第3話 決めた
痛い!
聖良は目を覚ました。すごく体が痛い。節々が痛い。ベットがすごく硬く感じる、と思って見ると、床で寝てしまっていたようだ。ひんやりとした床はこの季節には気持ちいい。
「そっかぁ、それで・・・痛っ」
なんで床で寝てたんだっけと顔をしかめながら、聖良がゆっくりと体を起こしていると
「あらっやだ〜聖良ちゃんったら今日はやけに早いじゃな〜い」
と母が珍しげに声をかけてきた。
時刻は日曜の朝の6時。普段の聖良なら絶対にこんな時間に起きてこない。
聖良は洗面台に行って顔を洗う。頭に霧がかかったみたいで何だか寝不足だ。
聖良は鏡を見て思わず笑ってしまった。髪の毛が爆発している。
「もおーこの癖っ毛めぇ」
聖良は髪の毛と悪戦苦闘しているときにふと思った。あれ?もしかして私、昨日の夜中、髪の毛爆発してた?だとしたらすっごく恥ずかしい・・・ん?なんで恥ずかしがるんだろう?
「あぁぁぁぁ!」
聖良は思わず声を出してしまった。そうじゃん!テルシア!
髪を1つに纏めながら考える。考えさせて欲しいとは言ったが、どうするべきか。親に相談した方がいいのか、しない方がいいか。
ご飯を食べている時も難しい顔をしていたからだろうか、母が声をかけてきた。
「どうしたの?眉間にシワなんか作っちゃって・・・何か困ってるの?」
「うーん」
聖良は曖昧に返事をした。なかなか相談できる内容ではない。そんな聖良に母が心配そうに近づいてきた。
「何に困ってるの?母さんに言ってみなさい」
結局、聖良は母に相談することにした。母に心配をかけるのは嫌だからだ。できるだけ伝わるようにぼかして話す。
「えっとね、友達がものすごく困ってて、私に助けを求めてるの、私の力が必要だって・・・。私、助けてあげたいんだけど、その友達が遠くに住んでるから助けに行くか迷ってるの」
「助けに行きなさい」
母は話を聞くとすぐにそう言った。聖良の目を真っ直ぐに見て
「何を迷う必要があるの。助けに行きなさい。その友達は聖良ちゃんに助けを求めたんだから。困っている人には手を差し伸べないと。それに、聖良ちゃんは助けに行きたいんでしょ?」
「母さん・・・」
聖良は頷いた。そうだよね、困っている人は助けないと。でも・・・
「でも助けに行くことになったら1ヶ月くらい帰ってこれないかもしれないの」
「1ヶ月?!」
まさかそんなに長いこととは思わなかったのだろう。母は大きくのけぞって、目を白黒させながら
「そんなに遠くに住んでるの?その友達」
「・・・うん」
聖良はなんとなく申し訳なさそうに頷いた。
テルシアの帰り方を見るにあちらの世界へ行くのはそう時間はかからないだろう。きっとワープのようなものだと思うのだ。
しかし、問題なのは聖良が助けるのは雪嵐で消滅しかけている村だ。ドラゴンも捕まえなければいけないし、もしかしたら1ヶ月でも帰ってこれないかも知れない。
母はしばらく黙っていたが、真剣な顔をした聖良を見て送り出す気になったらしい。
「まあ、いいわ。自分が助けたいと思うのなら、行ってあげなさい。きっと相手も喜ぶわ。・・・で、いつ行くの?」
「ありがとう、母さん。2日後に出発するの」
「そう・・・準備、しっかりしていくのよ」
「うん」
こうして、母の許可をもらった聖良は、異世界に行き、テルシアの村を救うことに決めた。出発は2日後の夜だ。