10 マジックアーマー
本日二話目になります。
祝一〇話!
物語はまだまだ続きます!
露店の片付けをパッパと終わらせたフランはアスカとフレンドコードの交換を行い、小隊申請を送信。
するとアスカの目の前に小隊の参加通知が表示され、許可するとアスカとフランの名前が小隊枠に収まった。
「小隊は初めてですが、よろしくお願いします」
「いいよぉ畏まらなくて。私も軽くいくからさぁ」
「では、お言葉に甘えて。東の山岳に行く前に寄りたいところがあるのだけど」
「おっけー。どこ行くの?」
「弾薬を買いにショップへ。もう残ってなくって」
アスカは敬語を崩し、フランは飄々とした感じでアスカについて行く。
フランはアスカより背が低いようで並んで歩く姿はまるで姉妹のようにも見える。
「ダイクさん、こんにちは!」
「おっ、今日も来たのかい嬢ちゃん。そっちは妹かい?」
この店に来るのは昨日に続いて二回目だが、ダイクはアスカの事を覚えてくれていたようだ。
「友達です。それより、弾薬が欲しいのだけど……」
「サイズは?」
「えっと……」
『残っている弾薬を直接渡してください』
「わかった。ダイクさん、この弾なんですけど」
アスカはインベントリからアーマライトの弾薬を取り出し、ダイクに渡した。
「おぉ、こいつのならいくらでも在庫があるぞ。何発必要だ?」
「アイビス?」
『一〇〇発あれば大丈夫です』
「一〇〇発お願いします」
アイビスに丸投げである。
「よし、一〇〇発だな。一〇〇〇ジルになるが、大丈夫か?」
「はい! お金、稼いできたので」
「よしよし。ふむ、嬢ちゃん、武器はアーマライトだけか?」
「ほぇ?」
ダイクに不意を突かれたが、アーマライト以外の武器となるとロングソードしかもっていない。
そもそも空を飛ぶためにゲームをしているアスカにとって、武器はなくても問題ないものなのだ。
「アーマライトの他は、あとロングソードだけです」
「初期装備だねぇ」
フランが横からひょいっと顔を出して付け足す。
「なるほど。ちょっとまってな」
奥に入っていったダイクはしばらくすると短い筒状の物を持って戻ってきた。
そしておもむろにアーマライトに取り付けると、アスカにずいっと差し出す。
「追加武装のグレネードランチャーだ」
「いいんですか?」
「へっ、どうせただの不良在庫だ」
アーマライトは他のエグゾアーマーでも初期装備として割り振られているが、TierⅠであるため皆すぐ他の装備に変更してしまっている。
その為アーマライトを始めとしたアサルトライフル系の付属装備も余っているそうだ。
付属装備には銃剣などもあったようだが、アスカがロングソードを持っていたため火力のあるグレネードにしてくれたという。
「炸薬弾も三発おまけだ」
「わぁ、ありがとうございます」
『アスカ、せっかくなのでグレネードの弾も買っていきましょう』
「アイビス……」
「それ支援AIだよね? こんなにちゃっかりしてたかなぁ?」
アイビスの支援AIらしからぬ抜け目のなさに首をひねるフランだった。
結局アスカはアイビスのアドバイス通り、グレネードランチャー用の炸薬弾を七発購入。
アーマライトの弾が一発一〇ジル、炸薬弾は一発一〇〇ジル。
合わせて一七〇〇ジルとなり、薬草で稼いだ分を使い果たしてしまったがそれは必要経費として割り切るしかないだろう。
[武器]アーマライト TierⅠ
種別:アサルトライフル
火力:97
標準的なアサルトライフル
単発、3連、連射の3パターンで射撃が可能
追加兵装:コルト TierⅠ
種別:グレネードランチャー
火力:308
アサルトライフルなどに取り付けられるグレネードランチャー
弾種を変えることで様々な使用法がある
「おぉ~結構強い!」
「よかったねぇ。アスカ、あのNPCの店主に気に入られてるんじゃない?」
「思い当たる節はないんだけど……」
買い物を済ませた二人は店から西門に向かって歩いている。
その道中でアスカはダイクからもらったグレネードランチャーの性能と動作を確認していた。一発撃つごとにリロードが必要だが、火力は申し分なく、連射の効くアーマライトとの相性は良さそうだ。
「アスカは戦闘したことあるんだよね? フライトアーマーだとどういう戦い方なの?」
「ん~ヒットアンドランっていうのかな? こっちの速度が速すぎるから、アーマライトで牽制して、すれ違いざまに切りつけるってのを繰り返す感じ」
「うわ~、距離を一気につぶすのかぁ、後衛の天敵だねぇ」
「フランは何のアーマーを装備してるの?」
「私はマジックとメディックのアーマーがメインでスナイパーがサブ。接近戦闘はちょっと苦手なんだぁ」
「二つもエグゾアーマー持てるの?」
「え?」
「えっ?」
「「…………」」
そんなことできるの? という表情のアスカと、知らないの? と困惑するフラン。
訪れた沈黙を打ち消したのはやはりアイビスだった。
『エグゾアーマーはメニュー、ガレージで三つまで保存できます。ガレージでは種別の違うエグゾアーマーも保存でき、フィールドに出た際は三つのエグゾアーマーから一つを選択して装着します』
「アスカ、知らなかったの?」
「……アイビス、なんで教えてくれなかったの?」
『アスカはフライトアーマー以外興味ないようでしたので、TierⅡを入手するまで必要ないと判断しました』
「ひどい! その通りだけど、その通りだけど!」
「やっぱりアスカのAIなんかおかしい……」
アイビスの言う通り、確かにアスカはフライトアーマー以外に興味はなく、教えてもらっていたとしても他のエグゾアーマーをガレージに置くことはなかっただろう。
だが、何とも釈然としない。
そんなやり取りを終え、東門から外に出た二人はエグゾアーマーを装着した。
フランの使うマジックアーマーはドーナツ状に腰をぐるりと囲い、体正面の部分だけ開いているCの字形をしていて、アーマー部分に掘られた基板回路のようなラインを光が通っていた。
背面には二つの突起、側面下部には放熱板のような板が左右二枚ずつ、計四枚がヒラヒラと揺れている。
これだけ目立つマジックアーマーだが、フラン自体は軽装で足にニーハイソックスのようなアーマー、腰と肩には光を放つアーマーの固定具が付いているだけだ。
手にも何も持っておらず、火器などの装備はしていない。
「うわー、すごいキレイですね!」
初めて見るマジックアーマーにアスカは感激していた。
アスカにとって一番はフライトアーマーであるが、このマジックアーマーは見栄えがすごく良く、ファッション感覚で装備したくなってしまうほどだ。
「ふふふ~、もっと褒めても良いんだよぉ」
ドヤ顔を決めながらポーズをとるフラン。
調子づくなとツッコミたい所だが、フランが丹精込めて作り上げたアバターとマジックアーマーの組み合わせはとてもよく似合っており、ドヤ顔ポーズも許される。
「じゃあ、これから東の山岳まで行くけど、アスカは飛んでいく?」
「飛んじゃうとMPが一気になくなっちゃうから、一緒に歩いていくよ」
「あ、そっか、毎秒MPつかうんだもんねぇ」
一緒に歩き出したアスカとフランだが、すぐにフランが先行し始める。
するとそこでアスカが違和感を覚えた。
「フラン、それ浮いてる?」
そう、マジックアーマーを装着したフランはわずかに地面から浮いていたのだ。
足を動かすことなく、そのまま前にすいーと流れていく。
「マジックアーマーの移動方法はこれなんだ。さすがに空は飛べないけどねぇ」
このホバー移動があるため、マジックアーマーは全エグゾアーマーの中でも上位の移動速度を有している。
その反面、スラスターを搭載していないので急発進、急停止や即反転などが出来ず、接近戦には不向き。
なお、このホバー移動はMPを消費しない。
「アスカは大丈夫?」
「ゆっくり進んでくれると助かるかな」
なおフライトアーマーの地上での歩行速度は全アーマー中最低。地に落ちた鳥だ。
空を飛べるフライトアーマーが後衛のマジックアーマーに待ってもらいながら進むという何とも言えない光景ながらも、二人は山岳へと向かっていった。
『エンカウント』
山岳へ向けしばらく歩いた先、声を上げたのはアイビスだった。
二人の視線の先にはウルフに乗ったゴブリン、ゴブリンライダーが計三匹。
すでにこちらに対し戦闘態勢を取っており、逃げられそうにない。
「ライダーかぁ、めんどくさいのがきちゃったな」
フラン曰く、ゴブリンライダーは複数でこちらを囲い、死角にいるライダーが攻撃を行ってはすぐ離脱する一撃離脱の戦法。
序盤の敵であるためそこまでのダメージではないが、死角からの攻撃への対処を間違うとじり貧になるそうだ。
「じゃあ、囲まれる前に私がかく乱しちゃうね」
「よろしく! 私は魔法用意しとくから」
「じゃあ、いくよ!」
これが初の小隊戦だ。
アスカはロングソードを抜くとフライトユニットに火を入れると一気に加速、離陸する。しかし、高度は取らず地面スレスレ。
対するゴブリンライダーも動き出し、真ん中の一匹が他二匹より前に出た魚鱗の陣形でこちらに向け突っ込んでくる。
アスカは先頭の一匹に標準を合わせ、トリガーを引く。
初戦闘の時のウルフと同じように被弾により足を止めたゴブリンライダーは、アスカのすれ違いざまの辻斬りにより、一撃で光の粒子になった。
辻斬りで一匹仕留めたアスカはそのままピッチアップして上昇。
一八〇度ロールし体を反転させ、ゴブリンライダー達の動きを確認する。
一匹仕留められたゴブリンライダーだが、両翼の二匹は動きを止めず、そのままフランに走っていく。
その一方に狙いを定めたアスカは、アーマライトに取り付けられたグレネードランチャーのトリガーを引いた。
『ポンッ』という乾いた音を発しながら放たれた炸薬弾は放物線を描いてゴブリンライダーの近くに弾着、炸裂し、その体を吹き飛ばす。
爆発範囲を持つグレネードランチャーは直撃させる必要がなく、効果範囲に敵がいればいい。
いくら足の速いゴブリンライダーといえど、フライトアーマーにより上空から射撃できるアスカがグレネードランチャーの効果範囲にライダーを捉えるのは容易だ。
グレネードランチャーの爆発で吹き飛ばされたゴブリンライダーであったが、直撃ではないため致命傷にはなっておらず、体勢を立て直そうと倒れた体を立ち上がらせる。
そこにすかさずフランの放ったファイアーボールが数発弾着。ゴブリンライダーにとどめを刺す。これで二匹。
残り一匹は未だフランへ向けて走っており、アスカには背を向けている。
状況を把握したアスカは加速しながら降下を開始。
ゴブリンが騎乗することで単体のウルフよりも足が遅いゴブリンライダーの速度はアスカには止まったようなものであり、落下加速にフライトアーマーの加速を加えた最高速度による背後から一閃で、ゴブリンライダーは一匹目と同じくそのまま光の粒子になって消えていった。
「ほえ~アスカすごいねぇ。あの癖の強いフライトアーマーを見事に使いこなしてるよぉ」
「いや~まだまだだよ」
敵を全滅させたアスカは減速して着陸し、フランの元へ戻ってきた。
お互いMPをいくらか消費はしたが、無傷で戦闘を終えられたのだ。
「アイビス、MPの残量はどう?」
『今の戦闘で約一五〇消費しました。残りMPは三二八。MP自動回復での全快までは三七分です』
「やっぱり燃費は悪いねぇ」
今の戦闘で飛行によりMPを一五〇も消費したアスカに対し、フランはファイアーボール数発分、三〇ほどしか消費していない。
「でも空を飛ぶとすっごい楽しいんだよ。フランもどう?」
「いや~私には無理だよぉ。操作難しすぎるって」
「慣れだよ、慣れ!」
「遠慮しておくよぉ、それよりアスカ、ドロップはどんな感じ?」
フランにそう聞かれ、アスカはドロップを確認する。
ログには魔石・小が二個と狼肉一個入手と出ていた。
「あれ、私にドロップが三つも来てるよ?」
ゴブリンライダー二匹を仕留めたのはアスカだが、一匹はフランだ。
ならばドロップ品の割り当てはアスカ二個、フラン一個となりそうなのだが。
『小隊を組んでモンスターを倒した場合、ドロップ品は討伐者だけではなく小隊全員に配給されます。ドロップ品は共通ではなくプレイヤーごとドロップテーブルからランダムです』
「……つまり?」
『……小隊を組んでモンスターを三匹討伐した場合、人数、誰が倒したかは関係なく全員に三個のドロップ品が配給されます。ただし、それぞれドロップテーブルからランダムに選ばれるので全員同じドロップ品とは限りません』
「なるほど」
「そゆこと! 私もドロップ品は三つで、毛皮二つに魔石だったよ」
経験値に関しては総経験値を人数割りだという。
といってもアーマー開発値なのでそこまで大きな差にはならないようだが。
こうしてアスカは初めての小隊を満喫しながら目的地の山岳へと向かっていくのだった。