表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/40

第三十話 魔獣討伐(2)

 陛下は、オレに何度も王女様との婚姻を打診してきた。その度ににべもなく断ってきたから、とうとう強硬手段に出たのだろう。

 別に王女様が嫌なわけではない。賢い女性で、好ましいとすら思う。だが、特別な感情を抱いてはいないし、何より王家に縛られることが嫌だった。

 大事な戦いの前に、ろくでもないことを言い出してくれる。

 

 腹が立ったが、皆の前で陛下を罵倒するわけにもいかず、「必ずや討伐を成功させましょう」と決意だけを表明して出発した。



 森が近付くにつれ、段々と空気が淀んでいることに気付いた。やけに重い。魔力が滞留しているのだ。油断をすると、己の魔力ものまれそうになる。

 どんよりした暗い雲が空を覆っているせいで、まだ真昼間だというのに辺りは薄暗い。鬱々した雰囲気に、愛馬のキャルが怯えた。度胸がある馬なのに、こんなことは初めてだ。

 それをなだめながら、隊列を組んで慎重に進んでいく。隣に並ぶクライブが小声でオレに話しかけてきた。


「嫌な空気ですね」


 古株の騎士の顔を見て、ほっと息をつく。茶髪に白い物が混じる壮年の男は、熟練の剣の腕を持つ。腕力は衰えてきているものの、まだまだ頼りになる存在だ。彼の顔を見たら、不思議と陰鬱な気分が少しだけ晴れた。


「魔力が滞留している」

「なるほど。この重い空気は、魔力の淀みですか」

「ああ。相当の魔獣がいると考えて間違いない」


 見えてきた森は、黒い魔力に包まれ、モヤがかかって見えた。……まるで魔窟だ。

 他の者には見えていないことにホッとした。もし見えていたら、きっと全員逃げ出すだろう。


「不気味ですね」

「全くだ! まあ、オレにとっては王都も同じぐらい居心地が悪いけどな。魔道具や魔法石が至る所にあって、魔力の流れが不自然に捻じ曲げられているから」


 暗くならないよう冗談めかして言ったが、これは事実だ。


「我々には分かりませんが……。王都の乱れが森にも影響しているのかもしれないですね」


 クライブの言葉に、オレはふと考えむ。てっきり魔獣のせいで森がおかしくなったのかと思ったが……逆……?

 王都の乱れが森に影響し、そのせいで魔獣がおかしくなった。そして、魔獣がおかしくなったせいで、森は魔窟のようにまでなってしまった。

 そう考えれば、王都付近にばかり魔獣が現れることとも辻褄が合う。


 今回の討伐が終わったら、魔力暴走の原因を調べるように提案してみよう。現れた魔獣を駆除するだけでは、いずれ限界がくる。


「そういえば、セド団長はよく平気ですね」

「ん? そう言われればそうだな。まあ、オレも時々おかしくなりそうになるけどな」


 その言葉に、クライブは顔をひくつかせる。それはそうだ。オレがシドにようになってしまったら、止める者がいない。笑えない冗談だ。

 だが、返ってきた言葉は意外なものだった。


「セド団長はずっと重荷を背負ってきましたから。情けない団員ばかりで申し訳ありません」


 オレを案じる言葉に、陰鬱とした気持ちがまた少し晴れた。この感覚は……リューの側にいる時と似ている。あいつは頼りない奴だが、いつだってオレ自身を案じてくれていた。


「もしかすると、リューのおかげかもしれないな」

「王太子、殿下、ですか……?」


 意外そうに片眉を上げる。頼りない王太子に何ができるのかと言いたげだ。

 

「あいつの側は不思議と落ち着くんだ。昔からな」

「え! 殿下にそんな力があるんですか?」

「ハハハ、オレも今気付いた。シドにいじめられないように、いつもオレにまとわりついてきてただけの存在だと思ったが……オレの方が助けられていたのかもしれない。あいつの真っ直ぐな素直さが心地いいんだよ。反対に、どす黒い人間が側にいると、魔力が黒く染まるような気がする」

「だから団長は貴族達がお嫌いなんですね」

「そうかもしれん。シドは……ろくでもない腰巾着がくっつくようになってから、ひどくなってしまった。もちろん、もともと狂暴性は持っていたが」

「なるほど」


 頷くクライブの顔をじっと見つめる。


「お前の側もなかなか心地いい」


 強面の男に言われてもうれしくはないだろう。クライブは微妙な反応をした。


「はあ、そうですか。ありがとうございます。私はシド様には嫌われてましたが」

「それなら本物だ。シドはリューも大嫌いだった」

「はあ」


 クライブはまた微妙な顔をする。頼りない王太子と同じに扱われて不本意なのかもしれない。

 

「まあ、オレの正気を保てる力があるってことだ。しっかり援護を頼むぞ」


 これ以上の原因究明は後だ。まずは、目の前の危険を排除することに集中しなければ。


 すべては無事に帰れたら、だ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ