61 DAY3ゴルフ要塞攻略戦Ⅴ【空挺降下二陣】
アイビス『非そち』
アルバをゴルフ要塞に投下したアスカは、すぐさま要塞上空を離脱。
降下作戦第二陣が待機するフォックストロットへ向け飛行していた。
「アイビス、アルバはどのくらい持つかな?」
『ランナーアルバのエグゾアーマー構成、及びアスカが渡したMPポーションの数から推測して、しばらくは持ちこたえると思います。ですが、やはり単騎では時間の問題でしょう』
「そうだね、せっかく渡したMPポーション、無駄にしてもらったら困るものね!」
降下作戦における問題の一つ、降下後のMP問題。
アスカが空輸し、上空での被弾を避けるためエグゾアーマーを装備しての急降下、着地にはブースターを使用して安全圏まで速度を落として着陸する。
考えとしては筋が通るのだが、どうしても無視できないのがMP問題だった。
ブースター自体は増槽一体型の為MPの消費はないが、姿勢制御に使うスラスターはフライトユニット同様、使用には毎秒MPを消費する。
無事要塞内部に降下したとしても、獣人が巣くう要塞内で大暴れしようとするならばMP消費量度外視の戦闘を行わなければならない。
この大量に消耗するMPを補充するにはポーションを使用するしかないのだが、回復量の少ない低品質のMPポーションでは降下作戦におけるMP消耗ペースに追いつかないだろう。
そこで首脳陣がアスカに頭を下げて頼み込んだのが、MPポーションの売却。
この売却案を打診された時、アスカはこれを拒否。
アスカにとっても品質AのMPポーションは長時間飛行を行う上で重要なアイテム。
在庫はまだ潤沢にあるが、今後アルディドが結成するという飛行隊へ販売する分も考えると、在庫は多いに越したことはない。
だが、MP回復方法を持たないままの降下作戦なぞ蟻地獄の中に蟻を落すような物。
強引に降下したところで大した損害を与える事もなく、増援が来る前に撃退されてしまうであろうこと必至。
それは降下要員を空輸するアスカにとっても他人ごとではない。
顔見知った友人を蟻地獄に突き落すような真似など、出来るわけがないのだ。
結局、MPポーションがなければアルバ達が持たないという事実に、アスカは折れた。
ただし、あっさり譲るというのもまた癪に触る。
そこで一個100万ジルという相手の足元を見た超高価格で販売することにしたのだ。
これがないと作戦を実行することが出来ず、アスカにとっても貴重な品物を譲渡する以上、当然の価格設定である。
もちろん、ここまで相談なく物事を決められ続けた事への意趣返しも兼ねて。
その価格にさすがの首脳陣らも度肝を抜かれ、一瞬にして顔を青くさせる。
しかし、所有者が値引きはしないという強固な意思を示し、支援AIアイビスから『時価ですので、妥当です』と言われ、こちらの味方であるはずのキスカから「アスカを散々無理言って好き放題扱っておいて、まだわがまま言う気なの? だっさ」といわれ万事休す。
他ランナー達もアスカに頼りきりと言う負い目もありこれを承諾。
全財産をはたいて買えるだけのMPポーションをアスカから譲渡してもらったのだった。
もちろん、ツケなど許さない現金取引である。
こうしてアスカから購入したMPポーションを降下作戦に参加するランナーに分配。
中でも、最初に降下するアルバは少し多めに購入している。
これなら追加の降下部隊が来るまで持ちこたえられるはずだ。
全力でフォックストロットに向かうアスカ。
後方のゴルフ要塞からは爆発音と煙が昇り、すでにアルバが戦闘を開始していることを窺わせる。
地上を見ると、防御ラインを張っているモンスター達がやや挙動不審に陥っているのが見て取れた。
落ち着きなく動くその様は明らかに焦っており、このまま防衛線を維持するか、それとも要塞まで戻るか悩んでいる様子だ。
「へぇ、これだけでも結構効果があるね」
『ですが、今だ敵の大規模支援魔法は稼働中です。これがある以上、攻勢に出るわけにはいかないでしょう』
本陣への強襲で明らかに浮足立っている敵モンスター群。
本来ならば、この隙に一気に攻勢をかけて打ち崩すのが得策になるが、強力なバフが効いていてはその効果も薄い。
味方ランナー達もそれを分かっているらしく、モンスター達と対面しながらも今だ動く様子はない。
そうして今だ睨めっこを続けている前線を越えたアスカはそのままフォックストロット上空まで戻ってきた。
一度ポータル上空で旋回飛行を行いMPを回復。
同時に地上へ連絡を入れる。
「リコリス1、戻りました! 次行きます!」
《了解しました、リコリス1。こちらも出発させます》
今のアスカはオプション装備を何もつけていない。
その為、通信できるのもフレンドに限られ、中継としてファルクに連絡を入れる。
すると、拠点の一角から見覚えのある馬、タービュランスが平原を駆け始めた。
鞍上にはフレンドを示す二つのアイコン。
その姿を確認したアスカもアプローチを開始。
走り出したタービュランスの後ろに回り、ゆっくりと距離を縮めて行く。
そしてタービュランスの直上まで来ると減速して相対速度を合わせ、鞍上にいる降下要員に手を伸ばした。
「来た来た! アスカさん!」
「ホロ! 準備は良い!?」
「任せんさい! 今日もやっちゃるけん!」
タービュランスの鞍上に居るのはアルバ同様、エグゾアーマーを身に付けていないホロだった。
ホロはアスカが伸ばした手を両手でしっかりとつかむと、タービュランスの鞍上から空中へと体を滑らせた。
アルバの時はこのまま上昇したのだが、今回は高度そのまま。
片手でホロをぶら下げたまま、もう片方の手を再度大地を駆けるタービュランスの鞍上へと伸ばす。
「マルゼス、行くよ!」
「おっし!」
マルゼスはそれまで持っていたタービュランスの手綱を放すと、伸ばされたアスカの手を掴む。
しかし、マルゼスはエグゾアーマーを装備しており、このままでは上昇できない。
「おっけー、しっかり掴んだよ!」
「よっしゃ、エグゾアーマー、解除!」
マルゼスのその言葉に応じ、エグゾアーマーの解除シークエンスが開始された。
実体化していたアーマーは薄く光ると同時に透明になってゆき、一分と経たずその姿を完全に消失させる。
当然エグゾアーマーの重量も無くなり、フライトアーマーの揚力により空中へと舞い上がった。
「やった、成功!」
「うわぁ、すごい、すごいよアスカさん! うち、浮いとるよ!」
「タービュランス、離脱して拠点に戻ってるんだぞ!」
アスカは左右の手にホロとマルゼスをしっかりと掴んだまま高度を上げて行く。
二人の受け渡しを完了し、鞍上が居なくなったタービュランスは次第に減速。
マルゼスの指示に従うように反転すると、フォックスロットへ向け駆けて行った。
「一人しか空輸できないはずやのに、すごかねぇ!」
「本当、次から次によく思いつくわよ……」
「まぁまぁ。今はそのおかげで助かってるんだし、いいじゃん」
先ほど行った前線基地での作戦会議。
最後の最後でクロムが言い放った『小柄で体重の軽いものであれば二人同時に運べるのではないか?』という問い。
その答えがこれだ。
ドワーフであるホロと、ハーフリングであるマルゼス。
両者とも小柄な種族であり、二人の体重を合わせてもフライトアーマーの飛行可能範囲内だったのだ。
ホロ、マルゼスの両名をぶら下げたアスカはぐんぐんと高度を上げ、視界の正面に煙が昇るゴルフ要塞を捉える。
「……アルバ、奮戦してるみたいだね」
ゴルフ要塞からはいくつもの煙が昇り、今もその数を増やしている。
その事から単身強襲したアルバはまだ健在であることが推測できる。
だからこそ早くホロとマルゼスを送り込まなければならない。
「アスカさん! 絶景、絶景やん! すごかぁ!」
「この絶景はすごいね。人が乗れるだけの大きさを持つ鳥がいたら、絶対に手に入れないと」
神妙な面持ちになるアスカに反して、空輸される二人の雰囲気はまるで空中散歩を楽しんでいるかのようにほがらかなものだった。
ホロは地元が空から一望出来ると大騒ぎ。
マルゼスは鳥の背に乗ってこの空を飛びたいと真剣に考えこんでいる。
その緊張感皆無の様相に、アスカの頬も思わず綻んでしまうほど。
「ね、空もいいものでしょう?」
「うん、これは最高やね! うちもフライトアーマー取ろうかなぁ」
「この絶景は反則だね。鳥か……どこにいるかな」
両者ともこの空を飛びたいという事には一致している。
が、フライトアーマーで自ら飛びたいというホロと、鳥型のビーストを見つけ、テイムし、その背に乗って飛びたいというマルゼスで意見が分かれていた。
マルゼスも自らフライトアーマーで飛べばいいと思うのだが、彼の中では鳥の背に乗ることは絶対条件のようだった。
「大事な相棒と一緒に飛ぶのが良いんだよ! アスカならわかってくれるだろう?」
「えっ? う、うーん……」
「自分で飛んだ方が楽しいと思うっちゃけど……」
「何故だ……」
相棒に馬であるタービュランスが居ることからも、マルゼスが動物好きであることは間違いないだろう。
アスカもホロも動物は嫌いではないが、ゲームの中で苦労してまでビーストを入手し、背に乗って空を飛びたいとは思わない。
だが、マルゼスにはどうしても譲れない一線がそこにあるのだろう。
「二人とも、そろそろだよ」
いよいよ目の前にまで迫って来たゴルフ要塞へ向け、アスカは先ほど同様水平爆撃の要領でアプローチを開始する。
「アスカさん、今度また空に連れてきてくれんやろか? この風景、もう一回味わいたか!」
「鳥……鳥……う~ん……」
緊張の降下開始寸前にあって、まったく緊張感のない二人であった。
そうしている間にもゴルフ要塞はさらに近付き、降下予定ポイントに到達する。
地上からは対空砲火が撃ち込まれているが、アルバが要塞内部で暴れているおかげか回避行動が必要なほど激しいものではない。
だが、さすがにここまで来るとホロ、マルゼスの両名も気を引き締め、作戦に備えている様子が見て取れる。
「そろそろよかね。アスカさん!」
「私が援護に来るまで、死んじゃ駄目だからね!」
「ふふっ、わかっとうよ! 今や、放して!」
「行くよ!」
ホロの合図に合わせ、アスカは掴んでいた腕を放す。
一見小学生にも見える小さな姿に銀髪を靡かせ、ゴルフ要塞へ向け落下していった。
「次は俺だな!」
「マルゼス、二人をよろしくね!」
「任せろ!」
続けてマルゼスを投下。
先に降下したホロ同様、小柄な体を大きな空に吸い込ませながら、今だ対空砲火止まぬゴルフ要塞へ向け一直線に落下してゆく。
「アルバ!」
《リコリス1か!?》
「いま、後続の二人を送ったよ!」
《了解だ!》
「そっちはどう? まだ持つの!?」
《愚問だな。こっちは猿どもと、楽しいパーティの……おらぁっ! 真っ最中だ!》
通信の向こうから聞こえてくるのは獣人達の叫び声と激しい銃撃戦の音。
そこにスラスターや被弾の音が混じり、戦闘がアルバの言う以上の激しさであることをアスカに伝えてくる。
「もうちょっとしたら私も支援に入るから、踏ん張ってよ!」
《ふっ、その前に終わらせてやるさ!》
できる事ならこの場にとどまり、ホロ、マルゼスらも含めて援護をしたいが、アスカにはまだやらなければいけないことがある。
支援できない悔しさをぐっと噛み締めながら、通信を終えると、高度を上げ反転。
増速しつつフォックストロットへ向け飛行していった。
価格参照
品質B薬草 1000ジル(ランナー協会買取価格)
フライトアーマー翡翠 3万ジル
フルカスタムフライトアーマー飛雲 10万ジル
クロム、ファルクの貯蓄分では全く足りなかった為、キスカ、ホーク他数名の知り合いから借金。
当然アスカが品質AのMPポーション持ちだとははなしていません。
アルバは自分の必要分を購入、不足分をファルク達から譲り受けています。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
うれしさのあまり長崎空港から飛び立ってしまいそうです!




