66 DAY3.G要塞突破
本日二話更新予定。
一話目になります。
《こちら奇襲部隊第六班、城門を破壊した! 乗り込め!》
《敵守備隊に注意しろ! 動けるやつは支援魔法の基幹要員を叩け!》
《正面、城壁破壊はまだか?》
《今やってる! もう少し!》
《ターゲットマーク! 魔法攻撃、行くよ!》
《中に乗り込んだ降下部隊はまだ生きてるんだ、助けるぞ!》
《リコリス1より支援要請! 対空ミサイル持ちはリコリス1をしつこくストーキングしてるトンボを狙え!》
《赤とんぼのおかわりが来るわ!》
《レーダーロックオン!》
《正面部隊、壁の破壊に成功! ビースト持ちから内部に突入しろ!》
ファルク達の奮戦で、支援魔法の効果範囲が縮小し、浮足立ったモンスター達の隙をついて攻勢に出たランナー達は、ゴルフ要塞まで後退しようとしていた獣人達を飲み込みながら一気に要塞の城壁まで攻め込んでいた。
要塞の門も壁もシメオンの支援魔法により強化されていたが、絶え間なく続くランナー達の飽和攻撃によりついに崩壊。
ランナー達が内部への突入し、敵の本丸を落すべく雪崩れ込んでゆく。
要塞門崩壊の音と衝撃は要塞内部で戦闘を続けていたファルク達にも伝わるものであり、状況を察したファルクはすぐさまアルバ達へと指示を出していた。
「アルバ、こちらの本隊が要塞の城壁破壊に成功したようです。引きますよ」
「む? 予定より早いな」
「せっかく生き残ったっちゃけん、ここで死んだらもったいなかね! 引くばい!」
すでに満身創痍となっているアルバ達は突入してきた本隊と合流すべく、崩落した城壁へと撤退を開始。
獣人達はそれを阻止すべく攻撃を仕掛けてくるが、要塞内に入り込み、レーダーからアルバ達降下部隊の位置を確認し救出に来たランナー達からの銃撃を受け、妨害しきれずに終わる。
「降下部隊、引け! 後は俺たちが引き受ける!」
「すまん、任せた!」
「崩壊した城壁へ! お疲れ様!」
「いやぁ、死ぬかと思ったよ!」
突入してきたランナー達と入れ替わり、ファルク達は出入り口となった崩壊した城壁まで後退。
周辺はすでにランナー達で埋め尽くされており、敵の陣地内でも唯一息着く事が出来る簡易のセーフティエリアとなっていた。
決死の特攻作戦からの生還を果たしたファルク達は、セーフティエリアとなった一角で張りつめた緊張の糸をほぐす様にように座り込む。
崩壊した城壁から次々と進入してくるランナー達が疲労困憊のファルク達を見つけ、ねぎらいの言葉をかけて来てくれる。
そんなランナー達に手を振り、簡単な言葉で返しをしていると年季の入った風貌を持つランナーが近づいてきた。
「突入作戦、ご苦労じゃった」
「クロムですか」
「うむ。よもや生還するとは、さすがじゃのう」
「うちらも生きて残れると思ってなかったっちゃけどね」
「アスカに発破をかけられたのさ」
「ほう?」
どういう事か?
首を傾げるクロムに、アルバ達は降下開始時アスカに『死なせない』と言われたことを告げる。
アスカがこちらを執拗に気にしていることから、降下部隊を見殺しに出来なかったのだろうと確信を持っていた。
「ふむ……徹底的に効率化されたワシらゲーム玄人には忘れ去られた感情じゃな」
「まったくだ。だが、おかげで命拾いした」
「たしかに。ゲームとは言え、大事な相棒が死ぬところは見たくないし、俺は感謝してるよ」
そう言う四人の顔はどこか晴れやかなものだ。
特攻作戦を言い渡され、皆が死ぬのは当然と思っている中で、アスカだけは彼らを必死になって支援した。
敵陣の中に放り込まれ、全力で暴れた後は死ぬだけという状況の中、唯一アスカだけはファルク達を見捨てなかった。
だからこそ、彼らも上手くいけば生き残れる可能性があると奮起し、生存に向けて足掻いたのだ。
「なるほどのう。……それで、お主たちはどうするのじゃ?」
「……どう、とは?」
「要塞の主、軍神シメオンの首を狙わんのか? と聞いておるのじゃよ」
その言葉に四人は目を見開いた。
要塞の攻略は順調であり、突破の引き金となる自分たちの仕事はすでに終えている。
なのに、一体どこから軍神シメオンの首を狙うという事柄が出てくるのか?
「なんじゃ、狙わんのか? 要塞突破の先駆けとなったお主たちには、ここに攻め込んだ者達に先んじてシメオンに挑戦する権利がある。当初の予定通り、フォックストロットに死に戻りしていたらそんな時間は無かったが、お主たちは決死の降下作戦から見事生還した。文句を言うものはおるまい」
若干無理のある説明だが、挑めるものならぜひとも挑みたい。
それほどにネームドエネミーのポイントは美味いのだ。しかし……。
「申し出はありがたいが、俺たちは生還しただけで装備が……」
「俺も相棒も、もうボロボロさ。そこら辺のザコくらいは相手に出来るけど、ネームドエネミーを相手にするにはHPもMPも弾薬もたりないよ」
獣人渦巻く要塞内に強襲降下し、暴れまわった彼らにこれ以上戦闘を続けるだけの余裕はもはやなかった。
全員HPは半分以下。
蓄積ダメージによりエグゾアーマーの各部は動作不良を起こし、弾薬類は枯渇寸前、武装、シールド類もそのほとんどを失っている。
全員がこの状態ではシメオンとの戦闘など無理だ、と視線で訴えていると、要塞内に入るエグゾアーマー達をかき分け一人のランナーが姿を現した。
「こんなこともあろうかと!」
「な、なんなん!?」
現れたのはトランスポートアーマーを装備したスコップだった。
「戦闘継続が困難になった時は兵站、物資輸送のエキスパート、トランスポートアーマーにお任せ! 君たちの装備、全部持ってきたよ!」
「は!?」
ファルク、アルバ、ホロ、マルゼスの四人にはスコップが何を言っているのか理解できず、その場でただただ呆然としていた。
それもそのはず。
基本トランスポートアーマーが前線まで持ち込むのは各種ポーション類と弾薬類のみなのだ。
大量の装備品はインベントリを圧迫する上、エグゾアーマーの種別によっては装備できない物も多く、一回も補給物資として使わないまま終えることがほとんどなのだ。
なのに、スコップはファルク達四人に合わせた装備品をピンポイントで持ってきているという。
「な、なぜ私たちの装備を?」
「いやぁ、アスカのここまでの行動を考えたら、君たちが生き残る可能性も高いと思って。でも、さすがにかなり消耗はしてるだろうから、シールドやショルダーマウントウェポンなんかの消耗、切り離し兵装を主にめぼしい物を持ってきたのさ」
ちょっとした賭けだったけどね。と笑うスコップ。
その表情にとんでもない博打だ、と呆れ返る四人。
「……俺たちが使ってもいいのか?」
「良いも何も、その為に持ってきたんだしさ。それに、俺から補充して、シメオンを倒してくれれば君たちはキルとダメージポイントでウハウハ、俺はインベントリを空っぽにするほどのサプライポイントでウハウハ。WINWINだろ?」
そう言ってサムズアップするスコップ。
小賢しい奴め、とアルバ達にも笑みがこぼれるが今はその考えが何よりもありがたい。
「わかった。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうぞ」
「どうぞどうぞ。各種回復ポーションに弾薬、エグゾアーマー修復用のナノマシンも持ってきたから、存分に使ってよ!」
HPポーションを使いHPを回復させ、支給品のMPポーションでMPも全快。
損傷したエグゾアーマーの兵装を交換し、動作不良部には修復用ナノマシンを振りかけて元通りの動きに。
全員が兵装の交換とエグゾアーマー動きを確認し終えたときには、先ほどまでの疲れ切った表情はどこへやら。
非常に力強いものになっていた。
「よし。では、いきますか」
「最後のもうひと暴れだな」
「腕が鳴るばい!」
「スコップ、補給助かったよ」
「お礼はシメオンのキルで頼むぜ!」
「シメオンの居所はもう掴んでおる。思う存分やってくるといい」
こうして挨拶を交わした後、ファルク達はいまだ激しい戦闘が続く要塞の中へと消えていった。
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ゴルフ要塞。
四方を壁で囲まれたその中央部には祭壇のような建造物があった。
見通しをよくするためか、石段を積み重ね周囲よりも高く作られているそれは、囲うような壁もなく石畳で平らに整地され、四角く、四隅には柱が立っていた。
そしてその中心で禍々しい光を放ちながら鎮座するのはゴルフ要塞の拠点ポータル。
まるで神楽でも行うかのように整えられたこの祭壇こそ、付近一帯を覆っている大規模支援魔法陣の中心点。
ゴルフ要塞総大将であるネームドエネミー、軍神シメオンが居座る敵本陣でもあった。
赤く、今だ敵の支配下であることを表す赤い光を放つ拠点ポータル。
根元に大規模支援魔法を発動し、その場にひっそりと佇む軍神シメオン。
獣人達の長である彼だが、体格は他の獣人達より一回り小さく、小柄。
だが、体を覆う体毛の所々に白毛が混じり年季を感じさせるその風貌は貫禄、威厳とも十二分。
近付くものを問答無用で黙らせるほどに威風堂々とした雰囲気を漂わせていた。
そんな総大将たる軍神シメオンだが、その表情は暗い。
高台に設けられたこの祭壇からはゴルフ要塞内部の様子が一望できるのだが、そこからの風景はこの数十分で激変してしまっていた。
何者をも通さぬであろう重い城門は破壊され、何人の攻撃をも受け付けぬほどに厚い城壁は崩落。
要塞内部の要所要所で噴煙が上がり、大規模支援魔法を形成するための根幹要員はほとんどが既に殺されてしまっている。
誰の目から見ても、要塞の陥落はもはや時間の問題。
それでもこの要塞の主たるシメオンに撤退の二文字はない。
彼に残された道は傍若無人たる侵略者共に相対し、全身全霊をもってぶつかり散る事のみだ。
すべてを理解し、来るべき時を待つシメオン。
そして、祭壇へと続く階段を上りついに侵略者共がその姿を現した。
「……お前がシメオンか」
「…………」
「ほえぇ、ただのお猿さん達のボスかと思ったっちゃけど、威厳があるんやね」
「意外と広いね。これならタービュランスの脚も活かせそうだ」
「各員、油断するなよ。相手はネームドだ。気を抜くとやられるぞ」
侵略者共を射殺さんとするほどに鋭い眼光を向けるシメオン。
相手は四匹。
重武装型が二に騎兵が一、汎用型が一。
たとえこいつらを退けたところで第二陣、三陣と続き、いずれ倒されてしまう事だろう。
だが、獣人達を統べる長として、逃げることなど出来ぬ。
「キシャアアァァァァ!」
渾身の力でもって空へ向けて雄叫びをあげ、手に持った錫杖でもって地面を突く。
同時にシメオンとファルク達の間に四つの魔法陣が出現し、その中から重装型エグゾアーマーを装備した獣人が出現した。
そのうち二匹は両手に大型の盾を持ち、もう二匹は自身の身長を超えるほどに長い長剣を両手に一つずつ。
それぞれが攻と防に特化した装備。
彼らがシメオンを守る矛と盾、近衛兵だ。
シメオンは現れた四匹を見渡し、シャラン、と錫杖を振った。
すると、四匹が淡い光に包まれる。
「……これは」
「そりゃあ支援、回復に特化したメディックアーマーのネームドだもんね。近衛兵にバフをかけるなんざわけないって事か」
「このバフのかかった四匹を倒して、その後ろにいるシメオンを倒せって事やんね」
「楽に勝たせてくれそうにはないか」
シメオンが何をしたのか理解したのであろう、侵略者たちの顔はここに現れたときの飄々とした表情から一変。
険しいものになり、戦闘態勢を整える。
「よし、行くぞ!」
「戦闘開始!」
「駆けろ、タービュランス!」
「グオオォォォォ!」
「キシャアアァァァ!」
全力でエグゾアーマーのスラスターを吹かし、突撃を開始する侵略者達。
対するシメオンを守る護衛部隊はその場から動かず、大盾持ちが前に出る。
両者を隔てる様に日の光とそれを遮る雲の影が舞台を割る曇天の中、ついに両者が激突した。
アスカは上空でブービー達と絶賛鬼ごっこ中です。
……オニヤンマだけに。
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嬉しさのあまり喜界島空港から飛び立ってしまいそうです!