67 DAY3.G軍神戦
本日二話更新。
二話目になります。
ボス戦BGMを流しながらお楽しみください。
ゴルフ要塞内外から煙が上がり、要所要所で激しい戦闘が続く中。
中心部であるポータルのある祭壇でも銃撃と金属同士の衝突音が絶え間なく鳴り響いていた。
「ホロ、下がれ! 踏み込み過ぎだ!」
「せからしかっ!」
「アルバ!」
「おう!」
全ランナーの中でも屈指の戦闘力を誇るファルク達だが、ネームドエネミーである軍神シメオンの部隊を相手に攻めあぐねていた。
理由は至極単純。
シメオンの放つ回復魔法とバフが強力すぎるのだ。
戦闘開始直後、戦況はファルク達有利に運ばれていた。
兵装、弾薬の補給を受けた彼らの戦闘力は十二分であり、近衛兵を圧倒。
順調にHPを減らしていった。
だが、ある程度ダメージを与えたところで放たれたのはシメオンからの回復魔法。
これにより近衛兵達のHPはぼ全快。ファルク達が稼いだダメージを帳消しにされてしまったのだ。
諦めずに再度HPを減らすも、結果は同じ。
この時点で、先に取り巻きを仕留めようという当初の計画は放棄せざるを得なかった。
ならばと狙ったのはボスであるシメオン本体。
シメオンは戦闘開始してから一歩も動いていない。
その事から、他の基幹要員同様、大規模支援魔法を発動中のためその場から動けないと推測した。
要塞内で暴れまわった時同様、ファルク、ホロ、アルバの三人で敵を抑え込み、後ろからマルゼスが跳び越え強襲するという必殺の一撃。
だが、シメオンは耐えた。
マルゼスのランスがシメオンを捉えようかという所でシメオンが自らにバリアを張り、手に持つ錫杖でもってランスを巧みに逸らし致命傷を回避したのだ。
再度攻撃を仕掛けるも、近衛兵の守りも厚く、大したダメージを入れられない。
それどころかシメオンにダメージを入れるたびに、近衛兵に掛かっているバフが強力になってゆくのだ。
長剣二刀の獣人は攻撃力、機動力が上昇。
アルバの防御を抜き、エグゾアーマーを身に付けているタービュランスの速度に追いすがる。
大楯二枚の獣人は防御力と体力が上昇。
ホロの大槌一撃でもビクともしなくなり、ファルクのレイライフルでは盾に傷すらつけられなくなる。
手詰まりとなり、動きが緩慢になったところに二刀持ちの近衛兵が攻撃を仕掛けてくる。
すかさずアルバが盾で受け、動きを止めたところにホロが横から大槌の一撃。
近衛兵はHPこそほとんど減らないものの、大きく吹き飛びアルバ達に態勢を整えるだけの時間を稼ぐ。
シメオンのバフはスーパーアーマーの付与ではないため、強攻撃を与えた時に生じるノックバックはそのまま。
だが、敵のHPを削れないのではどうしようもない。
「くっ……ここまで硬くなるか」
「まったく、硬すぎるんは嫌われるんよ!?」
ファルク達はいよいよもって窮地に追いやられてゆく。
必死に打開策を探すが、バフ解除やデバフの魔法も通じず、撃てる手立ても尽きて行く。
そんな中でも一つだけ、分ったことがあった。
「やっぱり、シメオンのHPは回復しないみたいですね」
「これだけの支援魔法と近衛兵の強さだからね。バランス調整なんだろう」
顔を見合わせるファルクとマルゼス。
数度の攻撃で三割ほど減らしたシメオンのHP。
近衛兵のHPは回復させるシメオンだが、自身のHPを回復することはなく、近衛兵達の支援に徹している。
となると、やはりシメオン戦のキモはシメオン本人への直接攻撃だ。
如何に近衛兵に強力なバフがかかろうとも、総大将であるシメオンさえ倒してしまえばこちらの勝ち。
だが、問題はいかに近衛兵の背後に隠れるシメオンへ攻撃を入れるか? それに尽きる。
ファルク達は再度マルゼスとタービュランスによる強襲作戦に打って出る。
ここまでシメオンに与えたダメージのほとんどを稼ぎ出した連携技。
だが、さすがに多用しすぎたのか、盾持ちの獣人を跳び越えた先で二刀持ちの近衛兵がシメオンの掩護に回り、一撃を入れることが出来なかった。
「ファルク、駄目だ! 対策されてる!」
「多用しすぎましたか……」
「ど、どうするん? もう打つ手がなかよ?」
戦闘開始時は万全だったファルク達も、このシメオン相手の消耗戦で大きく疲弊してまっている。
大量にあった各種ポーション、弾薬類はその数を大きく減らし、修復したエグゾアーマーは再び動作不良を起こし始めていた。
戦い続けられる時間もそう長くはない。
「……最後の大勝負、やるか」
「アルバ?」
「まだなんか手があると?」
苦悶の表情をする各員の中で、アルバが不敵にニヤリと笑う。
「とっておきだ。これで効果がなければ、あきらめるしかない」
「そんな作戦が残ってたの?」
「アルバ、聞かせてください。この状況を打開できるなら、どんな手にもすがりましょう」
攻めてくる近衛兵の合間を縫って、アルバが考えた作戦を皆に伝える。
すると、皆の表情が一気に変わり、活力にあふれて行く。
「そうか、それで……!」
「そんなとっておきがあったとね!?」
「だからいままでそいつを使ってこなかったのですね……」
「偶然ともいうがな」
「なんにしてもその作戦しかありません。よし、皆、準備は良いですね? いきますよ!」
全員が作戦を理解したところで、全員がスラスターを起動させ攻撃を開始する。
先陣を切ったのはホロとファルク。
彼らが狙うのは正面に構える盾を持った近衛兵でも後ろに控えるシメオンでもなく、両脇で長剣二刀を構える近衛兵だった。
まさか向こうから攻撃してくるとは思っていなかった二刀持ちの近衛兵達だが、ワンテンポ遅れながらもすぐにホロ、ファルクの動きに反応する。
ホロの重い槌の一撃を受けた近衛兵はクロスさせた長剣で受け止め、ファルクの銃撃からのレイサーベルによる攻撃を受けた近衛兵はその連続攻撃を軽くいなした後、反撃の一撃を返す。
ファルクはそれを装甲板のうち二枚で受け、両者ともに動きを止め力比べに入る。
「お前たちは!」
「うちらが止めるけんね!」
そう、この膠着状態こそ、ホロとファルクの狙いだったのだ。
二人の狙いは攻撃を担う近衛兵の動きを止める事。
そして本命であるアルバが盾を構え壁のようにシメオンを護る近衛兵へ向かって突撃してゆく。
同時に上空から聞こえてきたのは、まるでタイミングを合わせたかのように上空から近付いてくるエンジン音。
その主はもちろんアスカ。
彼女はアルバの発した支援要請に応じ、ブービー達に追われながらもこの最終決戦の場に駆け付けたのだ。
後方からの銃撃を巧みに躱しながら、急降下爆撃の姿勢に入るアスカ。
《アルバ、準備は良い!?》
「バッチリだ、リコリス1!」
《いくよ、ボムズアウェイ! 空域離脱、アイビス!》
《カウントダウンします。五、四――》
アスカはありったけの手榴弾を投下した後、アイビスに弾着までのカウントダウンを頼みすぐさま離脱。
弾着を見届けることなく再度ブービー達と決死の鬼ごっこを再開する。
《――三、二、弾着、今!》
アイビスのカウントダウンが弾着を告げると同時に、アルバ達とシメオンがいる祭壇で爆発が起きた。
アルバが念押しして指名した弾着点は、ファルク達と鍔迫り合いをしている二刀持ちの近衛兵でも、シメオンが立ち尽くす地点でも、拠点ポータルでもなかった。
それは鳴り響くエンジン音にも微動だにせず、盾を構え突撃してくるアルバから主を護る大盾持ちの近衛兵、その背後。
「グオオォォォォ!?」
「ガオオォォォッ!!」
アスカが大量投下した手榴弾。
それらは地面に落下、接触したことで連鎖的に爆発し、アルバ達だけを警戒していた盾持ちの近衛兵に襲い掛かる。
強力なバフがかかった二匹には背後からの至近弾ですら大したダメージにはならないが、アルバの顔に悲壮感はない。
ダメージが入らないことなど織り込み済み。
アルバ、アスカの狙いはダメージではないのだ。
至近距離で大量の手榴弾爆発の衝撃を受けた近衛兵達は、言うなれば背中を強く押された形になった。
それは正面からの衝撃のみに備えていた二匹にとっては想定外の方向からの衝撃であり、バランスを崩し大きく前につんのめる。
――その瞬間、大楯による鉄壁の護りが崩れ、わずかながらに隙間が空いた。
その隙間から見えるのは彼らの掩護するべき主、軍神シメオンだ。
「ここだ!」
盾持ちの近衛兵までの距離はまだ数十m、シメオンまではさらに伸び百mはあるだろう。
人一人どころか、小柄なハーフリングですら通れないような大盾と大盾の間に空いたわずかな隙間。
だが、アルバはそれで問題なかった。
アルバは左手を撃ちぬくように突き出し、腕先に装備していた装置を起動させ、何かを射出する。
それは未だ体勢を整えきれない盾持ちの近衛兵達まで一瞬で到達し、大盾の隙間をすり抜けると、その奥で敵からの攻撃に備えていたシメオンを捉える。
シメオンもアルバの動きは見えていた。
その為、今まで同様バリアと錫杖による防御態勢を取ったが、それは悪手だった。
何故ならば、体に軽い衝撃が走った後に見据えたそこにあったのは、自らの体をガッチリと掴んだアンカークローだったからだ。
そう、アルバの狙いはこじ開けた近衛兵達の隙間から攻撃することではなく、シメオンを捉える事だったのだ。
そして、そのアンカークローはワイヤーによってアルバの左腕と繋がっている。
「どりゃああぁぁぁ!」
アンカーの先に捉えた手ごたえを得たアルバは盾を投げ捨て両の手でもって一本釣りでもするかのようにワイヤーをしゃくり上げた。
アルバの動きによりシメオンを捉えた事で一度弛んだワイヤーが一気に張りを持ち、クローに捕まえられ身動きの取れないシメオンを空中へと跳ね上げようとする。
無論、シメオンはやらせまいと踏ん張るが、メディックアーマーの出力と重量ではTierⅢプレミアムアサルトアーマーの馬力の前に太刀打ちできず、天高く引き上げられた。
「いくぞ、タービュランス!」
威勢の良い掛け声とともに、アルバの横を駆け抜けたのはタービュランスを駆るマルゼス。
マルゼスは腰だめにランスを構え、エグゾアーマー各部に取り付けられたスラスターを起動。
同時にタービュランスも臀部のアーマーに取り付けられたスラスターを全開、空高く飛翔した。
タービュランスはマルゼスのスラスター推力も加算し、重力を振り切って加速、空中を天馬のごとく駆け抜ける。
狙い定めるのは空中で護りの近衛兵もおらず、アンカークローで捉えられ完全無防備となったシメオンだ。
「もらったああぁぁぁ!」
ホロ、ファルク、アルバ、そしてアスカ。
四人がかりで掴んだシメオンへの直接攻撃の機会。唯一無二のチャンスをマルゼスの渾身の一撃が遂に捉えた。
空中で必殺の一撃を受けたシメオンのHPは大きく削れる。
そのまま砕け散ると思われたHPバーだったが、僅か数%を残して耐えきった。
先ほど張ったバリアがまだ機能しており、それによりランスの勢いをわずかながらに殺していたのだ。
「仕留め損ねた!?」
「まだだ!」
相棒と放てる最強の一撃を当ててもまだ生きていることに焦るマルゼスだったが、アルバは動揺一つ見ず、すぐさま追撃に移る。
空中に跳ね上げ、一撃を入れた事で弛緩してしまったワイヤーを巻き上げ始めたのだ。
巻き上げられたワイヤーの弛みはすぐに無くなり、ワイヤーの先についているアンカークローを、クローが掴んでいるシメオンを、アルバの元地上へと一気に引き寄せる。
「これで、終わりだ!」
「キシャアアァァァ!」
クローから逃げ出そうと必死に足掻くシメオンだったが、もはや万事休す。
アルバは全エグゾアーマー中最大の馬力をもつアサルトアーマーの全力でもって、シメオンを地面に叩きつけたのだ。
周囲に激突の衝撃音が響き、地面が抉れ、粉塵が吹き上がる。
撒き上がった煙の中、僅かに残っていたシメオンのHPバーはゼロとなり、ついに砕け散ったのだった。
シメオン戦、決着。
明日は空の様子とエピローグ的な話を更新し、明後日が掲示板回になります。
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