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65 DAY3ゴルフ要塞攻略戦Ⅷ【レーダーコンタクト】


 50近い赤とんぼ達を護るように飛行する、四つの影。

 その姿にアスカは思わず息を飲む。

 昨日嫌というほど苦渋を飲まされたネームドエネミー『黒い悪魔ブービー』率いるギンヤンマとオニヤンマの戦闘飛行隊だ。


 大事な飛雲をボロボロにされ、アスカの全力をもってしてもたったの一機も落とせなかった強敵。


「……っ、アキアカネ、第三波接近! 護衛にネームドエネミーブービーの飛行隊!」

《何ッ!?》

《城壁の破壊はまだか!?》

《今やってるが、まだ時間がかかる!》

《リコリス1、われわれが要塞に突入するまで、耐えろ!》

「……了解」


 地上からの応答に答えるアスカの表情は、暗い。

 このまま赤とんぼの空爆を許せば、こちらに傾いた流れがひっくり返る恐れがある。


 鈍足である赤とんぼを落すのは飛雲を装備するアスカにとって容易い事だが、護衛戦闘機を振り切ってとなると話が変わるのだ。

 特に、攻撃偵察仕様の今の兵装でブービー達を落すことなど不可能に近い。


「アイビス、勝ち目はあるかな?」

『現状、相当厳しいと言わざるを得ません』


 僅かな希望を求め、アイビスに問いかけてみるも答えは芳しいものではなかった。


《リコリス1、聞こえますか?》

「ファルク?」

《私達を見捨てなさい》

「ええっ!?」


 聞こえてきたのは要塞内で今だ奮戦を続けるファルクの声。

 後ろの方で激しい戦闘の音が聞こえる事から、合間を縫って通信してきているのだろう。


 そんな彼がアスカに言い放ったのは、要塞内に乗り込んだ四名を見捨て、遅延戦闘に努めろという物だった。


 曰く、すでに要塞に乗り込み、支援魔法の効果範囲を縮小させ、味方の突撃を可能にするという当初の目的は達成している。

 ここでアルバら四名が死亡しても、このまま押し込み攻略は可能だろうとの事。


 むしろ、無理に赤とんぼを落そうとして、アスカが撃墜されることの方が危険だと言うのだ。


 この付近一帯の偵察を担っているアスカが撃墜された場合。

 一時的にとは言え、空からの目を失い索敵範囲が大幅に減少するのに加え、空に対してはほぼ無防備な状態になってしまう。

 そうなった後に待ち受けるのは赤とんぼによる一方的な蹂躙だ。

 故に、アスカには赤とんぼの迎撃はせず、ブービー達からの攻撃回避に徹底。

 周囲を観測しつつの遅延戦闘に努めろと言うのだ。


「で、でも!」

《気にせんでよかよ! もともと片道切符の作戦なんやけん!》

《これだけ暴れられりゃあ俺もタービュランスも満足だぜ》

《そういう事だ。リコリス1は出来る限り生き延びろ》

「……っ!」


 ゲームであるが故、死ぬことに何のためらいもないホロ達に、アスカは思わず唇を噛みしめる。

 例え片道切符の特攻作戦だったとしても、彼女たちに死んでほしくないのだ。


 散々悩んだ末、何かを決したかのように表情をキッと引き締めると、増速。

 ブービーと赤とんぼ達へ向け飛行する。


《リコリス1!?》

「要は私が死ななきゃいいんだよね! なら、その範囲で迎撃します!」


 引き留めようとする通信をすべて無視し、上昇。

 迫りくる蜻蛉の群れのやや上で水平状態に戻し、汎用機関銃を構える。


「ミッション! 敵制空戦闘機の攻撃を振り切り、敵攻撃機が要塞に乗り込んだアルバ達に被害を出す前に全機撃墜せよ! なお、使用機体は攻撃偵察機とする! 敗北条件、自機の撃墜!」

『無茶苦茶です』

「私もそう思うよ、アイビス!」


 自分で言って呆れてくる。

 この作戦開始前に話があった飛行隊が既にあれば多少は違ったのかもしれないが、無いものはどうしようもない。


 あまりに無理難題過ぎて逆に開き直ることが出来たアスカは、汎用機関銃のトリガーを引くと同時に両翼のガンポッドの射撃を開始した。


 この射撃に対し、ギンヤンマ三匹とブービーは散開。

 ターゲットをアスカに定め、応射しながら迫ってくる。


 アスカはこの射撃を大きな弧を描くバレルロールで回避。

 ブービー達の横を通過すると、その後方に位置していた赤とんぼへ向け射撃を開始。


 手当たり次第に撃墜してゆく。

 ヘッドオンによるすれ違い射撃を終えた後は一度高度を下げ、増速。

 十分に速度を稼いだところで上昇反転。インメンルマンターンを行い、再度赤とんぼ達を追う。


 無論ブービー達は阻止に移る。

 二匹と二匹の分隊に分かれ、アスカに対し攻撃を仕掛けてくる。


 だが、アスカはこれを完全無視。

 左右に揺れるシザースを行うことでギンヤンマ達の射撃を躱しつつ、赤とんぼ達を執拗に狙う。


『注意。ギンヤンマに張り付かれています。六時方向』

「あいつらは無視するよ! 今は赤とんぼだけを狙う!」


 フライトユニットの出力を最大にし、速度を落とさないように最大の注意を払いつつ、背後に迫ったギンヤンマ達を振り払いながら赤とんぼへの攻撃を繰り返す。

 しかし……。


『右主翼、被弾。ダメージ95、魔力漏洩』

「魔力供給停止! まだまだ!」

『左脚部、及び左腰増槽被弾。増槽より魔力漏洩。ダメージ109』

「両腰増槽切り離し! この程度っ!」


 背後に張り付いたギンヤンマからの攻撃を完全には躱しきれず、ダメージも確実に増えて行く。

 なんとか動力源であるフライトユニットへの被弾だけは避けているが、このままでは時間の問題だ。


 赤とんぼ達はと言えば、今まで同様攻撃してくるアスカを完全無視してゴルフ要塞へ向けて飛行。

 ある程度要塞接近したところで二手に分かれ、こちらの前衛と要塞へ向けて舵を取る。


『敵、アキアカネ群、ゴルフ要塞まであと1000m』

「駄目、間に合わない!」


 必死になって迎撃したが、それでも20近い赤とんぼがゴルフ要塞へ向け飛んで行く。

 ギンヤンマ達に今だ背後にとりつかれている状況では、ここからすべてを撃墜することは不可能だ。


 このままではファルク達がやられてしまう。

 焦るアスカに聞こえてきたのは地上からの通信だった。


《レーダーコンタクト! リコリス1、そのまま飛べ!》

「えっ!?」

《赤とんぼを対空レーダーの範囲内に収めてくれてればいい!》


 それは前線で激しい戦闘を繰り広げるランナー達からの通信だった。

 前線のランナー達も迫りくる赤とんぼへ向け対空射撃は行っているようだが、機関銃などで放つ対空攻撃は効果が薄く撃墜するまでには至っていない。

 そんな中、彼らは一体何をしようというのか?


《いいぞ! ターゲット、ロックオン!》

《痛いのをお見舞いしてやれ!》


 直後、前衛のランナー達周辺から白い煙が立ち上った。

 そして、煙の中からいくつもの棒状の何かが空に向かって高く飛び上がり、方向を変え赤とんぼへ向け飛翔して行く。


 この攻撃に、今まで一直線に飛んでいた赤とんぼ達は急旋回。

 回避行動を取る。


 だが、飛翔してきた棒は回避した赤とんぼに追従し、直撃する。

 火力が低いのか、一発では赤とんぼを落としきれないが、続けざまに複数の飛翔体が赤とんぼに直撃。

 周囲に破片をばら撒きながら、粉々になって墜落してゆく。


 一瞬の出来事だったが、この地上からの攻撃で大量にいた赤とんぼはその数を半分以上減らしていた。


「す、すごい! 何あれ!」

『レーダー誘導ミサイルによる対空攻撃です』

「そんな装備あったの!? 私、見たことないよ?」

『現状のミサイルで主力武器として運用しているランナーがいないためでしょう』

「どういう事?」


 襲来する赤とんぼに壊滅的な損害を与えた誘導ミサイルだが、現状では誘導性能が低く、機動力の高い敵には簡単に回避されてしまうという。

 火力も決して高いわけではないのに、一発当たりの単価は非常に高いというデメリットばかりが目立った武器なのだ。


 敵の動きを制限する牽制としては使えるが、そんな小細工をするぐらいなら機関銃を連射した方が費用対効果は高い。

 故に、ここまでアスカもミサイルを使うランナーを見かけることが無かったのだ。


『今回ランナー達が使用したのは敵をレーダーでとらえている時に使用できるタイプの誘導ミサイルと思われます』

「何か違いがあるの?」

『観測手がレーダーで捉えている敵をデータ通信により遠方からロックオン、攻撃することが出来るタイプのミサイルです。自分の索敵範囲外から撃てるため、後方の携行支援火器として優秀です』

「なら、私が赤とんぼ達をレーダーの範囲に入れてれば、地上の人たちが代わりに落してくれるの?」

『はい。空中の敵を索敵できるアスカがいるからこそ、彼らもレーダー誘導タイプのミサイルを持ち込んだのでしょう』

 

 私、役に立ってる!

 と笑みをこぼすアスカ。

 すぐさま地上のランナーに通信を入れ、支援を頼む。


 攻撃対象はもちろん背後にまとわりついたギンヤンマだ。


「こちらリコリス1! 背後のギンヤンマ達にも攻撃をお願いします!」

《オーケー、任せろ!》

《いつもはこっちが世話になってるからな! お安い御用だ!》


 支援要請に応じ、ランナー達から複数のミサイルがブービーとギンヤンマ達に向け放たれた。


 この攻撃に対し、ブービー達はアスカへの追撃を中止、すぐさま急旋回による回避行動を取る。

 機動力の高いギンヤンマ達にミサイルは命中しなかったが、背後に纏わりついた四匹を引きはがす事は成功。


 プレッシャーから解放されたアスカは要塞上空へ向かった赤とんぼ達を狙うチャンスを得た。


 アスカは回避行動で失った速度を回復させるため海面ギリギリまで急降下。

 ローヨーヨーで速度を稼ぎ上昇、下から赤とんぼを攻撃する。

 俯角の付いたガンポッドの射線に気を付けながら、両手持ちの汎用機関銃も使い複数の赤とんぼを撃墜。

 そのまま赤とんぼ群の中を突っ切り、宙返り。

 再度上から攻撃を仕掛け、赤とんぼの数をさらに減らす。


 そんなアスカをミサイルを回避したブービー達が再度狙う。

 もちろんアスカはこれを無視。

 プレッシャーが激しくなるまで赤とんぼを狙い続け、背後に纏わりつかれ、攻撃が厳しくなったら再度ランナー達に支援要請。

 ブービーとギンヤンマ達を誘導ミサイルで追い払い、その隙に赤とんぼを撃墜する。


『アキアカネ、全機撃墜』

「よし! 皆、赤とんぼは全部落としたよ!」

《まったく、あの状況下でよくやりますね》

《さすがリコリス1やね! 今度は死に損なったばい!》


 要塞内のファルク達にも大した被害はなかったようで、未だ全員が生存していた。

 周囲を見渡せば、奇襲部隊が敵モンスター群を突破。要塞の城門に張り付き、突破を試みている。


 フォックストロット側のランナー達も前線を押し上げ、遠距離射撃や魔法攻撃で城壁を攻撃。

 破壊までもう一歩というところまで来ていた。


「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうだね!」

『戦力比は七対三。こちらが圧倒的に有利です』


 敵の防衛ラインが大規模支援魔法の範囲内まで下がったことで、モンスター達には再度バフが掛かっている。


 だが、勢いづいたランナー達を押しとどめるまでには至らず、あちらこちらでバフもろとも獣人達を屠る光景が見受けられている。

 スナイパーやソルジャーが牽制射を行い、その中を近接攻撃特化のアサルト、ストライカーの両アーマーが突っ込み、敵の陣形をズタズタに切り裂いているのだ。


 しかし、モンスター達もただやられるのを待っているわけではない。


『アキアカネ、第四波接近』

 

 オペレーション・スキップショット三日目。

 ゴルフ要塞攻略作戦は、最終局面を迎えようとしていた。


明日は地上視点2話更新いたします。

時間は昼と夜を予定!


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!

嬉しさのあまり五島福江空港から飛び立ってしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ミッション! 敵制空戦闘機の攻撃を振り切り、敵攻撃機が要塞に乗り込んだアルバ達に被害を出す前に全機撃墜せよ! なお、使用機体は攻撃偵察機とする! 敗北条件、自機の撃墜!」 『無茶苦茶です…
[一言] いいねー!!盛り上がってきたねー!!
2021/02/11 11:53 退会済み
管理
[一言] 実を言えばたぶん、遅延戦闘なら今の装備でもかなり戦えるんだよね。 命中率が低いけど威力の高い攻撃、とかソフトスキンな航空戦力にとってはむしろラッキーヒットを警戒して普通に命中率の高い攻撃より…
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