11 フライトアーマーと魔力草
本日一話目更新です。
「ここが山岳?」
「そうだよ~ここからミッドガル東のガイルド山岳」
ミッドガルの街を出て一時間ほど歩き、アスカとフランの二人はガイルド山岳に到着した。
ガイルド山岳は『山岳』の名の通り険しい山が連なっている。
地表に木々はなく、変わりに緑の絨毯を敷き詰めたような青々しい草花が麓を覆っているが、それも山の中腹まで。
そこから先は上に行くにつれ緑も減り岩が剥き出しになり、頂上付近にはうっすらと雪がかかっている。
二人が立っているのは山岳にそって作られた街道の入り口で、山岳の麓。
周辺も木々が少なく、どちらかというと平原に近い。
街道を山岳へ向け歩いていくと、小さな村のようなものが見えてきた。
「フラン、あれは?」
「ラクト村だよ。山岳の入り口にあって、休憩所やログアウトポータルがあるんだ。ショップもあるからアイテムの補充もできるよ」
街道はそのまま村へつながっていたため、アスカたちも道すがら村の中へ入っていくことに。
村へ入るとアーマーは自動解除され、同時にMPが全回復。このあたりの仕様はミッドガルの街と同じようだ。
山岳へ続く街道は村一番の大通りとなっているようで、中央の広場へと続いている。
広場は中央にログアウトポータルがあるだけの簡素なものだが、意外と人の数が多い。
「みんな魔力草を探しに来たランナー達だよ。どうしても欲しい人、高値で売って儲けたい人とか、たくさんいるんだ」
フランは笑いながらそう話す。
なるほど。よくよく見渡せばごく少数ながら初期の服を着ている人も散見できるのだ。ランナーが多いというのは嘘ではないのだろう。
もっとも、アスカもいまだ初期の服を着ているので人のことは言えないが。
「少し休憩していくかい?」
「ううん。時間も押してるし、先を急ごう」
今日はログインしてから薬草の採取を行い、その後フランと出会ってここまで来ている。
昼時間はまだ残っているが、現実世界だと夕方を少し回った時間だ。
「了解。じゃあ、ちょっとだけ待ってて」
「フラン?」
フランはそう言い残すと近くのお店の中に入って行き、しばらくすると紙袋をもって戻ってきた。
「これ、私のおごり! 食べながら行こうよ」
フランの紙袋の中身はフルーツサンドと暖かい紅茶だった。
「この辺りは酪農やってるみたいでね~。牛乳とか生クリーム、チーズを使った軽食も販売してるんだ~おいしいよ」
「貰っちゃっていいの?」
「いいのいいの。ゲームは楽しくやらないとね」
歩きながら食べるのは行儀が悪いとは思ったが、時間も気になるのでフランの言う通り食べながら先を急ぐことにする。
フルーツサンドは甘い生クリームにフルーツの酸味が効いていてとてもおいしかった。
一緒に貰った紅茶が口の残った甘みと合わさり、とても心地よい後味を残す。
そのおいしさは現実に勝るとも劣らない。
「ねぇフラン。このゲームの食べ物ってなんでこんなにおいしいのかな?」
「あぁ、それは開発の人の中に食べ物に関してすごくこだわる人がいたって話だよ。なんでも、プレイヤーの心を掴むにはまず胃袋だ! って言って、いろんな企業の協力を取り付けたんだって。お店に入ると協力してくれたお店の名前や、原産地の名前が張ってあったりするんだよ」
「へぇー! 気合入ってるんだね。じゃあ、このフルーツサンドも?」
「うん。これはね……」
「えぇーっ!?」
フランは耳打ちでアスカに協賛会社の名を告げたのだが、それはなんと現実世界では開店後数分で人気商品が完売する超人気店。
開発陣の本気度が垣間見える瞬間だった。
フルーツサンドを食べ終わるころには村の反対側、山岳の入り口にたどり着く。
周囲では今から山岳へ向け出発するランナーと探索から帰ってきたランナーとでにぎわいを見せていた。
村の境界線を出たところで二人もエグゾアーマーを装着。
すると周りからいくらか笑い声が聞こえてきた。
「皆なんで笑ってるの?」
「あ~それはアスカがフライトアーマーを装備してるからだねぇ」
「どういう事?」
言われた意味が分からず、顔に疑問符が浮かべるアスカ。
「フライトアーマーは扱いが難しいからねぇ。無理して魔力草取ろうとしてそのまま落っこちる奴が後を絶たないのさ」
フラン曰く、他のアーマーで採取できないならフライトアーマーで採取をというのは皆考えたそうだ。
この村を起点にして小隊を組み、フライトアーマーを護衛。
採取ポイントまで来たらフライトアーマーが魔力草を採取する。
その考えまでは良かった。
問題は思った以上にフライトアーマーの操作性が悪かったこと。
付け焼刃の操作では満足に飛ぶこともできず、ましてや繊細な出力調整と姿勢制御が必要なホバリングなど不可能。
結果、フライトアーマーでの採取を試した人のほとんどが失敗に終わったという。
「みんなアスカをそういった無謀なランナーだと思ってるのさ」
「ホバーは慣れれば大丈夫だけどなぁ」
「ふふ~期待してるよ」
不思議そうな顔をするアスカの肩をフランがポンポンと叩く。
ここまでのいくらかの戦闘でフランはアスカの飛行技術を目の当たりにしているため、ホバリングが出来ずに墜落するなどという事は杞憂であると理解している。
二人は周りのことなどお構いなしに魔力草を求め山岳へと入っていった。
山岳の街道は山の傾斜沿いに作られているため道幅が狭くつづら折りになっているところも多く、石がむき出しになっているので足場自体も良いものではない。
フライトアーマーは基本飛行状態を前提としているため脚部の安定性に不安を抱えており、歩きにくい足場のせいで移動に余計な時間がかかってしまっていた。
「うぅ、歩きにくい……」
「アスカがんばってぇ。魔力草はこの先だよぉ」
「フランはいいよね、浮いてるんだもん……」
マジックアーマーは基本ホバー移動のためこの足元の悪さの影響を受けない。
フランは顔に疲労の色一つ見せず、すいすいと足場の悪い山岳路を進んでいく。
最も、ホバーしているという事は足場を間違えると谷底へ真っ逆さまなのだが。
そうして四苦八苦しながら山岳を進み、アスカは何とか中腹までたどり着く。
麓で生い茂っていた丈の低い草花は姿を消し、辺りは地表が露わになっていて大小さまざまな岩がそこかしこに転がっている。
「きれいな景色だね」
「うん、私もここからの眺めは大好きだよ」
周りの地面は石と岩だらけだが、少し視線をあげるとそこには美しい山岳の風景が広がっていた。
今日は天気も良く、遠くの山々までよく見えるのだ。
山々はそれぞれ不均一な凹凸を持ち、所々には雪もちらついている。
いつもは空から山々を見下ろしているアスカだが、視線の高さと同じにある山々というのもこれはこれで風情があっていいものだ。
そんな山岳の風景を楽しみながらしばらく歩いたところでフランの足が止まった。
「フラン?」
「アスカ、あそこ」
フランが指差したのは切り立った斜面の下。
そこには人ひとりがようやく立てるかどうかの岩が転がっており、縁に採取ポイントがあるのが見て取れた。
「まさか、あそこ?」
「うん。そう」
アスカは目を見開いた。
その位置は斜面に作られた街道から一〇mほど下にあり、その岩の下は断崖絶壁で下の地面まで遮るものが何もなかったのだ。
「これは……確かに他のアーマーじゃ無理だわ」
「でしょ? な~んでこんなところに採取ポイントを作ったんだろうねぇ」
困り顔になるアスカに、呆れて両手を上げながら首を左右に振るフラン。
だが、二人の反応も無理もない。
あのポイントに他のエグゾアーマーが降りても、そのまま斜面を滑り落ちることになり落下してしまうこと請け合い。
仮に落下せずうまく採取ポイントに着けていたとしても、今度はこの急斜面を登って戻ってくる手段がないのだ。
「ということで、アスカ、お願い」
両手を合わせてお願いのポーズをしてくるフラン。
アスカはそんなポーズしなくてもいいのにと苦笑いしながらフライトユニットを作動させる。
何度も墜落覚悟の飛行訓練を重ねたアスカにとってホバリングはさして難しいことではない。
足が僅かに浮き上がる程度に出力を調整し、そのまま街道から外れ、斜面の上へ。
そのまま今度は出力を少しずつ落とし、人ひとりが立てるかどうかの岩の上に降り立った。
「よし、あとはこれを採取すればいいのね」
<魔力草を採取しました>
<魔力草を採取しました>
<魔力草を採取しました>
<薬草を採取しました>
<魔力草を採取しました>
五回採集をした時点で採取ポイントは光を失った。どうやらここも採取は5回が限界のようだ。
採取できた魔力草は四個、一個は薬草になってしまったが、そこは運の関係で仕方がない。
アスカは再びフライトユニットに火を入れホバリングで上昇。フランが待つ街道に戻ってきた。
「フラン、取って来たよ」
「やったぁ、見せて見せて!」
大喜びするフランと一緒に採取してきた魔力草をインベントリで確認する。
[アイテム] 魔力草 品質E
葉に魔力を含んだ薬草。
MPを8回復する
「品質Eなんだけど……」
「大丈夫だよぉ! 今は品薄過ぎてどんな品質でも良いんだぁ」
品質は悪かったが、それでもフランは大喜びしていた。
今のところ流通する魔力草でも最高品質がDなのでEでも全く問題がないそうだ。
採取できたのはDが一つにEが三つ。
「よし、じゃあこの調子でお願いね!」
「お任せあれ!」
「じゃあ、次はあそこ!」
「あそこ?」
フランが指さした先は切り立った崖の中腹にある採取ポイント。
先ほどと同じく人ひとりが立てるかどうかの足場しかない。
「なんだってあんな場所に……」
「嫌がらせとしか思えないよねぇ」
アスカは再びフライトユニットに火を入れると、採取ポイントまで飛んでいく。
「よいしょ。こんなところに貴重な薬草を置くなんて、何考えてんだろ……」
開発への文句を言いながら、アスカは魔力草を採取していく。
<魔力草を採取しました>
<薬草を採取しました>
「あれ、二個しか取れない?」
採取ポイントから二個目を採取した時点で、なぜか次の採取が行えなくなった。
この採取ポイントからは二個しか取れないのかと思ったが、採取ポイントの光はまだ残っていてまだ採取できることを示している。
『アスカ、インベントリがいっぱいです。インベントリを整理して、不要なものを廃棄してください』
「え、インベントリ?」
アイビスから言われてアスカはハッとした。
プレイを開始してからインベントリの整理は一度も行っていない。
つまり、今インベントリになにが入っているのかしっかり把握していないのだ。
アスカは慌ててインベントリの中を確認する。
アサルトライフルの弾薬、グレネードランチャーの弾薬、雑草、薬草G、薬草F、薬草E、魔力草E、魔力草D、狼肉、魔石・小。計一〇個だった。
「アイビス、私一〇個しかもってないよ?」
『フライトアーマーのインベントリ上限は一〇です」
「えぇ……」
『Blue Planet Online』では同じアイテム、同じ品質ならストックしておける。
ところが、名称が同じでも品質が違う場合は別アイテムとして認識される為、インベントリを圧迫してしまうのだ。
ましてや、それが全アーマー中最低のアイテム枠数のフライトアーマーならなおのこと。
「ま、一〇個までしか持てないなら仕方ないよね。雑草なんて持ってても仕方ないし」
アスカはインベントリから雑草を廃棄。あらためて採取を行った。
<魔力草を採取しました>
<魔力草を採取しました>
<魔力草を採取しました>
「よしよし、出来た出来た」
インベントリの枠を開けたことで魔力草が採取できた。品質はFだったが、それでも雑草を忍ばせておくよりは良いだろう。
採取を終えたアスカはフランのもとへと戻っていった。
Blue Planet Onlineにおけるエグゾアーマーごとのインベントリ枠数(初期状態)
トランスポート……30
ソルジャー…………20
アサルト……………15
ストライカー………15
スナイパー…………15
マジック……………15
メディック…………15
スカウト……………15
フライト……………10
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