9
あち子は、一人とぼとぼと、自転車に乗って帰った。
自転車置き場の、ちょっと離れたところから、坂村があち子を見ていたのにも、気が付かなかった。
家に帰り、玄関の扉を開けると、ふわ~りと、ぽちがよってきた。
「 ぽちーーーー! なんだいたのー! 」
「 おかえり~ 」
母の美佐子が、遠くから声をかけてきた。
きっとあち子が、ぽちに言った言葉を、自分への言葉だと勘違いしたのだろう。
あち子は、手をぽちの前に、差し出した。
ぽちは、ふんわりあち子の手の上にとまった。
あち子は、急いでぽちの様子を確認した。みたところ、今までとかわりがなさそうだ。
「 ぽち、大丈夫だった? 」
小さな声で声をかけると、ぽちはいつものように、首をちょっとかしげて見せ、またふんわりと浮かんだ。
あち子は、手を洗いに洗面所に向かうと、いつものようにぽちも、ふわふわとついてきた。
あち子は、リビングに行かずに、自分の部屋に向かった。
あち子が、机の前の椅子に座ると、ぽちも机の上にぐでんと横になった。
「 びっくりしたんだよ~。ぽち!
いったい先生に、なにしたの?
先生、帰りの会の時には復活してたけど、びっくりしたよ~。
そういえば、坂村君に飛ばされてたけど、あれからどうしてたの?
坂村君、ぽちにさわってたよね~。 」
目の前のぽちに、聞いてみたが、ぽちが答えてくれるわけがない。
いつものように、首をかしげるだけだった。
「 あ~あ、ぽちも話ができたらいいのにね~。」
あち子は、今日の出来事をいろいろ考えてみたが、答えが出るわけがない。
ご飯の前に、宿題を済ませてしまおうと、机に向かった。
*****
翌朝、いつものように、学校に向かうと、今まで、会ったことがなかった坂村が、自転車置き場にいた。
もう自分の自転車は、止めていて、手にはかばんをかけている。
あち子は、あわてて坂村から、遠いところに自転車を止め、坂村のほうを、見ないで行こうとした。
ただ目の端に、坂村が、こっちに向かってくるのが見えた。
どうしようー。 昨日のこと、聞かれるぅーーーー。
あち子が、焦っていると
「 さかむら!~ おはよう~ 」
坂村を知っている男子だろう、坂村に、走っていくところが見えた。
坂村が、その子に挨拶しているすきに、あち子はダッシュで教室に向かっていった。
もちろん肩には、ぽちがのっかっていたのだが。
それから、時々坂村の視線を感じるようになった。
もちろん、あち子の机の前のぽちを、見ているのだが。
*****
お昼休み、周りの子たちと教室で、お弁当を食べていると
「 ねえ最近、坂村君、こっち見てない? 」
席の隣の子が言った。
「 うんうん、こっちよく見てるよね~。誰みてるの~? 」
なぜかみんなで、見りあがっている。
知ってますよ。うちのぽちですよ。今は、私の肩に止まってますよ~。
「 ほらっ、今も時々見てない?」
みんな、きゃっきゃっとしている。
イケメンに見つめられたら、うれしいのだろう。
でもねみなさん、あれは好きで見ているのとは、ちょっと違ってません?
なんか眉間にしわ作って、ガン見してますよーと、いいたいあち子だった。
「 ねえ、紗枝ちゃんのこと、見てるんじゃない? 」
1人が言い出すと、みなが同意し始めた。
「 そうかもー。ねえー あっちゃんも、そう思わない? 」
最近では、紗枝にならってほかの子も、あっちゃんて呼んでくれる。
うれしいのだが、今はそれどころではない。
そうか、この中で一番かわいいのは紗枝だ。
だからみな、あち子をみてるとは。誰も思わないのだろう。
ぽちのことがばれてなくて、うれしい気持ちと、自分は対象にも、思われないのかという、複雑な気持ちをいだいたあち子だった。
あち子が同意しようと、口を開こうとしたとき、紗枝がいった。
「 人を見てるっていうより、なんだか敵を見てるみたいじゃない? それにあの顔、なんだか怒ってるみたい。」
的を得ている、紗枝の言葉に、思わず固まった、あち子だった。