別れ話
ずっと、好きな人がいたんです。
でも、私が彼の側に居続けるのは、彼にとってよくなかった。
だから、別れを切り出したんです。
彼は泣きました。
そして、私の話を優しく聞いてくれました。
直前まで 恋人として幸せな時間を過ごしていたのに、
自分勝手に壊した私を、彼は責めませんでした。
……いっそなじってくれた方が、気が楽でした。
それでも、そんな残酷なまでに優しい彼が、私は好きだったのです。
ゆっくり、とてもゆっくり話をしました。
君が悪いことは何一つない。ただ、私はもう君の隣にはいられない、と。
彼は[あなたが悩んで出した答えだから]と、私のわがままを受け入れてくれました。
いつだって私に優しくしてくれた彼。
こんな 恩を仇で返すようなことは、あってはならないことです。
申し訳ないやら不甲斐ないやら、感情がない交ぜになって、いつの間にか私も泣いていました。
自分から切り出したんです。泣くなんて狡い真似、したくはなかった。
けれど、彼が愛しくて、愛しくて、たまらなくなってしまった。
ごめんなさい、ありがとう(、愛してる)。
二人で慰め合いながら、泣きました。
[悩んだんだね]と、彼は言いました。
私は「うん」と答えました。
[もう、決めたことなんだね]と、彼が聞きました。
私は「ごめんね」と言いました。
彼が…………[……別れたくないなぁ……]と………こぼしました。
その声はとても小さくて、非常に繊細な響きを湛えていました。