を落したネームドエネミーよね?」
「それほどまでに強い相手なのか?」
アルディドはアスカから詳しい話を聞いているが、他三名は詳細を知らない。
アスカを疑っているわけではないが、どれほどに強いのか想像できないのだろう。
詳しく説明したいところだが、口で説明しても理解してもらえるかは怪しい。
どうやって説明したらいいか悩んでいると、アイビスが助け舟を出してくれた。
『アスカ、口頭で伝えるより空戦の動画を見せた方が早いと思われます』
「そっか、動画があった! さすがアイビス!」
アスカはアイビスのその提案に飛びつき、メニュー画面を操作。
すぐさま一昨日のギンヤンマとの戦闘、その後のブービーとの一騎打ち、昨日の鬼ごっこの動画をテーブルに表示させる。
最初は驚きながらも興味深そうに見ていた三人だったが、その表情はみるみる凍り付いて行った。
もともとはβテスターの中でも上位に来るフライトアーマー使い。
そんな彼らが見れば飛雲の性能の高さ、アスカのプレイヤースキル、そしてブービーの恐ろしさが手に取るように分かるのだ。
特に、動画がアスカがブービーをあと一歩のところまで追い込んだところでコブラを行い、撃墜されたところではアルディドを含め全員が顔を引きつらせたまま絶句していた。
「……これは、エグいね」
「話には聞いていたが、これほどとは……」
「ブービーのパワーは翡翠よりはるかに上ね。これと一対一で勝ち負けまで持っていけるだけですごいわ」
「おまけにコブラだよ? 事前情報なしじゃとても太刀打ちできるものじゃないね」
にぎやかなランナー協会の喫茶店において唯一静寂に包まれてる一角で、重い口を開く各々。
動画は昨日の鬼ごっこに移っており、アスカを追うその姿から、ギンヤンマとブービーの特性もおおよその見当をつけていった。
「リコリス1、よく生きてたね、これ……」
「最後は撃墜される寸前でした」
「リコリス1の使うカスタムアーマーでこれだけ劣勢になるとなると、翡翠を使う僕たちじゃ相手にならなんじゃないかな?」
「ブービーもそうだが、ギンヤンマもかなりの物だ。翡翠じゃ一対一での勝ち目は薄いか?」
数的有利ではあるが、あちらが制空一辺倒なのに対し、こちらは偵察、対地、対空、その全てに対処しなければならない。
特にブービー達と同時に出てくると思われる赤とんぼだけは最優先で落とさなければ、こちらの地上部隊が壊滅的打撃を受けてしまう。
その後しばらく五人で対処策を検討しあうが、有効な手立ては思い浮かばず重い沈黙がその場を支配した。
タイミングを同じくして喫茶店に入って来たランナー達がいた。
その面々は人で溢れる店内を見まわし、空席がないと知ると出ていこうとしたが、そのうちの一人がアスカ達を見つけ近づいてきた。
「あら、アスカにアルディドじゃない。それに……蜥蜴娘にブラザーズ?」
「おやおやぁ、万国びっくりショーかにゃあ?」
現れたのはフランにキスカ、ホークの三人と、フラン率いる魔導特科小隊の面々だ。
彼女たちはこの後開かれる作戦会議とその後の部隊ごとのミーティングに参加するために集まってきたのだという。
なお、ファルク、アルバの両名は作戦会議参加のため、こちらではなく会議室に向かったそうだ。
「にしても、お前ら全員通夜みたいな顔をして、どうしたんだ?」
「テーブルに映ってるのは動画? 何見てるの?」
「面白そうだねぇ。私たちも見て良いかぃ?」
自分が撃ち落とされたり、ひたすらに逃げ惑う動画を見られるのは何とも恥ずかしく、断ろうとするアスカだったがアルディドがそれを制した。
「このメンバーなら信用できる。俺達だけで妙案が浮かばないなら、彼女たちの意見も聞いた方が良い」
そう言われてしまっては断ることが出来ず、アスカは事情を説明し、皆で動画を視聴。
ブービー達攻略の策を模索する。
まるで航空ショーや映画さながらの迫力ある空戦動画に息をのむキスカやフラン達。
なお、約一名数分と経たず顔を青くし、画面から顔をそむけた人物がいたが、彼の名誉のためアスカは見て見ぬふりを敢行する。
動画を視聴後、少しでも役に立てればと案を出してくれるフラン達だが、状況を打開できるほどの策はなく場に再び重い空気が漂い始めたとき。
「……何とかなるかも」
そう声を上げたのはファルク達の小隊が誇るスナイパー、キスカだった。
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「では、西の重要拠点シエラ、攻略作戦の会議を開始させていただきます」
ランナー協会一階の喫茶店でアスカ達が打倒ブービーの作戦会議をしてからしばらく。
同じランナー協会上階のレンタルオフィスの一角で、本日の攻略地点、シエラを落すための作戦会議が開始された。
主要メンバーこそ、ここまでの攻略組と大差ないが、中には真新しい顔もまた散見される。彼らは一昨日、昨日の重要拠点攻略には参加せず、シエラのみを攻略し続けてきた猛者達だ。
今回の作戦指揮もクロムではなく、連日シエラに攻め続けた者が選ばれている。
「まず、現在のシエラの状況を説明します。各員、確認しながら聞いてください」
西の重要拠点シエラを守るのはネームドエネミーである鬼神、シーマンズ。
その戦闘スタイルは武士。
並み居る腕利きの鬼人を従え、突撃からの接近戦という、攻撃に特化した能力を持つ。
厄介なのは、腕力一辺倒ではなく、敗走と見せかけてからの待ち伏せ攻撃、俗にいう『釣り野伏』や陣地から火縄銃に似たシルエットを持つ銃からの一斉射、鉄砲三段撃ちなど、知力と胆力をも駆使して戦ってくる事だ。
実際、シエラの攻略に参加したランナー達はこのシーマンズ軍の戦法に大いに苦しめられた。
こちらに背中を晒し、逃げだす鬼人達を見て好機だと考え、追撃すればいつの間にか包囲されていたり、複数のアサルトで防御を固めた部隊で挑めば鉄砲三段でハチの巣にされるなど、ほとんど戦果を挙げることなく死に戻りさせられているのだ。
そのあまりのひどさに『お前ら、いま何年だと思ってんだよ!』『戦国時代じゃねぇんだぞ!』と怒号を飛ばすランナー達。
彼らの言い分ももっともである。
さらに重要拠点シエラの攻略を難しくしているのが、シエラ周辺の地形。
ホクトベイの海岸線周辺は基本的になだらかな平地なのに対し、シエラ周辺の海沿いにあるのは山。
さらに、そのすぐ南には陸地側の山がそびえている為、南北を山で挟まれた渓谷になっているのだ。
もちろん、シエラの拠点ポータルはその渓谷を抜けた先にある。
先日攻略した重要拠点ゴルフも南北を海で挟まれた陸繋砂州の先にあったが、こちらは海から攻撃されることはなく、また砂州も移動を制限されない程度の幅はあった。
しかし、こちらは違う。
ランナー達が進まなければならないのは南北を木々で覆われた山の間であり、山には当然、大量の鬼人兵が潜んでいる。
不用意に侵入しようものなら南北から集中砲火を浴び、即ポータルへと帰還させられてしまうのだ。
説明を終え、一息入れる司会進行。
ここまでの情報はすでに全員が共有しているものであり、聞いていたランナー達にも悲壮感はない。
問題はこの渓谷をどうやって抜けるかだ。
「して、策はあるのかのう?」
声を上げたのはクロムだった。
「策、と言うほどの物は正直ありません。地形が地形なだけに、正面突破しかないのです」
シエラはその奥に最重要拠点ユニフォームが控えている。
開けた海岸線にあり、北西から挟み撃ちに出来たゴルフとは勝手が違うのだ。
山間部に鬼人兵が多数控えている為、渓谷を迂回しての隠密行動も不可能。
結論としては、敵がガチガチに構えている陣地に向け突っ込むしか手がない。
「しかし、何も玉砕覚悟で突っ込む訳ではありません。先日見つかったイベント特効の兵装をもつ部隊を編成、これを敵の層が一番厚い部分にぶつけます」
イベント特効兵装。
それはホクトベイ、イベントマップ内で採取できた特殊鉱石を使用して作った装備品だ。
防具を作ればイベントマップ内では防御力に補正がかかり、武器を作れば攻撃力が、弾薬を作れば貫通力と与ダメージが上がる、イベント用決戦兵器。
採取場所は西部の拠点でリアルでは砿業所がある場所と、東部の上陸拠点ホテルの近く、リアルでは有名な神社がある場所の二か所。
地元民でなければ気付かなかったと思われるが、そこは大人数が参加するオンラインゲーム。
土地勘があるものは多く、明らかに意味ありげな場所に拠点が置かれ、有名な神社がマップ内に収まっていると気が付けばそこに何かあると考えるのは至極当然だった。
結果、特殊鉱石はイベント開始まもなくして発見され、それをもとに造られた兵装には特効があるとすぐに知れ渡った。
が、知れ渡ったところでそれがある程度の数が出回るには時間がかかる。
特殊鉱石発見から数日たった今。
ようやくそれを主兵装にした部隊が編成出来るだけの数が揃ったのだ。
「そんな特殊部隊でも不用意に渓谷に入れば南北の山から集中砲火だぞ? 突破できるのか?」
「無論、我々もそこまで甘く考えてはいません。先日、先々日の全滅は、山に潜む鬼人兵を発見できず、撃退しないまま渓谷に入ったことが原因です」
「……つまり?」
「特別に編成した索敵部隊を山林部に送り込み、迫撃砲などの広範囲攻撃で潜んでいる連中を炙り出します」
ざわり、と会議室がどよめいた。
「本作戦の要は特効兵器を持った強襲部隊です。その部隊が渓谷に入る前に踏破能力に優れた部隊を南北の山に入れ、潜伏する敵鬼人兵部隊を掃討。先日までならば接近するまで鬼人兵に気付かず、潜伏した敵兵に包囲され各個撃破されていました。そこで隠蔽装備の弱点を突き、こちらが先に連中を見つけます。発見さえできれば奇襲用の軽装鬼人兵など敵ではありません」
周囲のランナー達の真剣な眼差しが司会進行役に集中する中、彼は話をつづけた。
「南北の脅威を排除した後、アームドビーストの機動部隊を第一陣として渓谷に突撃させ、鬼神シーマンズが居るシエラを強襲、その混乱に乗じて第二陣、こちらの本命である特効部隊が渓谷を抜け、シエラを落とします。なおこの作戦にリコリス1が居てくれると非常に助かるのですが、彼女はこの作戦に参加してくれるのでしょうか?」
おぉ、と会議室がにわかに沸き立つと同時に司会進行がリコリス1、アスカと面識のあるファルク達へ視線を向けた時。
ガチャリと戸をあけ会議室に入ってくるランナーが居た。
「あの~、シエラ攻略の会議があるって聞いてきたんですけど……」
「もう会議終わっちまったか?」
皆の視線を集める中、会議室に入ってきたのは開けた扉から顔だけを出して周囲を見渡すアスカと、その後ろから堂々と室内に入るアルディドの二人だった。
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嬉しさのあまり薩摩硫黄島飛行場から飛び立ってしまいそうです!