表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

2

鈴井あち子は、花の高校一年生。


身長155センチ、中肉中背のちょっと色黒、顔は真ん丸、鼻はもうちょっと高ければよかったと思うような、だんご鼻。目も口も大きすぎず小さすぎずの、十人並みとはこのことねって、いうような顔をしている。

ちなみに、四人家族の長女である。


あち子の家は、小さな一戸建て。

父親鈴井牧夫は、ごく普通のサラリーマン。

母親鈴井美佐子は、午前中スーパーでパートをしている。

兄弟は、二人姉弟で中学二年生の弟、鈴井健太がいる。

昔は、お姉ちゃん!お姉ちゃん!と金魚のふんよろしく、どこにでもくっついてきたのだが、いまではあちこに対して、ちょっと態度がでかい気がする。


その生意気な健太は、野球部に入っている。


「 三年になったら、レギュラーだぜ! 」


本人は自慢しているが、まあ部員が少ないから、全員選手になれるだろう。


あち子の顔だちと色黒は、父親譲り。母親に似たら、もう少し色も白くて、鼻も高くて目も大きかったのにと、思っている。

憎らしいことに弟は、母親似。

だからあち子は、最近父親に、ちょとだけ冷たい。


やっとながい受験生活も終わり、第一希望の森北高校に受かって、晴れて高校生になった。

そして高校生活を、エンジョイする予定だった。


しかしである。

高校に入学する十日前、かわいがっていた、チワワのぽちが、死んでしまった。


享年17歳。


物心つく頃には、もういるのが当たり前の生活で、ぽち無しでは考えられないくらい、あち子の生活はぽちとともにあった。ただ死ぬ半年前には、急に弱ってきて、おむつが欠かせなくはなってきていたのだが。


チワワのぽちは、あち子が生まれる前に、我が家にやってきた。


二人で買い物に行ったとき、チワワのぽちと出会い、一目ぼれして買ってしまったらしい。

特に母美佐子の希望で。


当時父牧夫は、母美佐子にデレデレだったと母自身が言っていた。

両親の恋バナは、聞きたくなかったのだが、話しているうちに、乗りに乗ってきたのか、こんなにも言い寄られたとか積極的だったとか、もうそれは止めたくなるぐらいだった。


今では、横のものを縦にもしないような父親しか、見たことがなかったので、ある意味衝撃的だった。


そしてぽちとの生活が、始まってすぐ、あち子ができたようで、両親はぽちは幸運の犬だと、よけいにかわいがっていた。

あち子はともかく、弟の健太には、お兄さんをきどっていたぽちだった。

自分より小さいものを、かわいがらなくてはと、思っていた節があった。


あるときなど、赤ちゃんだった健太の周りに、ぽちのおもちゃが、ぐるぐると囲んであったこともあったぐらいだ。たぶん泣いていた、健太の機嫌を、取ろうとぽちなりに考えたのだろう。



*****



今日も入学式が終わり、あち子は家に着いて、リビングのソファに、どっかり腰を落としてから、ふと何かが足りない気がした。


ついぽちがいた、クッションをみると、その中になんにもいない。

何とも言えない気持ちが襲ってきて、入学式の興奮した気持ちも、すうーっと引いていってしまった。

目の前に座った母の美佐子も、気が付けば、あち子と同じところをみており、二人して溜息を吐いた。


「 まだ、ぽちが死んだ実感がないね。」


先日、目の前の母親と、弟の健太三人で、火葬してもらいにいき、お骨は合同墓に、おさめてもらうようにしたはずなのだが、なかなかぽちのいない生活には慣れない。


父親である牧夫も、いつも唯一、玄関までお迎えに来てくれていたぽちがいなくなって、寂しそうだ。

火葬には、仕事で一緒にいけなかったので、最後のお別れに、ゆっくりと優しく、ぽちのからだをなでていた。死んだときにも、きれいにしてあげなくてはと、真っ先にタオルで拭いてあげていた。


中学生の弟健太も、夢中な野球の練習を休んでまで、火葬に行った。


健太といえば、ぽちは健太のくさい靴下が大好きで、学校から帰って靴下を脱ぐと、すぐ持っていってしまい、大事な宝物であるかのように、クッションの中に隠すのが、日課になっていた。

最近では、いつも寝てばかりで、父親のお迎えはもちろんのこと、健太のくさい靴下を、取りに行くことも、なくなってしまっていたが。



母美佐子は、湿っぽくなってしまった雰囲気でも、かえようと思ったのか、入学式の話題を出した。


「 そういえば入学式に、代表であいさつした子、かっこよかったわね。

遠めでもわかったわよ。確かあち子と同じクラスだったわよね。 」


「 そう、たぶんね。 」


母美佐子の言った通り、ずいぶん整った顔立ちの男の子だったように見えた。


確か名前は、坂村? といっていたような。


彼が、壇上に上がってきたとき、あち子にも聞こえたのだ。

周りから漏れてきた溜息が。


あち子は、それが気になって仕方なく、彼を見るより、つい声のほうをきょろきょろしてしまった。

あちこちで、うっとりするような目で、彼を見ている女の子たちが、目に入ってきた。

あまりに、きょろきょろしていたので、隣の男の子には、胡乱げな目で見られてしまったが。


ただちょっと見た感じの彼は、あまりに冷たい感じがする男の子だったように、思ったあち子だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ