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リアル桃太郎

 昔々ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。


 おじいさんは山にしば刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。


 おばあさんが洗濯をしていると川上から大きな桃が流れてくるではありませんか。


「おやおや、大きい桃じゃないか」


 おばあさんはその大きな桃を家に持ち帰ると、包丁で食べやすい大きさに切りおじいさんと一緒に美味しくいただきました。


 大きな桃はおじいさんとおばあさんに食べられてしまい種だけが残ったのです。


「ワンワン、ワンワン」


 その桃の匂いに誘われて、きびだんごで餌付けされた野良犬がやってきます。


「お前に、やる分はないよ」


 おばあさんがそう言って残った桃の種を庭に捨てると、今度はそれを野良犬が咥えて持ち帰り宝物と一緒に地面に埋めました。


 そして月日が流れるとどうでしょう。


 野良犬が埋めた大きな桃の種は立派な桃の木へと成長したのです。


 成長した桃の木には大層おいしい桃の実がなり、近くの山を住処にしていた猿達の大好物となっていました。


「ウキー、ウキキー」


 美味しい桃の噂は他の山に住む猿達の間にも次第に広がり、わざわざ桃の実をもぎにやってくるようになったのです。


 猿達が桃の実を自分の住む山に持ち帰って食べるようになった事で、桃の木は次第に数を増やし他の山にもその数を増やしていきました。


 数を増やしていった桃の木は、ついに人里のある農民の男の庭の隅に立派な桃の木を生やしました。


 農民の男はふと庭に隅に桃の木が生えている事に気がつき、食べてみるとその美味しさに感動します。


「なんという美味しさだろう」


 その桃の魅力に取り付かれた男はその桃の栽培を決意しました。


 度重なる苦労の末、男の畑には立派な桃の木の畑が出来上がったのです。


 男の作るおいしい桃は街中で話題になり、ついには城下町で売られるまでになりました。


 男の桃が城下町で売られるようになって程なくして、国を治めるお殿様が可愛がっていたキジが城から抜け出してしまいました。


「ケーン、ケーン……」


 お殿様のキジは大変に舌が肥えていて普通のご飯は食べようとしません。


 お腹を空かせて困り果てていた所でキジは城下で売られていた男の作った桃を見つけました。


 一口食べるとどうでしょう。


「ケケーン」


 そのあまりの美味しさに一鳴きすると、お店に売られていた桃を全て平らげお城へと飛んで戻っていきました。


 お城へ戻ってきたキジですが、なかなかご飯を食べようとしません。


 やっとの事で食べさせるもどこか不満な様子。


 不審に思ったお殿様が家臣に訊ねると、どうやら城下で売られていた桃を全て平らげる姿を目撃した者がおり、そのせいではないかという事でした。


「なんとこの美食のキジが全てを平らげるほどの桃とはいかほどのものか」


 お殿様はその桃を城に届けさせ、一口食べるとそのあまりのおいしさに驚きます。


「なるほど、これはうまい!」


 急いで桃を作った男に連絡を取ると、お殿様は城に献上するようにと命じました。


 こうして男の作った桃はお殿様への献上品として使われる程になったのです。


 そうして、しばらく経った時の事でした。


 男はお殿様に呼び出されると、とある頼み事をされます。


「そなたの作った桃を鬼ヶ島に住む鬼への貢ぎ物として使いたい」


 お殿様の治めている国はずっと鬼ヶ島に住む鬼に苦しめられてきました。なので定期的に貢ぎ物を送り鬼の機嫌を損ねないようにする必要があったのです。


 しかし、最近は鬼もあまり貢ぎ物に不満を抱いているらしく鬼による被害は増える一方となっていました。


「そういう事ならば引き受けましょう」


 男は快く引き受けると、鬼を満足させる桃を作るべく精を出す事にしたのです。


 そしてついに、男自身も最高の出来だと自負する桃が出来ました。


「頼んだぞ」


 男が作った桃は船に乗せられ、鬼の貢ぎ物として鬼ヶ島へと送られました。


 程なくして、鬼もその桃の美味しさに満足したようだと伝えられ、男はほっと胸を撫で下ろしました。


 鬼ヶ島に男の桃が貢ぎ物として送られるようになって一年ほど過ぎた頃でした。


「はて、そう言えば」


 気がつくと鬼による被害が一切なくなっていたのです。


 怪訝に思ったお殿様は鬼ヶ島に調査団を送り込みます。


 調査団が鬼ヶ島で見たのは、一面に生えた桃の木でした。


 鬼の姿はどこにもありません。


 鬼達は一体どこに行ってしまったのでしょう。


 後に纏められた報告書にはこうあります。


 鬼ヶ島に持ち込まれた桃が、鬼達が主食としていた鬼ヶ島だけに生息する鬼灯を枯らしてしまったのだ。鬼灯に含まれる成分を摂取し続けなければ鬼はその生命を維持する事は出来ない。鬼ヶ島固有の鬼灯が桃によって駆逐された結果、鬼灯の成分を摂取できなくなった鬼達は死に絶えたのだろう。


 我々が鬼ヶ島に貢ぎ物として送った桃は、鬼達の生命に必須の植物であった鬼ヶ島の鬼灯にとって侵略的外来種だったのだ。


 こうして、国の人達は鬼に苦しめられる事もなくなりその後平穏に暮らしました。


 鬼達に貢ぎ物として送られた桃。その品種の名前を『桃太郎』と言います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おばあさんが洗濯をしていると川上から 大きな桃が流れてくるではありませんか。 「おやおや、大きい桃じゃないか」 までは知っている桃太郎でしたっ! それ以降は・・・ 新しい桃太郎でしたっ♪…
[良い点] タイトルに惹かれて拝読しました。 このエンディングは想定外。 気持ちよく裏切られました! ……外来種って怖いわ~(苦笑)
[良い点]  タイトルから史実物語風かなと思い、本文で、ああ、この作品はコメディか、と思わせておいての現在に通じるまさかのブラックユーモアに驚きました。 [一言]  お初にお目にかかります。  何気な…
2019/11/24 23:35 退会済み
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