63 DAY3ゴルフ要塞攻略戦Ⅵ【換装】
アルバ達が大規模支援魔法の基幹要員の首を取った頃。
アスカはフォックストロットへ戻り、大地を駆けるアームドビーストから最後の強襲降下要員であるファルクを受け取っていた。
「リコリス1、ファルク、頼んだぞぉ!」
「任せてください、行ってきます!」
「ファルクは私がしっかり送り届けます!」
「あまりに重かったら途中で廃棄しても良いからな!」
「やめてください、死んでしまいます!」
タービュランスの主であるマルゼスはすでにゴルフ要塞内部。
代わりに他のアームドホースに乗せてもらい、アスカとのランデブーを行った。
三度も行えば降下要員の引き受けなどお手の物。
アルバ同様ファルクの両腕を掴むとそのまま空中へ引き上げた。
「よし、このまま一気に行くよ!」
「超特急でお願いします!」
「任せて!」
フライトユニットの出力をあげ、増速、そのまま一気に上昇し、一路眼前のゴルフ要塞を目指す。
「どう、ファルク? ゲームの空も良いものでしょう?」
アルバ、ホロ、マルゼスと今まで空に興味がなさそうだった面々がゴルフ要塞までのわずかなフライトで目の色を変えて絶賛した風景だ。
ファルクも同様に喜んでくれると確信めいたものをもって語り掛けたアスカ。
が、しかし。
「……ファルク?」
当のファルクは目を瞑って歯を食いしばり、眉間が無くなるのではないかというほどに表情をこわばらせていた。
その様子は明らかに何かを耐えている。
いったい何に? そう考えるアスカ。
そして、つい先ほどこれと同じような表情に陥っていた人物を思い出した。
「ファルク、もしかして、貴方……」
「皆まで言わないでください! その通りです!」
そう、自分は高所恐怖症だから、自分は空挺降下作戦には絶対に参加しないと必死になって訴えていたホーク。
あの時の彼の表情によく似ていたのだ。
つまり、ファルクもホークと同じく高所恐怖症であり、空が怖いのだろう。
「何もそこまでしなくても……」
「ホークと違って全くダメという訳じゃありません。耐えようと思えば何とかなります。それに、降下作戦の立案者が空が怖いから自分はやらないなんて、言えるわけがないでしょう……」
確かに、強襲空挺降下を提案した本人が『俺は怖いから参加しない』等と言っては誰も作戦に参加しなかっただろう。
あの場でアスカもそれを言われていたら、協力の打診を断っていた可能性もある。
しかし、なにも高い所が怖いのを我慢してまでイベントの攻略に尽力しなくても良いだろうに。
あまりの不器用さにあきれるアスカだが、今さら引き返すことも出来ない。
本人もやると言っている以上、このままゴルフ要塞まで向かうだけだ。
無理に揶揄って怖さを想起させる必要もないと、無言のまま飛行するアスカとファルク。
降下ポイントあとわずかと言う位置まで迫った時、アスカの視界に空を飛行する複数の影が飛び込んできた。
「あの影は……」
今のアスカは空対空レーダーを装備しておらず、視界でとらえていてもアイコンは表示されない。
だが、その曇って白くなっている空に美しく映える赤い体は、アイコンなどなくてもアスカに何が接近しているかを如実に表していた。
翅は四枚、六本の脚で爆弾を大事そうに抱え、尾部にはガトリング機関砲を搭載しこちらへ向かって飛行してくる赤い蟲。
そう、昨日ユニフォーム上陸作戦で猛威を振るったアキアカネ、赤とんぼである。
「ファルク、やばい! 赤とんぼ接近!」
「なんですって!?」
数、約50。
昨日同様雁行で編隊を組み、ゴルフ要塞上空に進入すると、編隊を二手に分け始めた。
一つは陣形を崩し高度を下げながら要塞上空へ。
もう一つは高度、進路、陣形をそのまま。
アスカ達の後方フォックストロットへ向かう動きを見せる。
「ゴルフ要塞にはアルバ達が! 後方の皆にも連絡しないと!」
「今は通信装置を付けていません。フレンドコールを使ってください!」
後方に位置するメラーナに赤とんぼの接近を通達。
本来ならば味方の被害を抑えるためこの場で迎撃、数を減らしたいのだが、今のアスカは丸腰な上ファルクという荷物を運搬中。
とても攻撃できる状況ではない。
上空を通過する赤とんぼ群とすれ違いながら、アスカはファルクの投下ポイントへと急ぐ。
しかし、ここで要塞へ向け降下していた赤とんぼたちが予想外の動きを見せる。
急降下爆撃のアプローチを行っていたはずが、急にそのアクションを取りやめたのだ。
さらに、大事に抱えていた爆弾を投げ捨て尾部を折り曲げると、ガトリング機関砲の銃口をいまだファルクをぶら下げているアスカへと向けてくる。
「こっちに来るの!?」
「アスカ、回避です、回避してください!」
顔を青ざめさせたアスカと、決死の形相になったファルクの二人が叫ぶのと同時。
実弾のレーザー砲が襲い掛かる。
アスカは急降下による回避でもってこれを躱すが、銃撃は止むことなくアスカを狙い続ける。
「こ、このままだと……!」
「もう良いですアスカ! 私を投下してください!」
「えぇっ!? でも、それじゃあ!」
「このままだと二人ともやられます! 投下を!」
まだ予定の投下ポイントまで到達しておらず、銃撃回避のため高度もかなり下げてしまっている。
この位置からの降下など無謀極まりないのだが、今ファルクを放さなければアスカもろとも地面に叩き落されてしまうだろう。
一瞬悩むアスカだが、答えは最初から決まっていた。
「っ……分かった、行くよ! ボムズアウェイ!」
「せめてリリースと言ってください!」
アスカは降りそそぐ銃弾をかいくぐり、ゴルフ要塞へ向けファルクを投下した。
しかし、それは正面にゴルフ要塞を捉えただけのものであり姿勢、角度、速度、どれをとっても不十分。
そんな不安定な状況で空中に投下されたファルクはすぐに落下姿勢を崩し、危険な状態に陥る。
だが、そこはさすがβテスター。
すぐさまエグゾアーマーを装着すると、姿勢制御スラスターを駆使し、姿勢を安定させ、ゴルフ要塞へ向け降下してゆく。
ファルクが装備しているのはお馴染みのソルジャーアーマーであり、他の三人同様、追加装甲と大型ブースターを満載した強襲空挺降下仕様だ。
特に、追加装甲はこの事態を予測していたのか、肩からフレキシブルアームで取り付けられた四枚の楕円の装甲板は全身を覆って余りあるほどに大型のものであり、その姿はまるで人間砲弾のようだった。
そんなファルクを、赤とんぼが狙う。
アスカは赤とんぼ達の狙いは自分であり、ファルクさえ放してしまえば赤とんぼ達の注意はすべてこちらへ引き付けられるものだと思っていた。
だが、そのアスカの意に反し、赤とんぼ達が狙ったのはゴルフ要塞へ向け降下してゆくファルクだったのだ。
恐らくモンスター達は空を飛び上空から攻撃してくるアスカよりも、直接要塞内に乗り込んでくるファルクの方が脅威度が高いと判断したのだろう。
いくら姿勢制御スラスターを満載していようと、空中戦を想定していないソルジャーアーマーでは回避機動など不可能。
頼みの綱の追加装甲も、赤とんぼのガトリング機関砲の威力を考えると心もとない。
そんな窮地において、ファルクが出した結論は強行突破。
姿勢制御スラスターを使い、増速。
赤とんぼ達の偏差射撃を狂わせながら、真下を素通りし一直線にゴルフ要塞を目指す。
ファルクに突破された赤とんぼ達は反転。
再度ファルクに狙いを定めるが、後方から放たれた銃撃により次々と墜落してゆく。
「思い通りにはやらせないよ!」
そこには両腕にピエリスとエルジアエを構えたアスカの姿があった。
確かに人員を空輸するためには兵装は何一つ装備することは出来なかった。
だが、それはエグゾアーマー飛雲のハードポイントの話であり、インベントリの中に火器を仕舞い携行することは問題なかったのだ。
空中で静止、ホバリングし、目立つ赤い体を持つ赤とんぼに対して対空レーダーなど不要。
アスカは目視により今だファルクを狙い、銃撃を続ける赤とんぼへ向け両銃を乱射する。
赤とんぼの装甲は紙同然。
最大の脅威である尾部のガトリング機関砲も前面下方しか狙えないため、反撃を受けることもなくその数を減らしてゆく。
《リコリス1、ファルクです! ゴルフ要塞内部に到達しました。支援感謝します!》
「よかった! ダメージはない?」
《さすがに無傷という訳にはいきませんが、戦闘に支障ありません》
聞こえてきたのは要塞内部に乗り込むことが出来たというファルクの報告だった。
彼は襲い来る銃弾に耐えながら、限界高度まで降下。
そこから周囲を覆っていた四枚の装甲板を傘のように開いてエアブレーキとし、ブースターによる逆噴射を用いて一気に要塞内部に到達したのだ。
《これからアルバ達と合流します!》
「分かった!」
要塞内部にある四つの味方を示すアイコン。
そのうち二つは同じ位置で固まっており、もう一つは縦横無尽に要塞内部を走り回っている。
三つから少し離れた位置に居るのがファルクだろう。
他三人に合流しようという動きを見せている。
「よし、みんな無事だね」
『かなり厳しい作戦でしたが、お見事です』
「まだまだ。ここまで来たなら、しっかり勝たないと!」
当初の予定では全員を配達し終わった後は一度フォックストロットへもどり、補給と装備の変更を行う予定だった。
しかし、今ゴルフ要塞上空には複数の赤とんぼが地上のファルク達を狙っている。
少数精鋭で乗り込んでいるファルク達の小隊。
ただでさえ圧倒的不利なこの状況下で、空からの機銃掃射などやらせるわけにはいかない。
アスカは予定を変更し、ゴルフ要塞上空の制空権確保に動く。
武装はピエリス、エルジアエの二丁だけだが、この二丁は取り回しが良く兵装を全くつけていない飛雲の高い機動性と合わせ、次々と赤とんぼを叩き落してゆく。
こうして赤とんぼの数をある程度まで減らした時、急に赤とんぼ達が攻撃を中止。
反転し、ゴルフ要塞上空から離脱してゆく。
「赤とんぼ達が引いて行く?」
『赤とんぼの作戦行動時間が過ぎたのだと思われます』
見れば、ゴルフ要塞上空だけでなく、こちらの前線に向かった赤とんぼ達も帰って行くのが見える。
どうやら、敵の第一波は凌ぎ切ったようだ。
「ファルク、聞こえる? 赤とんぼ達は帰っていったよ」
《そうですか! なら、今のうちに一度戻って、装備を整えてきてください》
「了解! でも、大丈夫なの?」
《こちらは任せてください。そう簡単にやられたりは……》
《ファルク、左だ!》
《ぐっ……うらぁっ!》
「ファルク!?」
《……しませんので問題ありません! ここは任せて、一度帰投を!》
「っ……分かった!」
赤とんぼの脅威は過ぎ去ったが、要塞内部ではいまだ激しい戦闘が続いている。
今この場を離れるのは忍びないが、今の装備では十分な支援が行えない。
アスカは後ろ髪を引かれる思いでゴルフ要塞上空を離脱すると、フォックストロットへと舵を取った。
道中ですれ違うのはこちらの前線に攻撃を仕掛けた赤とんぼ群。
だが、数は最初に飛び去ったものよりもだいぶ目減りしている。
アスカが事前に報告を入れたこともあり、迎撃に成功しているようだ。
視線を戻すと、フォックストロットか目の前まで迫ってきていた。
普段はこのまま着陸するのだが、今はその時間が惜しい。
「アイビス、準備は良い!?」
『はい。ですが、本気ですか?』
「もちろん! これが一番早く戻れるからね! いくよ、エグゾアーマー、解除!」
あろうことか、アスカは空中でエグゾアーマーの解除を言い放ったのだ。
その言葉に応じ、足元に魔法陣が出現。各部エグゾアーマーが透過率を上げ、消滅してゆく。
エグゾアーマーを失ったアスカは飛行することなど出来ず、広い大空にただ一人、地上へ向け落下を開始する。
「アイビス! 飛雲に兵装を装備させて!」
『了解しました』
「私はこっち! アイテムBOXリンク! MPポーションと弾薬……」
アスカの狙いはエグゾアーマーの空中換装だ。
これは陣地内であればMPなどと同様に高度制限なくエグゾアーマーの変更や装備変更、ホームアイテムBOXとの物資交換が行えるという利点を生かしての発想。
空中でエグゾアーマーを解除すれば当然落下してしまうが、墜落までには多少の猶予がある。
その間に兵装さえ換装してしまえば、地上に降りる事のないまま早期の戦線復帰が可能という裏技に近い行為だ。
落下中にインベントリ操作は決して簡単なことではない。
しかし、アスカには支援AIであるアイビスが居る。
彼女に項目の多いエグゾアーマーの換装を任せることで自分が操作する項目を減らし、さほど時間を要することもなく全換装作業を完了した。
『飛雲、兵器換装終了しました』
「よし、エグゾアーマー装着!」
落下しながら、フライトアーマー飛雲を装着して行くアスカ。
降下要員空輸のため兵装を何一つ装備していなかった先ほどとは打って変わり、翼端には対空レーダー、両膝に対地レーダーと増槽、翼下にガンポッドを装着した、攻撃偵察仕様だ。
フライトユニットのシルエットが表示されると同時にエンジンを始動させ、翼のエレボンを操作し、姿勢を制御。
翼に風を当て、揚力を発生させるといままでただ落下していたのが嘘のように空高くに舞い上がる。
「ここから巻き返すよ!」
力強く気を吐いたアスカは、その進路を再びゴルフ要塞へと向けたのであった。
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嬉しさのあまり屋久島空港から飛び立ってしまいそうです!