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62 DAY3.G万馬奔騰


 アスカから投下され、生身のまま降下してゆくホロとマルゼス。

 すでに二人とも落下姿勢を整え、安定した状態で大地に広がる魔法陣の中心、ゴルフ要塞めがけ一直線に向かってゆく。


「マルゼスさん、そっちは大丈夫やろか!?」

《あぁ。こっちも順調だ!》

「したら、予定通りいくけんね!」

《あぁ、ぶちかましてやろうぜ!》

「エグゾアーマー装着!」


 落下姿勢のままホロが叫び、魔法陣が出現。

 装着するエグゾアーマーはもちろん、大型の機械腕を持ったプレミアムアーマー。

 アルバのエグゾアーマー同様、随所に大型ブースターと姿勢制御スラスターを装備した強襲空挺降下仕様だ。


 装着が完了したホロはその機械腕をガードする形で体の前で合わせ、防御姿勢を取る。

 機械腕には前もって追加装甲板を取り付けており、この姿勢ならば腕自体が巨大な盾となるのだ。


 エグゾアーマーを装備すると同時にスラスターを稼働させ増速。

 高度が一気に下がって行く。


 同時に敵対空砲の被弾が増えてくるが、分厚い装甲板を貫通するまでには至らない。

 砲弾のように丸まったホロは姿勢を崩すことなく、被弾時の火花を散らしながらそのまま落下。

 地上数十mの位置で着陸態勢に移行してから、ブースターをフルスロットル。


 重量物が激突したかのような衝撃音を立てながら、ゴルフ要塞内部へと降り立った。

 

「とうちゃーく!」


 未だ着陸時ブースターが巻き上げた粉塵が立ち込める中、お役御免となった大型ブースターを全てパージ。


 インベントリを操作し愛用の大槌を実体化させると、巨大な機械腕でがっちりと掴み地面に突き立てる。

 さらに降下時消耗したMPを回復するため、アスカから譲り受けたMPポーションを栄養ドリンクさながらに一気飲み。


「んぐっんぐっ、ぷはぁ~、うまか~~~! 高品質のMPポーションは最高やんね! これで大暴れしてやるばい!」


 なお、このMPポーション。

 アスカは一個100万ジルという超高価格で販売したが、ホロはその代金を支払っていない。

 今作戦首脳陣から助っ人として呼ばれたホロ、マルゼスには無償で提供されているからだ。

 クロムから支給品として渡された時にはこんなものが存在したのかと目を白黒させていたが、自分で使うとなればこれほど頼りになるものはない。

 

「準備完了、戦闘開始ばい! うおりゃあぁぁぁ!」


 乗り込んできたホロを撃退しようと、要塞内にいた守備隊の獣人達が束になってホロに駈け寄ってくる。

 が、ホロは怯むどころか姿勢制御スラスターを機動用スラスターとして使用し、獣人達へ向け突貫した。


 ホロが助っ人としてゴルフ要塞強襲空挺作戦に選ばれた理由、それがこの胆力だ。


 クロムや首脳陣の中にも小型のアバターを使いプレイしているものは大勢いた。

 だが、彼女は先のユニフォーム上陸作戦において最終局面まで生き残り、絶望的な状況下でも戦意を失わないどころか、周りのランナー達を鼓舞し続けた。

 最後の抵抗に打って出ると、敵モンスター相手に討ち死にを果たすという功績を打ち立てた。

 ガッツ溢れるプレイと戦闘能力はファルクやクロムなどのβテスター組からの覚えが非常に良く、今回の降下作戦にスカウトされたのだ。


 アスカ経由でその話を持ち掛けられた時、まさか自分が助っ人に選ばれるとは思いもしていなかったホロ。

 しかし、選ばれた、否。選んでくれたのなら断る理由など一つもない。

 ホロはこの要請を驚きながらも二つ返事で了承した。


「やっ、せぇいっ! くぅぅ、やっぱ硬かぁ~」


 アサルトアーマーのパワーに任せ、大振りの一撃を繰り出すホロ。

 通常ならエグゾアーマー装備の獣人であっても一撃死か瀕死のダメージなのだが、バフがかかっている状況では六割削れれば良い方だ。

 もっともスーパーアーマーのバフまでは付与されていないため、大槌の一撃で獣人達を大きく吹き飛ばすことは可能。

 反撃がほとんどない事が救いか。


「アルバさん!」

「む、ホロか!」


 そうして敵を吹き飛ばしていると、同じように敵をレイランチャーで吹き飛ばしているアルバの姿が目に写った。


「マルゼスは!?」

「うちの後に降下しとるけん、もう着くはずばい!」


 二人の会話に応じるように、背後で衝撃音と土煙が大きく上がった。

 ホロに遅れて、マルゼスがゴルフ要塞内部に乗り込んだのだ。


「待たせたな!」


 大型ブースターをパージしながら、決めポーズを取るマルゼス。

 孤立無援、敵陣の本拠地ど真ん中に乗り込んだにもかかわらず、大層な余裕である。


 そんなマルゼスが装備しているのはストライカーアーマーだ。

 全身を追加装甲で覆い、フェイスガードまで身に付けた重装備のそれは、同じストライカーアーマーを装備するラゴが鎧武者だとするなら、マルゼスは騎士と言って差支えがないだろう。


「マルゼス、今がチャンスなんだ! 遊んでいる暇はない!」

「分かってるって! いくぞ、『ビースト召喚』! 来い、タービュランス!』


 そう叫びながらマルゼスは腰をかがめ、地面に手を付ける。

 すると正面に馬のマークを模った特殊な魔法陣が出現。

 眩い光を放ち始めると、中から彼の相棒であるタービュランスが姿を現した。


 光が収まり召喚用の魔法陣が消えるのと同時に、マルゼスはタービュランスの足元に新たな魔法陣を出現させる。

 それはランナー達がエグゾアーマーを装備するときに出現する物と同じであり、タービュランスに次々とエグゾアーマーが装備されてゆく。


「ヒヒーン!」

「よし、準備完了だ!」


 インベントリからMPポーションを取り出し、消費したMPを回復。

 エグゾアーマーの装着が終わったタービュランスにマルゼスが飛び乗り、鞍のウェポンラックにマウントしていた槍を手に取った。

 それは西洋騎士が使う、鍔の付いた細長い円錐状の物。


 マルゼスはその西洋ランスを脇でしっかりと固定し、鐙一発。

 タービュランスが勢いよく駆け出した。

 

 ホロがその胆力と戦闘スキルで助っ人に選ばれたのであれば、当然マルゼスが選ばれたのにも理由がある。

 一つはアスカが空輸できる小柄のアバターであった事。

 もう一つがビーストを使役し、召喚できるランナーだという事だ。


 キークエストをクリアしてビーストを入手した場合、さらに追加でクエストが発生する。

 これをクリアすると手に入るのが、所有しているビーストを召喚することが出来る魔導石だ。


 ただし、この召喚用の魔導石入手のクエストは元から面倒だったビースト入手クエストに輪をかけて面倒くさいのである。

 その為、これを現時点で入手しているランナーの数はかなり少なかった。

 特に近接戦闘が可能で小型のアバターを使用しているランナーとなると、該当者などほとんどいない。


 エグゾアーマーを装備し、時には騎乗し、時には相棒としてランナーの戦力となってくれるビーストの優位性は圧倒的。

 一歩間違えばフライトアーマー同様ゲームバランスを崩しかねないビーストの召喚魔法には当然のごとく使用制限が存在する。


 一つはリキャストタイム。

 通常が数十秒、長いものでも数分であるのに対し、このビースト召喚のそれは二四時間。

 これは街とフィールドとの出入りやログアウトでもリセットされない代物である上に、再使用には正真正銘リアルタイムでの二四時間が必要とされる為、ビースト召喚はかなりの状況判断を要する。

 もう一つがMP消費量。

 その量なんとMP最大値の50%。固定値ではなく、割合なのである。


 だが、そうまでしてビーストを使役、召喚できるランナーを助っ人として用意した理由。

 それは――。


「アルバ、『どいつ』だ!?」

「今アイコンを出す!」


 駆けるタービュランスの背に乗るマルゼスの視界に、TGTマークの入ったアイコンが複数表示された。

 それは前衛ではなく、その奥。

 魔法陣の上に陣取る、メディックらしきエグゾアーマーを装備した獣人達だった。


「作戦通りいくぞ、ホロ!」

「まかせんしゃい!」


 気合一発。

 アルバは両肩の上に展開していたレイランチャーを切り離し、大盾を前面に構えてスラスター全開による突撃を開始。

 ホロも大槌を正面に構えて続き、TGTアイコンの獣人との距離を一気に詰める。


 獣人達もさせるまいとアルバ、ホロの前に展開する。

 両者は衝突し、押し合うような密着状態でその動きを止めた。

 獣人複数人がかりでアルバとホロを止めていることからも、アサルトアーマー二枚の突進力のすさまじさがうかがえる。


 そこへ駆け足の音を響かせながら突っ込んでくるマルゼスとタービュランス。


「跳べ、タービュランス!」

「ギャギャギャ!?」

「ギャバババババ!」

「いけ、マルゼス!」


 アルバとホロの背後。

 彼らと密着状態にある獣人達からは死角になる位置から駆けてきたタービュランスが、その頭上を『跳んだ』。

 

 元来、馬は極めて高い跳躍力を持つ動物だ。

 それがエグゾアーマーにより高さ、距離共に大幅に強化され、壁のように形成された獣人の防衛線を障害飛越のように跳び越えたのだ。


 全開スラスターで突撃してきたアルバ達を止めるため、大多数の敵獣人は二人の前に密集していた。

 それを跳び越えてしまえば、TGTアイコンを持つの獣人との距離は残り僅か。


 マルゼスは着地の衝撃から姿勢を戻し、一番近くにいるTGTアイコンが表示されている獣人に狙いを定める。

 突撃を何とか止めようと進路上に身を挺して割り込んだ獣人を弾き飛ばし、遠距離からの銃撃をものともせず、火花を散らしながら一直線に駆けて行く。


 マルゼスの構えたランスの切っ先がTGTアイコンの付いた獣人を貫くまで数秒。

 獣人が躱そう、逃げようと思うならばそうする時間は十分にあった。

 だが、その獣人は動かない。


 否、動けないのだ。



 敵ネームドエネミー『軍神シメオン』が根幹となって形成している大規模支援魔法。

 これと同様の物がランナー側にも存在する。


 それは一人から四人のメディックアーマー全員が専用の魔導石を装備し形成する範囲型支援魔法。

 シメオン軍が張る物と同じく、展開している間は地面に魔法陣が形成され一定範囲内の味方全員に強力なバフがかかるという極めて有用な支援魔法だ。

 しかし、きわめて強力故当然デメリットも存在している。


 まずバフの効果、有効範囲は発動している人数によって増減する。

 一人で発動してもその効果はたかが知れており、最大人数である四人で発動しなければ十分な効果を得ることが出来ないとされている。

 また、発動中は描かれる魔法陣の重要部に基幹要員を配置しなければならず、発動中はその場を離れることが出来ないのだ。


 そして、この支援魔法における最大の問題点。

 発動しているメディックアーマー達にはバフがかからないという事。


 このような特性を持つため、今イベントでランナー側がこの範囲型支援魔法を使用することはない。

 設置型のため攻勢には向かない上、発動中はその場を動けない。

 それは銃弾飛び交う戦場においてバフなしで棒立ちになるという事であり、死を意味する。


 βテスターであるファルク達は、その効果とアスカの航空写真による魔法陣の模様でこれがランナー側と同じ範囲型支援魔法だと断定。

 弱点もランナー側と同じものだろうと推測した。


 要は魔法陣を形成し、バフがかかっていない基幹要員であるメディックアーマー装備の獣人を直接叩けばいいのだ。

 ランナー側の場合、基幹要員を倒せば、その分バフの効果と有効範囲が減少することがβテスト時に判明している。


 だが、その基幹要員である獣人達はゴルフ要塞の高い壁の中。

 それ故アスカの空輸による強襲空挺降下作戦なのだ。


 一番耐久力のあるアルバが先に乗り込み、要塞内をかく乱。

 その混乱の中で動かずにいるであろう大規模支援魔法を成す基幹要員の位置を特定。

 ホロの到着後、アルバ、ホロの両アサルトアーマーで敵守備隊を引き付け、その隙にアームドホースを操るマルゼスが機動力で基幹要員を潰す。

 これがこのゴルフ要塞強襲空挺作戦の概要である。



 スラスターをも使用したエグゾアーマー装備のタービュランスの速度を上乗せした、マルゼスの一撃。

 当然、バフのかかっていない獣人など耐えられるわけもなく――。


「敵将、討ち取ったりいぃぃ!」


 マルゼスのランスにより上半身を吹き飛ばされ、光の粒子となって消滅したのだった。



万馬奔騰(ばんばほんとう)

多くの馬が走ったり跳ねたりするように、勢いのきわめて盛んなさま。

たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまり奄美大島空港から飛び立ってしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いまさら感もあるのだけど、もしかしてこの要塞、壁で囲っただけの開放型の広場だったのかな? もしそうだったら、この設定だとアスカの空爆で終わるよ。 対空砲を黙らせてから、念入りに地上掃射…
[一言] ざっくり計算してみましたが、確かに重量が大きい方が落下速度上がりますね。申し訳ないです。
[一言] 地上戦も躍動感があっていいぞ!
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