60 DAY3ゴルフ要塞攻略戦Ⅳ【空挺降下】
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ゴルフ要塞、空挺降下作戦。
その準備を終えたアスカ達は、出撃のため指令所傍の空き地に集合していた。
周りにはアスカの離陸を一目見ようというギャラリーの他、アスカと並んで立つアームドホースの姿があった。
「準備は良い? マルゼス、アルバ」
「こっちはいつでも!」
「二人とも、頼む」
アームドホース、タービュランス。
鞍上はマスターのマルゼス。
後ろにエグゾアーマーは装備せず、代わりにゴーグルを装着しただけのアルバがマルゼスに抱きついている。
「アルバ、例の物は持ったね!?」
「うむ。何度も確認した」
「私のお手製なんだから、大事に使ってよ!」
「任せろ。こいつで最高の仕事をしてやるさ」
アスカは棘のある言い方をしながらアルバを睨みつけ、対するアルバはアスカに真剣な眼を返した。
本当に分かっているのか気になるが、まぁ、アルバなら悪いようには使わないだろう。
と自分を納得させ、最後に周りを見渡す。
そこにはファルクの小隊の他、クロムや各部隊長、メラーナ達やホロの姿もある。
「じゃあ、行ってきます」
「うむ。頼んだぞ」
「アスカさん、頑張ってください!」
「アルバ、増援が来るまで、しっかり耐えなさいよ!」
アスカの挨拶に皆の激励が飛ぶ。
見送られながらの出撃も悪くはないなと思いながら、アスカは深呼吸を一つ。気を引き締めた。
「アスカ、先に行くよ! 駆けろ、タービュランス!」
「ヒヒーン!」
マルゼスが蹴った鐙に応じ、嘶き一発。
アスカに先んじてタービュランスが駆け出す。
「発進!」
続けてアスカが離陸を開始。
武装はセンサー類を含めてすべて外しているが、今回の目的は観測や地上支援ではない。
背面のフライトユニットに押されるようにして空き地を滑走。
前方には先に駆け出しマルゼスが乗るタービュランスが駆けているが、距離はぐんぐんと縮まってゆく。
十分な速度を得た所でアスカの両足が地面から離れ、飛行を開始。
本来ならここから姿勢を巡行形態にしてから上昇するのだが、今回はすぐに体が地面と平行になる高速飛行形態に移行させ、地面スレスレを飛行する。
そこからさらに加速して先を走っていたタービュランスに追いつくと、一旦減速。
相対速度を合わせ、マルゼス、アルバらの真上を飛行する。
「アルバ、手を!」
「応!」
アスカが伸ばした手を、アルバがつかむ。
まずは右手。続けて左手。
まるで空中ブランコでもするかのような形で両手を繋ぐと、そこからアスカは高度を上げ始める。
生身であるアルバは、アスカにつられて上昇、タービュランスの背を離れ、大空へと舞い上がった。
「よし、離陸はうまくいったな」
「まったく、よく考えたわね、こんな方法!」
ゴルフ要塞空挺作戦における問題の一つだった離陸方法。
アスカが自分より体格の大きいものを持ったまま離陸するのは困難であり、最悪離陸を失敗して転倒、無駄に死亡してしまう可能性があったのだ。
そこで考え出されたのがこのやり方。
アームドビーストの中で複数人が乗れ、速度があり、持続性、安定性が最も高いものを使用し、飛行しているアスカと速度を合わせ、降下するランナーを空中に引き上げるのだ。
これなら第二陣、三陣の出撃時も着陸と離陸を繰り返さなくて済む上、往復にかかる時間も短くて済む。
アスカに手を握られているだけで宙ぶらり、風のあおりも受けているアルバだが、アスカは御構い無しにぐんぐんと高度を上げて行く。
現実世界であれば訓練もしていない一般人が長時間腕の力だけで全体重を支えたり、持ち上げた状態を保持することは不可能。
しかし、ゲームの中ではエグゾアーマーのパワーアシストが作用しており、アスカのか細い両腕が体格の良いアルバをしっかりと支えていた。
十二分に高度を上げたところで水平飛行に移行。
正面にゴルフ要塞を捉える。
「……ふむ」
「アルバ、どうしたの?」
「いや、良い景色だと思ってな」
天候は相変わらずの曇り。
決していい天気とは言えないが、雲の合間から指す太陽の光が海面で反射されてキラキラと光っており、内陸の奥には大小さまざまな山々が、大地には巨大な魔法陣が描かれているのだ。
360度遮るもが何もない、パノラマ大絶景。
リアル世界でもスカイダイビングなどのスカイスポーツを行ったことが無ければ見る事のかなわない、とても美しい風景だった。
「アスカやアルディドが空にこだわる理由もわかるな」
「そうでしょう、そうでしょう! 空は良いんだ! 気持ちいいし、広いんだよ!」
思わぬ形でアルバから空への理解が得られ、思わずテンションが上がってしまう。
今がイベント中でなければ、もっとこの大空を味わってもらうため、空中散歩に繰り出していただろう。
「アルバもフライトアーマーを使えばいいんだよ! きっと楽しいよ!」
「……そうだな。このイベントが終わったら、検討してみよう」
すでにランナーとモンスター達がにらみ合っている前線は超え、ゴルフ要塞をその射程に捉えている。
あとは、どのタイミングでアルバを降下させるかだ。
「このまま行ってくれ。水平爆撃の要領で頼む」
「了解。でも、本当に良いんだね?」
「あぁ。手を放すだけでいい。あとはこちらでやる」
ゴルフ要塞まではあと数百m。
ここまで来ると要塞内部のモンスター達も空から接近するアスカに気付き、攻撃を行ってくる。
もともと命中率の低い攻撃だが、単調な飛行ではさすがに当てられてしまうため、回避行動を取る必要がある。
しかし、今アスカは生身のアルバを懸架しており急旋回などの機動飛行は行うことが出来ない。
「アルバ、さすがにそろそろ危ないよ!」
「よし、ここまでくればもう良いだろう、放せ!」
「行くよ!」
その合図でアスカが掴んでいた手を放し、アスカの揚力による支えを失ったアルバは重力に引かれて降下を開始した。
さすがのアルバもゲーム、リアルを含めても空中から落下するなど初体験。
現在の姿勢を維持し、錐揉みにはならないようするのが精一杯だ。
《アルバ!》
「なんだ!?」
《助けに来るからね! 絶対に死なせないからね!》
アルバをリリースし、フォックストロットに戻るため加速しながら旋回してゆくアスカから入った通信。
その内容に、アルバは苦笑いを浮かべていた。
もともと生き残る見込みのない、決死の空挺降下作戦。
これはゲームであり、実際に死んだりはしないし、やられてもフォックストロットにリスポーンするだけなのだ。
それでもアスカは「助けに来る。死なせない」と言ってくれる。
頭では分かっていても、死地に赴く自分にそう言ってもらえるのは悪い気はしない。
「ふふ……人を乗らせるのが上手いもんだ」
――助けに来る、か。ならば助けに来てくれるまで大暴れして、生き残るのみ。
敵の対空砲の狙いはすでにアスカではなく、落下してくるアルバに照準を定めている。
対空砲の狙いは甘く当たることはなさそうだが、銃弾や魔法攻撃が生身の体の近くを通過するはあまり気持ちのいいものではない。
人によってはかなりの恐怖を感じるであろう状況。
弾幕の中、アルバは表情を崩すことなく、ゴルフ要塞へ向け降下する。
「やってやるか。装着!」
その言葉に反応し、足元に魔法陣が出現。
魔法陣はアルバとリンクしており、落下するアルバの足元で固定。
体にエグゾアーマーのシルエットが表れ、実体化してゆく。
アルバがこの空挺降下作戦で使用するのは当然オークキングから入手したプレミアムアサルトアーマーだ。
それを降下作戦用に主要兵装を変更している。
一番目立つのは右手に持った大型の盾。
店売りの中で最も大型で耐久力のある大盾を装備し、降下時の対空砲火から身を護る。
エグゾアーマー各部には追加のスラスターと大型のブースターを搭載。
これは空中での姿勢制御と着陸時に落下速度を落とすための物だ。
現実世界で空挺降下にはパラシュートを使用するが、こんな真っ昼間に単騎でのんびりパラシュート降下なぞしていたら敵の対空砲によって穴だらけにされてしまう。
敵に狙いを絞らせず、かつ短時間で敵陣深くまで突撃するために、エグゾアーマーの装甲と重さによる速度を生かして一気に突っ込むのだ。
エグゾアーマーを展開したアルバは大盾を前面に出し、内側に身を隠す。
敵との距離が近づくにつれ命中弾も出てくるが、分厚い盾の装甲がその攻撃の全て受け止め、装備者であるアルバにダメージはない。
完全に消しきれない被弾の衝撃で崩れた姿勢は、エグゾアーマーに満載した各部のスラスターで姿勢制御を行い、落下姿勢と進入角度を調整する。
最高速度のまま、地面が眼前まで迫ってきた所でアルバは体勢を脚を突き出した着地姿勢に移行。
姿勢制御には使っていなかった複数の大型ブースターを一斉に起動させた。
周囲にブースター噴射の轟音が響き渡り、同時にアルバに急減速の衝撃が襲い掛かる。
このブースター噴射により、落下死確実だった速度はみるみる減速。
地上数mの高さまで迫った時には落下死の速度域は脱し、アサルトアーマーらしい重厚な音を立てながらゴルフ要塞内部に着地した。
「計画通りだ!」
アルバのその言葉と共に、大型ブースターがエグゾアーマーから切り離される。
この大型ブースターは着陸時の減速用。
役目を終えた後はデッドウェイトでしかないため、早々に切り離したのだ。
同時に背面に装備していた重火器を両肩にマウントの状態で展開。
インベントリから降下には邪魔だったメイン火器を取り出し左手で腰だめに構えると、銃口を招かれざる客を追い払おうと大挙して襲ってくる要塞内部守備隊の獣人達へと向けた。
「よう、サル共。死ね!」
アルバが両肩に装備しているのは現在装備できる武器の中では最大級の火力を誇るレイランチャー二門。
とてつもない火力と爆発範囲を持つが、燃費が極めて悪い極端な装備。
だが、その効果は絶大。
放たれた光弾が迫りくる獣人を捉えると激しい閃光を放つ大爆発を起こし、獣人はバフもろとも消滅した。
ついでとばかりに連射されるのは左手に持った実弾式重機関銃。
アスカが使用するフライトアーマーでは重量過多になり、剛性不足からまともに射撃すら出来ないであろうそれを、アルバの操るアサルトアーマーは片手持ちで乱射する。
さすがに精密射撃とはいかないが、こちらに向け大挙してくる獣人達が相手なら狙いを付ける必要もない。
しかし、敵は支援魔法で防御力を大幅に強化されたモンスター達。
犠牲を出しながらもアルバの攻撃を耐えきった獣人達が、着地地点から今だ動かずにいるアルバへと襲い掛かる。
アルバはこれを降下時に使用した姿勢制御スラスタ―によるホバ―移動で回避。
再度モンスター達から距離を取ると、再度レイランチャーでの攻撃を行う。
しかし……。
バチッ!
「むっ!?」
アルバの射撃の意に反し、鈍く光るだけのレイランチャー。
降下時に使用した姿勢制御スラスターに燃費極悪のレイランチャーの連射により、アルバのMPが遂に底を突いたのだ。
如何に強力な火器や機動力を強化できるスラスターを満載しようとも、MPが尽きてしまえばただのハリボテである。
その様子を見ていた獣人達は不気味な笑みを顔に浮かべていた。
彼らも分かっているのだ。アルバのMPが尽きたのだと。
ならば、後はどう無礼極まるこの所業のお礼をしてやろうか、そう考えている事を表す不気味な笑みだ。
MP切れという窮地。
絶体絶命の深刻さに反し、アルバは笑っていた。
「ふふ、何笑ってるんだ、獣人共」
アルバは右手に持っていた大盾を強引に地面に突き立て、インベントリを操作し、とあるアイテムを取り出した。
それは淡い光を放つ、小さな瓶に入ったポーションだ。
ポーションの蓋を親指だけで弾き飛ばし、一気に飲み込む。
すると、鈍く光っていただけのレイランチャーの光がどんどんと強くなり、スラスターも推進力を取り戻した。
「パーティはまだまだこれからだ!」
完全に光を取り戻したレイレランチャーはアルバの叫びと共に光弾を発射。
事態を飲み込めず、呆然としている獣人達に命中すると、周囲を巻き込む大爆発を起こしたのだった。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
特に前話ではたくさんのご指摘をいただき、作者の力のなさを痛感している次第でございます。
自分はまだまだ未熟であり、至らぬところも多々あるとは存じますが、皆様のご指摘を糧に、より良い作品を作っていきたいと精進してまいりますので、今後ともアスカ達の物語をどうか、どうかよろしくお願いいたします。
なお、アスカに対し無理難題を押し続けた約二名には莫大な慰謝料を支払わせることをここにお約束いたします。詳細は次回更新にて。
皆様のご愛顧が目に染みるあまり、神津島空港から飛び立ってしまいそうです!




