68 DAY3要塞制圧
『フライトユニット被弾、推力低下。左主翼被弾、機動力低下。左センサーポッド被弾、大破。作動停止』
「もう無理! もう無理いいぃぃぃ!!!」
地上から援護してもらいつつブービー達の追撃を振り切り、赤とんぼを優先して撃墜し、隙を見て地上を支援してきたアスカだったが、飛雲はすでに満身創痍、限界を迎えていた。
度重なる被弾で機動力は飛行限界まで低下し、遂に損傷してしまったフライトユニットからは煙が上がっている。
この状況にアスカはもはや涙目。
フライトユニットが損傷し、対地攻撃用で固めた装備では到底ブービー達にはかなわない。
あとはもう撃墜されるのを待つのみ。
――そう覚悟した時だった。
『敵機反転。離脱していきます』
「えっ?」
とどめを刺そうとアスカの背後に付いたギンヤンマ達が急に反転。
ブービーや残りの赤とんぼを含め、ゴルフ要塞上空から離脱しだしたのだ。
「え、何が起こったの……?」
いきなりの事態で呆気にとられるアスカだが、その答えがすぐに全体アナウンスとして報告された。
<ゴルフの拠点ポータルを確保しました>
「お、おおぉぉぉ!」
それは昨日の敗戦を払拭する、起死回生となる勝利の報。
喜びに震えるアスカ。
同時に地上のランナー達からも盛大な勝鬨が上がる。
《諸君、目的である拠点ポータルの奪取に成功した。じゃが、まだ要塞内外には敵勢力が残存し、敗走を始めておる。気を再度引き締め、これらの掃討に当たれ。一匹たりとも逃すでないぞ》
聞こえてきたのは今作戦総大将であるクロムの声だった。
見れば、先ほどまでは徹底抗戦の構えを見せていた獣人やホブゴブリン、オーク等が要塞を放棄し、南の敵陣地へ向け退却を始めていた。
先ほどのブービーや赤とんぼ達も同じように、拠点ポータルをこちらが奪取したことで攻撃を中止し、撤退したと思われる。
《リコリス1、聞こえるか?》
「アルバ! シメオンに勝ったんだね。お疲れ様」
《航空支援があってこそだ。おかげで命拾いした。皆感謝しているぞ》
「えへへ、死なせないって言ったでしょ?」
《有言実行とはな…… 全く感心させられる。リコリス1もよく耐えてくれた》
「もう満身創痍だよ。今も飛べてるのが不思議なくらい」
《ふふ、流石だな、リコリス1》
「そっちもね」
《要塞のポータル周辺を確保している。ここなら着陸できるはずだ。皆待ってるぞ》
このままランナー達の追撃、掃討の支援をしたいところではあるがアスカの飛雲はもう限界だ。
手持ちの回復アイテムも残弾もほぼ尽きていることもあり、アスカはゴルフでの戦闘行為を終了。
アルバ達のいる拠点ポータルへ向け着陸のアプローチを開始する。
飛行姿勢を高速から巡行に移行し、大きく旋回。
拠点ポータルのある祭壇を正面に捉える。
ゴルフ要塞周辺での戦闘は依然としていたるところで続いているが、勝利確定後の掃討戦という事で余裕もあるようで、低速、低空飛行で着陸してゆくアスカへ向けあちらこちらから歓声が上がっていた。
アスカは手を振って声援に答えながら、さらに減速。
姿勢を攻撃姿勢にし、体自体をエアブレーキとして使用する。
被弾によるダメージでまっすぐ飛べない飛雲を何とかコントロールし、斜めになりながらも着陸ポイントである祭壇へと降り立った。
不安定な姿勢のまま着地したことで足元がおぼつかず、ふらつきながらもなんとか着陸する。
転倒しないよう注意しながら減速してゆくアスカ。
それと同時に……。
「アスカさんありがとう! うちら勝ったよおぉ!」
「ホロ!」
我慢しきれなくなったのであろうホロが、アスカが姿勢を立て直し、停止するよりも先に飛びついてきたのだ。
元よりひ弱なフライトアーマー。
そこに損傷、不安定な姿勢、ホロのアサルトアーマーの重量が相まって揉みくちゃになりながら倒れ込んでしまった。
だが、二人の表情はとても晴れやかだ。
「おやおや、そんなことしたら衝突ダメージでアスカが死んでしまいますよ?」
「あっ! ごめん、アスカさん」
「まぁまぁ、飛びつきたくなる気持ちは分かるよ。アスカには感謝してもしきれないしさ」
「ほっほっほ、よくぞこの困難な任務を達成してくれた。感謝するぞい、リコリス1」
ホロに続いてファルク、マルゼス、クロムらが続けてアスカに寄ってくる。
さらには周囲にいた他のランナー達もアスカのもとに集まりだし、立つことすらままならない。
皆一様にアスカに感謝の言葉をかけてきてくれるのだ。
そこにはメラーナ達やフランの魔導特科小隊、イグと愉快な仲間達のほか、キスカに高所恐怖症で降下作戦を辞退したホーク、後方支援要員であるはずのスコップの姿もあった。
皆、ファルク達がシメオンを倒した後にこの祭壇に到達し、総出でポータルを破壊したという。
今作戦においてはアスカとの直接的な連携はなかったが、各々がそれぞれの戦場で奮闘していたそうだ。
当初はやはり敵のバフが強力すぎ、何度かやられてしまったそうだが、強襲降下作戦が成功した後は一転。
背後からの強襲で完全な押せ押せムードであり、かなりのポイントが稼げたと皆良い笑顔をしている。
しかし、皆が身に付けているエグゾアーマーはそう簡単なものではなかったのだと物語るほどに激しく損傷していた。
足元は泥だらけ、腕や胸部は弾痕や何かで焼けた煤のようなもので埋め尽くされており、何人かは動作不良を起こしているらしく、動きがぎこちないものになっている。
それは後衛装備であるメラーナやフランも同様だ。
話を聞けば大勢有利とはいえ、相応の反撃はあったらしく、攻勢の後も死に戻りした者はかなりの数に上ったそうだ。
それでも、最終的には勢いと数の暴力で押し切ったらしい。
「カルブなんて後先考えずに突っ込むから、二回もやられちゃったんですよ?」
「最後の一回もHPミリ残りまで減ってたものね」
「い、いいじゃねぇか! ちゃんとこうして生き残ってるんだからさ!」
「私が回復してあげたからでしょう!? もう、次勝手に突進していったら回復してあげないからね!」
「えっ!? い、いや、それは困る……」
メラーナ、ラゴの苦言から、ばつの悪そうな顔をするカルブ。
二回やられたという彼が身に付けているのはTierⅠのアサルトアーマーだ。
TierⅢのエグゾアーマーでも状況次第では苦戦するイベントマップでは、苦戦どころか一撃死の危険性まである。
それはズタボロになるまで損傷している彼のエグゾアーマーが如実に表している。
恐らくはメラーナの支援魔法のおかげで既のところで耐え抜いたのだろう。
そうこうしていると急にポータルの放つ光が強くなると同時に、エグゾアーマーの自動修復が始まった。
ポータルの一定範囲内から敵が排除されたことでポータルの持つ修復機能が機能し始めたのだ。
もはや再飛行は無理だろうと思えるほどに損傷した飛雲の穴の開いた主翼、プスプスと煙が上がっていたエンジンが修復され、切り離した増槽が再度取り付けられる。
修復が終わるとそこには廃棄寸前だった面影はなく、下ろしたて、新品同然の姿がそこにあった。
それは周りのランナー達も同様。
修復された部位や両手両足を動かして動作確認を行うとともに、歓声が上がる。
エグゾアーマーの動作に問題がない事を確認した後、廃棄した装備も戻ってきているのも確認してからアイテムBOXを開き、アイテム補充。
弾薬類はトランスポートから支給品を受け取ると、こちらへ挨拶を送った後、意気揚々と祭壇から降りて行く。
その様子をじっと見ていたアスカ。
「みんな、どこに行くの?」
「さっそく次の拠点を落としにいったのさぁ」
「まだ多少なりとも時間はあるからな。稼げるだけ稼ぎたいし、攻められるところまで攻めたいんだろう」
笑いながら答えるフランとアルバだが、二人ともアイテム整理を始めているところを見るに他のランナー同様、ゴルフを落しただけで終わるつもりもないようだ。
それはメラーナ達やマルゼス、イグ、クロムらも同様だ。
「さて、ワシは作戦指揮を取ってた手前、ポイントが稼げておらん。この辺りで取り返さんといかんのぅ」
「よく言うぜ。攻勢の符丁が出た瞬間指揮所を飛び出して戦斧を振り回してたじゃねぇか」
「そうよね。ひと振りで複数の敵を屠ってたんだから、あれでポイントが稼げてないわけないわ」
今回、同小隊員であったファルクとアルバが降下作戦に出張った為、手すきになったホークとキスカは今回の作戦指揮官、クロムと小隊を組んだそうだ。
今でこそニコニコし、好々爺としての雰囲気を醸し出しているクロムだが、いざ戦闘となると穏やかそうな雰囲気はどこへやら。
初対面時の時の強烈な威圧感を隠そうともせず、自分の体格と同等かそれ以上の巨大な戦斧を振り回しながら敵陣へ向け突撃していったのだという。
「ふん、あんなもので足りるわけなかろう。不足分は次の拠点で稼がせてもらうわい」
「あぁ、怖い怖い。このジジイ、まだやる気だよ」
「仕方ないわね。私たちも本陣待機が長かったんだし、もう一稼ぎさせてもらいましょ」
そう言って三人は、他のランナー同様アスカ達へ視線であいさつを行った後、祭壇を降りていった。
「行っちゃった」
「じっとしてるのは性に合わないんだろうねぇ」
「フラン達はどうするの?」
「私もまだ稼ぐよぉ。制限時間まではまだ余裕があるからねぇ」
フランも魔導特科小隊を維持したまま、次の拠点攻略に出るという。
メラーナ達、イグ達も同様だが、ファルク達降下部隊からはマルゼスが外れるそうだ。
「一緒に行かないの?」
「騎馬とじゃ機動力が違い過ぎるからな」
「騎兵の仕事は歩兵に先駆けて敵陣に切り込んだり、横から奇襲をかける事だからね。小隊枠に空きのあるアームドビースト小隊に厄介になるよ」
愛馬、タービュランスを撫でながら答えるマルゼス。
機動部隊指揮官を務めた彼なら、アームドビーストのみで構成された小隊に伝手もあるのだろう。
ファルク、アルバ、ホロの三人は今日はそのままの小隊で行くという。
一度エグゾアーマーを解除、メニューを開き降下用のブースターやスラスターをエグゾアーマーから外しているようだ。
その間にも次々と祭壇から出撃して行くランナー達。
フランの小隊、イグの小隊、そしてメラーナ達と続き、装備変更を終えたマルゼスが居なくなり、残されたのはファルク達とアスカ、そしてスコップだ。
「さて、私達もそろそろ行きますが、アスカはどうしますか?」
「え?」
「今日はもうログアウトするん? それともこのまま進軍を支援してくれるん?」
「あ~、なるほど……」
「俺たちとしては支援してくれると助かるが」
「そうやね! アスカさんが支援してくれると本当に戦いやすかもん!」
「補充用弾薬にはまだまだ余裕はあるよ。どうする、アスカ?」
笑顔で話すホロにスコップ。
どうするのかと問われれば、答えはもう決まっている。
「私も行くよ!」
手早くアイテム整理とスコップからの補充を済ませたアスカは、再度皆を支援するため雲が厚さを増す曇天の空へ向けて意気揚々と飛び立っていった。
DAY3は今話で終了。
明日は掲示板回となります。
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嬉しさのあまり種子島空港から飛び立ってしまいそうです!