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第二十九話 魔獣討伐(1)

「大変です! 王都外れの森に魔獣の群れが現れ、人が襲われました!」


 久々に団員に稽古をつけていた時、見回りに出ていた騎士が血相を変えて訓練場に飛び込んできた。


「魔獣の群れだって!?」

「猟に出た者が戻らないため捜索隊を出したところ、狼の群れに襲われたそうです。命からがら戻ったのは約半数。その者達が、魔力がある狼ばかりの群れだったと言うのです」


 場内がざわめく。魔獣だけで群れを作るなど、聞いたことがない。


「狼の魔獣なんて……」

「集団でこられたら、かないっこないじゃないか」


 情けない声を出す団員達を笑えない。それは事実だ。今の騎士団の実力では、普通の狼でも勝ち目が薄いだろう。魔獣の群れなど敵うはずもない。

 

「しかも、狼だけではないのです。狐や猿、鳥にも魔獣の群れを確認したそうです」


 どういうことだ。今まで森に魔獣はほとんど出なかったというのに。


 オレは腕組をして考え込んだ。


 ……いや、違う。出なかったのではない。

 気付かなかっただけだ。


 家畜や飼い犬等は魔獣だと分かった時点で処分しているが、森深くに住む魔獣は見つけられるはずもない。それでも今まで害がなかったのは、魔力が暴走して暴れることがなかったからだ。 

 魔獣の生まれる率は人と変わらないはず。人が国全体で十人の割合と考えれば……森全体の狼の中に、十頭弱は魔獣がいてもおかしくない。いくつかの群れから、魔力のある奴等だけが集まったと考えれば説明がつく。知能の高い狼や猿なら、組織だった行動もとれるだろう。

 そして、人を襲い始めた……?


 ここ数年頻繁に王都に出現する魔獣は、森から出てきたものだ。 


 ゾクッと背筋に悪寒が走った。

 このままでは、遠からず魔獣の群れが王都に現れる。それから退治するのでは、どれだけの犠牲が出るか分からない。

 敵わないからと放置するわけにいかないのだ。


「森で一斉に魔獣討伐を行う!! 第一小隊は被害の把握と現状の確認を。目撃された魔獣の個体数はできるだけ詳細に出しておくように。他の者は出征の準備だ!」


 リューに報告し、援助を請わなければ。騎士団だけでは太刀打ちできない。警備隊から人員を借り、魔法石をできる限り融通してもらい……

 頭の中で手順を組み立てていくオレに、団員の一人が抗議の声をあげた。


「ええ! おれ達が退治に行くんですか?」


 ふてくされた表情の赤い短髪の男は、公爵家の次男坊だ。でっぷりと太って馬に乗れるかどうかも怪しい体型をしている。


「当然だ。それが騎士団の仕事だろう」

「おれ達には無理ですよ!」

「じゃあ、誰が行くんだ?」

「魔剣士達だけで行けばいいじゃないですか!!」


 魔剣士はオレを含めて五人。他の四人は鹿の退治で見た通りのレベルだ。

 勝手な言い草に、沸々と怒りがわいてくる。


「たった五人でやれというのか」

「少しずつやればいいでしょう?」

「ほう。一つの群れを退治する間に、取り逃がした群れが王都に向かったらどうする気だ?」

「え……!?」

「魔剣士が全員森に出払っている時に、他の群れが王都を襲ったらどうする気だって言ってるんだよ!!」


 そいつの胸倉を掴み上げ、怒鳴りつけた。


「魔獣は見つけ次第取り囲んで退治するのが鉄則だ。逃がせば別の場所で被害が出る。そんなことも分からないのか!」


 オレの剣幕に顔色を失いながらも、男は首を振って抵抗する。


「でも、自分たちには無理ですよ」

「そうか」


 男を離し、全員に向き直った。


「討伐に加わる意志のない者は、全員除隊処分とする」

 

 しんと場が静まり返った。


「もちろん、討伐に出るからには生死は保証しない。命を懸けて王都を守る意思のある者だけ参加するように」

「除隊処分なんて……臆病者のレッテルを張られてしまうじゃないですか!」

「その通りだろうが」

「そんな! おれ達は魔獣退治は団長がやってくれるって言われたから騎士になったのに……」


 どうせそんなことだろうと思った。


「オレ一人で狼や猿の群れと戦えと? それはいくらオレでも、死にに行けと言われているようなものだな。で? オレが死んだら、お前はどうするつもりだ。その後の魔獣退治を誰がやるんだ?」


 皮肉を言っても返事はない。オレが死んだら、明日からでも王都が混乱に陥るのはさすがに分かっているようだ。


「お前はもういい。オレに逆らう人間など一緒に連れて行っても邪魔なだけだ。他の者も、嫌なら今すぐ出て行け!」


 高位貴族の子弟を中心に、数名が立ち去った。オレに対して不遜な態度を取る奴らだったから、いなくなって清々した。


 

 (てい)よく邪魔者を排除できたおかげで、準備はスムーズに進んだ。この一大事に、リューが今まで見せたことのない指導力を発揮したおかげでもある。

 警備隊を合わせ、総勢100名にも及ぶ討伐隊が編成された。馬、食料、魔法石は貴族共から融通させたという。狼の群れが襲ってくるかもしれないという恐怖心に煽られ、高慢ちきな貴族共も協力的だった。

 王女様を中心とする魔力もちの女性……魔術師達が魔法石に魔力補給をしてくれたおかげで、魔力量も万全だ。さらに、小刀サイズの魔剣を十数本作ってくれていた。ありがたい。ありがたいが……その中間が欲しかったという言葉はグッと飲み込んだ。


 隊を二手に分け、ファルクにもう一方を任せた。四人の魔剣士は彼の隊に入れ、魔法石を使って威圧することに集中するよう指示をする。小刀を持った者は半分に分け、威圧されたところを仕留めること、他の者は背後を守ること等、役割分担を明確にした。


 

 できる限りの準備を整えて、いざ出発しようとしたその時。陛下が激励の言葉をかけてきた。


「皆の働きに王都の命運がかかっている。期待しておるぞ! 無事に討伐が成功した暁には褒美をとらそう」


 団員の士気を鼓舞している。珍しくいいことを言うじゃないか。

 死地に赴くような顔をしていた者たちが、一気にやる気に満ちた顔になった。


「おおー!!」


  

 だが、陛下はやっぱり陛下。余計な一言が加わった。


「狼のリーダーを仕留めた者に、わが娘モネ王女を娶らせると約束しよう!!」


 高らかな宣言に、沸き起こった歓声がピタリと止んだ。誰も喜ぶ者などいない。狼のリーダーを仕留めることができる者など、ただ一人だ。

 皆の視線がオレに突き刺さる。

 ……それはオレに向けた言葉だと、その場に居た誰もが理解した。


 


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