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セイラの異世界物語  作者: 白雪ピノ
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第1話 視線

(部屋の中に何かがいる?)

真夜中の3時くらいであろうか、聖良はハッと目を覚ました。何かが部屋の中にいるような気がした。誰かが私を見ている。聖良の背中から汗がつーっと出てきた。今日は熱帯夜だというのに、寒い。

まさかこれは、考えたくは無いがお化け・・・?聖良はほっそりと目を開けてみた。


「ひぃっ!」


聖良の顔を誰かが覗き込んでいた。急いで目を閉じる。心臓がバクバクしていた。

(どっか行け!どっか行け!どっか行け・・・!)

聖良は必死に祈る。

すると、横から声が聞こえた。


「こんばんは」


低く、でも透き通った綺麗な声だった。その声を聞いた途端、聖良の心から不思議と怖さが消えていった。


「こ、こんばんわ」


先ほどとは違う意味でドギマギしながら目を開けてみる。

するとやっぱり誰かが横から私の顔を覗き込んでいた。やっぱり怖い、と思いつつも勇気を出して、尋ねてみる。


「あの、誰ですか?幽霊・・・ではないですよね?」

「驚かせてしまい、申し訳ないです。しかも、こんな夜遅くに起こしてしまって・・・」

「いえ、別にいいですよ。良く眠れましたし」


聖良は自分でも訳の分からないことを言いつつ、相手と話をするためにベッドから半身を起こした。相手の身長はすごく高かったので、自然と見上げるようになる。


「あの、それであなたは誰なんですか?」

「僕はテルシアという者です」

「テルシア?外国の方ですか?あれ?でも日本語通じるし、それに何で私の部屋に・・・?」


聖良が混乱して目をパチパチしていると、テルシアがしゃがみこんで急に手を握ってきた。


「えぇぇぇ!何ですか?!」

「実は君に頼みがあって僕はきたんです」


テルシアがふわりと微笑む。聖良は心臓がバクバクした。顔が熱くなる。

異性に手を握らせる、という状況は聖良は生まれて初めてだった。しかも、ほのかにいい匂いがする。


まだテルシアは聖良の手を握っていた。ひんやりとしていて気持ちいい。しかし、聖良は緊張でカチンコチンになってしまっていた。


「僕の話を聞いてくれますか?」


テルシアが聖良の顔を覗き込んだ。暗さに目が慣れてきたからか、顔をよく見ることができた。綺麗な顔である。ちょっと圧倒されつつ、聖良はギクシャクと首を縦に振る。


「き、聞いてもいいですよ」


頼みごとってなんだろうか。外国の人に出来そうなことなんて何も思いつかないけど。そんな事を考えながら先を促す。

しかし、テルシアの発した言葉は聖良が予想もしていなかったことだった。


「実は僕の住んでいる村が無くなりそうなんです」

「・・・え?!」

「大雪が降ってきて村が潰れるんです」


予想外すぎる話に聖良はついていけない。それを私にどうしろというんだ。

テルシアはなおも話を続けている。


「僕の住んでいる村は昔はとても寒かったんですけど、今は基本的には暖かなんですね。それは5年前、僕が捕まえてきたドラゴンがいるからなんです。でもそのドラゴンが1ヶ月前にどこかへ行ってしまったんです。そのせいで、その日から村は5年分の大雪に見舞われることになったんです」


聖良は混乱した。頭の中ではハテナが乱舞している。テルシアは力を入れて聖良の手を握った。


「僕が頼みたいことは、あなたにドラゴンを連れ戻してもらうことなんです!」


もう、聖良の頭はパンク寸前だ。よく分からないので、聖良は


「すみません。あの、テルシアさんの言っていることがよく分からないんですけど、その・・・ドラゴンとか、ゲームの中の話なんですか?」


恐々と尋ねると、テルシアは目を大きく見開き、


「・・・そうか。こちらの世界にはいないんですね」


とポツリと呟いた。

その様子を見た聖良は、今頃になってテルシアはやばい奴なんじゃないかと思い始めた。人の家に勝手に入ってくるし、急に手を握るし、ドラゴンのせいで村がピンチなんて言うし・・・。

聖良は自分でも気づかないうちにテルシアの手から自分の手を離していた。

テルシアは何やら1人でぶつぶつ言っている。

そして、何を納得したのか「よしっ」と言って頷いた。

そして聖良の方を向き、


「実は僕は君とは違う世界に住んでいる者なんです」

「僕の世界にはドラゴンがいるんです」

「それで、僕は魔法使いなんです」


笑顔でそう訳の分からないことを言ってきた。またテルシアが口を開こうとする。

聖良は恐怖で駆け出した。全速力で自分の部屋から出る。


「えっ?!ちょっと、待ってください!」


テルシアがパタパタと後ろから追いかけて来た。階段を降りながら、両親の寝室を目指す。

テルシアがどんどん後ろに迫ってくる。聖良は助けを求めて大声を出した、


「誰か助けてー!」

「待ってください!」


しかし、追いついたテルシアに後ろから腕を掴まれてしまった。


「いやっ!離して!」

「なんで逃げるんですか?!」

「だってあなた頭がおかしいんだもの!」

「ぼ、僕の言ったことは本当なんです!」

「助けてー!」


聖良は力一杯テルシアを突き飛ばした。テルシアが尻餅をつく。テルシアがお尻を抑えているその隙に、リビングに入って受話器を取った。


「ええっと、警察は・・・あ、あれ?急にど忘れしちゃった、なんだっけ」


パニックになってしまって頭がぐちゃぐちゃだ。早くしないとテルシアが来てしまう。思い出さないと・・・


「あっ!110番だ!」


聖良の頭に電撃が走った。急いで押す、1、1、0。そして、耳に受話器を当てたが、何も音がしない。


「な、なんで!?」


もう一度押す。110番。しかし、これも音がしない。


「え?え?なんで?」


聖良はもう半泣きになった。鼻水が出てきた。早く逃げないと、そう思って振り向くと、いつの間にかテルシアの高い背がいつの間にか目の前に立っていた。


「っ!」


急いで後ずさって距離をとる。電話機は場所が部屋の角にあるので、逃げられない。


「何がしたいの・・・」


精一杯睨みながらテルシアに聞く。何がしたい。不審者め。

部屋に静寂が訪れる。時計の音が静かに聞こえる。


暗闇の中、聖良の顔の前に手がずいっと伸ばされた。


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